藤代ゼミ課題図書「ジャーナリズムを理解する7冊」
藤代ゼミの課題図書「ジャーナリズムを理解する7冊」を紹介します。最近、フリーランスの方などから「ジャーナリズムに関するオススメの本はありませんか」と聞かれることも多くなったので、ゼミで読んでいた本を少し入れ替えて、ジャーナリズムとはなにかという根本問題からソーシャルメディアの登場によるメディアの変化を踏まえたものを幅広く揃えてみました。これまでの課題図書に「変化するメディアを知る7冊」「考える力をつける4冊」があります。
- 『クライマーズ・ハイ』横山 秀夫
日航機墜落という大事故を前にした地方紙の内側を描いた横山秀夫のベストセラー。現場に走る記者たち、遺族からの問いかけ、スクープを求める業(ごう)、部下が自分たち以上の現場を踏んでしまうことに嫉妬する上司、凄惨な現場を見て壊れる記者、社内の権力闘争…伝えるべきニュースとは何か、メディアの役割とは何か、揺れる記者をリアルに描いた傑作。ジャーナリストという仕事の課題、社会的役割もよく分かる一冊です。ドラマと映画がつくられていますがNHKが制作したドラマ版「クライマーズ・ハイ」がオススメです。
- 『支店長はなぜ死んだか』上前 淳一郎
駆け出しの新聞記者としてサツ回り(警察担当)をやっていた時に、他社の先輩記者から「読んでおけ」とプレゼントされたもの。短いですが4編どれもが非常に本質的で、取材し、伝えることの難しさ、多くの人に情報を伝える責任について考えさせられます。いまでも時折読み返す大切な一冊。『誤報―新聞報道の死角』後藤文康と合わせて読むといいと思います。
- 『不当逮捕』本田 靖春
本田靖春の著作はどれも魅力的ですが、一冊挙げるとしたらこれ。戦後の混乱期にスクープを連発したスター記者が、検察の派閥闘争に巻き込まれて逮捕され、新聞社からも捨てられていくという悲劇を描いた作品。破天荒な記者スタイルは時代の空気を感じますが、取材対象である権力との関係、そして組織との関係は、普遍的な事柄としていまでも何ら解決していないと感じます。
- 『言論統制―情報官・鈴木庫三と教育の国防国家』佐藤 卓己
軍部に寄ってペンを奪われたーなどと第二次世界大戦時のメディア状況を書いている記者はこの本を読んでないのでしょう。小ヒムラーと呼ばれて言論弾圧のシンボルにされた鈴木庫三の日記を発掘し、資料や証言と突き合わせることで、軍とメディアの動きを浮き彫りにします。メディア研究者による本ですが、作られた「常識」を覆し、別の世界があったことを照らす作業はジャーナリズムそのものです。
ボスニア紛争時のPR会社の動きを追うことで、国家間の情報操作を明らかにした労作。PR会社や政治家たちの証言を丹念に置い、淡々と紹介することで迫力を増しています。この本を読んで、PR会社を悪者だと決めつけるのではなく、国の「正義」やメディアの報じる「善悪」は何か、そして自分たちの受け取る情報についても、考えるきっかけになる本です。元になったNHKスペシャル「民族浄化」も力作で、授業で使っています。
旧知の河北新報編集委員で、ジャーナリストの寺島さんがアメリカ留学での調査をまとめて2005年に出版されました。「つながる新聞づくり」が地方紙の役割という指摘は、東日本大震災で注目され、寺島さんはブログ「Cafe Vita」を書き続ける実践を行っています。ソーシャルメディア時代にもつながる、大学や地域とつながった新聞づくり、リテラシー教育など、メディアが取り入れるべき事柄がたくさんあります。
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『アメリカ・メディア・ウォーズ ジャーナリズムの現在地』大治 朋子
調査報道で新聞協会賞を2度受賞した毎日新聞の大治朋子記者によるアメリカのメディア状況のルポ。メディア激変の中で働く当事者として、メディア企業の幹部、NPO、ジャーナリズムスクールの教員に、疑問をぶつけていくスタイルなので読みやすい。元日本経済新聞記者でフリージャーナリスト牧野洋さんの『メディアのあり方を変えた 米ハフィントン・ポストの衝撃』もあります。
こうやって7冊紹介すると、自分がルポルタージュやノンフィクションといったジャーナリズム作品より、メディアの社会的役割や課題、伝えることの責任や矛盾、権力や組織との関係に強い関心があることが分かります。もし、取材結果をまとめたもので一冊と言われたら日本で初めて行われた和田心臓移植を取材した共同通信の『凍れる心臓 』を押します。
【これまでの課題図書】