ガス抜きとしての自民党総裁選とインターネット
自由民主党の総裁選挙は、福田康夫元官房長官が麻生太郎幹事長に133票の差をつけて勝利し、第22代自民党総裁に就任しました。盛り上がった選挙戦と330票対197票という絶妙の得票差は、擬似選挙(あくまで自民党の国会議員と党員しか参加できないため)による民意の反映「感」をもたらしたように思います。これにより「民意を受けていない政権」という不満がある程度ガス抜きされたとすれば、民主党の国会戦略にも影響しそうです。
国会議員票でも都道府県連票でも福田氏は過半数を獲得しており「大勝」とも言えるし、一部メディアに陰謀説を流された上、福田氏が党内9派閥中8派閥の推薦を受けて支持を固めたものの200票に近づいた麻生氏は「善戦」とも言えます。
200票を超えていれば福田氏の政権基盤が揺らぐし、あまりに麻生氏の票数が少ないと麻生氏の政治生命も絶たれてしまうし、派閥の論理で選ばれた総裁は「民意」をないがしろにしたとの批判が上がります。そういう意味でも今回の得票数は絶妙でした。
選挙後の記者会見で結果を聞かれた福田氏は
当初は派閥の数合わせとおっしゃいましたけどもね。結果を見ればそうでなかったということが証明された。私は当初から申し上げておりましたよ。そんな、派閥の数で計算して結果が出る。そういう考え方には賛成できない、そういうことにならないと当初から申しあげて参りました。いまの政治の情勢、国民の意識を考えますれば、昔のように派閥が一致団結にはならない。選挙ってのは、やってみなきゃわからない。
福田自民党新総裁の記者会見の主な内容(gooニュース)より。
と述べていて「派閥選挙」というレッテルに神経質になっている様子が伺えます。
結果については、選挙期間中にある地方選出議員がインタビューで言っていた「問題は勝ち方」を気にしたという可能性が高い。つまり「あまり福田さんが勝ってしまうとまずいので麻生さんもそこそこ善戦する」という結果になるようにバランス感覚が働いたのでしょうが、街頭での熱気、ネットでの議論が生んだ「空気」は麻生氏の票数増加にある程度は影響しているでしょう。少なくとも、これまでのように政治とマスメディアが影響しあいながら「空気」を醸成していくという状況にネットが加わってくることは間違いありません。
自民党が「民意」反映という演出に気を配っていたのは、メディアへの露出だけでなく街頭演説を積極的に行ったこと、ネットでの情報発信が手厚かったことでも明らかでしょう。特に、ネットでの情報発信はかなり力が入っていました。坊や安倍晋三氏の突然の辞任にも関わらず、日程、規約といった基本的な情報から、共同記者会見、所見発表演説会での発言のログ、演説の動画、応援フラッシュの募集までホームページに掲載されていました。
うがった見方をすれば、マスメディアを飛び越えて有権者に直接情報発信することで「開かれた自民党」を演出したとも言えますが、情報開示という点ではこれまでの総裁選にないものでした。記者によって特定箇所だけが意図的に切り取られた情報ではなく、そのままアップされた動画やログを元に有権者がそれぞれの判断を下せるというメリットは大きいものがあります。
YouTubeのような動画共有サイトとビデオカメラによって、話題になっている「北村弁護士の行列が出来る応援演説」のようなマスメディアには載らないようなコンテンツもアップロードできるようになっています。実際のところ先の参院選でもアップされていましたが、出来ることなら時代遅れの公選法が改善されて堂々と動画やブログがアップできるようになってほしいものです。