「新聞」の新たなビジネスプランを作る
東京大学のi.school人間中心イノベーション・ワークショップ「新聞の未来をつくる」は、ついに明日最終プレゼンになりました。
参加者は、これまで行ってきた、エクストリームユーザーを中心としたフィールドワークと、それを基にしたシンセシスによって、生活者にとっての新聞の価値を捉えなおし、新たなビジネスを提示、ゲスト講評者が投資家の立場で意見する予定になっています。泣いても、笑ってもあと一日。どんな新しいアイデアが出てくるか楽しみです。
9回目は、8回目の最後にあった、ゲスト講師本橋さんによるビジネスプラン立案についてのアドバイスを参考に、アイデアを議論しました。本橋さんの話は、投資家、お金を出す人の視点で、アイデアを考えてみるというのが肝。
- 誰が、どんな状況でそのサービスを使うのか。
- そのサービスにどのぐらいお金を使うのか。
- ライバルやビジネスパートナーの中でどれくらい取り分があるのか。
と、アイデアのビジネス価値評価の3つのステップに分けて説明。
1)「便利です、と言うが、使う人は誰で、なぜ使うのか。人はよほどの必要性がないと使わない。その際に、マーケティングデータで30歳代の50%が興味がある、というのは新ビジネスの場合は特に役に立たない。属性ではなく、状況が大事。『イノベーションへの解』(クレイトン・クリステンセン)のミルクシェークの事例(93−98)*1にあるように、顧客は用事を解決するものを雇う。属性ではなく、状況を大事に、利用者のストーリーを考えてみる」
2)「どれくらいお金を払うのか。便利でもお金を払うとは限らない。人は簡単にお金を払わない。時間、面倒、不安など、困っていることを解決しなければならない。顧客の持ち金は決まっている」
3)「これは儲かるビジネスですというが、良いビジネスは必ずライバルがいる。儲かれば儲かるほど競争になる。同種のサービスが複数あるとすれば、顧客は何を基準に選ぶのか、ライバルとの違いは何か。競合だけではなく、関係者は社内にもいる。例えば、新聞が電子化するとすれば、一番文句を言うのは誰かも考えておく」
とそれぞれのステップで注意すべき点の話があった後、サービスイメージと顧客メリット、ターゲット顧客、サービスの実現性とユニークな点など、ビジネスプランの構成案について説明がありました。
「なぜ、他ではなく自分たちのチームがやるのか。その理由を自信を持ってプレゼンテーションしてほしい。有名なベンチャーキャピタリストも必ず人を見ます」とアドバイス。
私からは「スマートで、きれいなビジネスプランでも、自分たちが面白いと思っていないサービス、使わないサービスはダメ。自分が必要としているか、お金を払うか徹底的に考えて、絶対欲しいと思うアイデアを出してほしい。多少プレゼンが下手でも、想いがあふれていればベンチャーキャピタリストの心を動かすことができる」と補足しました。参加者は、どうしてもステップ(示されたものを段取りよく、やら「ねば」ならない)にとらわれてしまいがちです。
追記:ドワンゴの川上会長(@kawango)が「自分のつくったサービスをつくったあともつかいつづけない人間に企画を名乗る資格はないけど、そんなばっかりな世の中。」とツイートしていました。「@fujisiro そうありたいと願うけれど、なかなか使い続けることができるサービスが作れないのも現実」と絡んだところ、「まあ、使い続けるのは難しいですね。いいすぎた。とりあえず、完成したら、まず、使えや。ユーザの気持ちになって。そしてユーザの反応はチェックしろと。最初ぐらいは。」と返してくれました。ユーザーの気持ちを理解するという言葉は溢れていますが、簡単なことではないのです。
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*1:クイックサービス型レストランチェーンがミルクシェークの売り上げと利益の改善を図ろうとした事例。最初は、市場を分析、顧客を細分化して、求めている情報を踏まえて改良を行ったがうまく行かなかった。次の調査員は、どんな人がミルクシェークを買うか観察し、顧客から話を聞いてどんな用事を片付けるために買うか理解しようとした。競合チェーンと比較しているが、顧客の目から見た競争相手は違うかもしれない