広告主の立場になることで見えてくるメディアの価値
「企業は顧客がいないと成立しないからマーケティングしている。それがメディア企業の人になかなか伝わらない」そんな言葉から始まった、日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalist)の3月講座。「日本の広告費から読み解く 企業から見たメディア」と題して、電通総研・コミュニケーションラボ部長の北原利行さんをゲストに向かえました。北原さんの話は、広告費の傾向から、メディアを取り巻く状況、消費者の行動変化まで幅広く、個人的には「なんとなく」感じていたり、見に入ったりしている情報が整理され、情報が爆発的に増える中で選ばれるメディアになれるのかが問われていることを改めて実感しました。
ワークショップでは発表されたばかりのiPad2を売るためにはどのような「広告」が必要かを考えました。なお北原さんのお話は個人としてであり、会社を代表したものではありません。
講義を前に、参加者がメディアやPR会社の人が中心ということもあって、広告の「出し手」側として話を聞くというマインドセットのために、トヨタとスバルが開発しているFRスポーツ車「FT-86」の写真を見せて、若者に販売する広告を出すことを考えました。が、なんと車を知っていたのが2人という少なさ。車への関心が薄れていることを示すような展開に…
北原さんの話は、電通から発表されたばかりの「2010年日本の広告費(PDF)」の説明からスタート。以下に内容の一部をメモ的に紹介します。
日本の広告費の推定は3つあり、日経広告研究所が広告主、企業の財務諸表から広告宣伝関連支出を集計。経産省が広告業の年間売上高。電通は媒体社は、媒体社の広告媒体料、制作会社の広告制作費。それぞれ目的が違う。
2010年の広告費は5兆円8427億円、2009年に続き3年連続で減少。日本の広告費は昭和22年からとっているが、一番落ち込んだ数字。広告費はGDPに連動するが、近年はGDPの落ち込みよりも広告費が落ち込む傾向がある。マスコミ4媒体はテレビ以外は縮小。衛星メディアとインターネット広告費が伸びている。ネットはどこまで広告制作費をどこまで考えるのかが難しい。一番伸びているのがモバイルの検索連動型広告だが規模が小さい。プロモーションメディアではPOPが前年実績を上回る。
企業にとっては売れなければ意味がないが、広告を流したら必ず売れるかというとそうでもない。だから店頭に近い広告は有効とされている。インターネットは、広告と物を買う場所が一緒で、即購買につながるので企業にとって魅力的。
次に業種別広告費。情報・通信、ファッション・アクセサリー、化粧・トイレタリー、家庭用品など8業種が増加。情報・通信ではネットのSNS各社がテレビCMで大幅に増加。薬品や趣味・スポーツ用品はゲームが少なかった。一番下がっているのは選挙がなかったので官公庁。構成比で多いのは化粧・トイレタリーと食品が10.4。自動車は4.7しかない。新聞で最も多い広告費は交通・レジャーで16・5%だが、前年比で10%以上減っている。雑誌だとファッション・アクセサリーが22.6%。広告主は媒体を使い分けている。
ただ、同一業界でもクライアントの戦略が変化。広告宣伝費か販売促進費か、国内市場か海外市場か、企業によって重点を置いているところが違う。バイクはほとんど国内で宣伝しなくなっている。また、かつては脚光を浴びていた宣伝部の機能も変化している。マーケティングROIの観点から、より効果が把握しやすいメディア・プランニングが望まれている。事業部の力も強くなり広告の出し方が変わり、販促管理費へのシフトもある。最終的には、消費者がどういうメディアに接触して、どういう行動をするのか。
アメリカ人が1日に広告に接触する数はおよそ3000。おそらく日本でも同じような情報過多で、メディアは選ばれなければいけない。番組の編成権は視聴者にゆだねられるようになっただけでなく、消費者が自ら行動し、発信している。昔はメディアは一方的に与えるだけだった。映像、音楽、ネット、携帯電話といったメディアが融合されたデバイスが登場。関係ないと思われるメッセージは浸透しない。若い人にとっては、自分の関係しているもの以外はニュースにならない。ニュースの定義自体が変わっている(これは前回のヤフー・トピックスを作ろうでも出ていたフレーズです)。
なので、時間、場所、場面、気分で考える。たくさんのメディアをどう使って、ターゲットやインサイトに基づき、広さと深さを考えたコミュニケーションの導線を複数のコンタクトポイントを効果的に掛け合わせて作ること。若者向けだとすれば、若者が行動するところでどうするか。自宅内でのメディア接触時間はテレビがあまり変わっていない。ネットPCは2008年は33分だったが、2010年は30分切っている。モバイルは12から15%に増えている。76世代はパソコン、86世代は携帯、この二つの世代はPCネットの利用時間は同じで、携帯3倍の時間を費やし、何千字のレポートを携帯で書いて送ってくる学生もいる。
このような話をして参加者は「アメリカのりんご会社から、新製品をこれまで以上に売れ」とのオーダーを受けたという設定で、メディアと広告プランを考えるというワークショップを行いました。メディア側から見ると北原さんの話はショックな部分もありますが、クライアントから見ると、いかに売る為にメディアを選択するかに意識が変わります。まず個人で考え、そのあとグループで話し合ってもらいました。出たアイデアのいくつかを紹介します。
- 一人飲みの居酒屋に販促用に提供して体験してもらう。
- 実家とのテレビ会議をテレビCM、2台買わせるキャンペーン
- 大学の新入生を対象にして親と2台を買ってもらう
- 女性をターゲットにipad2のバッグを販売してセット売り。アプリもインストールしておく。
- 中高年に向けて。iPadでいく旅行をテレビで放送。巣鴨でタッチアンドトライ。
- 思い切って無料で配布してしまう
「広告」という枠組みにも関わらず、テレビCMや新聞といったいわゆるマスメディアの枠を使う話は少なく、店頭やプロモーションなど、消費者が良さを体感できる部分にフォーカスが当たったのも興味深い結果でした。iPadは参加者にとって身近なデバイスで、魅力も知っている割に買っていないというのがお題として良かったのでしょう(iPadは5人、ちなみにiPhoneは9割の所持)。ワークの結果を受けて「広告って何でしょう?」と投げかけました。ソーシャルメディアの登場で広告も変化しています。
メディア側にいると、ついついメディアの都合を優先してしまいますが、興味や関心、生活シーンを大事にする事で、自分が関わっている媒体の魅力や立ち位置を見つめ直す事ができます。JCEJのワークショップは、多様な参加者が違った視点から意見を出し合えるのも魅力です。無茶ぶりのざっくりとしたお題でしたが、参加者の皆さんがそれぞれの立場からアイデアを出し合って、盛り上がっていたのが印象的でした。
次回のJCEJ講座は3月26日13時から「新聞博物館に行こう」です。横浜で現地集合となっています。20名限定なので事前にフェイスブックで申し込みを行ってください。4月は1日に広告クリエイティブの講座、16日に動画に関するワークショップを予定しています。
[追記]参加者の方から運営に差し入れを頂きました。お心遣いありがとうございます。3連続講座の際にもご厚志を頂きました。JCEJではレポート執筆や当日運営のお手伝い、会場や備品の提供などで活動をサポートして頂ける方を募集しています。ご協力頂ける際は運営委員にお声かけ下さい。
講座の模様を学生運営ブログとTogetterで紹介していますのでご覧下さい。
- 商品への入口をつくる広告 消費者はどこにいる?(学生運営ブログ)
- 届く広告、選ばれるメディアとは? (Togetter)
【これまでのJCEJ講座とワークショップ】
- ジャーナリストなら最低限理解してほしい検索エンジンのこと(ゲスト:ARG編集長の岡本真さん)
- 従来メディアを揺さぶる3つのインパクト(ゲスト:アイティメデイア取締役の藤村厚夫さん)
- 13・5文字でニュースを伝える 「ヤフー・トピックスをつくろう」ワークショップ報告