ガ島通信

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民間事故調による福島原発の「調査・検証報告書」がアマゾンで1位に

ワーキンググループの一人として関わっている「福島原発事故独立検証委員会(通称:民間事故調) 調査・検証報告書」が、予約が始まったアマゾンで一時的に本のベストセラー1位となっていました。関わった人間として社会の関心が高いことに身が引き締まる思いがしています。

ワーキンググループは、日本再建イニシアティブ船橋洋一理事長が設置している委員会の指導のもとに調査・検証の実務にあたったという位置付けになっていますので、このブログに書いていることはワーキンググループの一人として述べていることをご了解ください。
報告書に関しては、一部から「ステマ」などと指摘されているようですが、発表した28日にも出版社は決まっておらず、反響の大きさに対して、ワーキンググループ内部でもネットで無料公開や一部公開したほうがいいという意見と出版を急ぐべきという議論が行われていたことを改めて紹介しておきます。
ステマや商業出版への批判、委員会の位置付けなどにも色々な意見が飛び交っていますが、ワーキンググループの一員である一橋大学秋山信将さんが、ツイッターで考えを述べられていますのでぜひ一度目を通してみてください。

出版については、秋山さんも触れていますが「商業出版として売れる内容ではない」と数社の出版社に断られたと事務局からは聞いています。「専門的な分厚い事故報告は誰が読むのだ?」と思うのはこれまで売れてきた本を考えれば仕方がない部分はあるでしょうが、人々の関心の高さを見誤っていたということでしょう。
私はワーキンググループでの議論では、無料公開に反対しました。それは、民間事故調だからということに加えて、「公共を名乗っているんだから無料にしろ」が日本をダメにしたからとの気持ちがあるからです。
宮台真司さんは、民主主義を獲得するために〈任せて文句たれる社会〉から〈引き受けて考える社会〉への転換が必要と述べています。多くの人がお金を出して購入するという商業出版のルートで反響があるということが、国民の意識を表明するということにもつながっていくと考えています。なので、緊急発売が決まったのは良かったのですが、財団には印税が入らないというのを聞き、大変残念に思いました(印税の分は報告書を周知するためのイベントなどに使われるとのこと)。
一気にすべてを進める事はできません。社会に大きな問題が起きたとき、司法/立法/行政のいずれでもない立場で検証が行われるという新たな取り組みが始まったこと、そして報告書が注目され、多くの注文があることが、自分の事として引き受けて行く社会への大きな一歩ではないかと捉え直しました。
また、私は途中から参加したので、秋山さんが紹介している2週間に1度の議論にはなかなかスケジュールが合わずに参加できませんでしたが、ワーキンググループに参加していた研究者やジャーナリストの皆さんは朝から晩まで真剣に話し合いをしていましたし、私のような未熟な人間にも親身にアドバイスを頂き、大変勉強になりました。このプロジェクトは、業界関係者で集まり、「ムラ」を作りがちな、研究者やジャーナリストが、専門分野の枠を超えて、刺激し合い、学び合う場となっていました。それは3.11で大きな課題として浮き彫りになってきた「ムラ」という日本の知のあり方への挑戦でもあったでしょう。
これまでに例のない民間調査、センシティブなテーマである原子力や放射能に関わるというだけでリスクがあります。私はこれまで原子力政策とはほとんど関わりがなく(北大CoSTEPでサイエンスライティングを教えていた時に視察をして、受講生に記事を書いてもらう素材に選んだ事はありました)、それでも話題のセンシティブさにリスクを感じたほどです。「検証すべき」と言うのは簡単ですが、当事者として関わることは大変なことです。特に原子力やその周辺を研究分野にしている若手研究者にとっては、将来を左右する大きな問題になりねません。そのリスクを超えてプロジェクトに関わった人がいたことも紹介しておきます。
福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書
ただ、このような事情は報告書の中身とは別のことです。手に取って頂いた方々が評価していくことです。
この報告書がカバーしきれていないところもたくさんあるでしょう。正解を示しているものでもないでしょう。事故については、国会やマスメディア、さらには当事者など、さまざまな立場から報告が行われて行くでしょう。それらを複合的に組み合わせて一人一人が事故やこれからの日本のあり方を立体的に組み立てて行く、ひとつの切り口となるでしょう。報告書を読んで議論が進めば幸いです。出版後もシンポジウムなどが予定されているとのことですので、関心のある方は参加をお願いします。
最後に、社会に大きな影響を与えた出来事を調査、分析し、歴史に刻むというのはジャーナリズム活動そのものであり、プロジェクトに関われたことを一人のジャーナリストとして誇りに思います。
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