ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

「新聞社 破綻したビジネスモデル」河内孝

新聞社―破綻したビジネスモデル (新潮新書)
『最近、多くの人から、「このごろの新聞はおかしい。どうも言ってることとやっていることが違うのでは」と聞かれます。残念ながら、皆さんの疑問はかなりの部分当たっています。他者に求めるわりには、自らの情報公開に臆病な業界の体質から「うさんくささ」がぬぐえないのがひとつの原因です』『あなたたち(新聞産業を改革しようとしている人)の真の敵は、テレビでもインターネットでもなく、破綻したビジネスモデルにとりすがる新聞界の守旧派なのですから』。このような刺激的なまえがきで始まる
新聞社―破綻したビジネスモデル」。

著者は、毎日新聞で編集局次長、社長室長、営業と総合メディア担当の常務まで務めた河内孝氏。悪質な拡張団との腐れ縁、補助金依存や押し紙(残紙)に依存した体質、など、あまり業界内でも語られない販売の裏側について、新聞社の元幹部が語るというのは非常に珍しいことです。

新聞批判本は少なくないし、そのうちのかなりの部分は現記者ないし元記者によるものなのだが、本書は元役員の立場から書かれれており、その点が貴重である。

小飼さんも指摘されているように、これまで新聞の危機本といえば、ジャーナリズムの視点から記者が書くものでした。河内氏も、ジャーナリズムを議論するのでなく、ビジネス、産業としての新聞を見つめ、将来を考えたいと、執筆の意図を書いているように、これまでの新聞批判本とは一線を画しています。

注目は、第四章「新聞の再生はあるのか」で語られる「第三極構想」でしょう。若者の新聞離れやインターネットの影響などによる新聞の危機を語る本はこれまでにもありましたが、具体的な処方箋を示している点がユニークです。ファクタの5月号でもメディアの急所でこの構想を取り上げ、「新聞業界に大再編が起こるのか、あるいは単なる白日夢に終わるのか。毎日経営陣の舵取りにかかっている」と結んでいます。

連携構想は、毎日を中心に、産経新聞と中日新聞が業務提携するというもの(紙面の共通化ではなく、印刷や事業、営業などの分野で効率化を図る)。しかし同じメディアの急所に、ブロック紙が元気なことを紹介する記事があります。実はブロック紙とはいえ、中日新聞東京新聞を含む)は、販売部数で産経と日経を上まわっているのです。

では産経はどうか。夕刊もなく、事実上、全国紙ではなく首都圏新聞になりつつあります。産経は、新しい新聞のエクスプレス、ネットサイトのイザを立ち上げるなど、改革を進めていますし、フジサンケイグループのイメージを背負うという役割もあります。中日は、ファクタが指摘するように、中部圏では非常に強固な地盤を持っています。「情報メディア白書2007」によると、中日新聞の利益は51億円とブロック・地方紙の中では群を抜いています(毎日は1億円で、05年には63億円の損失を出している)。産経、中日側には、毎日と連携するメリットは少ないといえるでしょう(なので河内氏も1番に中日が乗るかどうかを気にしているのだと思われる)。

三社で連合した際に、毎日がどのような位置づけになるかも微妙です。産経、中日、またそれ以外の提携できそうな新聞社にしても、さまざまな思惑があり、危機感のレベルもずいぶん違います。「ナイアガラの滝の縁まで来ている」と河内氏が言う毎日がとれる選択は意外に少ないかもしれません。

残念なのは、読者という言葉、視点が非常に少ないことです。新聞社の再生は、読者抜きでは成し得ません。販売部数や印刷、営業拠点の数を合わせるなど経営効率を高めることはもちろん重要ですが(いままでこういう話すらなかったわけなので)、抜本的な改革にはなりません。再生のヒントは、読者はなぜ新聞を取っているのかという、最も大切な視点から生まれてくるはずです。

追記・中日の利益について補足しました。全国紙の利益は情報通信白書07によれば、読売643、朝日40、産経6、日経135(05年)億円。
はてぶでコメントを頂いていた文化放送就職ナビは、財務内容などを比較できるので参考になります。業種検索で「新聞」を検索すると、売り上げ、経常利益、平均年齢や従業員数も比較できます。それによると中日は利益(110億円)だけでなく、売り上げも毎日を抜いています。ただ、毎日も確かに「ナイアガラ」かもしれませんが、業績を見ると時事通信のマイナス14億円が目を引きます(05年も経常利益は赤)。ちなみに人気ランキングは、朝日(53位)、読売(96位)、毎日(157位)、日経、産経、北海道、時事、中日、西日本という順です。