朝日新聞未来メディアプロジェクト、1年の成果はデータジャーナリズムと双方向性
朝日新聞社とマサチューセッツ工科大(MIT)メディアラボのシンポジウム「メディアが未来を変えるには~伝える技術、伝わる力~」をミッドタウンに見に行ってきました。
昨年6月に開かれた朝日×MITメディアラボのキック的なシンポで、木村伊量社長は「誰もがジャーナリストになった」とソーシャルメディアによる大きな変化を認め、「自分たちのメディアが揺らぐような時代」「新聞社が求める人材も、取材方法も変わらなければいけない」と危機感を表明して大きなインパクトを与えました。
あれから約1年、取り組みはどう進んだのでしょうか。 会場は満席で、昨年に比べるとスーツ姿のおじさんが減り、若い人が増えている気がしました。新聞やテレビ、ウェブのニュース関係者もたくさん会場に訪れており、伝統メディアの代表格である朝日新聞の取り組みへの注目度の高さを感じました。
昨年同様、冒頭に登場した木村社長は「紙かデジタルかというのは遠い昔の光景となった。いかに読者に伝えるか、役立てて頂けるか」と語り、「未来メディアプロジェクト」の成果として4つの事例を紹介しました。トップが、ある種の成果として紹介した事例を見る事で、会社の方向性を知る事も出来ます。シンポのサブタイトル「伝える技術、伝わる力」から分かるように、データジャーナリズムへの取り組みを強調していました。
ラストダンス
「データジャーナリズムを増やしている」として木村社長が最初に紹介したのが、ソチオリンピックの際に公開したウェブ特集「ラストダンス - 朝日新聞デジタル」。フィギュアスケート女子の浅田真央選手の足跡を写真、動画、データ、テキストを交えて紹介したもので、ニューヨークタイムズが取り組んだ「Snow Fall: The Avalanche at Tunnel Creek - Multimedia Feature」のものです。
制作の様子をITmediaが記事にしています。
ハフィントンポスト
次に紹介したのがハフィントンポスト日本版の開設。月間ユニークユーザーが1000万を超えたということです。
メディアラボの開設
3つ目はメディアラボ。グーグルグラスを使ったコンセプトアプリである朝日新聞AIRの開発やベンチャー企業への投資、というイベントも行っています。
- 朝日新聞10年生記者、ビジネスに挑む(AdverTimes)
データジャーナリズムハッカソン
最後に紹介したのがデータジャーナリズムハッカソン。シンポジウムではハッカソンのグランプリ受賞チームによるプレゼンも行われました。
木村社長は「外部のエンジニア、デザイナーの方々と本社記者が社会課題を解決した恊働した初めての例となった」「ジャーナリズムの新しい可能性を感じさせた。伝えるから解決するへと変化はもう始まっている」とコメント、引き続き外部連携していくことを表明していました。
昨年同様に「朝日新聞とMITの取り組み」についてはどうにも分かりませんでしたが、朝日新聞がチャレンジしていることは伝わってくるイベントでした。
もう一つの成果は双方向性
冒頭で触れたように、木村社長からはデータジャーナリズムというキーワードで取り組みが紹介されましたが、もう一つの成果は双方向性でしょう。
データジャーナリズムハッカソンは朝日の記者やデスクと参加者が一緒に取り組むものでしたし、ハフィントンポストは投稿サイトです。シンポもジャーナリストの津田大介さんがツイッターから質問を拾い、登壇者に投げかける(贅沢な人の使い方!)時間が設けられ、その瞬間は客席との間が近くなったように感じました。
双方向性という点では、朝日新聞は記者のツイッター利用も積極的に進めています。
ただ、ツイッターを日常的に利用している大学生に聞いても存在感はそれほどありませんし、本紙や取材活動への参加感といったオープンジャーナリズム的な展開は少ない状況です。新しい取り組みは、本紙や本社から独立した媒体(ハフィントンポスト)や組織(メディアラボ)で行われているから出来るということでもあるのでしょう。朝日新聞としての取り組みを感じるためには、もう一歩踏み込んだ取り組みが必要なのかもしれません。