ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

ゼミ生の学会発表「電車移動における情報行動のデザイン」がグッドプレゼンテーション賞を受賞しました

2021年6月に行われた日本デザイン学会第68回研究大会で、学会発表「電車移動における情報行動のデザイン」 (根本藍・藤代裕之・野々山正章)が、グッドプレゼンテーション賞を受賞しました。卒業論文「移動空間とスマートフォン 時間的・空間的制約と情報接触」に新たな調査・分析を加えたもので、ゼミ卒業生ということになります。

代ゼミでは学部生の学会発表は珍しくありませんが、卒論が大変面白い内容だったので、就職先企業の理解を頂き学会発表することができました。新入社員として仕事をしながら学会準備は大変だったと思いますが、何度も資料を作り直し、発表動画と当日プレゼンを分けるなど工夫したことが評価につながったのでしょう。

本研究が先行研究と大きくことなる部分は、スマートフォンで情報を受発信するようになった状況を踏まえ、電車内だけでなくその前後の情報行動も含めた調査を行ったところです。

  

研究の背景と目的は以下の通りです(以下引用は学会予稿から)

電車内には車内広告をはじめとした多くの情報が存在し、スマートフォンに対してビーコンなどを用いた情報提供も実験されているが、心地よい情報行動がもたらされているとは言い難い。また、新型コロナウィルスの感染拡大に伴いテレワークやオンライン授業が急速に普及し、これまで苦痛だった通勤・通学が無くなったが、「気持ちの切り替えができない」などの悩みも見られる。通勤・通学という苦痛から解放されたはずなのに、それを求めるのはなぜか。社会学者のジョン・アーリは、鉄道の制約が自由を感じさせていると指摘する*1。本研究ではこの制約と自由の関係に注目し、電車移動における心地よい情報行動のデザインの要因を探る。

 

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大学生と社会人を対象に日記式調査を行い、結論としてスマートフォンと電車の「時間的制約」「空間的制約」「目的地」という情報行動のデザインの3つの要因を明らかにしています(図)。

時間的制約は乗車時間で、短時間であればスマートフォンでの断片的な情報接触を行い、長時間であれば読書や睡眠などの行動が行われます。空間的制約とは、立ち/座りや混雑率で、座っている場合は読書や睡眠などが可能ですが、立っている場合それらは困難であるためスマートフォンを使い、満員電車などの混雑した状況でスマートフォンを使用することが難しい場合は車内広告などが見られています。非常に興味深かったのは、スマートフォンから目を離すのが乗車後10分というタイミングであることが分かったことです。ここがスマートフォンと電車の制約の「境界」ということになります。

また、目的地については、行きについては、大学生では時間割や課題の確認、友人との連絡、社会人ではメールの確認や1日の予定を立てる、帰りについては、大学生では帰宅後の予定や帰りに買うものを考える、社会人では家族とのLINEや買うものを考える、と異なっていました。このような行き帰りの行動や気分に対し、電車内の情報提供が考慮されているケースは多くないと思います。

 

 

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発表では、3つの要因を踏まえた電車移動における情報行動のデザインのポイントを下記のようにまとめています。

情報提供のタイミングと内容である。 まず、乗車後すぐなどはスマホを見ており、車内に目を向けにくいため、スマホと連携したり、センサーなどを用いたりして、車内広告を見るタイミングを作ることなどが有効だと考える。提供する情報の内容は、乗客それぞれの目的地に合わせた内容である必要がある。時間帯や属性、服装などから目的地を推測し情報を届けることが、移動する人々にとって心地よい情報行動につながるだろう。

根本さんは企業noteでも記事を書いています。「デザインするのに、何が要因になっているかきちんと確認しなければ、作ってもいい体験を作れない」という言葉重要ですね。よろしければnoteもご覧ください。

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*1:ジョン・アーリ『モビリティーズ 移動の社会学』, 作品社 ,2015(訳:吉原直樹・伊藤嘉高) 

デジタル化が価値を再定義する:「えきねっと」リニューアルにかつての新聞社を見る

デジタル化によって企業は何に直面するのか?それは、その企業や業界が提供してきた価値の再定義です。

リニューアルしたJR東日本の予約サイト「えきねっと」がクソ使い勝手が悪いと指摘されています。移動については、MaaS(マース)と呼ばれるサービス化が注目されており、人々がどうすればスムーズに移動するかや、新しい価値を提供できるかが、議論されているはずなのに、どうしてこのようなクソサイトが生まれてしまうのか。

下記のnoteが「移動」したい顧客と「きっぷ」を売りたい企業とのズレがあることを指摘しています。セオドア・レビットが指摘したマーケティング近視眼です。

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実際の駅の窓口のやりとりって違いますよね。「東京から酒田まで11時頃出発で、指定席」とか言いますよね。そして、大抵は言わなくても1番安い組み合わせで切符を売ってくれますよね。客の関心は「東京から酒田まで移動したいけど、いくらするのか」っていう点であって、「どのきっぷをどう組み合わせるか」ではないですよね。このあたり、「切符を売る」という認識のJR東日本と「移動をしたい」という客とで意識の差が出来てる気がします。

新聞社を思い出したわけ

上記のnoteを読みながら、20年前にソーシャルメディアが登場したころの新聞社を思い出しました。どこが「えきねっと」と共通するのか。それが企業や業界が提供している価値です。

ソーシャルメディア登場以前は、ニュースの価値は新聞社やテレビ局というマスメディアが決めて、人々に提供していました。誰もが情報を発信できるようになり、ニュースサイトも多く立ち上がり、新たなプレイヤーが参加して市場が変化していきます。

象徴的なのは2005年に堀江貴文さんが「記者の判断だけで1面トップに載せるのが本当にいいのか。価値判断はユーザーがすべきだと思う。」(毎日新聞:3月5日朝刊)とインタビューに答えたところ、ジャーナリズムは必要だと社会部の記者が「声を大にして反論」(毎日新聞:3月17日朝刊、記者の目)したのです。

結果はどうだったのか。各社サイトにランキングを表示させ、いかにページビューを稼ぐか血眼になっています(この時に、大いに反論した人たちはどう思っているんでしょうね…)。新聞社は、ニュースの価値は自分たち(だけ)が決めていると勘違いことで、人はニュースを見たい、新聞は「紙」を売りたいというズレを埋めることができませんでした。

UIに企業が考える価値が表出する

移動業界は、20年前のニュース業界に似ています。シェアカーやシェアサイクル事業者、など移動を担うプレイヤーが参入し始めています。規制があるためニュース業界よりも変化は緩やかですが、着実に変化しています。

新聞社はサイトのUIで、インターネット企業に遅れをとりました。その理由は、自らが提供している価値を疑わなかったからです。UIは、どのような体験を顧客に提供しようとしているのか、企業が考えている価値が表出しているのです。UIを軽視しているという批判がある場合、企業と顧客の価値のズレがある可能性が高いのです(企業側から提供したい価値を考えればUIが適切ということもあり得ます)。

JR東日本は「えきねっと」だけでなく、アプリのUIを考えても、背景にある価値観そのものが問題なのではないか(20年前の新聞社のように)と推測しています。

新聞は毎朝届くので便利というUXから資産だと考えられた宅配網は負担となりました。鉄道の路線網も負担になるかもしれません。お客さんは移動できればいい、それもスムーズに。わざわざ駅にいくのも、きっぷを買うのも面倒ですしね。

価値は共創で生まれる

冒頭にデジタル化により価値を再定義されると言いましたが、デジタル化により新たなプレイヤーが市場に参入するとサービスにおいて勝負するポイントが異なってくる、それゆえ従来その市場を担ってきた企業や業界からすれば価値が再定義されようとしているように見える、と言ったほうがよいかもしれません。新規参入するプレイヤーは、従来の企業や業界の都合は無関係ですから…

このリニューアルの件をFacebookに投稿したところ、高広伯彦さんから「価値は共創でしか生まれない」と書き込みがありました。ニュース業界は自分たちが考えるニュースの価値に固執したことでビジネス的に自壊しつつありますが、かといって顧客の言うことだけを聞いていれば良いというものでもありません。価値は、企業と顧客が共に作っていくのだとすれば、新たなプレイヤーが市場に参入し、価値がゆらいでいるように見えるときほど、価値を問い直しながら考えていく必要があります。

MaaSなどの動きを見ながら、移動業界でかつてニュース業界で、起きたような大きな変化が起きるだろうと予測し、数年前から研究を少しずつ進めていました。

先日行われた第68回日本デザイン学会で、ゼミ卒業生らと「電車移動における情報行動のデザイン」のタイトルで口頭発表を行いました。また、今年度は「移動とメディア」をテーマに法政大学メディア環境設計研究所で、研究会を行います。7月3日には「ローカルの移動を捉え直す」というタイトルで、『ローカルモビリティ白書』を執筆した猪田有弥さんと、トランスローカルマガジン『MOMENT』編集長の白井瞭さんを招いて発表と討議を行う予定です。 

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ローカルジャーナリズム論の報告冊子「足元からすくう」が完成しました

新型コロナウイルスの影響でオンラインとなった2020年度の法政大学社会学部寄付講座・集中講義「ローカルジャーナリズム論」の報告冊子「足元からすくう」が完成しました。

「ローカルジャーナリズム論」は、法政大学の地方出身学生は3割と少なく、ローカルメディアへの関心が乏しい状況を受けて2019年度にスタートしました。普段接している既存メディアは、東京のキー局や全国紙という東京の学生たちに、ローカルの面白さをどう伝えるか、ゼミ生が編集方針やレイアウトを議論し、関心をもってもらえるように工夫しています。

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テーマは「交わることで生まれる価値」で、巻頭の特集として、ローカルおじさんこと博報堂ケトルのプロデューサー日野さんと、沖縄タイムスの記者である與那覇さんを取り上げています。東京の学生が自分ごと感じられるように、受講者がワークショップで出したアイデアや提出した課題を収録しています。読み進めていくと、東京と地方という対立軸ではなく、東京もローカルなのだ気づいてもらいたい、というゼミ生の編集意図が込められています。目次と冊子の趣旨説明は以下のようになっています。 

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2020年度の「ローカルジャーナリズム論」は、沖縄タイムス西日本新聞中国新聞東海テレビ博報堂ケトル (順不同) 5社の寄付により開講しました。改めてありがとうございます。2021年度も9月に実施予定です。

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2011年3月11日「伝えたい」想いが連鎖してテレビとネットが融合した

Ustreamユーストリーム)って何ですか?」。東日本大震災から10年ということで、ソーシャルメディアと災害に関する複数の取材がありました。ユーストリームは動画共有サービスで(現在は「IBM Cloud Video」)、ソフトバンク孫正義氏が決算説明会を配信するなど注目を集めていました。このユーストリームが、震災当日の情報共有に大いに役立ったという話が、災害を取材する記者に共有されていないことに衝撃を受けました。そこで、少し振り返っておこうと考えました。

広島の中学生が、NHKを勝手に配信

 10年前の3月11日、広島の中学生が災害の様子を伝えるNHKを、ユーストリームを使い許諾なく勝手配信していました。それが、正式なテレビ放送のインターネット再配信につながっていくという会社や業界を超えた動きを作り出したのです。経緯はUstream Asiaに在籍していた加藤さんがnoteにまとめてくれています。

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テレビがない場所にいる人たちの助けに

私もこのユーストリームの勝手配信に助けられたひとりです。

あの日、立命館大学(現在は武蔵大学)にいた奥村信幸さんのゼミ発表を見学するため京都に向かっていました。飛行機で伊丹空港に降り、高速バスで京都に、大学に向かうタクシーに乗った時に「お客さん東京から?大きな地震があったみたいだよ」と言われて、初めて大きな災害が起きていることを知りました。すぐにガラケーTwitterを開きましたが、情報が錯綜していて状況はよくわかりませんでした。

会社の同僚にメールしたら返信があったと記憶しています。なので「大丈夫なのだろうな」と判断し、ご家族を心配する奥村さんに「新幹線も動いてないようなので、ひとまずゼミ発表をやりましょう」と声をかけました。Twitterを見ていると、この中学生による勝手配信が話題になっていることに気づきました。そこで、教室のディスプレイにユーストリームを写すと、津波が街を飲み込む映像が流れたのです。「大変なことになった」と思いながら、どこか別世界の出来事のようにも感じたことを覚えています。

大学のディスプレイは、テレビ放送が映らない設定でした。企業もそうで、特に都市部ではテレビがあるオフィスは少ない。しかし、パソコンはインターネットにはつながっており、外出している人も携帯電話からアクセスできるため、多くの人がこのユーストリームにより状況を把握できたのです。

関係者の「伝えたい」想いが連鎖した

NHKの勝手配信はユーストリームにより削除されず維持され、NHKと交渉に入ります。その間に、TBSによる正式な再配信が開始、テレビ神奈川、フジテレビ、そしてNHKが正式にユーストリームで流れ、その後は被災地のラジオ局などの配信にもつながっていきます。ユーストリームからNHKが流れているのを見て、ニコニコ動画を運営しているドワンゴも動き、ニコニコ動画でもテレビやラジオを視聴可能になったのです。

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「大規模災害時における的確な情報流通を可能とするマスメディア・ソーシャルメディア連携の可能性と課題」p220.222を参考に作成

この連携は、災害情報だけでなく、メディア業界にとって大きな転換点でした。

ソーシャルメディアがどう人々の役に立つのかを考えてきた自分にとっても、メディアの連携により情報を伝えることは重要だと考え、関係者へのインタビューも行い東海大学の河井孝仁先生と一緒に「大規模災害時における的確な情報流通を可能とするマスメディア・ソーシャルメディア連携の可能性と課題」にまとめました。

インタビューに答えてくれたテレビや新聞、ネットの関係者は「自分たちの取り組みは、本当に役立っているのか」「多くの人に伝えるためには、自社だけでは限界がある」と危機感を持ち、それぞれ動き出していました。中学生の勝手配信が呼び水となり、関係者の「伝えたい」が連鎖し、メディアの連携が実現したのです。

この話は、中学3年生の国語の教科書(光村図書)に『「想いのリレー」に加わろう』というタイトルで掲載されています。メディア連携、災害時の情報だけでなく、メディア・リテラシーの視点からも学べるように工夫して書いています。来年度からは新しい教科書になるとのことですが、いま高校生・大学生の皆さんには少しは知ってもらえたかなと思っています。

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 進まぬメディア連携、情報の空白を埋める取り組みを

今でこそ、大規模災害や大きなニュースがあればNHKのアプリなどでテレビと同じ内容を視聴できますし、AbemaTV(2016年開設)のようなサービスもありますが、当時のテレビとインターネットの関係は微妙でした。その背景には、2005年にライブドアによるフジサンケイグループの中核会社であったニッポン放送株買収、楽天によるTBS株買収が立て続けに起き、テレビ業界のネット企業への警戒感がありました。

一方、スマートフォンに切り替える人が少しずつ増え、ニコニコ動画はユーザーを伸ばし、Facebookが注目され始めていました。そのため、少しずつメディア連携の取り組みが始まっていました。3月10日にはNHKクローズアップ現代ニコニコ動画と連動した番組を放送したところでした。東日本大震災は、ソーシャルメディアの影響力が急拡大していた時期と重なっていたのです。

あれから10年。ソーシャルメディアの影響力は拡大し、既存メディアの影響力は低下していますが、連携は十分ではありません。奥村さんも先日以下のように書いていました。

災害の規模はさらに大きなものを想定した備えが必要になる一方、単体のメディアの実力に限界が見えるのであれば、メディアが相互協力して、情報の空白を埋めていく必要があるのは当然の帰結だと思われますが、意識改革には程遠いという印象です。

東日本大震災から10年:報道各社のインタビューを見直し、考えた(奥村信幸)

2010年にNHKがフジテレビと制作した「死者ゼロを目指せ・災害時のメディア連携」でも議論したのですが(参考:災害の死者ゼロに向け、テレビは「メディアの王様」を捨てられるか(藤代裕之) )、発災時からの時間経過に合わせて、NHKの全国・キー局、ローカル局コミュニティFMやケーブルテレビとカバーする地域の広さが異なるメディアと、検索や地図に強いインターネットで役割を分担して、必要な情報を提供していくなどが考えられます。

災害時の情報空白をどうなくすのか。メディア連携を具体的に進めるためにも、あの日の取り組みが役に立つはずです。

■参考書籍・記事 

 河井先生との研究「大規模災害時における的確な情報流通を可能とするマスメディア・ソーシャルメディア連携の可能性と課題」は以下の『大震災・原発とメディアの役割―報道・論調の検証と展望 公募委託調査研究報告書〈2011年度〉』に収録されています。

京都から実家のある徳島に帰り、ボランティア情報を集めるボランティアを立ち上げ、活動していました。ITmediaの藤村厚夫さん(スマートニュース)に誘われて活動しながら書いた記録記事が、いまでもアーカイブされていることに感謝します。

www.itmedia.co.jp

シンポジウム「アフターコロナの移動空間とメディア環境」を開催します

法政大学イノベーション・マネジメント研究センター シンポジウム 「アフターコロナの移動空間とメディア環境」を2021年3月10日(水曜日)に開催します。「メディア環境設計研究所」が共催です。

2019年に設立した「メディア環境設計研究所」では、2020年に『アフターソーシャルメディア 多すぎる情報といかに付き合うか』を出版し、ソーシャルメディアの登場による情報過多のなかで人々がどのように情報接触しているのか、を明らかにしました。

今回のシンポジウムでは、新型コロナウイルスの拡大でもたらされた、移動の抑制と情報爆発(インフォデミック)という状況を踏まえ、メディア環境と移動空間の未来について考えます。

基調講演には国内に「ダークツーリズム(災害や戦争の跡をめぐる旅)」を広めた気鋭の観光学者である井出明(金沢大学准教授)さんにお願いしました。タイトルは「COVID−19以降のモビリティ --ポストモダンのさらにその先--」です。

移動に関わる異なる分野の企業事例の紹介もあります。

「スマートモビリティとメディア環境」松田達樹(NTTコミュニケーションズ)さん、「MaaSで支える高齢化社会と、その鍵となるタクシーのDXとは」近藤洋祐(電脳交通)さん、「アフターコロナの公共交通における移動体験の変化」平林宏介(川崎重工業)さん、3人によるプレゼンの後、課題や移動の未来、について議論したいと思います。

「メディア環境設計研究所」は、メディア社会学科の設計コースとリンクしながら研究を進めています。シンポジウムには3人の設計コース教員が、司会やモデレーターを担います。

参加は無料ですが、申込みが必要です。申し込みは同研究センターのホームページからお願いします。

https://riim.ws.hosei.ac.jp/news/202102173977.html

 

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東京こそ「情報過疎」ではないか

フリーペーパー『鶴と亀』、トランスローカルマガジン『MOMENT』など、ローカルを扱う新たなメディアの登場をほとんどの受講生が知らず、反応も鈍いー。法政大学社会学部の寄付講座・集中講義「ローカルジャーナリズム論(2020)」*1初日の講師による振り返りでこの事象を踏まえて、東京こそ「情報過疎」ではないかという議論が起きました。

ソーシャルメディアが登場し、東京を通さずに地域と地域がダイレクトにつながるようになり、面白い場所に、面白い人が集まり、メディアを作るという動きが各地に広がっています。自身が地方紙出身ということもあり、積極的に地域と関わりを持ってきました。

ゼミの夏合宿は、福島県白河市や長野県の白馬村などの地域に出かけています。2015年にはローカルジャーナリストの田中輝美さんとゼミ生で島根の『地域ではたらく「風の人」という新しい選択』という本をまとめ、2016年にはB&B城崎温泉の「本と温泉」理事長と『風の人』の編集者を交えたイベントを行いました。授業では佐賀県小城市で「おかもちカブ」でコーヒーを振る舞うコミュニティ活動をしている小石克さんをゲストに迎える、といった様々な情報提供を学生に向けて行ってきました。 

そのような活動を通し、首都圏出身者が多くなり(地方出身は3割)ローカルメディアへの関心以前に、存在を知らないという問題意識をもったことが「ローカルジャーナリズム論」開設の背景なので、受講生の反応は予想通りではありましたが、地方紙・地方局に勤める講師には驚きがあったようです。

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宮崎県新富町の地域商社「こゆ財団」=2017年撮影

沖縄のメディアは楽園のイメージ 

例えば、 記憶の解凍プロジェクトや「沖縄戦デジタルアーカイブ」に取り組んでいる沖縄タイムスの與那覇里子さんの授業では、沖縄のメディアへのイメージを受講生に聞きましたが、観光と災害(台風でよく出てくる)といったものが大半で、ソーシャルメディアで言及される「マスゴミ」「プロパガンダ」など批判的なコメントは数件でした。

「観光地としてのイメージアップに取り組んでいると考えていた」「楽園のイメージ」「バラエティ番組に出演する芸能人を見てエンタメ色が強いため、地方紙もエンタメかと思っていた」「沖縄のメディアとフェイクニュースにつながりがあるとは思わなかった」「イメージがなかった」などの回答が並びました。

「さよならテレビ」や「ヤクザと憲法」といったドキュメンタリーの映画化で注目を集める東海テレビの授業では、ローカルテレビ局発の映画を見たことがあるかも聞いてみましたが、8割の受講生が「ない」と回答しました(メディア社会学科の学生も多いのに…)。

講師からは「本当に知らないんですね…」という言葉が漏れるほど、授業を通して、改めて受講生がローカルメディアを知らないことが浮き彫りとなりました。このような受講生も3日間の授業を受けると、面白さに触発されて考えが変化していくので、決して関心がないわけではないのです。

ニュースのローカル化が分断を生む

知らないことが構造的なものではないかという指摘がありました。

東海テレビの伏原健之さんから、いまテレビの世界では地域ニュースが注目され、東京のキー局から配信されるのニュースの視聴率が下がっているとの説明があったのです。確かに言われてみると全国ニュースと言いながら、コロナ感染について「東京では◯人」や台風などで「新宿駅前から中継」などが扱われています。

地域の人が地域のニュースに関心を持つことは興味深い動きですが、東京にいると普段見ているマスメディアが伝えるニュースが、全国の人も知っている、興味を持っているものだと思い込んでしまうことはありそうです。東京は人口の割にマスメディアの数が少ないため東京ローカルの情報は乏しく、関心を持ちにくい状況です(県紙なら掲載されている市や区政レベルの話題、自治体や議会情報とかも非常に少ない)。

インターネットでもYahoo!ニュースのトップに「東海道線が事故」といった首都圏の事故が掲載されており、地域に関連することによほど興味がなければ、ソーシャルメディアでもつながることはなく、ローカルで起きている面白い事象へのアンテナを失わせ「情報過疎」が生じていしまうメディア環境がありそうです。そうであるなら、多くが首都圏出身者の大学で「ローカルジャーナリズム論」に取り組む役割は大きいと感じました。 

「交わること」が生む価値を考える

 「ローカルジャーナリズム論」は終わりましたが、ゼミ生による制作物を報告書として寄付企業などにお送りすることになっています。2019年度は講義録的にまとめ「面白い大人の伝え方」という冊子を制作しましたが、2020年度は事前に仮コンセプトを「交わる」と決めていました。コロナ渦でオンラインになり、多摩キャンパスでリアルに集まり、ワイワイガヤガヤと合宿のような講義は消えましたが、沖縄や福岡から中継することで新たに知ることもありました。様々な変化が起きている時代において、大学生が地方と交わることが生む価値とは何かを問うコンテンツにしようと考えています。

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昨年度の「ローカルジャーナリズム論」の報告冊子の制作風景

9月28日に情報過多と情報過疎を考えます

ソーシャルメディアで大量の情報があふれる「情報過多」なのにローカル情報が「情報過疎」になっていることについて、「ローカルジャーナリズム論」の講師でもある博報堂ケトルの日野昌暢さんとB&Bトークイベントをやります。よろしければご参加ください!

bookandbeer.com

 ローカルジャーナリズム論の授業の工夫については以下の記事をご覧ください。

gatonews.hatenablog.com

*1:2020年度の寄付メディアは、沖縄タイムス西日本新聞中国新聞東海テレビ博報堂ケトル (順不同)です。ありがとうございます。

「密度が濃い」「面白くて疲れた」熱い反応続々のオンライン集中講義で工夫したこと

「すごく密度が濃い3日間でした」「講義が面白くて、集中して疲れました」「本当に楽しい時間でした」 「自身の中で新しい発想が生まれました」「私が求めていた大学の授業は、こういう授業だと思い出しました」 ー オンラインで実施した法政大学社会学部の寄付講座・集中講義「ローカルジャーナリズム論」は、多くの受講生から予想以上に「熱い」反応が続々と届きました。

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オンライン化に当たり工夫したこと

 各地の大学で秋学期がスタートし、オンラインか対面かといった議論がメディアを賑わしていますが、オンラインの集中講義でも満足度を高め、充実した授業ができるという手応えを得ました。今回は、オンライン化にあたり工夫したことを紹介します。

自分の大学時代を振り返ると、集中講義は「数日で単位が取れる(ラッキー)」さと朝から夕方まで学べる「合宿感」があり、このどちらも重要なポイントとして設計しており、多摩キャンパスで行った昨年度はそれが実現できました。しかしながら、2020年度はコロナウイルス感染症の拡大により、オンラインで実施することになりました。オンラインで一日PC画面を見続けるのも辛く、一人では「合宿感」も乏しくなるだろうと予想し、授業の進め方を見直すことにしました。主に取り組んだのは以下の3点です。

  • 100分の授業を講義・質問記入・回答に3分割する
  • グループでのワークショップや振り返りを設定する
  • 事前・事後課題を設定し、学修時間を確保する

100分の授業を3分割する

授業はzoomを活用し、リアルタイムで実施しました。教室での授業ではゲストの話を聞き、受講生にはリアクションペーパーを書いてもらっていました。しかし、オンライン講義は単調になりがちで、リアルタイムで60分を超えての講義、それが何コマも続くと集中力が持たないだろうと判断しました。

そこで、講義は40分程度にまとめてもらい、その後に15分間、質問と感想を書く時間を確保しました。受講生には、GoogleフォームのURLを共有し書き込んでもらい、講師側にはその書き込みをリアルタイムに見てもらいながら、回答候補を検討してもらうようにしました。リアルだと、ついゲスト講師と教員が話をしたりしてしまいますが、誰も話さない時間をしっかり確保しました。受講生には確実にフィードバックが行なえます。

講師側からは、教室では表情や雰囲気から学生の反応を感じられるが、オンライン講義では反応が分かりにくいので心配する声がありましたが、質問と感想を見ながら反応を確認し、回答で補足できるのが良かったとの意見がありました。なお、クラウドを使い慣れてない講師には事前テストをお願いしました。

ワークショップや振り返りを設定

講義だけでなく、ワークショップや振り返り、質問コーナーを設けて、授業のスタイルに変化を作りました。ワークショップでは、シティプロモーションの提唱者である杉山幹夫さんにLocalWikiの取り組みと書き込み方を、NHK#あちこちのすずさんチームに、ローカルメディアと連携した企画の作り方をレクチャーしてもらった上で、zoomのブレイクアウトルームを使い、グループワークをしてもらいました。
講師と受講生の双方向性だけでなく、受講生同士もアイデアを出し合うことで、オンラインではありますが、同じ授業を受けていることを少しでも感じてもらえるようにしました。

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振り返りには、その日の登壇者に集まってもらい、(登壇者には自分以外の講義やワークショップをできる限り見てもらうことをお願いした)お互いの取り組みを議論したり、浮かび上がってきたテーマを深堀りしたり、しました。

受講生からは「振り返り議論があることで、他の講師の方々の視点でもう一度考えることができ、とっても楽しいです」や「振り返り議論後半にはついて行けなくなってしまったので、まだまだ自分の勉強が足りないことを痛感しました」という感想もあり、刺激となったようです。

事前・事後課題の設定

コロナ渦において文部科学省からも弾力的な授業運営が示されてるところですが、学修時間を確保することは重要です。そこで、NHKの#あちこちのすずさんの視聴やローカルメディアについて調査してくるという事前課題を、3日間の集中講義を終えてローカルメディア・ジャーナリズムを考えてもらうなどのレポートを事後課題として用意しました。

記事で提示しているスケジュールは、12コマとなっていますが、ワークショップで学んだことを実際に取り組むなどの自宅学習の課題を出して14コマ分を確保、さらに日ごとの振り返りも行ってもらったので、受講生にとっては相当ハードなものとなったことは間違いありません。

社内中継などちょっとした工夫

また、各地の新聞・テレビなどのローカルメディアの寄付により成立しているという特徴を生かし、スマートフォンで社内を中継してもらうといったお願いもしてみました。「社内を中継したり、日本各地からの中継といったオンラインならではの講義手法も随所にあり、面白かったです」と学生からの反応も上々でした。

首都圏出身者中心となっている学生にローカルメディアを知ってもらうという集中講義の目的からしても、このような取り組みは価値があると感じました。来年度以降に授業がリアルになっても、中継は取り入れてみたいと思います。

リアルにも役立つオンライン化の知見

オンライン化に当たり、100分の授業時間をどう使うかを明確に提示したことでリズムが生まれ、受講生側にも何をやるのか明確になったこと。質疑と回答、さらに振り返りを行うことで立体的に学びが理解できること、という点はリアル授業においても重要なポイントです。シラバス執筆時に、授業の目標やそれぞれの時間の位置づけは検討していましたが、学生の反応を見ながら展開するための幅を残そうとして、曖昧な部分が生まれていたとの反省があります。

zoomなどのウェブ会議システムやGoogleフォーム・スプレッドシートなどツールを使えるようになることはもちろんですが、学びを構造化し、設計することが不可欠であり、この構造化と設計こそオンライン化において勝負を分けると言えるでしょう。

講師の皆さんにも熱心に講義やワークショップを実施して頂いたことに加え、同僚の先生方のサポートや学生アシスタントの活躍も充実した集中講義には不可欠で、相応のコストは当然ながら必要になります。その費用の一部は、沖縄タイムス西日本新聞中国新聞東海テレビ博報堂ケトル (順不同) 5社寄付により支えられています。ありがとうございます。 

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