ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

なぜ大学生のプレゼンはつまらなくなったのか、就活が蝕む「面白さ」

この記事は大学生批判ではなく、自分が担当した講義の反省として書いている。

関西大学総合情報学部で「ネットジャーナリズム実習」という科目を担当している。起業家ジャーナリズム(Entrepreneurial Journalism)をテーマに、新たなニュースサイトやアプリを考えてもらう内容で、最終回はチーム対抗のプレゼン勝負となっている。(前期と後期は同じ授業内容)前期はなかなかユニークなアイデアが出て面白かったのだが、後期が大幅につまらないものになり、審査員も頭を抱えてしまうほどだった。来年度からの実習を充実したものにするため、なぜ、つまらなくなったのか、原因を考えてみたい。

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優勝チーム以外の得点が5割以下

「ネットジャーナリズム実習」の受講者は前後期ともに約30人。遅刻も少なく、授業態度は熱心なほうだと思う。ニュースについて幅広く考えてみた後、自分が作ってみたいニュースサイトやアプリを提案し、グループ単位で、競合分析、市場環境を行い、プレゼンするという流れだ。

後期の審査員は、同学部の岡田先生、松下先生、ゲストとして佐久間さんと自分で4人。採点は10点満点、5点が普通という基準なので、一つのチームが獲得できる最高は40点となる。結果は、優勝チームが23点、 2位以下8位までは20点を超えてなかった。つまり、優勝チームの以外は5割以下という残念なものとなってしまった。

審査員のうち松下先生と佐久間さんは前期も担当しており「前期に比べてつまらなくなった」と指摘されていた。講評では「高校生の半日ワークショップで出来る」というものから、「競合分析が出来てない」「ありがちなサービス」など厳しいコメントが相次いだ。前期と同じようになっていたはずなのに…

前期と何が違うのか

授業は一度として同じものはない。細かな違いの積み重ねが結果を大きく変えてしまうことがある。そこで前期との違いを振り返ってみた。

1)意外とスムーズに来た
前期は初ローンチの実習ということで試行錯誤だったが、後期はアイデア出しや競合分析もスムーズに来ていた。TAさんと「後期はスムーズだねえ」みたいな話をしたのだが、サービスをカタチにするところになって急激に失速した。壁に当たり難しいと思うところがなく、それが最後に来てしまったのかも知れない。授業の慣れみたいなのもあるのかも。
2)チームでの議論が不十分
個人のアイデアでは「面白そうだな」と思っていた事がチームで議論している間に急激につまらなくなった。前期はチーム内にこだわりを持って議論を推進する学生がいて(ちょっと空気が読めないタイプでもある)ワーワーやっていたが、後期はぐっと減った。この変化には気付いていたので、チームで議論をもっとするように指摘したが、プレゼンのまとめかたなど表層的な議論に行きがちであった。

この1)と2)は表裏である。ワーワーやっているとお互いの興味やこだわりがチームに共有されていくが、チームは当初まとまりに欠けるし、まとまらないまま終わってしまうチームもあった。一方で、スムーズということは表面的にまとまっているが、一皮めくればチームの誰もが「あんまり面白くないな」と思いながらやっていることもあり得る。
3)就活が近づいた
実はこの3)が一番大きな要因な気がしている。

キモは自分の面白さを発見すること

受講者は3年生が中心で、12月末になるとスーツ姿の学生も現れた。

この実習で取り組んでいる、自分の関心を元に→情報を収集(競合分析や市場分析)→サービスの強みを立て→プレゼンテーションする、というのは、就活の企業分析やESにも使える共通スキルで、TAさんも強調してくれていたのだが、ピンときてなさそうだった。逆に前期の受講生からは「あのとき取り組んだことが就活で役立ってます」と声をかけられる事がある。

この教員やTAが就活に役立つと強調すればするほど、「就活に役立たない」と学生が考えてしまう逆転現象のようなことはゼミでも起きている。その理由は推測でしかないが、いかにプレゼンをうまくやるか、それもある部分で突破するではなく、80点主義でまとめるか、という技術を学生が求めているからではないかと思う。

そうなると、授業前半の自分の関心を元に→情報を収集(競合分析や市場分析)の部分はそれほど重要なものとは思えなくなる。だが、大事なのは実は前半部分にある。

正直、大学生が考えるアイデアなどはたいした事がない。そこで、素朴な面白さや熱意が大事になる。ただ、素朴な面白さや熱意だけでは単なる思いつきに過ぎない。だからこそ、情報を収集し、他を分析することが大事なのだが…

情報を集めれば集めるほど自分の思いついたアイデアなんて、既に多くの人が発表していて、悲しくなってくるだろう。だが、そこで諦めてしまったら終わりだ。どんなアイデアにも穴がある。総合的には負けていても、ある部分なら勝てるかもしれない。自分が面白いと思った部分をいかに生かして行くかを考えることが大事になる。心折れそうになる困難な戦いだ。

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どれも80点を狙って、50点以下になる

「競合分析が出来てない」「ありがちなサービス」になる。個人では面白かったアイデアが、グループになるとつまらなくなる。その大きな要因は、自分の面白さを追求していないことにある。突破主義を選択するためには、あらゆる情報をしらべて「その一点で突破できる確立が高い」ことを確信しなければならない。思いつきだけで突破するのは単なる無謀だ。

どれも80点の良い感じでまとめる。それが出来れば良いだろうが、80点を取る為には120点を取りに行く努力が必要だろう。「まあこれくらい出来てればいいんじゃない」というのは50点以下になる。80点も、一点突破も、どちらが良いと言ってるのではない、相手や競合によって変わってくるだろう。身も蓋もないことだが、一点突破も80点主義も、努力を積み重ねなければ勝率を高める事はできない。

だが、楽して80点スパイラルは、就活が抱えている大きな問題と同じ気がしている。いかに小手先で乗り切るか、楽できるか考えて本質的な問いに向き合わない→だから就活がうまく行かない→もう自分が何をやりたいのかさっぱり分からない…となる構造だ。もう何がやりたいのかさっぱり分からない段階に来て、「君は何が好きなんだ?」と聞くのは最悪だ。だってもう何が何だか分からないのだから…

就活生がいきなり自己分析(最近は他者分析なんかもあるらしい)するのは、作りたいサービスもないのに市場・競合分析するようなものだ。やりたい事があるから、分析するのである。だからこそ、自分の軸を先につくっておく必要がある。

「面白い」を大事にする授業に

なんだかまとまらない文章なのだが、改善点をまとめておきたい。

まず、面白いと思う事を徹底的に話し合わせるようにする。「それ、本当にオモロイの?」と何度も聞く嫌な教員になろうと思う。特に個人からチームになったときに、しっかり議論を交わす事が出来るようにしたい。それと、スムーズに行き過ぎないように早い段階で壁に当たるようにしたい。面白い!と思える事に学生が気付く前に、テクニックの有用性を言い過ぎないようにもしたい。テクニックはあくまで手段で、学生自身が何かをやりたいと思った時に「あの授業が役に立った」と思ってもらえるようなものにしたい。