ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

民間事故調の報告書と「一般意志2.0」

昨日、東京電力福島第一原発事故について調査してきた「福島原発事故独立検証委員会」(通称:民間事故調、日本再建イニシアティブ船橋洋一理事長が設置している)の報告書が発表になりました。

委員長は科学技術振興機構前理事長の北澤宏一氏や元検事総長の但木敬一弁護士ら6人。私も、研究者や弁護士ら約30人でつくるワーキンググループの一人として昨年末から調査に加わっていました。

下記に紹介した目次の第四章リスクコミュニケーションにある第4節ソーシャルメディアの活用と、第5節事故からの教訓の一部を担当しました。
委員会が立ち上がったのは昨年10月とのことですが「ソーシャルメディアに関連した調査が必要」ということで遅れて参加しました。時間が逼迫していましたが、仕事の合間に関係者ヒアリングを実施、ネット上で活動していた研究者などへのメールでの問い合わせを行いました。
お忙しいところ回答いただいた皆様、ありがとうございました。改めてお礼を申し上げます。また、ワーキンググループに参加していた研究者やジャーナリストの皆さんからは貴重なアドバイスを頂き、大変勉強になりました。
ところで、担当部分を執筆する際には東浩紀さんの「一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル」的な考えを取り入れています(この本の解釈は色々あるようですが、個人的にはソーシャルメディアやウェブサービスを利用することによる人々の無意識な意思の可視化が大きなポイントだと考えています)。
人々がソーシャルメディアやウェブサービスにを利用する際から人々の関心(意志)を探るというものです。具体的には、GoogleとYahoo!の検索動向やツイッターでの頻出キーワードの上位を日付ごとに確認しました。そうすると、発電所が爆発した3月15日と金町浄水場のヨウ素検出があった23日に、関連キーワードが上位に来ていることが分かりました。さらに、早野教授や海外の拡散予測、放射線データの集約とグラフ化といった、ネット上での動きをまとめ、それに対して政府や東京電力が適切に情報発信できたか、を検証しました。
早野教授らツイッター利用の動きを紹介しながら、ソーシャルメディアを使った相互交流で情報を受信し、分析することで人々の欲しい情報を知る事が出来ること。発信することで情報が膨らむ事。そして、何より関心を持っているタイミングで適切に情報を発信することができることを指摘しました。
官邸ツイッターが早い段階で対応したことに一定の評価をしつつ、ソーシャルメディアを使っているにもかかわらずマスメディア的な一方向の情報発信を行い、情報受信や分析の意識が欠けていたこと。体制の不備や技術への理解不足であったとまとめました。また、情報受信が監視にならないようにという注意も付け加えています。人々の関心へ気持ちを向けることと監視は全く異なると考えています。
検索エンジンやソーシャルメディアを使う人は限られており(一般意志2.0ではニコニコ動画などが上げられている)、一般ではなく特定意思だという指摘はあるかもしれませんが、リアルタイムに一部とはいえ人々の関心を得られる状況があることは緊急時のコミュニケーションのあり方を変えるでしょう。そして、この調査報告自体が、大規模なシステムを作らずとも、ソーシャルメディアと無料で使えるウェブサービスを使えば人々の関心や意思を確認できることを示したものになっています。
報告書は400ページを超えるものです。新聞やテレビの報道では菅直人首相のマイクロマネジメントなどが注目されていますが、下記のように幅広い視点から網羅されています。
<目次>

第一部 事故・被害の経緯
   第一章 福島第一原子力発電所の被災直後からの対応
   第二章 環境中に放出された放射性物質の影響とその対応
第二部 原発事故への対応(各機関が実施した原子力災害対応の検証)
   第三章 官邸における原子力災害への対応
   第四章 リスクコミュニケーション
   第五章 現地における原子力災害への対応
   第五章 SPEEDIと避難指示、住民避難
第三部 歴史的・構造的要因の分析
   第六章 原子力安全のための技術的思想
   第七章 福島原発事故にかかわる原子力安全規制の課題
   第八章 安全規制のガバナンス
   第九章 「安全神話」の社会的背景
第四部 グローバル・コンテクスト
   第十章 核セキュリティへのインプリケーション
   第十一章 原子力安全レジームの中の日本
   第十二章 原発事故対応をめぐる日米関係
   最終章 福島第一原発事故の教訓――復元力をめざして

福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書
事務局によると、問い合わせや報告書の入手についても希望が多くあるそうで、3月11日に緊急出版されることになったとのことです。
【追加1】「福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書」の申し込みがディスカヴァー・トゥエンティワンのサイトで始まりました。
【追記2(3月1日)】
この出版について一部から「ステマ」などと指摘されているようですが、発表した28日にも出版社は決まっておらず、反響の大きさに対して、ワーキンググループ内部でもネットで無料公開や一部公開したほうがいいという意見と出版を急ぐべきという議論が行われていました。私からは、あくまで民間なので有料にすべき、紙に加えて電子書籍は出したほうがいいという意見を述べました。
事務局に確認したところ、29日に急遽出版社と打ち合わせをして発売が決まったということでした。事務局スタッフのスピードある交渉と出版社の決断に感謝します。
【追記3】Amazonでも「福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書」の予約が始まりました。