ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

足利のおもしろいを紹介した冊子「足利のたからさがし」が出来ました

法政大学社会学部藤代ゼミでは、栃木県足利市の「おもしろい」を紹介した冊子「足利のたからさがし」を制作しました。ゼミ合宿の際に、地元のNPOコムラボ」の皆さんと一緒に行ったワークショップの成果をまとめたものです。編集(見せ方)や紙質にもこだわりました。

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ページをめくると…

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 足利の皆さんの思い出の場所が写真とエピソードで紹介されます。何の変哲もない場所が違った景色に見えてきます。

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キンコーズで印刷した試作バージョン。表紙がのっぺりしてしまい満足できない、だから紙を変えようとなり、ゼミ生が見つけたのが「イニュニック」。店主と紙とメディアについて熱く語り合ってきたそうです。

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夏合宿でコムラボの皆さんと足利の「おもしろい」を考えるゼミ生。地元の目と「よそ者、わか者」である学生の目がかけ合わさり、地域の物語がつむがれました。

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ゼミ合宿2014「足利の宝探し」を行いました

2回目のゼミ合宿は栃木県足利市で行いました。テーマは「足利の宝探し」で、地元のNPOコムラボとのワークショップもあり、充実したものになりました。f:id:gatonews:20140915213937j:plain

法政大学に着任して1回目のゼミ合宿(参考:沖縄でゼミ合宿を行いました)の課題を踏まえて、日程を3泊4日に延長。記事を書くというお題から、ニュースの発見に重点を移したプログラムに変更しました。

初日は足利学校を訪問し、取材を行いました。細部を良く観察しておくように伝え、午後からたっぷり時間を取りましたが、飽き始めて楽しくおしゃべりをするゼミ生も…

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夜の議論では、資料や写真を見ず、ノートに書かれた内容だけで足利学校を説明してもらいました。ノートが不十分で、あいまいな記憶を頼りに説明するゼミ生が続出。同じ場所を取材したはずが、ゼミ生によって言うことが違う事態に陥ります。細部を観察する難しさ、事実を切り取るとはどのようなものなのかを感じてくれたようでした。

2日目は足利市内をまわって「面白いエピソード」を見つける取材。2年生の発表を受けて、目を引くタイトルか、写真が適切か、もっと効果的な切り口はないか、3年生が質問します。3年生も工夫して質問していました。3日目も同じく取材。ゼミ生によっては朝7時まで議論をしていたようです。

最終日はコムラボとのワークショップ。ゼミ生2人に地元の人1人がチームとなって町を歩き、面白いエピソードを探します。

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足利を新鮮な目でとらえるゼミ生と地元の方の知識が合わさり、とても興味深い地域の物語がつむがれました。地域社会と共に学ぶ大切さを改めて感じました。

合宿はワークショップあり、ゲストあり、差し入れあり、でした。コムラボの皆さん、取材に対応して頂いた足利の皆さん、白鴎大学の小笠原さん、ありがとうございました。

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ブログ10年。この先もジャーナリズムの未来を創り続けよう

9月4日でブログを始めて10年になりました。ここまで続くとは思ってもいませんでした。支えて頂いた読者の皆さん本当にありがとうございます。

ブログ始めました!(2004年9月4日)

徳島新聞の記者だったこともあり匿名でスタート、ブログはライブドアでした。新しいジャーナリズムへの挑戦と実践に踏み出すということで、当初は興奮と緊張の連続でした。

最初のエントリーにも書いてあるのですが、文化部で若者向け紙面のリニューアルを担当し「若者の新聞離れ(新聞の若者離れ)」を痛感していたところに、2003年に湯川さんと青木さんの共著「ネットは新聞を殺すのか-変貌するマスメディア」が発売され危機感が高まりました。

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【文化部時代の写真】白いPCで担当紙面のホームページやブログを更新してました。

また、労働組合の青年女性部の役員をやっていたこともあり、04年1月には青木さんの講演やビデオジャーナリストの神保哲生さんと社会学者の宮台真司氏さんによる「ジャーナリズム構造問題」マル激トークを含んだ、新聞労連青年女性部・全国学習交流集会2004「本日廃刊…となる前に」を徳島新聞の会議室で開催(当時の告知サイトが残ってました)したのも、ブログ開設の後押しとなりました。

当時は新聞記者のブログは珍しかったこともあり、すぐに反応がありました。どこの誰かは分からない場合も多かったですが、ソーシャルメディアのつながる力を実感し、「これはジャーナリズムが大きく変わる」「誰もがジャーナリストになる時代がやってくる」と感じました。

10月には中越地震があり、災害時のジャーナリズムや地域メディアのあり方を大きく考えるきっかけになりました。「マスゴミ批判」を検証したり、被災報道についてルポをして地元紙の方に怒られたり。最初は職場である新聞社がどうなるのかという関心もありましたが、いつしかジャーナリズムの未来に興味が向くようになりました。そして、ブログがあれば書きたい事がいつでも書ける、ことは徳島新聞を退職する勇気を与えてくれました。

NTTレゾナントに転職し、東京に行ったことで、ブログを通して交流していた皆さんとリアルにつながることが出来ました。RTCカンファレンスをお手伝いしたり、仲間たちとOBIIを立ち上げて開発合宿をしたり、デジタルジャーナリズム研究会で議論もしました。ブログの経験やリアルの取り組みが、日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)や東日本大震災での活動につながりました。

今や現役の新聞記者もツイッターフェイスブックで情報発信するようになり、状況は大きく変化しました。一方で、「火がついた人は外に出て行ってしまった」「優秀な人材が集まらない」との声も聞くようになりました。ここまで閉塞感が現場を覆うとは…これは予想外でした。

この夏は多くの仲間たちとメディアやジャーナリズムを語り合う機会に恵まれました。どことなく湿りがちな話をかき混ぜ、こんなに面白い時代、本気出して楽しもう、と話しました。愚痴っていても何も変わらない。半歩でも踏み出そう。

昨年から縁あって法政大学社会学部で、ジャーナリストを育てることになりました。先日急逝した同僚の船橋晴俊さんから春学期の懇親会から帰る際に電車内で頂いた言葉があります。

「凡庸な教師はただしゃべる。よい教師は説明する。すぐれた教師は自らやってみせる。偉大な教師は心に火をつける」(William Arthur Wardの格言)

偉大な教師になれるかは分かりませんが、メディアやジャーナリズムの世界で活動する仲間(これから活躍するゼミ生も含め)に火をつける役割だよと、船橋さんが言ってくれた気がします。

人の心に火をつける(なんとおこがましいと思うが)ためには自分が燃え尽きては意味がありません。辛いときや苦しいときには、ブログを通して心にエネルギーをもらいました。ブログを通して知り合った友人や仲間が何よりの財産です。一緒にジャーナリズムの未来を創っていきたいと思います。引き続きよろしくお願いします。

追伸:同じくブログ10年選手のローカルメディアの仲間によるエントリー。おめでとう。これからもよろしく!

藤代ゼミ夏休みの課題図書「考える力をつける4冊」

代ゼミでは2年生を対象に春と秋に集中的に本を読む「読書祭り」を行っています。春はメディアの変化や構造が理解できる書籍、秋はジャーナリズムです。

当初2回の予定でしたが、本を読む習慣が乏しくなった弊害は大きく(全く本を読まない大学生は4割を超えている*1)取材や文章を書くと表現力が乏しく、想像力が欠けています。また、結論を急ぎ「分からないこと」への耐性が非常に低いのも気になりました。そこで夏休みにも課題を出す事にしました。テーマは「読んでも良くわからない本」。答えが簡単に出ず、考える力をつけるのが目的です。

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哲学の古典。デルフォイ神託ソクラテスより賢いものはいない」に対して反論していく中で、自分が知者ではないことを知っている自分が賢いという結論に到達する(無知の知)。疑問に対して正面から問うソクラテスの姿勢(問答)はジャーナリストが持つべき姿勢と共通する。

我思う、ゆえに我あり」。あらゆるものを疑った結果、疑っている自分自身の存在を否定できないと考えた。この疑う自分は、後の哲学にも大きな影響を与えて行くが、あらゆるものを疑うという姿勢はソクラテス無知の知にも通じるものがある。

死に至る病とは絶望である」と「絶望とは罪である」の二部構成。近代の理性主義を批判した本として知られる。ドイツ哲学は難解だが論理的なのでじっくり挑めば分かるのだが、この本は芸術のような分かるような、分からない感覚がある。

ウェーバーは「プロ倫」など他に重要な書籍がたくさんあるが、この本はウェーバーが言葉をどのように定義するのかという思考プロセスが読み取れるのが良い。薄い 本で、表紙に「なだからかな日本語に移した本訳書は初学者にもすすめたい」と書いてあるが、読み込めば決して簡単ではないことが分かる。

 

ドイツ哲学が入らずキュルケゴールかよ!と突っ込みが入りそうですが天の邪鬼なもので… 課題は西洋哲学が中心になりましたが、図書を選ぶにあたりフェイスブックで募集したところ多くの提案がありました。複数票入ったものがあります。『日本の思想』(丸山真男)、『自由からの逃走』(フロム)、そして『世論』(リップマン)です。どでも良い本ですので、長い休みがある方は、手に取ってみてはいかがでしょうか。

大学の授業でも分かりやすさが評価になる時代ですが、提供側が分かりやすくすればするほど自ら考え、読み解く力が失われている気がします。グローバル化も重要かもしれませんが、分からない物事に挑み、教養や知性を磨いて行くことを忘れてはならないと思います。

*1:全国大学生活共同組合の第49回学生生活実態調査の概要報告

「Journalism7月号」のデータジャーナリズム特集は関係者必読の保存版です

Journalism(ジャーナリズム)2014年7月号』(朝日新聞社ジャーナリスト学校)が、データジャーナリズム特集を行うということで、私も寄稿したのですが、さまざまな角度から考察が行われていて、保存版の出来映えです。

実際にデータジャーナリズムに取り組んでいる朝日新聞チラシでたどる震災1000日」やハッカソンの取り組み、NHKスペシャル震災ビッグデータ」という実践レポートだけでなく、マーケティング分野からトランスコスモス・アナリティクス副社長の萩原雅之さん、 データ分析の観点からデータセクション会長の橋本大也さん、ネット選挙に絡めたソーシャル分析で立命館大学特別招聘准教授の西田亮介さん、さらに、津山恵子さんや滝口範子さんの海外レポート、ネオローグ立薗理彦さんのサイト案内、オバマのソーシャル選挙分析で知られる埼玉大の平林紀子さんへの編集長インタビューと、これでもかとてんこ盛り。以下は目次で確認してください。

<目次>

 

5年後、ウェブへの記者「大移動」は起きない。それは既存メディアの願望である

朝日新聞マサチューセッツ工科大(MIT)メディアラボのシンポジウム「メディアが未来を変えるには~伝える技術、伝わる力~」に関連して、朝日新聞のウェブサイトに興味深いインタビュー記事が掲載されていました。タイトルは 「記者独立の時代、5年で来る」

東洋経済オンラインの編集長で、『5年後、メディアは稼げるか』の著者でもある佐々木紀彦さんが、欧米のスター記者や編集者の伝統メディアからの独立や、新たなデジタルメディアの設立について、朝日新聞の古田大輔記者の質問に答えたものです。

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シンポでもツイッター担当の津田大介さんが「朝日新聞のエース級記者に、新興メディアに移る意志があるのかを聞きたい」という質問が投げかけらました。

佐々木編集長は、日本でも旧メディアから新興メディアへの移動が5年も経たずに起きるとしています。しかしながら「大移動」は起きないでしょう。

「一流の待遇」は5年は続く

佐々木さんと古田記者のやり取りを確認します。待遇が変われば移動が起きるという指摘です。

佐々木:「オールドメディアの待遇、とくに一流と呼ばれるところの待遇がいいからでしょう。でも、じりじりと伝統的メディアにいるメリットと新しいメディアにいるメリットが均衡してきています。それが交差するとき、優秀な人が外に出る方がいいときがいつ来るのか。それが未来を見通す上で一番重要な問いです」

古田:その分水嶺(ぶんすいれい)はいつ来ると思いますか。

佐々木:「5年経たず来るでしょう。一流の人だけでなく、準一流な人も出るような雰囲気や合理性がでてきたとき、雪崩をうつんじゃないですかね」


年収ラボによると、大手新聞社の平均年収は朝日新聞社で1,252万円、日本経済新聞社で1,201万円、毎日新聞社で770万円、産業経済新聞社で712万円です。ちなみに、佐々木さんの所属する東洋経済は1,042万円で、年収ラボの出版業界別平均年収ランキング1位です。

一方、PCウェブのマスメディアとも言えるヤフーの平均年収は663万円。マスメディア出身者にそのままこの平均年収が当てはまる分けではないでしょうが、平均では倍近い開きがあります。ベンチャーの新興メディアだと経営陣以外はもう少し安いかもしれません。

毎日や産経であれば既に、移動しても良いレベルにあると考えることができますし、実際に毎日や産経出身でウェブメディアで活躍している方もいます。ですが、新聞崩壊、危機などと言われながら「一流の待遇」を持つ新聞社の業績や待遇はそれほど悪化していませんし、経営状態を見ても5年後に急降下することも考えにくい。これが「大移動」が起きない一つ目の理由です。

移動できる人材が少ない

「大移動」ではなく、ジワリと移動は進行しているという方が正確でしょう。

それを裏付けるデータとして、日本新聞協会がまとめている新聞・通信企業の従業員総数があります。1993年の6万7356人をピークに減少が続いていて、2013年は4万3704人となっています。そのうち記者は約2万人です。新聞社は20年前から社員が減り続けていて、衰退し続けていると言えます。

新規採用者数は10年前は1,177人ですが、754人となっています。正社員の雇用調整が難しい日本の伝統的な企業では、新規採用を抑制することで人件費を抑制するという選択が取られる事が多いわけですが、新聞業界も同様です。そのため、社員の年齢構成では「40から44歳」「45から49歳」の割合が多く、60歳代が4%台を超えています。

転職は年収、ポジション、適合柔軟性などの要因から年齢が上昇すると難しくなると言われています。

シニアの転職はどうでしょうか。シニアは単に記事が書けるだけでなく、企画立案や経営などの経験が求められるでしょう。@ITを立ち上げて、アイティメディアの会長も務め、現在スマートニュースの執行役員を務める藤村厚夫さん(60歳)のような人材は新聞業界には皆無に等しいでしょう。

移動できそうな若い記者はもはや新聞業界に少ないのです。これが「大移動」が起きない二つ目の理由です。

ウェブには多様な書き手が増えている

ITmediaやCNETといったネットメディアに加え、ソーシャルメディアの登場によって誰でも発信できるようになりました。さらに、この記事を書いているヤフー個人やBLOGOS、ハフィントンポスト、さらにスマートニュースなどが生まれ、多くの人に届くようになりました。
つい先日は、博報堂DYHD、ニュース編集・制作の新会社設立というニュースが流れました。新会社のNEWSY(ニュージー)顧問は中川淳一郎さんです。

経済系のニュース共有サービスNewsPicsk(ニューズピックス)は編集部を持つ方針を明らかにしていますが、運営するのは証券会社出身です。企業のオウンドメディア戦略が進むと、企業内から書き手が出てくるかもしれません。
既にウェブではライター、ブロガー、研究者、芸能人やスポーツ選手など、多くの書き手がいて、新興メディアが立ち上がっています(これまでの「ニュース」にニュース風、ニュース仕立ての記事が混じる事に議論があるでしょうが、それは別途どこかで書くとして…)。これが「大移動」が起きない三つ目の理由です。

移動できるかはマーケット次第

個人的な事を話せば、2005年に地方紙で最も待遇が良いとされる徳島新聞を退職しました。「アホじゃないか」とさんざん言われましたし、友人は「早まるな」とアドバイスしてくれました。

給与や退職金という待遇を捨てるのはリスクがありましたが、ウェブの世界で起きるメディアやジャーナリズムの世界を見たかったというのがありますし、当時は記者ブログが珍しく注目もされていましたので、今なら移動できる、10年後は難しくなる、と判断したというのもあります。


幸い前職のNTTレゾナントが採用してくれたことで、ヤフーのトピックスと同じようなニューストピックスの担当だけでなく、新サービスや新ビジネスの開発、研究所の方々と研究技術を世に出す仕事に携わる事ができました。

記事を書き、編集するだけでなく、仕様書も書き、プロジェクトマネージメントもし、時に営業もしました。不本意な時もありましたが、サービス開発の難しさや営業の苦労も知り、貴重な経験をさせてもらいました。これも、一歩早く飛び出したから出来た経験だと思います。


ハフィントンポスト日本版の編集長である松浦茂樹さんと人材採用について話をした際に「2005年ごろにオールドからウェブに出て来た人材は玉石混淆だったけど、最近は良い人材がいる」と話されていました。

時々、ウェブメディアや新興メディアの方から「人材を紹介してほしい」と言われることもありますが、今は記者としてそれなりに実力があり、ソーシャルメディアを使いこなし、さらに企画力とか経営マインドがないと移動できなくなって来ていると感じます。昔は単に既存メディアだというだけで珍しかったけど(私はそれで救われた)…

待遇が良い時は既存メディアにとどまり、待遇が悪くなってくると新興メディアに移動した い、それもタイミング良く、これはずいぶんと都合の良い主張です。大移動というのは既存メディア側の願望なのではないでしょうか。

どんなスキルが必要なの?

マーケットはどんどん変化しますが、何の準備もしないというのは無策すぎます。「人材を紹介してほしい」という話があるものの、なかなか見つからないのは、ミスマッチが起きているということでもあります。シンポジウムで伊藤穣一さんがデータジャーナリズムに関して、数学、ビジュアル、プログラミング技術の重要性を説いています。

 

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角川とドワンゴの経営統合が話題ですが、角川歴彦会長が「デジタルネット企業になりたいと努力している」と言う角川の選択は、川上会長という希有なデジタル経営者を統合によって手に入れるとういことでした。これは既存メディアの人材の限界を示しているともいえます。

仲間とつくる日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)では、ウェブメディアに記事を書くジャーナリストキャンプという取り組みも行っていますが、システムへの投稿だけでなく、タイトルやリードの書き方、拡散の方法、反応の吸い上げなどは、想像以上に出来る人が少ない。「記事を書いたら終わり」から「記事の公開が始まり」への変化を頭で分かっていても、実際に手が動く記者は少数です。

伊藤さんはアメリカのジャーナリズムスクールの例をあげて、テクノロジーを理解しながらジャーナリズムを教える大学が少ないとしていますが、勤務している法政大学ではソーシャル(ビッグデータ)解析の共同研究も進めていますし、来年度からは、起業家ジャーナリズムをテーマにしたワークショップ形式の実習も開講します。この実習を受講するにはプログラミング系科目の単位が必要です。

これらはメディア業界が必ずデジタル化すると予測して準備を進めて来たものです。ゼミでは、デジタルジャーナリズム、デジタルネット企業に対応できる人材を育成できるような実践活動も行っています。「大移動」が言われる前に、先んじることが重要ではないでしょうか。

朝日新聞未来メディアプロジェクト、1年の成果はデータジャーナリズムと双方向性

朝日新聞社マサチューセッツ工科大(MIT)メディアラボのシンポジウム「メディアが未来を変えるには~伝える技術、伝わる力~」をミッドタウンに見に行ってきました。

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昨年6月に開かれた朝日×MITメディアラボのキック的なシンポで、木村伊量社長は「誰もがジャーナリストになった」とソーシャルメディアによる大きな変化を認め、「自分たちのメディアが揺らぐような時代」「新聞社が求める人材も、取材方法も変わらなければいけない」と危機感を表明して大きなインパクトを与えました。

あれから約1年、取り組みはどう進んだのでしょうか。 会場は満席で、昨年に比べるとスーツ姿のおじさんが減り、若い人が増えている気がしました。新聞やテレビ、ウェブのニュース関係者もたくさん会場に訪れており、伝統メディアの代表格である朝日新聞の取り組みへの注目度の高さを感じました。

昨年同様、冒頭に登場した木村社長は「紙かデジタルかというのは遠い昔の光景となった。いかに読者に伝えるか、役立てて頂けるか」と語り、「未来メディアプロジェクト」の成果として4つの事例を紹介しました。トップが、ある種の成果として紹介した事例を見る事で、会社の方向性を知る事も出来ます。シンポのサブタイトル「伝える技術、伝わる力」から分かるように、データジャーナリズムへの取り組みを強調していました。

ラストダンス

データジャーナリズムを増やしている」として木村社長が最初に紹介したのが、ソチオリンピックの際に公開したウェブ特集「ラストダンス - 朝日新聞デジタル」。フィギュアスケート女子の浅田真央選手の足跡を写真、動画、データ、テキストを交えて紹介したもので、ニューヨークタイムズが取り組んだ「Snow Fall: The Avalanche at Tunnel Creek - Multimedia Feature」のものです。

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制作の様子をITmediaが記事にしています。

ハフィントンポスト

次に紹介したのがハフィントンポスト日本版の開設。月間ユニークユーザーが1000万を超えたということです。

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メディアラボの開設

3つ目はメディアラボ。グーグルグラスを使ったコンセプトアプリである朝日新聞AIR開発やベンチャー企業への投資、というイベントも行っています。

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データジャーナリズムハッカソン

最後に紹介したのがデータジャーナリズムハッカソン。シンポジウムではハッカソンのグランプリ受賞チームによるプレゼンも行われました。

木村社長は「外部のエンジニア、デザイナーの方々と本社記者が社会課題を解決した恊働した初めての例となった」「ジャーナリズムの新しい可能性を感じさせた。伝えるから解決するへと変化はもう始まっている」とコメント、引き続き外部連携していくことを表明していました。

昨年同様に「朝日新聞とMITの取り組み」についてはどうにも分かりませんでしたが、朝日新聞がチャレンジしていることは伝わってくるイベントでした。

もう一つの成果は双方向性

 冒頭で触れたように、木村社長からはデータジャーナリズムというキーワードで取り組みが紹介されましたが、もう一つの成果は双方向性でしょう。

データジャーナリズムハッカソンは朝日の記者やデスクと参加者が一緒に取り組むものでしたし、ハフィントンポストは投稿サイトです。シンポもジャーナリストの津田大介さんがツイッターから質問を拾い、登壇者に投げかける(贅沢な人の使い方!)時間が設けられ、その瞬間は客席との間が近くなったように感じました。

双方向性という点では、朝日新聞は記者のツイッター利用も積極的に進めています。

ただ、ツイッターを日常的に利用している大学生に聞いても存在感はそれほどありませんし、本紙や取材活動への参加感といったオープンジャーナリズム的な展開は少ない状況です。新しい取り組みは、本紙や本社から独立した媒体(ハフィントンポスト)や組織(メディアラボ)で行われているから出来るということでもあるのでしょう。朝日新聞としての取り組みを感じるためには、もう一歩踏み込んだ取り組みが必要なのかもしれません。