ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

従来メディアを揺さぶる3つのインパクト

日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalist)の設立を記念した3日連続講座。2日目は『「ユーザーに刺さる杭を打つ」インターネット時代のメディア経営』と題して、アイティメデイア株式会社取締役の藤村厚夫さんをゲストに迎えました。講演後には「新たなネットメディアを立ち上げる」ミニワークショップを行い、参加者が、顧客、クライアント、ビジネスモデル、コンテンツ、名前を考えました。
なお、この講座はアイティメディアの業績や将来性について議論する場ではなく、メディアの将来について考えるために藤村さんに協力を頂いたものです。

冒頭、私からニュースサイトの知名度を探ろうと、ネットではIT戦士として有名なITmediaの岡田記者の知名度を聞いてみました。トイレットペーパーの行方が気になっている人は2割ぐらい(参考記事・寿退社か!?「普通の女の子に戻りたい」IT戦士・岡田有花、退社)。これを少ないと感じるのか、多いと感じるのか…
藤村さんのパワーポイントのタイトルは「21世紀のメディアビジネスを考える -事業の継続性を考えるいくつかの視点-」。藤村さんは、大学卒業後に雑誌編集、ソフトウェアの販売とマーケティング活動、フリーランスでの執筆、アスキーでソフトウェアのマーケティング、さらに雑誌編集、ロータスに移ってマーケティング、2000年に@ITを起業。2005年にアイティメディアの会長に就任しました。
アイティメディアは、資本金約16億円、従業員は約200人。総合ポータルの「ITMedia」、ITニュース「ITmedia News」、経営者・管理職向けの「ITmedia エンタープライズ」、IT技術者向けの「@IT」など、20以上のサイトやサービスがあるのが特徴です。
編集者でありマーケターであり、起業家。「発信者とマーケティングを行ったり来たりですが、純粋にいいコンテンツ出したいという発信者としての気持ちはあります。経歴から言えば次は新規事業のフェーズ」との話に、個人的に新聞社からネット企業に転職、ニュースから新規サービスやマーケティングも経験しただけに、シンパシーがありました。
「メディアとコンテンツを分けて考えると色々腑に落ちることがある」と藤村さん。1つめのインパクトはインターネットの登場によって、メディアとコンテンツが分離出来るようになったこと。「形式からの分離はビジネスの多様化というインパクトを起しつつある」と。
その後の、マスメディア断末魔な状況の話は「皆さんわかっているので」と一気にページ送り。
メディアとコンテンツの分離に続く2番目のインパクトはソーシャルメディア。
「そもそも面白いものは身内から来ている。君や僕から生まれている」「そこで生み出される情報の生産量がとてつもなく増えて、従来から続いてきたメディア産業は基盤そのものが揺らいでいる」
藤村さんは従来型のメディアとソーシャルの2つを比べ。従来型メディアは種類は少・読者多、上位下達、品質一定。ソーシャル型は、種類多・読者少、等身大、品質不均等。と分類。「客観的でオブラートにつつんだものより、これ嫌いなんだよねとはっきり言うほうが面白い」。
3つ目のインパクトはデバイス。
スマートフォン、タブレット端末、デジタルサイネージ、さまざまなメディアが生活に浸透。「トイレに最適化したメディアもでる。逃げられない。常時ON。スマートフォンやサイネージなど、水が流れ込むように色々なところで情報に触れられるようになってきた」。
21世紀のメディアは、1.最大のコストは労賃(アイティメデイアでは出来るだけここに投資したいともおっしゃっていました)、2.出版社メディア企業とは出版や新聞、テレビのことではない、3.コンテンツは限りなく存在し生成されていく、4.テクノロジーは進化していく、5.広告単価は下がる一方。この1-5をメディア経営者は踏まえなければいけない、とのこと。
経営的な側面から考えると、選択肢は人数を減らすか1人あたりの生産性を高めるかになります。これはメディアに限らずさまざまな業界で起きていることです。海外の成長市場に打って出ない限り(打って出てもの場合もある)これまでのように生産性の低い社員を抱えることは出来なくなっています。だから、経営者は社員を切り捨て、という話ではありません。
藤村さんのアイデアは、小さいメディアをたくさん作って1人か1.5人がメディアを持って編集長にすることでモチベーションを上げる、早いうちに成功体験も、失敗体験もしてもらうことで個々のパフォーマンスを上げる一番良い方法だとの考えでした。一人の働き手としても考えることが多いお話でした。
情報の文明学 (中公文庫)
企業の競争優位について。自動車メーカーは工場の周囲に鉄道や発電施設を持っていて、それが競争優位だと考えていた。メディア企業は輪転機などの設備が競争優位と思っていないか?とも投げかけました。
そして「メディア企業は○○であるべき」といった定義、常識に縛られず、見つめなおしていく事例として梅棹忠夫の「情報の文明学」から、東海道新幹線を情報産業と考えてみるという考えを紹介頂きました。
『情報はお布施』『しばしば提供する側が金を出すのである』『人びとは情報の受信者であるとともに、発信者でもあるのだ。人びとは、みずから情報の発信者になりたがっているのである』『情報氾濫の時代になればなるほど、情報の情報が要求される』。そんな古くて新しい言葉がちりばめられている「情報の文明学」は、実は私がツイッターを経由して藤村さんに紹介した本。個人的にはとても嬉しい締めくくりでした。
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