ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

JTCに参加した・警察裏金問題

新聞労連によるJTC(ジャーナリストトレーニングセンター)に参加しています。警察の裏金問題を取材している北海道新聞愛媛新聞の若手記者による報告「警察取材・現場から」。「書いても他社が追わない」「いかにして全国紙やテレビを巻き込んでいくか。そういう戦略も大事」と前置きした上で、裏金の仕組みを解説しました。

<北海道新聞記者>

捜査のときに情報提供、協力者に渡す捜査費。捜査費は国の予算、暴力団、広域窃盗事件などで使える。その他は都道府県の予算。月初めに会計課に支払われる。その後、署長と相談しながら金庫番の副署長(次長)が管理する。例えば100万円あれば「署長が20万円くれ」とか「慣例的にこの署は10万円」とか、茶色い封筒に現金でお小遣いが署長に渡される。残りは、各課の運営費という名目で各課に分配される。そこから先の使い方は各課長にまかされる。交番(地域課)と交通課にはあまり裏金は配分されない。どうして裏金が作れるのか。偽造書類。会計課が鉛筆で下書きして、一人ひとりがポールペンでなぞって完成する。現場の警察官は微々たる金をもらいながら(もらえない人も多い)偽造書類作りも担わされている。きちんと使われるべきお金が裏金として使われていれば、いい捜査はできない。

では、裏金の全体像をどう取材するのか。副署長、次長から裏帳簿(ノートや家計簿。ワープロやエクセルもある)をまず手に入れる。会計課で裏金の仕組みを聞く。接触する際は気をつけるべき。警察はコミュニティがものすごく強固で、そこから外れるのを気にしている。告発した人のために隠れるホテルも用意したこともある。その人は会社も辞めた。申し訳ない気持ちで再就職先を探したりしたこともあったが、まだ無職。「後悔していない」と言ってもらえてよかった。苦しいこともたくさんあるが、この取材は現場の警察官にも支えられている。


<愛媛新聞記者>

警察に気に入られることばかり考えていて、テレビに先に報道されたが悔しい気持ちもあったが、面倒なことになったというのも正直なところ。しかし、警察のほうを向くのでなく、県民を向こうと決意した。最初は県警の言い分を書くだけで難航していたが、先行する北海道新聞や高知新聞から励まされた。資料がなければ書けないとかでなく、北海道や高知の取り組みを紹介するだけでもいい。冗談ではなく「今日の捜査費問題」のコーナーを作るとか、県民の関心を持続させる工夫をした。愛媛の場合、多くの職員が偽領収書づくりに携わっている。愛媛の告発者は領収書を書いておらず、「関わってないし、ブツ(書類など)もないじゃないか」とある記者に言われたが、そうじゃない。どんな取っ掛かりでもいいから書くべきだと思う。



<質問>

Q、「告発した人が地域で特殊な存在になってしまう。何が出来るのか?」「他社に警察が先にリークすることも紙面で紹介したほうが、読者に支持されるのではないか?」

A、「告発者は孤独。毎日のように嫌がらせの手紙や電話があるので、ネットワークを作っている。市民の応援の声が聞こえる場をつくる」「読者は抜いた、抜かれたはあまり気にしていない。気にしているのは社内なので、社内のコンセンサスを得るべき」「警察からは他社が会見でもらっているような資料ももらえない。春の交通安全運動というような広報もでない。公務員がメディア選別するのは問題」「警察の嫌がらせは、警察に頼らずに取材すればフォローできる」

Q、「同じ地域の他社、特に全国紙は何をやっているのか?」

A、「一報だけ書いて何も載せない。監査請求などの公のアクションだけ。落ち着いてから各社のキャップを集めて、なぜやらないのかを聞いたこともあるが、取材に取り掛かってもない」「全国紙は警察庁が怖い。東京本社の警察庁の取材をしている記者から文句がくるようだ」「飲み会の席上で全国紙(A)のキャップが、警察広報あっての我々などと発言したこともあった」「各地の地方紙や全国紙がやってもらって、日本全体の大きな問題にしてもらうしかない」



詳しくは文庫本(私の紹介エントリー)「追求・北海道警裏金疑惑」、元道警釧路方面本部長・原田宏二氏の著書「警察内部告発者」。