ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

「ライブドアに物申す!」への寄稿とライブドアニュースへのインタビュー

ライブドアに物申す」への原稿が特設ブログに掲載されました→こちら

原稿を書く材料のひとつとしてライブドアネットメディア事業本部企画グループマネージャー田端信太郎さんにインタビューしましたが、結局原稿には少ししか反映されなかったので、QandAで掲載したいと思います。

いろいろ配慮いただいた「ライブドアに物申す!」企画担当の大谷さん。取材に応じていただいた田端さん。また、質問を下さった読者の皆さん、ありがとうございました。
◆ポータルサイトライブドアが「死ぬ」という危機感
Q、ニュースセンターの概要と田端さんの役割について教えていただけますか。
A、ライブドアには独自の取材を行っているニュースセンターとPJニュースがあります。ニュースセンターは佐藤(光彦氏)、PJは小田(光康氏)が担当し、私が全体を見ています。雑誌に例えれば、佐藤が編集人で私は発行人みたいなものです。
Q、「強制捜査を受け、今後のポータルサイトlivedoorの運営に関して」という方針が出ました。あの方針が示された経緯は。
A,事件があって株主からの問い合わせもありましたし、「地検にサーバーを抑えられてブログのデータも持っていかれた」というような反応も広がっていました。ユーザーが動揺していたので、明確な方針を示す必要がありました。私がまとめて、ポータルとしてのサービスを行っている事業部と相談して決めました。
ライブドアという企業の宣伝ページではなく、メディアであるというのをはっきりと打ち出さないと、ポータルサイトとしてのライブドアは「死ぬ」のではないかと思って、再生の出発点にするための覚悟を示しました。
Q、事件前後にニュースの方針に変化はありましたか。また「ライブドアに物申す」の企画意図は。
A、私どもとしては、ニッポン放送問題でも、選挙でも、良い情報も都合の悪い情報も載せていくという方針でしたので変更はありません。ただ、この時期にニュースが批判的な記事を載せていると「ニュース部門が謀反を起こしている」と見る方もいらっしゃいますので、編集権の独立についてはっきり打ち出しました。
企画は、新聞の有識者に聞くといったイメージですが、新聞などでは不祥事は小さく扱われていますよね。それは、送り手のボトルネックがあるからだと思います。しかし、ネットにはない。スイッチングコストがゼロなので、ほっかむりしていていても他で書かれますし、ブロガーもどんどん書いてくる。マイナスの情報も公表していかないとメディアとしての価値が守れないんです。
一方的にこちらで選んだ100人の方にお願いしたわけですが、テレビや新聞で批判的な論調を展開されている方も選んでいます。好意的ではない反応もありますが、それは最初から分かっていたことで、3割ぐらいの方に書いていただければいいかなと…。
Q、苦情を言ってくる方もいらっしゃいますか。
A、NGですとはっきりおっしゃってくれる方もいますが、反応がない方もいらっしゃいます。
Q、ライブドアからお金はもらえないという方もいるようですが。
A、別にお金を受け取らずに書いていただいてもかまいません。どんな厳しい批判であっても掲載します。
Q、なるほど。メールも受け付けていますが、どのような内容が多いですか。
A、メールは何百通も来ていますが、6〜7割が好意的な意見です。堀江が書いていたブログのコメント欄を閉鎖したことに対して「ライブドアも手のひら返しか」「堀江さんを応援したいが、その場所を奪うのか」といったものや、「株価が暴落して人生が狂ってしまった」「汚いカネで給料をもらっていて、何を言うのだ」というものもあります。本当にいろいろです。
◆目指すはセカンドオピニオン
Q、その堀江前社長なのですが、「ニュースはアクセスランキングで重要性を決める」「メディアを殺す」などと発言していましたが、実際のところニュースの方針はどうだったのでしょうか。
A、会社ですので収支は無視できませんから、アクセスランキングを見ながらニュースを出しています。ただ、そればかりではありません。アクセス数のみを重視すると芸能記事ばかりで、政治や国際の記事は少なくなってしまう。じゃあ全部エロ、グロでいいのかというとそういうわけにもいかない。ランキングにしても厳密に言えばニュートラルではありません。トップに出すからアクセスが多いということもあるわけで、最終的には人が選んでバランスをとるしかない。悩みはあります。
殺すというのではなく、既存メディアのセカンドオピニオン、オルタナティブとして位置づけたいと考えています。ネットユーザーにとって既存メディアは「なんとなく胡散臭い」ので、既存メディアとの距離感や違いは打ち出したい。ただし、右や左、固い、やわらかいは気にせず、幅広く取り揃えて判断はユーザーに任せたいです。
Q、堀江前社長はニュースの編集方針に口出しをすることはあったのですか。
A、それはありません。ただ、「こんなサービスにしたらどうか」とか「ブログとニュースを結び付けよう」とかアイデアは出していました。
Q、ニュースにかなり興味を持っていたということですか。
A、そうですね。ライブドアには、いろいろなコンテンツ、サービスがありますが、「次はニュースだ」と思っていたかもしれません。
Q、マスメディアで伝えられる堀江像と現実に接している堀江前社長とのギャップはありましたか。
A、昨年の毎日新聞のインタビュー(ネット時代のジャーナリズムとは何か)、江川紹子さんのインタビュー(新聞テレビを殺します、ライブドアのメディア戦略)では、堀江はゴールを言っているのだと思いました。ただ、そこには時間軸が抜けていました。遠い将来のことと、今すぐ起きることが平面的に捉えられていて誤解を招いたのかもしれません。
Q、ライブドアはポータルサイトの中で唯一自前の記者を持っているわけですが、堀江前社長がいなければ今のような姿にはならなかったと思いますか。
A、そう思います。普通にポータルサイトのビジネスを考えるとコンテンツ制作のレイヤーに踏み込むのは難しいので、あまりやらない。ただ、ライブドアは後追いなのでどこかで勝負をかけないといけないので独自ニュースを作ったのでしょう。

◆権力行使の瞬間を取材できず反省
Q、事件後に社内の様子を報道しましたが、その理由は。
A、実は、捜査当日に取材をしなかったことがニュースチームで議論になりました。目の前で事件が起きているのに、ニュースに関わるものとして積極的にニュースを出すことをしなかった。地検の方からはパソコンや携帯を触らないでくださいと言われたし、取材が捜査妨害になるのではないかという不安もありました。ただ、権力が行使されている瞬間を取材しないというのは、ジャーナリズムのミッションを放棄したとも言え、その反省から社内の様子を伝えることにしました。
Q、今回の事件について東京地検に独自取材するということはないのでしょうか。
A、残念ながら力不足です。人数は少なく、記者には人脈もありません。何らかの方法で、起訴、裁判もフォローして行きたいとは思っています。
Q、いくつかの会社からの配信が事件後にストップしていますが、仮に配信がすべて止まった場合はどうするつもりですか。
A、止められないように努力をしていきますが、リスクも考えなければいけません。独自記者を持っているのはリスクヘッジの意味もあります。
Q、記者クラブへの加盟などは引き続き求めていくのですか。
A、気象庁記者クラブへは申請しましたが、音沙汰がありません。入れるとも、入れないとも言ってこないのです。話題づくりのために申請するのではなく、必要があれば申請するという方向です。
Q、記者が自腹で機材を買っているのが問題だという声もありますが。
A、これまでのライブドアには、社員が業務に使うパソコンも自費で購入、あるいは自前PCの持込を奨励してきたというようなカルチャーがありました。社員をプロとして扱い、いい記事や写真が出れば給料に反映されるという考え方ですが、今後変わっていくところはあると思います。難しい問題です。

◆LDニュースとPJの関係
Q、PJについてお伺いします。PJの位置づけはどういうものでしょうか。
A、基本的にライブドアとしてはネガティブチェックしかやっていません。PJは場所であり、ソースのひとつだと考えています。PJ記者の方は本職ではないので、逆に率直に言えることもあるという部分に期待していますが、クオリティにはバラつきもあります。たくさん集まらないと質も上がらないので活発な投稿をしてもらいたいです。
PJは、既存メディア批判や堀江擁護になりがちです。このようなタイミングで堀江擁護を出すのはどうかという社内での議論もありますが、PJは独立しています。「PJニュース・オピニオンはライブドアのニュース部門であるライブドアニュースとは無関係」という説明をつけていますし、PJから堀江擁護の記事が出てきても封じることはありません。
Q、独立しているとは言え、ライブドアの記者がPJをやっていて、非常にわかりにくいですよね。
A、過去には協力して記事を書いたこともありましたが、現在ではニュースの記者がPJとして書くことは原則的にありません。
Q、堀江前社長インタビューの記事では常井さんという記者が協力していることになっていましたが。
A、それは間違いでした。
Q、そのような状況ではPJの独立は理解されないと思います。ニュースでは堀江批判を掲載していますが、PJを使って堀江擁護をしてフォローしているように見えてしまいます。読者から批判されても仕方ないのではないでしょうか。
A、疑われる部分はあるのかもしれませんが、あくまでPJの記事はソースのひとつとして捕らえています。外から見て、ニュースとPJの距離が微妙であることは否定しませんが、試行錯誤の状況です。

◆ニュースメーカーからニュースメディアへ
Q、最後にこれからのライブドアニュースはどうなりますか。
A、ニュースがなくなるということはないと思います。ただ、ライブドアと堀江色は重なっていたかもしれない。だから、どんな色を打ち出していくのかが問題です。これまでは、ライブドア自身がニュースメーカーでした。話題になって、アクセスが増えて当たり前でしたが、これからは違います。ユニークさやチャレンジ精神を残しつつ、堀江色をどう分離できるかが課題です。ネット側のユーザーにたって、声を代弁していくようなニュースメディアになればいいと思っています。