ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

ジャーナリズムに関わる人に「ニュースキャスター エド・マローが報道した現代史」

アメリカのニュースネットワークCBSでキャスターを務めた「テレビ・ジャーナリズムの父」と呼ばれるエド・マローの評伝「ニュースキャスター エド・マローが報道した現代史」はジャーナリズムに関わる人に読んでもらいたい本です。

新たな媒体が生まれれば、新たな表現方法が生まれます。ラジオからテレビに移り変わっていく時代を生きたエド・マローは、第二次世界大戦をロンドンのスタジオから放送するだけでなく、ヨーロッパ各地を中継でつないだり、爆撃機に同乗して生中継したり、ジャーナリストとしての能力だけでなく、新たな媒体の可能性に取り組んだことが分ります。
テレビでは、ニュース番組の「See It Now(シーイットナウ)」やインタビュー番組「Person to Person」を担当して人気となり、「赤狩り」を主導したマッカーシー上院議員との対決で「勇気ある報道で赤狩りの流れを変えた」として賞賛されますが、マローも傷を追い、テレビの大衆化に飲み込まれて、CBSで働く場所を失います。ケネディ大統領に請われたUSIA (合衆国情報庁) 長官への就任は「八方塞の中の暗い出発」だったと位置付けられています。
マローの活躍も魅力的ですが、メディアの変化にまつわるエピソードも参考になります。ラジオニュースが成長するにつれて新聞社がニュース提供を取りやめる圧力をかけたこと、スポンサーとの関係、大衆化の中での視聴率競争、人気クイズ番組の「やらせ」スキャンダル(このスキャンダルについては、ロバート・レッドフォードが監督した映画「クイズ・ショウ」が参考になります)…「時代は繰り返す」という印象もあります。

何よりもこの本が参考になったのは、エピローグにある「クローバー・カード」の話。

ニュース・アナリストの義務であり、権利でもあるのは、知りえた情報と知識をもとに、ニュースの意味合いを明らかにすることだ。出来事の両面を示せ。記録との矛盾点を突け。民主主義では、人々は知るだけでなく、理解することが大切だ。聴取者の理解、評価、判断を手助けするのがニュース・アナリストの仕事だ。聴取者に代わって判断してはならない。

クローバーカードは、ニューヨーク・タイムズの記者出身で報道担当のCBS副社長になったエドワード・クローバーが生まれたばかりのラジオニュースの規範として書いたもの、メディアが変わってインターネットになっても通用する内容ではないでしょうか。

この本でも多くのページが割かれているエド・マローマッカーシー上院議員の対決は、ジョージ・クルーニーが監督した映画「グッドナイト&グッドラック」で描かれています。

グッドナイト&グッドラック 通常版 [DVD]

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