ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

東京こそ「情報過疎」ではないか

フリーペーパー『鶴と亀』、トランスローカルマガジン『MOMENT』など、ローカルを扱う新たなメディアの登場をほとんどの受講生が知らず、反応も鈍いー。法政大学社会学部の寄付講座・集中講義「ローカルジャーナリズム論(2020)」*1初日の講師による振り返りでこの事象を踏まえて、東京こそ「情報過疎」ではないかという議論が起きました。

ソーシャルメディアが登場し、東京を通さずに地域と地域がダイレクトにつながるようになり、面白い場所に、面白い人が集まり、メディアを作るという動きが各地に広がっています。自身が地方紙出身ということもあり、積極的に地域と関わりを持ってきました。

ゼミの夏合宿は、福島県白河市や長野県の白馬村などの地域に出かけています。2015年にはローカルジャーナリストの田中輝美さんとゼミ生で島根の『地域ではたらく「風の人」という新しい選択』という本をまとめ、2016年にはB&B城崎温泉の「本と温泉」理事長と『風の人』の編集者を交えたイベントを行いました。授業では佐賀県小城市で「おかもちカブ」でコーヒーを振る舞うコミュニティ活動をしている小石克さんをゲストに迎える、といった様々な情報提供を学生に向けて行ってきました。 

そのような活動を通し、首都圏出身者が多くなり(地方出身は3割)ローカルメディアへの関心以前に、存在を知らないという問題意識をもったことが「ローカルジャーナリズム論」開設の背景なので、受講生の反応は予想通りではありましたが、地方紙・地方局に勤める講師には驚きがあったようです。

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宮崎県新富町の地域商社「こゆ財団」=2017年撮影

沖縄のメディアは楽園のイメージ 

例えば、 記憶の解凍プロジェクトや「沖縄戦デジタルアーカイブ」に取り組んでいる沖縄タイムスの與那覇里子さんの授業では、沖縄のメディアへのイメージを受講生に聞きましたが、観光と災害(台風でよく出てくる)といったものが大半で、ソーシャルメディアで言及される「マスゴミ」「プロパガンダ」など批判的なコメントは数件でした。

「観光地としてのイメージアップに取り組んでいると考えていた」「楽園のイメージ」「バラエティ番組に出演する芸能人を見てエンタメ色が強いため、地方紙もエンタメかと思っていた」「沖縄のメディアとフェイクニュースにつながりがあるとは思わなかった」「イメージがなかった」などの回答が並びました。

「さよならテレビ」や「ヤクザと憲法」といったドキュメンタリーの映画化で注目を集める東海テレビの授業では、ローカルテレビ局発の映画を見たことがあるかも聞いてみましたが、8割の受講生が「ない」と回答しました(メディア社会学科の学生も多いのに…)。

講師からは「本当に知らないんですね…」という言葉が漏れるほど、授業を通して、改めて受講生がローカルメディアを知らないことが浮き彫りとなりました。このような受講生も3日間の授業を受けると、面白さに触発されて考えが変化していくので、決して関心がないわけではないのです。

ニュースのローカル化が分断を生む

知らないことが構造的なものではないかという指摘がありました。

東海テレビの伏原健之さんから、いまテレビの世界では地域ニュースが注目され、東京のキー局から配信されるのニュースの視聴率が下がっているとの説明があったのです。確かに言われてみると全国ニュースと言いながら、コロナ感染について「東京では◯人」や台風などで「新宿駅前から中継」などが扱われています。

地域の人が地域のニュースに関心を持つことは興味深い動きですが、東京にいると普段見ているマスメディアが伝えるニュースが、全国の人も知っている、興味を持っているものだと思い込んでしまうことはありそうです。東京は人口の割にマスメディアの数が少ないため東京ローカルの情報は乏しく、関心を持ちにくい状況です(県紙なら掲載されている市や区政レベルの話題、自治体や議会情報とかも非常に少ない)。

インターネットでもYahoo!ニュースのトップに「東海道線が事故」といった首都圏の事故が掲載されており、地域に関連することによほど興味がなければ、ソーシャルメディアでもつながることはなく、ローカルで起きている面白い事象へのアンテナを失わせ「情報過疎」が生じていしまうメディア環境がありそうです。そうであるなら、多くが首都圏出身者の大学で「ローカルジャーナリズム論」に取り組む役割は大きいと感じました。 

「交わること」が生む価値を考える

 「ローカルジャーナリズム論」は終わりましたが、ゼミ生による制作物を報告書として寄付企業などにお送りすることになっています。2019年度は講義録的にまとめ「面白い大人の伝え方」という冊子を制作しましたが、2020年度は事前に仮コンセプトを「交わる」と決めていました。コロナ渦でオンラインになり、多摩キャンパスでリアルに集まり、ワイワイガヤガヤと合宿のような講義は消えましたが、沖縄や福岡から中継することで新たに知ることもありました。様々な変化が起きている時代において、大学生が地方と交わることが生む価値とは何かを問うコンテンツにしようと考えています。

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昨年度の「ローカルジャーナリズム論」の報告冊子の制作風景

9月28日に情報過多と情報過疎を考えます

ソーシャルメディアで大量の情報があふれる「情報過多」なのにローカル情報が「情報過疎」になっていることについて、「ローカルジャーナリズム論」の講師でもある博報堂ケトルの日野昌暢さんとB&Bトークイベントをやります。よろしければご参加ください!

bookandbeer.com

 ローカルジャーナリズム論の授業の工夫については以下の記事をご覧ください。

gatonews.hatenablog.com

*1:2020年度の寄付メディアは、沖縄タイムス西日本新聞中国新聞東海テレビ博報堂ケトル (順不同)です。ありがとうございます。

「密度が濃い」「面白くて疲れた」熱い反応続々のオンライン集中講義で工夫したこと

「すごく密度が濃い3日間でした」「講義が面白くて、集中して疲れました」「本当に楽しい時間でした」 「自身の中で新しい発想が生まれました」「私が求めていた大学の授業は、こういう授業だと思い出しました」 ー オンラインで実施した法政大学社会学部の寄付講座・集中講義「ローカルジャーナリズム論」は、多くの受講生から予想以上に「熱い」反応が続々と届きました。

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オンライン化に当たり工夫したこと

 各地の大学で秋学期がスタートし、オンラインか対面かといった議論がメディアを賑わしていますが、オンラインの集中講義でも満足度を高め、充実した授業ができるという手応えを得ました。今回は、オンライン化にあたり工夫したことを紹介します。

自分の大学時代を振り返ると、集中講義は「数日で単位が取れる(ラッキー)」さと朝から夕方まで学べる「合宿感」があり、このどちらも重要なポイントとして設計しており、多摩キャンパスで行った昨年度はそれが実現できました。しかしながら、2020年度はコロナウイルス感染症の拡大により、オンラインで実施することになりました。オンラインで一日PC画面を見続けるのも辛く、一人では「合宿感」も乏しくなるだろうと予想し、授業の進め方を見直すことにしました。主に取り組んだのは以下の3点です。

  • 100分の授業を講義・質問記入・回答に3分割する
  • グループでのワークショップや振り返りを設定する
  • 事前・事後課題を設定し、学修時間を確保する

100分の授業を3分割する

授業はzoomを活用し、リアルタイムで実施しました。教室での授業ではゲストの話を聞き、受講生にはリアクションペーパーを書いてもらっていました。しかし、オンライン講義は単調になりがちで、リアルタイムで60分を超えての講義、それが何コマも続くと集中力が持たないだろうと判断しました。

そこで、講義は40分程度にまとめてもらい、その後に15分間、質問と感想を書く時間を確保しました。受講生には、GoogleフォームのURLを共有し書き込んでもらい、講師側にはその書き込みをリアルタイムに見てもらいながら、回答候補を検討してもらうようにしました。リアルだと、ついゲスト講師と教員が話をしたりしてしまいますが、誰も話さない時間をしっかり確保しました。受講生には確実にフィードバックが行なえます。

講師側からは、教室では表情や雰囲気から学生の反応を感じられるが、オンライン講義では反応が分かりにくいので心配する声がありましたが、質問と感想を見ながら反応を確認し、回答で補足できるのが良かったとの意見がありました。なお、クラウドを使い慣れてない講師には事前テストをお願いしました。

ワークショップや振り返りを設定

講義だけでなく、ワークショップや振り返り、質問コーナーを設けて、授業のスタイルに変化を作りました。ワークショップでは、シティプロモーションの提唱者である杉山幹夫さんにLocalWikiの取り組みと書き込み方を、NHK#あちこちのすずさんチームに、ローカルメディアと連携した企画の作り方をレクチャーしてもらった上で、zoomのブレイクアウトルームを使い、グループワークをしてもらいました。
講師と受講生の双方向性だけでなく、受講生同士もアイデアを出し合うことで、オンラインではありますが、同じ授業を受けていることを少しでも感じてもらえるようにしました。

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振り返りには、その日の登壇者に集まってもらい、(登壇者には自分以外の講義やワークショップをできる限り見てもらうことをお願いした)お互いの取り組みを議論したり、浮かび上がってきたテーマを深堀りしたり、しました。

受講生からは「振り返り議論があることで、他の講師の方々の視点でもう一度考えることができ、とっても楽しいです」や「振り返り議論後半にはついて行けなくなってしまったので、まだまだ自分の勉強が足りないことを痛感しました」という感想もあり、刺激となったようです。

事前・事後課題の設定

コロナ渦において文部科学省からも弾力的な授業運営が示されてるところですが、学修時間を確保することは重要です。そこで、NHKの#あちこちのすずさんの視聴やローカルメディアについて調査してくるという事前課題を、3日間の集中講義を終えてローカルメディア・ジャーナリズムを考えてもらうなどのレポートを事後課題として用意しました。

記事で提示しているスケジュールは、12コマとなっていますが、ワークショップで学んだことを実際に取り組むなどの自宅学習の課題を出して14コマ分を確保、さらに日ごとの振り返りも行ってもらったので、受講生にとっては相当ハードなものとなったことは間違いありません。

社内中継などちょっとした工夫

また、各地の新聞・テレビなどのローカルメディアの寄付により成立しているという特徴を生かし、スマートフォンで社内を中継してもらうといったお願いもしてみました。「社内を中継したり、日本各地からの中継といったオンラインならではの講義手法も随所にあり、面白かったです」と学生からの反応も上々でした。

首都圏出身者中心となっている学生にローカルメディアを知ってもらうという集中講義の目的からしても、このような取り組みは価値があると感じました。来年度以降に授業がリアルになっても、中継は取り入れてみたいと思います。

リアルにも役立つオンライン化の知見

オンライン化に当たり、100分の授業時間をどう使うかを明確に提示したことでリズムが生まれ、受講生側にも何をやるのか明確になったこと。質疑と回答、さらに振り返りを行うことで立体的に学びが理解できること、という点はリアル授業においても重要なポイントです。シラバス執筆時に、授業の目標やそれぞれの時間の位置づけは検討していましたが、学生の反応を見ながら展開するための幅を残そうとして、曖昧な部分が生まれていたとの反省があります。

zoomなどのウェブ会議システムやGoogleフォーム・スプレッドシートなどツールを使えるようになることはもちろんですが、学びを構造化し、設計することが不可欠であり、この構造化と設計こそオンライン化において勝負を分けると言えるでしょう。

講師の皆さんにも熱心に講義やワークショップを実施して頂いたことに加え、同僚の先生方のサポートや学生アシスタントの活躍も充実した集中講義には不可欠で、相応のコストは当然ながら必要になります。その費用の一部は、沖縄タイムス西日本新聞中国新聞東海テレビ博報堂ケトル (順不同) 5社寄付により支えられています。ありがとうございます。 

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2020年度の「ローカルジャーナリズム論」はオンラインで実施します

魅力的なローカルメディアのあり方やジャーナリズムの可能性を議論する法政大学社会学部の集中講義「ローカルジャーナリズム論」を9月15日~17日に開催します。

本講座は、法政大学に在籍する地方出身学生の減少により、ローカルメディアの存在を知らない学生に、社会課題の解決に向けて魅力的な活動を行っているローカルメディアのことを知ってもらおうと企業の協力を得た寄付講座として2019年度からスタートしました。 2020年度の寄付企業は、沖縄タイムス西日本新聞中国新聞東海テレビ博報堂ケトル (順不同) 5社の皆様です。ありがとうございます。

下記のように*1、多彩なゲストとテーマで展開しています。

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沖縄タイムスフェイクニュースと若者の関係について、西日本新聞アフガニスタンで活動するペシャワール会の故中村医師の報道について、中国新聞はポニョの舞台として景観保護運動が起きた鞆の浦や原爆報道、東海テレビはドキュメンタリーの映画化、博報堂ケトルは九州で立ち上げたローカルメディアQualities(クオリティーズ)などについて、講義が行われます。

ゲストには、関係人口の第一人者である田中輝美さん、シティプロモーションの提唱者である杉山幹夫さん、ウェブメディアの編集者・メディアプロデューサーの亀松太郎さん、地方紙と連携した取り組みを進めているNHKの #あちこちのすずさんのチームが参加し、登壇者同士の議論も行います。

昨年度は多摩キャンパスで実施し、寄付企業・ゲスト・学生が一緒に学び、宿泊施設で語り明かすなど合宿のような楽しさがありましたが、コロナの影響でオンライン講義となり、沖縄や福岡など各地と学生を結んで行うことになりました。日本各地のローカルメディアと東京の大学に在籍する学生を結ぶことで、新たな価値が生まれるように準備を進めています。取材希望の場合は、大学などに連絡をお願いします。

www.nishinippon.co.jp

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*1:授業時間を確保するため事前課題・事後課題などが設定されています

オンライン(ゼミ)面接に向けた事前準備とやってみて分かったこと

コロナウイルスの影響でキャンパスの利用制限が行われているため、オンラインでゼミ面接を実施しました。事前準備とやってみて分かったことをまとめました。

前提:春休み中からzoomゼミをやっていた

法政大学では入学式が中止となり、授業開始は4月21日まで延期となりました。そん中、2年生からのゼミ募集は実施することになりました。条件は非対面で行うことで、書類選考も可でしたが、1)ミスマッチを防ぐために不十分でもオンライン面接があったほうがいい、2)せっかくの機会だからやってみよう、ということで実施しました。何でもやってみよう!

面接では教員だけでなく、ゼミ生から応募者への質疑も行います。そのためゼミ生のオンラインツールの習熟が問題になるのですが、春休み中もゆるやかにゼミを行っており、コロナウイルスの影響が指摘された2月ごろからはリアルからzoomに切り替えて試行錯誤していたので、実施へのハードルは低かったと思います。どんなツールであれ、少しでも取り組んでいることが大事です。

事前準備は主に以下の3点です。

1.面接用にパソコン環境を整える

面接は、ゼミや打ち合わせのようなオンラインミーティングとは異なるため、ホスト役はPC1台では厳しいです。面接に参考にする資料やゼミ生との情報共有が、応募者に見えてしまうとマズイことになります。そのため、間違って資料を共有しないようにデスクトップを整理したzoom専用のPCを用意しました(iMac)。

安定した運用をするためLANに接続しています。事前にネットの速度を確認したところ非常に遅く、プロパイダへの問い合わせなどでひと手間かかったので、改めて下記のサイトなどで速度をチェックしておくと良いです。

https://fast.com/ja/

ラップトップ(MacBook Air)はチャットなどのコミュニケーション用です。

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2.連絡用のメッセグループをつくる(通知音はオフ)

zoomは面接に利用するのでチャット機能を使うとトラブルのもとです。そこで、連絡用にFacebookのチャットでメッセンジャーグループをつくりました。ゼミではFacebookを使っているためで、LINEでも良いでしょう。このメッセグループで、zoomが途切れた、音が聞こえないなどのトラブルを連絡してもらいます。

素早く打ち込みたいのでPC2台を使っていますが、PCとスマホがあれば、スマホにzoomを割り振って対応するのも手です。PC1台の場合は、チャットの通知音をオフにしておきます。オンのままだと、話しているときにメッセージが来ると「ピコーン、ピコーン」と耳障りな音が鳴ってしまいます。

3.感想共有用のグーグルスプレッドシートを用意する

面接している全員が別の場所にいると最も難しいのが感想の共有です。これはグーグルのスプレッドシートを利用しています。

下記のようなフォームをつくり、ゼミ生にログインしてもらいます。面接にあたり、いくつかの質問を予め決めているのですが(半構造化インタビューのようなイメージ)、その質問に対するQ(質問)とA(回答)は上段に、記録担当のゼミ生が書き込みます。

下段ではそれぞれのゼミ生が(番号は実際にはゼミ生の名前)メモとして思ったことなどを書いていきます。ここに書かれたことを見ながら追加の質問をすることもあります。

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このグーグルスプレッドシートを利用した感想の共有は、リアルの面接でもやっていたのですが、リアルでは応募者と話をしているのにPCに向かって打ち込んでいると、ちょっと嫌な感じがするのですが、ウェブ面接では気になりませんし、とても有効な手法だと思います。

次にやってみて分かったことを簡単にまとめておきます。

質問はひとつ、手短に

質問はひとつ、できるだけ手短にしないと応募者が困ります。長い質問は、オンラインなので応募者が趣旨を把握するのが難しくなるのと、接続状況が悪く途切れたときによく分からなくなる恐れがあります。一つ聞いて、答えてもらい、「では、もうひとつ伺いますが」とやり取りしたほうが、スムーズに進みます。

「◯◯のような社会状況がありますが、どう思いますか」といった、応募者にこちらの前提を伝えて考えを聞くような質問は、伝わりにくいので避けたほうが良さそうです。このタイプの質問をしたいなら、予めテーマなどを応募者に伝えておくといいでしょう。

司会に求められる話題を引き出すスキル

司会はゼミ生に交代で担当してもらいましたが、リアルよりもさらにファシリテーション的なスキルが重要になると感じました。意見が出なかったらゼミ生にふったり、話題を引き出すような質問をしたり、応募者が黙ってしまったら「ゆっくり考えていいですよ」とか一声かけて緊張を和ませたり、ということがとても大切です。オンラインでの沈黙は、リアルと別の意味で緊張が高まります。司会は、向き不向きがすごくありそう…

オンラインを前提に考え、準備する

オンライン面接は、リアルより応募者の情報量が少なくなりますが、準備をしておけばそれなりにやれそうという手応えはありました。コロナウイルスの影響は長引きそうで「リアルじゃなきゃ無理だろー」と言っていたものがオンライン化する可能性が高い。大学の授業だけでなく、就職活動でもオンライン面接が増え、仕事も在宅ワークが進む状況を考えれば、大学生でもパソコンやネット接続の環境をしっかり整える、そこにお金をかけていくというのは大事になるでしょう。だからこそ格差問題をカバーする対策も重要になります。

当事者が発信できる時代、ジャーナリストの役割は「共に言葉を探す」こと(ローカルジャーナリズム論 2019)

2019年度の法政大学社会学部の集中・寄付講義「ローカルジャーナリズム論」が無事に終了しました。地域に向き合い伝えることに取り組む人たちが織り成す濃密な3日間で、企画・担当教員としてヘトヘトになりながらも大きな手応えを感じました。講師の皆さんが何を語ったのかは、西日本新聞の下記記事が伝えてくれていますので、ここでは後半大きな議論となった、 地域発信の当事者とは誰か、ジャーナリストの役割とは何か、について記録をしておきたいと思います。

www.nishinippon.co.jp

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地域の発信、東京の学生に関係あるの?

講義のスタートは、ローカルジャーナリストとして活躍する田中輝美さんから。次に沖縄タイムスの與那覇里子さん、高知新聞の川戸未知さんと続きます。いずれも、地域に密着した取り組みで、特に川戸さんの南海トラフ地震に向けた防災プロジェクト「いのぐ」は、記者だけでなく事業・企画の担当も伝えることに関われる新聞の仕事を学生に紹介できたことは大きな収穫でした。

ただ、1日目を終えて「東京の学生に関係あるの?」という微妙な空気もありました。この講義を作った最大の理由は、法政大学の地方出身学生が3割しかいないことです。いくら面白い事例でも、島根、沖縄、高知と続くとさすがに学生に縁遠く感じたのでしょう。夜に講師で相談し、2日目に博報堂ケトルの日野昌暢さんが、東京からも福岡、高崎での発信に関われるという事例を紹介してくれました。

どんなに迫っても当事者にはなれない

ソーシャルメディアの普及により、当事者自身が発信できるようになりました。東京からは地域発信の当事者になれないのではないか。このような当事者問題は、地域に限らず、災害の被災者や事件の被害者にも当てはまる、ソーシャルメディア時代の大きなテーマです。なぜ、第三者であるジャーナリストが必要なのか?

この問題を正面から問うたのがノンフィクションライターの石戸諭さんでした。例えば、広島の原爆被害を書くとして、最大の当事者は被爆して亡くなっている。次は生き延びた人の手記がある。どんなに迫っても当事者にはなれない。東日本大震災津波被害も同じような構造を持つ、にもかかわらず、これまでジャーナリズムは、当事者に近づこうとしていなかったかと疑問を呈します。

「ジャーナリズムは反権力である」といった社会的役割の原則論ではなく、現場のジャーナリストが直面する結論がない問題をどう考えていくのか、学生の顔にも困惑の表情が浮かびます。石戸さんは、ニュージャーナリズムの手法などを紹介しながら、出来事に直面した人の気持ち、想いを大切にし、「代弁者でも、寄りそうでもなく、共に言葉を探す作業なのではないか」と投げかけました。

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取材先から思いを託され、言葉にする

この石戸さんの投げかけを引き取ったのが、中国新聞で原爆・平和報道を担当する明知隼二さんでした。3日目の講義で「自分の違和感をもう一度考えて整理してみた」と切り出した明知さん。

被爆者であることは家族や恋人にすら知られたくないというセンシティブな状況がある中で、これまで誰にも明かしたことがない話を託されて記事を書いたという具体的なエピソードから、「取材は、他人の人生に手を突っ込む行為でもある。それに悩みながらも記事にすることは、石戸さんが言う、代弁者でも寄りそうでもなく、共に言葉を探す作業なのではないか」と語りました。

ひとりの被爆者が抱えていた話を社会とつなぐことで、少しばかりその人の心の荷が下り、生きる意味を問い直すことが出来る。その際に、原爆・平和取材の積み重なりで生まれた表象が時に課題となる。表象と結びついた紋切り型の表現は分かりやすいが、共に言葉を探すとすれば、そこから逃れることも大事ではないか。

教室の空気がぐーっと深まり、学生の顔が引き締まっていきます。表現の恐ろしさ、もどかしさに悩みながら、それでもジャーナリストを続けるのは、取材相手から思いを託され、言葉にして、社会に残す役割がある。そんなジャーナリストたちが刺激し合い、学生に語る言葉が紡ぎ出される音楽のセッションのような瞬間に立ち会えて幸せでした。

講師のほうが朝から晩まで議論漬け

「ローカルジャーナリズム論」には、北海道から沖縄まで、ローカルジャーナリズムに関わる講師が集まったので、夜は多摩キャンパスにある大学の宿泊施設で交流を行いました。集中講義が終わり、そこから夜遅くまで、取材手法の話や記事の書き方、ローカルメディアの課題まで、幅広い議論が行われる「研修」となっていました。新たなプロジェクトのアイデアも出ていました。むしろ講師のほうが、朝から晩まで議論漬けだったかもしれません。

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初めての取り組みにもかかわらず、快く寄付を頂いた企業の皆さま、いろいろとサポート頂いた大学の事務課・執行部の皆さまなど、多くの関係者の力を借りて「ローカルジャーナリズム論」を実現することが出来ました。改めてお礼を申し上げます。

gatonews.hatenablog.com

地域の社会課題をメディアから考える集中講義「ローカルジャーナリズム論」を開催します

法政大学社会学部で9月17日~19日の3日間、集中講義「ローカルジャーナリズム論」を開講します。ローカルジャーナリストの田中輝美さん、ノンフィクションライターの石戸諭さん、シティプロモーションの提唱者である杉山幹夫さんという著名なゲスト講師と、ローカルメディアである沖縄タイムス社、西日本新聞社中国新聞社、高知新聞社博報堂ケトル、北海道テレビ放送HTB)の担当者と共に、メディアによる地域課題解決の可能性について学びます。

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集中講義の開催のきっかけは、あるローカルメディア担当者の「良い人材が集まらない」という悩みでした。人気職業と言われたメディア業界ですが、時代状況や働き方改革の遅れもあり、メディア社会学科の学生でも避ける傾向があります。テレビ局もローカルは人が集まらず採用のCMをやるほどです。もちろん、働き方は変えてもらわないといけないのですが(それは大前提)、ローカルメディアの魅力を学生が知らないという側面もあります。

その最大の要因が東京の私立大学が「首都圏の地元大学化」していることです。法政大学の地方出身学生は3割しかいません。魅力的なローカルメディアがあっても、取り組みに触れることが難しい状況にあります。就活のプラットフォームであるリクナビマイナビでは、たくさんの企業の中に埋もれています。「まず学生に知ってもらう必要がある」という地域の企業が直面する現実は、メディア企業も同様です(が、その現実を認めたくない人たちもいて困るのですが…)。

そこで、状況を的確に把握し、問題意識を持ち、さらに面白く、魅力的な取り組みをしているローカルメディアの皆さんに協力を頂き、各社がお金を出して運営する寄付講座として実施することになりました。はじめての試みだったのですが、初年度から枠いっぱいの6社に協力頂き、本当にありがとうございます。3日間のテーマは以下の通りで、 講義とワークショップを組み合わせています。

【1日目】9月17日(火)第1回~第5回 課題と向き合う
ガイダンス/ローカルメディアの課題と可能性/少子・高齢化と向き合う/フェイクニュースと向き合う/災害と向き合う/ワークショップ

【2日目】9月18日(水)第6回~第9回 地域とつながる
SNSでつながる/まちづくりでつながる/知識でつながる/ワークショップ 
【3日目】9月19日(木)第10回~第14回 地域を伝える
ローカルジャーナリズムの新たなデザイン/ローカルジャーナリズムの課題/ ローカルジャーナリズムの可能性/ローカルジャーナリズムの未来について考える/まとめ

3人の著名なゲストに加え、以下のような地域への課題意識と愛が溢れるローカルメディアの取り組みを講義します。

この集中講義を聞いた学生が、一人でも多くローカルメディアに興味を持ってくれることを願っています!

ゼミ合宿2019、地元の高校生・大学生と「白馬と小谷の魅力」を発見する

ゼミの夏合宿最後は、地元の白馬高校などに通う高校生と、信州大・長野県立大・法政大がチームを組んで「白馬と小谷の魅力」を発見するPBL合宿が2日間行われました。

企画と運営は、信州大のローカルイノベーター養成コースの学生が進め、ゼミ生はグループワークとコンテンツ化のサポートを行いました。

PBL合宿は、発信講座、写真講座、トマソン理論の街歩きなど、インプットが盛りだくさん。信州大の勝亦達夫先生による「行ったことないマップ作り」では、行ったことある場所、行ってみたい場所に、しるしを付けて情報を共有し、高校生たちは各地に出発していきました。

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白馬村内で取材を進めるチーム。ゼミ生には高校生の考えを引き出すのが役割だと伝えて送り出したので、困惑したゼミ生もいたようで、しろうま學舎を拠点にしている先輩ゼミ生による情報共有チームも、相談にのったり、指示したりと、大忙しです。

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2日目の最後は発表会。高校生が前に立ち、3枚の写真で魅力をプレゼンしました。アルプスの雄大な景色や地域の歴史などを説明し、質疑やコメントが飛び交います。ゼミ生のサポートもあり、高校生が自分の言葉でプレゼンしていたのが印象的で、ワクワクがしっかり伝わってきました。 

高校生の取材と発表は、ゼミ生が冊子に取りまとめて、白馬高校などにお送りする予定です。

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白馬高校やしろうま學舎のみなさんと話をすることで、長野県の高校や大学の状況を共有できたことも大きな収穫でした。都市と地方をかき混ぜていくためにも、高校生だけでなく、信州大・県立大の大学生とも過ごした時間が、ゼミ生にとって大きな意味を持つでしょう。

メディア社会学科への進学を希望する高校生がいたことも嬉しいことでした。より多くの高校生に目指してもらえるよう、引き続き発信や交流を進めていきたいと思います。

2019年のゼミ合宿はなかなか場所が決まらず困っていたところ、NTTレゾナント時代の知人のおかげで信州大とつなげて頂き、白馬村のサポートも得ることができました。関係者の皆様に感謝を申し上げます。