ガ島通信

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ゼミ生の学会発表「電車移動における情報行動のデザイン」がグッドプレゼンテーション賞を受賞しました

2021年6月に行われた日本デザイン学会第68回研究大会で、学会発表「電車移動における情報行動のデザイン」 (根本藍・藤代裕之・野々山正章)が、グッドプレゼンテーション賞を受賞しました。卒業論文「移動空間とスマートフォン 時間的・空間的制約と情報接触」に新たな調査・分析を加えたもので、ゼミ卒業生ということになります。

代ゼミでは学部生の学会発表は珍しくありませんが、卒論が大変面白い内容だったので、就職先企業の理解を頂き学会発表することができました。新入社員として仕事をしながら学会準備は大変だったと思いますが、何度も資料を作り直し、発表動画と当日プレゼンを分けるなど工夫したことが評価につながったのでしょう。

本研究が先行研究と大きくことなる部分は、スマートフォンで情報を受発信するようになった状況を踏まえ、電車内だけでなくその前後の情報行動も含めた調査を行ったところです。

  

研究の背景と目的は以下の通りです(以下引用は学会予稿から)

電車内には車内広告をはじめとした多くの情報が存在し、スマートフォンに対してビーコンなどを用いた情報提供も実験されているが、心地よい情報行動がもたらされているとは言い難い。また、新型コロナウィルスの感染拡大に伴いテレワークやオンライン授業が急速に普及し、これまで苦痛だった通勤・通学が無くなったが、「気持ちの切り替えができない」などの悩みも見られる。通勤・通学という苦痛から解放されたはずなのに、それを求めるのはなぜか。社会学者のジョン・アーリは、鉄道の制約が自由を感じさせていると指摘する*1。本研究ではこの制約と自由の関係に注目し、電車移動における心地よい情報行動のデザインの要因を探る。

 

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大学生と社会人を対象に日記式調査を行い、結論としてスマートフォンと電車の「時間的制約」「空間的制約」「目的地」という情報行動のデザインの3つの要因を明らかにしています(図)。

時間的制約は乗車時間で、短時間であればスマートフォンでの断片的な情報接触を行い、長時間であれば読書や睡眠などの行動が行われます。空間的制約とは、立ち/座りや混雑率で、座っている場合は読書や睡眠などが可能ですが、立っている場合それらは困難であるためスマートフォンを使い、満員電車などの混雑した状況でスマートフォンを使用することが難しい場合は車内広告などが見られています。非常に興味深かったのは、スマートフォンから目を離すのが乗車後10分というタイミングであることが分かったことです。ここがスマートフォンと電車の制約の「境界」ということになります。

また、目的地については、行きについては、大学生では時間割や課題の確認、友人との連絡、社会人ではメールの確認や1日の予定を立てる、帰りについては、大学生では帰宅後の予定や帰りに買うものを考える、社会人では家族とのLINEや買うものを考える、と異なっていました。このような行き帰りの行動や気分に対し、電車内の情報提供が考慮されているケースは多くないと思います。

 

 

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発表では、3つの要因を踏まえた電車移動における情報行動のデザインのポイントを下記のようにまとめています。

情報提供のタイミングと内容である。 まず、乗車後すぐなどはスマホを見ており、車内に目を向けにくいため、スマホと連携したり、センサーなどを用いたりして、車内広告を見るタイミングを作ることなどが有効だと考える。提供する情報の内容は、乗客それぞれの目的地に合わせた内容である必要がある。時間帯や属性、服装などから目的地を推測し情報を届けることが、移動する人々にとって心地よい情報行動につながるだろう。

根本さんは企業noteでも記事を書いています。「デザインするのに、何が要因になっているかきちんと確認しなければ、作ってもいい体験を作れない」という言葉重要ですね。よろしければnoteもご覧ください。

note.com

*1:ジョン・アーリ『モビリティーズ 移動の社会学』, 作品社 ,2015(訳:吉原直樹・伊藤嘉高)