「コミュニティ・オブ・プラクティス―ナレッジ社会の新たな知識形態の実践」ハーバード・ビジネス・セレクション
日経IT-PLUSのコラムブロガーイベント復活は「限界論」の突破口かの中で紹介した「コミュニティ・オブ・プラクティス―ナレッジ社会の新たな知識形態の実践」(ハーバード・ビジネス・セレクション)は、問題を解決し、ビジネスチャンスを創出するためのナレッジマネジメントと企業内のコミュニティーの関係について論じたものですが、企業内だけでなくコミュニティの運営全般に非常に参考になる点が多くあります。
実践コミュニティーは、共通の専門スキルやある事業へのコミットメントによって非公式に結びついた人々の集まりを表す概念で、これを核にしたナレッジシステムが組織を超えて人々を結びつけ、イノベーションを生み出したことが、クライスラー、シェル石油、マッキンゼーなどの事例とともに紹介されています。
事例の詳しい内容は読んでいただくことにして、実践コミュニティを活気あるものにしていくための7原則を紹介しておきます。
1.進化を前提とした設計を行う
2.内部と外部それぞれの視点を取り入れる
3.様々なレベルの参加を奨励する
4.公と私それぞれのコミュニティー空間を作る
5.価値に焦点を当てる
6.親近感と刺激を組み合わせる
7.コミュニティーのリズムを生み出す
本では、誕生、成長、死というコミュニティのサイクルを明らかにし、立ち上げから発展段階(潜在、結託、成熟・維持、変容)でどのようにサポートしていくかも述べられています。
ビジネス書にありがちなプラス面ばかりでなくマイナス面も書かれており、コアメンバーがコミュニティーに過度な所有者意識を持ってしまったり、派閥が出来上がってしまったり、愚痴や不満のはけ口になってしまったり…メンバーの人間的な弱さによってさまざまなことが起きると指摘しています。
原稿では、失われた10年がもたらした採用縮小による人材の停滞、非正規雇用(コミュニティ外として位置付けられる)の増加、偽りの成果主義といった閉鎖間に包まれた日本の企業・組織を、ブログ(SNSであったり、異業種交流会での結びつきもあり得る)とリアルイベントが作り出す組織の壁を超えたコミュニティーが補い、価値を生み出す実践コミュニティーに成長する可能性があるのではないか、といったウェブ時代の新しい組織論的にもう少しフォーカスしたかったのですが不十分であったかも知れません。
コミュニティ運営はどのようなものであれ「参加者は盛り上がっているけれど、一歩離れてみるとなんだか気持ち悪い」といったパターンに陥りがちです。ブログイベントや企業における組織だけでなく、ウェブサービス、人間関係など様々なコミュニティづくり・運営にこの本は役立つと思います。