ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

情報の森を冒険する、新聞博物館の展示リニューアルに協力しました

横浜にある「ニュースパーク(日本新聞博物館)」の常設展示室にある「情報社会と新聞」コーナーのリニューアルに協力しました。2022年3月15日から新しくなっています。フェイクニュースなど玉石混交の情報が溢れる現代社会を「森」と見立て、「盾」「スコープ」「ひかり球」「仲間」の助けを借りながら、新たな情報に出会い視野を広げるというストリー性がある展示になりました。

リニューアルは、新聞博物館の皆さん、中央大学の松田美佐さん、令和メディア研究所・白鴎大学下村健一さん、奈良女子大学附属中学の二田貴広さんと、相談しながら進めてきました。

フェイクニュースは怖いとか、新聞を読もう、といったものにならないように、ギガスクール構想でタブレットを持つことになる小学生の参考になる展示はどういうものか議論を重ねたものです。

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常設展は「新聞のあゆみ」コーナーからスタート。輪転機なども置かれています。

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「新聞のあゆみ」コーナーから「情報社会と新聞」コーナーに向かう通路には、情報の森への冒険をサポートする立て看板が設置されました。

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手前から奥に行くにつれて時代が進み、情報量が加速度的に増える「情報タイムトンネル」をくぐると展示スペースに。

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情報の森で迷わないための展示。メディア・リテラシーで何でも読み解けるというトーンではなく、「まず立ち止まる」を「盾」と表現する工夫をしています。

4月中には来館者向けの「冒険の手引」も完成の予定です。

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同じ場所には新聞協会賞を紹介するパネルもあり、イージス・アショアの配備候補地のずさんな調査を見抜いてスクープにつなげた秋田魁新報社の分度器も飾られています。

「ニュースパーク」は小学生の学びに力を入れており、学校向けの体験プログラムなども用意されています。春休みやゴールデンウィークに出かけて見て下さい。

美作市上山地区でのゼミ生の卒論報告に同行してきました

代ゼミ生が執筆した「地域コミュニケーションとしての移動の可能性   中国地方3地域のフィールド調査から」という卒業論文岡山県美作市上山地区での報告に同行してきました。卒論は、地域交通をテーマに鳥取県岩美町、岡山県西粟倉村、上山地区をフィールドにして運営者、利用者にインタビューを重ねたものです。

卒論の内容は、注目されているMaaS(Mobility as a Service)では移動目的に合わせて便利にアプリを提供したり、オンデマンドバスなどを提供することが行われていますが、目的別に便利さを追求しすぎるのではなく、一方で、コミュニケーションを求める人に対応しすぎるのではなく、余白を持ったゆるやかな設計が必要というものです。

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上山地区では、「みんなの孫プロジェクト」の水柿さんが、ヒアリングに対応いただいた地域の方に声をかけ、ミニ報告会を開催して頂きました。ゼミ生が、高齢者の方にも読めるように文字を大きくしたレジュメを用意し、暮らしにおける移動とコミュニケーションを軸に調査を報告しました。

地域の方が手作りしたお菓子を食べながら、研究に対する質問や感想、調査時の思い出などを話をして、就職に向けて送り出して頂きました。

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なお研究は西粟倉の猪田有弥さんが取りまとめている『ローカル・モビリティ白書』に収録される予定です。

水柿さんについては田中優子総長(当時)とのインタビューがあります。

農村の現場で学んだ"自己決定"の大切さ : 卒業生の声 : HOSEI ONLINE

SNS社会をテーマにしたミュージカル「GREY」のパンフレットに解説を書きました

ミュージカルのパンフレットに解説を寄稿してほしいー 宛先を間違えたのではないかと思うようなメールが届いたのは11月初旬のこと。送って頂いた脚本を読み、稽古を見学し、ミュージカル「GREY(グレイ)」のパンフレットに無事に解説は掲載されました。「GREY」は、リアリティ番組SNS社会をテーマにしています。

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招待頂き六本木の俳優座劇場に観に行ったのですが、SNSの誹謗中傷が次々と表示される中で歌うという演出は衝撃的でもあり、私たちが作ってきた社会の過酷さがズシンときました。脚本・演出の板垣恭一さんも「あそこは早くから考えてたとこです」とおっしゃってました。

ただ重いというのではなく、主人公のshiro役の佐藤彩香さんの透明感に救われ、各所での小ネタでちょっと笑い、素敵な音楽に包まれ、エンタテインメントとしても楽しめるものでした。ラストシーンに近いところで、矢田悠祐さんと高橋由美子さんが二人で歌うところが特に良かった。

メディアやネットに関わる人は必見だと思いますし、若者たちの生きづらさを描くという点においても、一緒に観に行ったゼミ生が「自分のことのように、とても刺さった」と話していました。

ミュージカルで現代社会を扱うというのが興味深く、プロデューサー宋さんに取材記事も書きました。宋さんには、こういうテーマを扱ってくれたことに感謝したいともお伝えしました。

news.yahoo.co.jp

普段はフェイクニュースなどのSNS社会の課題を、新聞や雑誌に書いたり、テレビで解説したり、しています。2021年はフェイクニュース研究を『フェイクニュースの生態系 (青弓社ライブラリー)』にまとめて出版したのですが、それほど大きな反応があったわけではありません。ミュージカルでこれまで届かなかった人たちにも考えてもらう機会を届けることができることに、エンタテインメントの力を感じました。

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ここ数年は研究に集中していたのですが、仕事の幅を広げろというメッセージと受け止めて、2022年からは本質的でありながら、面白いこと楽しいことを忘れずに、新しいことに取り組んでいきたいと思います。

ゼミ生の学会発表「電車移動における情報行動のデザイン」がグッドプレゼンテーション賞を受賞しました

2021年6月に行われた日本デザイン学会第68回研究大会で、学会発表「電車移動における情報行動のデザイン」 (根本藍・藤代裕之・野々山正章)が、グッドプレゼンテーション賞を受賞しました。卒業論文「移動空間とスマートフォン 時間的・空間的制約と情報接触」に新たな調査・分析を加えたもので、ゼミ卒業生ということになります。

代ゼミでは学部生の学会発表は珍しくありませんが、卒論が大変面白い内容だったので、就職先企業の理解を頂き学会発表することができました。新入社員として仕事をしながら学会準備は大変だったと思いますが、何度も資料を作り直し、発表動画と当日プレゼンを分けるなど工夫したことが評価につながったのでしょう。

本研究が先行研究と大きくことなる部分は、スマートフォンで情報を受発信するようになった状況を踏まえ、電車内だけでなくその前後の情報行動も含めた調査を行ったところです。

  

研究の背景と目的は以下の通りです(以下引用は学会予稿から)

電車内には車内広告をはじめとした多くの情報が存在し、スマートフォンに対してビーコンなどを用いた情報提供も実験されているが、心地よい情報行動がもたらされているとは言い難い。また、新型コロナウィルスの感染拡大に伴いテレワークやオンライン授業が急速に普及し、これまで苦痛だった通勤・通学が無くなったが、「気持ちの切り替えができない」などの悩みも見られる。通勤・通学という苦痛から解放されたはずなのに、それを求めるのはなぜか。社会学者のジョン・アーリは、鉄道の制約が自由を感じさせていると指摘する*1。本研究ではこの制約と自由の関係に注目し、電車移動における心地よい情報行動のデザインの要因を探る。

 

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大学生と社会人を対象に日記式調査を行い、結論としてスマートフォンと電車の「時間的制約」「空間的制約」「目的地」という情報行動のデザインの3つの要因を明らかにしています(図)。

時間的制約は乗車時間で、短時間であればスマートフォンでの断片的な情報接触を行い、長時間であれば読書や睡眠などの行動が行われます。空間的制約とは、立ち/座りや混雑率で、座っている場合は読書や睡眠などが可能ですが、立っている場合それらは困難であるためスマートフォンを使い、満員電車などの混雑した状況でスマートフォンを使用することが難しい場合は車内広告などが見られています。非常に興味深かったのは、スマートフォンから目を離すのが乗車後10分というタイミングであることが分かったことです。ここがスマートフォンと電車の制約の「境界」ということになります。

また、目的地については、行きについては、大学生では時間割や課題の確認、友人との連絡、社会人ではメールの確認や1日の予定を立てる、帰りについては、大学生では帰宅後の予定や帰りに買うものを考える、社会人では家族とのLINEや買うものを考える、と異なっていました。このような行き帰りの行動や気分に対し、電車内の情報提供が考慮されているケースは多くないと思います。

 

 

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発表では、3つの要因を踏まえた電車移動における情報行動のデザインのポイントを下記のようにまとめています。

情報提供のタイミングと内容である。 まず、乗車後すぐなどはスマホを見ており、車内に目を向けにくいため、スマホと連携したり、センサーなどを用いたりして、車内広告を見るタイミングを作ることなどが有効だと考える。提供する情報の内容は、乗客それぞれの目的地に合わせた内容である必要がある。時間帯や属性、服装などから目的地を推測し情報を届けることが、移動する人々にとって心地よい情報行動につながるだろう。

根本さんは企業noteでも記事を書いています。「デザインするのに、何が要因になっているかきちんと確認しなければ、作ってもいい体験を作れない」という言葉重要ですね。よろしければnoteもご覧ください。

note.com

*1:ジョン・アーリ『モビリティーズ 移動の社会学』, 作品社 ,2015(訳:吉原直樹・伊藤嘉高) 

デジタル化が価値を再定義する:「えきねっと」リニューアルにかつての新聞社を見る

デジタル化によって企業は何に直面するのか?それは、その企業や業界が提供してきた価値の再定義です。

リニューアルしたJR東日本の予約サイト「えきねっと」がクソ使い勝手が悪いと指摘されています。移動については、MaaS(マース)と呼ばれるサービス化が注目されており、人々がどうすればスムーズに移動するかや、新しい価値を提供できるかが、議論されているはずなのに、どうしてこのようなクソサイトが生まれてしまうのか。

下記のnoteが「移動」したい顧客と「きっぷ」を売りたい企業とのズレがあることを指摘しています。セオドア・レビットが指摘したマーケティング近視眼です。

note.com

実際の駅の窓口のやりとりって違いますよね。「東京から酒田まで11時頃出発で、指定席」とか言いますよね。そして、大抵は言わなくても1番安い組み合わせで切符を売ってくれますよね。客の関心は「東京から酒田まで移動したいけど、いくらするのか」っていう点であって、「どのきっぷをどう組み合わせるか」ではないですよね。このあたり、「切符を売る」という認識のJR東日本と「移動をしたい」という客とで意識の差が出来てる気がします。

新聞社を思い出したわけ

上記のnoteを読みながら、20年前にソーシャルメディアが登場したころの新聞社を思い出しました。どこが「えきねっと」と共通するのか。それが企業や業界が提供している価値です。

ソーシャルメディア登場以前は、ニュースの価値は新聞社やテレビ局というマスメディアが決めて、人々に提供していました。誰もが情報を発信できるようになり、ニュースサイトも多く立ち上がり、新たなプレイヤーが参加して市場が変化していきます。

象徴的なのは2005年に堀江貴文さんが「記者の判断だけで1面トップに載せるのが本当にいいのか。価値判断はユーザーがすべきだと思う。」(毎日新聞:3月5日朝刊)とインタビューに答えたところ、ジャーナリズムは必要だと社会部の記者が「声を大にして反論」(毎日新聞:3月17日朝刊、記者の目)したのです。

結果はどうだったのか。各社サイトにランキングを表示させ、いかにページビューを稼ぐか血眼になっています(この時に、大いに反論した人たちはどう思っているんでしょうね…)。新聞社は、ニュースの価値は自分たち(だけ)が決めていると勘違いことで、人はニュースを見たい、新聞は「紙」を売りたいというズレを埋めることができませんでした。

UIに企業が考える価値が表出する

移動業界は、20年前のニュース業界に似ています。シェアカーやシェアサイクル事業者、など移動を担うプレイヤーが参入し始めています。規制があるためニュース業界よりも変化は緩やかですが、着実に変化しています。

新聞社はサイトのUIで、インターネット企業に遅れをとりました。その理由は、自らが提供している価値を疑わなかったからです。UIは、どのような体験を顧客に提供しようとしているのか、企業が考えている価値が表出しているのです。UIを軽視しているという批判がある場合、企業と顧客の価値のズレがある可能性が高いのです(企業側から提供したい価値を考えればUIが適切ということもあり得ます)。

JR東日本は「えきねっと」だけでなく、アプリのUIを考えても、背景にある価値観そのものが問題なのではないか(20年前の新聞社のように)と推測しています。

新聞は毎朝届くので便利というUXから資産だと考えられた宅配網は負担となりました。鉄道の路線網も負担になるかもしれません。お客さんは移動できればいい、それもスムーズに。わざわざ駅にいくのも、きっぷを買うのも面倒ですしね。

価値は共創で生まれる

冒頭にデジタル化により価値を再定義されると言いましたが、デジタル化により新たなプレイヤーが市場に参入するとサービスにおいて勝負するポイントが異なってくる、それゆえ従来その市場を担ってきた企業や業界からすれば価値が再定義されようとしているように見える、と言ったほうがよいかもしれません。新規参入するプレイヤーは、従来の企業や業界の都合は無関係ですから…

このリニューアルの件をFacebookに投稿したところ、高広伯彦さんから「価値は共創でしか生まれない」と書き込みがありました。ニュース業界は自分たちが考えるニュースの価値に固執したことでビジネス的に自壊しつつありますが、かといって顧客の言うことだけを聞いていれば良いというものでもありません。価値は、企業と顧客が共に作っていくのだとすれば、新たなプレイヤーが市場に参入し、価値がゆらいでいるように見えるときほど、価値を問い直しながら考えていく必要があります。

MaaSなどの動きを見ながら、移動業界でかつてニュース業界で、起きたような大きな変化が起きるだろうと予測し、数年前から研究を少しずつ進めていました。

先日行われた第68回日本デザイン学会で、ゼミ卒業生らと「電車移動における情報行動のデザイン」のタイトルで口頭発表を行いました。また、今年度は「移動とメディア」をテーマに法政大学メディア環境設計研究所で、研究会を行います。7月3日には「ローカルの移動を捉え直す」というタイトルで、『ローカルモビリティ白書』を執筆した猪田有弥さんと、トランスローカルマガジン『MOMENT』編集長の白井瞭さんを招いて発表と討議を行う予定です。 

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ローカルジャーナリズム論の報告冊子「足元からすくう」が完成しました

新型コロナウイルスの影響でオンラインとなった2020年度の法政大学社会学部寄付講座・集中講義「ローカルジャーナリズム論」の報告冊子「足元からすくう」が完成しました。

「ローカルジャーナリズム論」は、法政大学の地方出身学生は3割と少なく、ローカルメディアへの関心が乏しい状況を受けて2019年度にスタートしました。普段接している既存メディアは、東京のキー局や全国紙という東京の学生たちに、ローカルの面白さをどう伝えるか、ゼミ生が編集方針やレイアウトを議論し、関心をもってもらえるように工夫しています。

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テーマは「交わることで生まれる価値」で、巻頭の特集として、ローカルおじさんこと博報堂ケトルのプロデューサー日野さんと、沖縄タイムスの記者である與那覇さんを取り上げています。東京の学生が自分ごと感じられるように、受講者がワークショップで出したアイデアや提出した課題を収録しています。読み進めていくと、東京と地方という対立軸ではなく、東京もローカルなのだ気づいてもらいたい、というゼミ生の編集意図が込められています。目次と冊子の趣旨説明は以下のようになっています。 

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2020年度の「ローカルジャーナリズム論」は、沖縄タイムス西日本新聞中国新聞東海テレビ博報堂ケトル (順不同) 5社の寄付により開講しました。改めてありがとうございます。2021年度も9月に実施予定です。

gatonews.hatenablog.com

 

2011年3月11日「伝えたい」想いが連鎖してテレビとネットが融合した

Ustreamユーストリーム)って何ですか?」。東日本大震災から10年ということで、ソーシャルメディアと災害に関する複数の取材がありました。ユーストリームは動画共有サービスで(現在は「IBM Cloud Video」)、ソフトバンク孫正義氏が決算説明会を配信するなど注目を集めていました。このユーストリームが、震災当日の情報共有に大いに役立ったという話が、災害を取材する記者に共有されていないことに衝撃を受けました。そこで、少し振り返っておこうと考えました。

広島の中学生が、NHKを勝手に配信

 10年前の3月11日、広島の中学生が災害の様子を伝えるNHKを、ユーストリームを使い許諾なく勝手配信していました。それが、正式なテレビ放送のインターネット再配信につながっていくという会社や業界を超えた動きを作り出したのです。経緯はUstream Asiaに在籍していた加藤さんがnoteにまとめてくれています。

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テレビがない場所にいる人たちの助けに

私もこのユーストリームの勝手配信に助けられたひとりです。

あの日、立命館大学(現在は武蔵大学)にいた奥村信幸さんのゼミ発表を見学するため京都に向かっていました。飛行機で伊丹空港に降り、高速バスで京都に、大学に向かうタクシーに乗った時に「お客さん東京から?大きな地震があったみたいだよ」と言われて、初めて大きな災害が起きていることを知りました。すぐにガラケーTwitterを開きましたが、情報が錯綜していて状況はよくわかりませんでした。

会社の同僚にメールしたら返信があったと記憶しています。なので「大丈夫なのだろうな」と判断し、ご家族を心配する奥村さんに「新幹線も動いてないようなので、ひとまずゼミ発表をやりましょう」と声をかけました。Twitterを見ていると、この中学生による勝手配信が話題になっていることに気づきました。そこで、教室のディスプレイにユーストリームを写すと、津波が街を飲み込む映像が流れたのです。「大変なことになった」と思いながら、どこか別世界の出来事のようにも感じたことを覚えています。

大学のディスプレイは、テレビ放送が映らない設定でした。企業もそうで、特に都市部ではテレビがあるオフィスは少ない。しかし、パソコンはインターネットにはつながっており、外出している人も携帯電話からアクセスできるため、多くの人がこのユーストリームにより状況を把握できたのです。

関係者の「伝えたい」想いが連鎖した

NHKの勝手配信はユーストリームにより削除されず維持され、NHKと交渉に入ります。その間に、TBSによる正式な再配信が開始、テレビ神奈川、フジテレビ、そしてNHKが正式にユーストリームで流れ、その後は被災地のラジオ局などの配信にもつながっていきます。ユーストリームからNHKが流れているのを見て、ニコニコ動画を運営しているドワンゴも動き、ニコニコ動画でもテレビやラジオを視聴可能になったのです。

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「大規模災害時における的確な情報流通を可能とするマスメディア・ソーシャルメディア連携の可能性と課題」p220.222を参考に作成

この連携は、災害情報だけでなく、メディア業界にとって大きな転換点でした。

ソーシャルメディアがどう人々の役に立つのかを考えてきた自分にとっても、メディアの連携により情報を伝えることは重要だと考え、関係者へのインタビューも行い東海大学の河井孝仁先生と一緒に「大規模災害時における的確な情報流通を可能とするマスメディア・ソーシャルメディア連携の可能性と課題」にまとめました。

インタビューに答えてくれたテレビや新聞、ネットの関係者は「自分たちの取り組みは、本当に役立っているのか」「多くの人に伝えるためには、自社だけでは限界がある」と危機感を持ち、それぞれ動き出していました。中学生の勝手配信が呼び水となり、関係者の「伝えたい」が連鎖し、メディアの連携が実現したのです。

この話は、中学3年生の国語の教科書(光村図書)に『「想いのリレー」に加わろう』というタイトルで掲載されています。メディア連携、災害時の情報だけでなく、メディア・リテラシーの視点からも学べるように工夫して書いています。来年度からは新しい教科書になるとのことですが、いま高校生・大学生の皆さんには少しは知ってもらえたかなと思っています。

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 進まぬメディア連携、情報の空白を埋める取り組みを

今でこそ、大規模災害や大きなニュースがあればNHKのアプリなどでテレビと同じ内容を視聴できますし、AbemaTV(2016年開設)のようなサービスもありますが、当時のテレビとインターネットの関係は微妙でした。その背景には、2005年にライブドアによるフジサンケイグループの中核会社であったニッポン放送株買収、楽天によるTBS株買収が立て続けに起き、テレビ業界のネット企業への警戒感がありました。

一方、スマートフォンに切り替える人が少しずつ増え、ニコニコ動画はユーザーを伸ばし、Facebookが注目され始めていました。そのため、少しずつメディア連携の取り組みが始まっていました。3月10日にはNHKクローズアップ現代ニコニコ動画と連動した番組を放送したところでした。東日本大震災は、ソーシャルメディアの影響力が急拡大していた時期と重なっていたのです。

あれから10年。ソーシャルメディアの影響力は拡大し、既存メディアの影響力は低下していますが、連携は十分ではありません。奥村さんも先日以下のように書いていました。

災害の規模はさらに大きなものを想定した備えが必要になる一方、単体のメディアの実力に限界が見えるのであれば、メディアが相互協力して、情報の空白を埋めていく必要があるのは当然の帰結だと思われますが、意識改革には程遠いという印象です。

東日本大震災から10年:報道各社のインタビューを見直し、考えた(奥村信幸)

2010年にNHKがフジテレビと制作した「死者ゼロを目指せ・災害時のメディア連携」でも議論したのですが(参考:災害の死者ゼロに向け、テレビは「メディアの王様」を捨てられるか(藤代裕之) )、発災時からの時間経過に合わせて、NHKの全国・キー局、ローカル局コミュニティFMやケーブルテレビとカバーする地域の広さが異なるメディアと、検索や地図に強いインターネットで役割を分担して、必要な情報を提供していくなどが考えられます。

災害時の情報空白をどうなくすのか。メディア連携を具体的に進めるためにも、あの日の取り組みが役に立つはずです。

■参考書籍・記事 

 河井先生との研究「大規模災害時における的確な情報流通を可能とするマスメディア・ソーシャルメディア連携の可能性と課題」は以下の『大震災・原発とメディアの役割―報道・論調の検証と展望 公募委託調査研究報告書〈2011年度〉』に収録されています。

京都から実家のある徳島に帰り、ボランティア情報を集めるボランティアを立ち上げ、活動していました。ITmediaの藤村厚夫さん(スマートニュース)に誘われて活動しながら書いた記録記事が、いまでもアーカイブされていることに感謝します。

www.itmedia.co.jp