北海道新聞「常温核融合記事」の問題点
北海道新聞が『簡易炉で「常温核融合」か 北大院・水野氏が確認国際学会で発表へ』との記事を書いています。はてなブックマークでも「トンデモか」「科学か」と議論になっていますが、いずれにせよこの記事は問題があるものです。
識者コメントが2つありますが、どちらも研究をプラスに評価するものになっているからです。
岩手大工学部の山田弘教授(電気エネルギー工学)は「通常の化学反応では起こりえない過剰熱が発生している可能性が極めて高い。注目に値する研究だ」。
ある大手メーカーの有力研究員も「過去に報告されている常温核融合とは全く異なる実験結果で、興味深い」と話している。
科学者はずっと研究テーマを追いかけていますが、記者はよほど専門的な科学記者でもない限り、ほとんど一般的な知識レベルしか持ちえていません(もちろん記者としては出来る限り知りえる範囲で調査する努力はするべき)。画期的な研究かどうかは判断が難しいので、クロスチェックをすることが求められます。
つまり、ある研究に対して評価と反論を双方掲載することでバランスを取るというものです(この手法は、水俣病の時に水銀説に対して「反論(非水銀説)」を載せ続けて、対策を遅らせることになってしまったという苦い過去もあります)。画期的な発見や社会に対する影響の大きな研究成果は学会などでも評価が割れるケースも多いものです。
学会で発表されることが科学的に正しいことを担保しているわけでもありませんし、常温核融合については、ざっくりと事情を知る際に有効なウィキペディアを見ても、さまざまな議論があることが理解できます。もう少し慎重な扱いが行われるべき事象でしょう。
にもかかわらず、この記事はプラスの評価だけ掲載し、それも二番目は「匿名」コメントでまったく補強になっていません。無理にインパクトのある記事にしようとしたのではないかと疑われます。
ちょうど金曜日は北大CoSTEPの講義でした。研究についてのプレスリリースを見て記事を書く際にどのように重要なポイントを見つけるかといった内容だったのですが、「科学コミュニケーターはプレスリリースを鵜呑みにしてはいけない。クロスチェックするべき」という話をしたのですが、この記事は悪い見本になりそうです。
◆追記
トラックバックを頂きましたが、5号館のつぶやきさんが『道新の勇み足か:北大での「常温核融合」確認報道』とのエントリーを書かれていて、コメント欄の議論も参考になります。関心のある方はご覧ください。