ガ島通信

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「読売見出し訴訟」判決要旨と新聞各社の報道内容

各社の見出し、報道内容を比較しておきます。

●判決要旨(読売新聞)

 【著作権侵害】

 一般的にニュース報道における記事見出しは、報道対象となる出来事などの内容を簡潔な表現で正確に読者に伝えるという性質から導かれる制約があるほか、使用できる字数にもおのずと限界があり、表現の選択の幅は広いとは言い難い。創作性を発揮する余地が比較的少ないことは否定し難く、著作物性が肯定されることは必ずしも容易ではないと考えられる。

 しかし、ニュース報道における記事見出しが、直ちに著作物性が否定されるものと即断すべきものではない。表現いかんでは、創作性を肯定し得る余地もないではないのであって、結局は各記事見出しの表現を個別具体的に検討し、創作的表現であるといえるかを判断すべきである。

 本件で主張された読売新聞のウェブサイト「ヨミウリ・オンライン(YOL)」の365個の見出しは、いずれも事件、事故などの社会的出来事、あるいは政治的・経済的出来事などを報道するニュース記事に付された記事見出しだが、個々に検討しても、いずれも各見出しの表現が著作物として保護されるための創作性を有するとはいえない。

 【不法行為

 不法行為が成立するには、必ずしも著作権など法律に定められた厳密な意味での権利が侵害された場合に限らず、法的保護に値する利益が違法に侵害された場合であれば不法行為が成立すると解すべきである。

 ネット上では大量の情報が高速度で伝達され、利用者に多大の恩恵を与えていることは周知の事実である。しかし、価値のある情報は、何ら労力を要することなく当然のようにネット上に存在するものではなく、情報を収集・処理し、これを開示する者がいるからこそ大量の情報が存在する。

 ニュース報道における情報は、報道機関による多大の労力、費用をかけた取材、原稿作成、編集、見出し作成などの一連の日々の活動があるからこそネット上の有用な情報となり得る。

 とりわけ、YOLの見出しは、読売新聞東京本社の多大の労力、費用をかけた報道機関としての一連の活動が結実したものといえること、著作権法による保護の下にあるとまでは認められないものの、相応の苦労・工夫により作成されたものであって、簡潔な表現により、それ自体から報道される事件などのニュース概要について一応の理解ができるようになっていること、YOL見出しのみでも有料での取引対象とされるなど独立した価値を有するものとして扱われている実情があることなどに照らせば、YOL見出しは法的保護に値する利益となり得るものというべきである。

 一方、デジタル社は読売新聞東京本社に無断で、営利目的で、かつ反復継続して、しかもYOL見出しが作成されてまもない情報鮮度の高い時期に、YOL見出し及びYOL記事に依拠して、特段の労力を要することもなくこれらをデッドコピー(丸写し)ないし実質的にデッドコピーして「ライントピックスサービス(LT)」見出しを作成し、自らのホームページ上のLT表示部分のみならず、2万サイト程度にも及ぶ設置登録ユーザーのホームページ上のLT表示部分に表示させるなど、実質的にLTリンク見出しを配信しており、このようなサービスが読売新聞東京本社のYOL見出しに関する業務と競合する面があることも否定できない。

 デジタル社の一連の行為は、社会的に許容される限度を超えたもので、読売新聞東京本社の法的保護に値する利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成するというべきである。

 読売新聞東京本社にはデジタル社の侵害行為で損害が生じたことが認められるが、使用料について適正な市場相場が十分に形成されていない現状では、損害の正確な額を立証することは極めて困難であるといわざるを得ず、デジタル社の侵害行為によって生じた損害額は1か月につき1万円であると認めるのが相当で、読売新聞東京本社に生じた損害額は23万7741円ということができる。

 【差し止め請求】

 一般に不法行為に対する被害者救済としては損害賠償が予定され、差し止め請求は想定されていない。本件で差し止め請求を認めるべき事情があるか検討しても、デジタル社の将来にわたる行為を差し止めなければ損害賠償では回復し得ないような深刻な事態を招来するものとは認められず、不法行為に基づく差し止め請求は理由がない。

●読売新聞 『ネット記事の見出し無断配信「違法」…初の司法判断』

 インターネット上で配信された新聞社の記事の見出し部分を無断使用し、利益を得ているのは違法として、読売新聞東京本社がインターネットサービス会社「デジタルアライアンス」(神戸市)に、2480万円の損害賠償と記事見出しの使用差し止めを求めた訴訟の控訴審判決が6日、知的財産高裁であった。
 塚原朋一裁判長は「新聞社が多大な労力をかけて作成した見出しを、無断で自己の営業に使ったのは、社会的に許容されず、不法行為に当たる」と述べ、請求を棄却した1審・東京地裁判決を変更し、約23万7700円の賠償を命じた。差し止めの請求は退けた。
 ネット上での見出しの無断使用を違法とした初の判決で、ニュース配信を巡るルールに影響を与えそうだ。
 デジタル社は、新聞社・通信社が「ヤフー」に有料配信している記事の見出しを無断利用し、「一行ニュース」として配信して広告収入を得ている。見出しをクリックすると、ヤフーのホームページに飛び記事本文が読める。
 判決はネット上のニュースについて、「多大の労力・費用をかけた取材、編集などの活動があるから有用な情報となる」と指摘。見出しも、「報道機関としての活動が結実したもので、法的保護に値する利益となりうる」と述べた。
 そのうえで、デジタル社の事業について、〈1〉見出しが作成されて間もない、情報の鮮度が高い時期に、複製利用している〈2〉営利目的で反復継続している――などの点を挙げ、「原告の法的利益を侵害している」と結論付けた。読売側の損害は月に1万円とした。
 判決は、見出しの著作権について、一般的には認められないとしたが、「表現いかんでは、創作性を肯定し得る余地もある」と述べた。
 読売新聞東京本社広報部の話「記事見出しの無断使用は違法となることを認めた初の司法判断で、インターネット上のニュース配信の指針となる意義の大きい判決と考えます」

●読売新聞(社会面) 『「ネット会社に賠償命令」この見出しも拝借…被告会社』
 ネット上での情報「ただ乗り」を違法とした6日の知財高裁判決。敗訴したインターネットサービス会社は、この判決を伝えるニュースの見出しも一時無断使用した。
 初の司法判断に、IT(情報技術)関連会社からは「我々は情報の配信元に対価を払っており、判決は当然」との声が上がる一方、「実は我が社も似たようなビジネスを考えていた」という反応もあり、情報を無料のものととらえがちな“ネット文化”の一面ものぞかせた。
 「見出し無断使用、ネット会社に賠償命令…読売逆転勝訴」。判決を速報したヨミウリ・オンラインの見出しがそっくりそのまま、敗訴した「デジタルアライアンス」(神戸市)の「一行ニュース」に流れた。
 読売新聞が問い合わせたところ、6日午後5時半ごろ、「見出し著作権裁判―デジタルアライアンス社に賠償命令―知財高裁」と別の見出しに差し替えられた。デジタル社の有本哲也社長(34)本人が考えたものだという。
 有本社長は「裁判結果をお客さんに伝える必要があり、一番早くネットに流した読売の見出しを使った。いつも通りの対応だった」と釈明。しかし、「判決を詳しく検討して今後の対応を決めなければならず、今、波風を立てるのは良くないと思った」ため、差し替えたという。
 判決にネット業界の反応は分かれた。
 大手ネット会社の担当者は、「我々の仕事は、新聞社など情報発信元に対価を支払って成立している。画像や音楽を無断でコピーして広める違法サイトの行為を考えれば、無断使用を認めない今回の判決は当然」と評価した。
 これに対し、ライブドア(東京・港区)のネットニュース事業部は、「見出しだけの使用ならグレーゾーンだと思う。凝った長い見出しならともかく、例えば『小泉退陣』程度なら問題はないのでは」と言う。
 同社は全国の地方紙やスポーツ紙の見出しを一覧できるサービスも検討しており、「判決の流れが定着すれば難しくなるかもしれない。技術に判決が追い付いていない気がする」とも語る。
 報道機関のネット配信記事を巡っては今年3月、AFP通信(フランス)が米グーグルに対し、無断でAFPの見出しを流すのは違法だなどとして、18億円超の損害賠償を求めて訴えたケースがある。
 一方、判決は、見出しを一般的には「著作物」とは認めなかった。これに対し大手化粧品会社などに勤めたベテランのコピーライターで、「たった1行で!売る」の著作がある田村仁さん(60)は「見出しは、複雑な内容を一瞬で分かりやすく伝えるもので、創作力なくして作れない。公共性あるニュースを伝える知的な著作物だ」と反論。
 その上で、「著作権が認められないと、コピーや見出しを付ける我々の努力は否定されることになる」と異議を唱えている。

●毎日新聞 『知財高裁「記事見出し、法的保護の対象」と初判断』

 インターネット上で配信した新聞記事の見出しを無断で使用し収入を得ているのは不法行為だとして、読売新聞東京本社が情報サービス会社「デジタルアライアンス」(神戸市)に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が6日、知的財産高裁(知財高裁)であった。塚原朋一裁判長は、読売側の請求を棄却した1審・東京地裁判決(04年3月)を一部変更し、記事の見出しを法的保護の対象と初判断し、不法行為を認めて23万円余の支払いをデ社側に命じた。
 判決は、見出しについて「相応の苦労・工夫により作成され、それ自体からニュースの概要について一応の理解ができ、法的保護に値する」と判断。デジタル社の行為は「営利目的で、特段の労力もなくコピーしている」と、民法上の不法行為(営業妨害)にあたると指摘した。
 読売側が主張した著作権侵害については「見出しの表現によっては創作性を肯定し得る余地もある」と、著作権成立の可能性を認めながらも「本件見出しが創作性を有するとはいえない」と退けた。不法行為に基づく無断使用の差し止め請求は認めなかった。

●時事通信『記事見出しは法的保護対象=ネット無断使用で賠償命令−著作権は認めず・知財高裁』

 ホームページ(HP)上の記事の見出しを無断で使用されたとして、読売新聞東京本社が、情報サービス会社「デジタルアライアンス」(神戸市)を相手に、差し止めと損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、知財高裁(塚原朋一裁判長)は6日、「見出しは法的保護に値する」との初判断を示した。その上で、請求棄却の1審判決を変更し、約24万円の支払いを命じた。
 塚原裁判長は「見出しは多大の労力、費用をかけた報道機関の活動の結実。それ自体有料で取引され、独自の価値を持つ」と指摘。「営利目的によるデ社の無断配信は許容の限度を超え、原告の利益を侵害する不法行為」と述べた。
 損害額は読売新聞と他の業者との契約料金を基に1カ月1万円と算定した。
 一方、読売側の著作権侵害の主張について、表現によって創造性を肯定できる余地もあるとしたが、「本件見出しには認められない」として、1審同様に侵害を否定。差し止めも認めなかった。

●朝日新聞『ネット見出し無断使用に賠償命令 著作権認めず 控訴審

 インターネット上の記事の見出しを別のサイトで無断で使われたとして、読売新聞東京本社がサイト運営会社「デジタルアライアンス」(神戸市)を相手に、計2480万円の損害賠償などを求めた訴訟の控訴審判決が6日、知財高裁であった。塚原朋一裁判長は読売側の請求を全面的に棄却した一審判決を変更。「無断かつ営利目的で見出しを使い、社会的に許される限度を越えている」としてデ社の不法行為を認め、1カ月あたり1万円、計約24万円の損害賠償を命じた。
 著作権侵害については一審同様、「訴訟で問題となった見出しには創作性がない」として認めなかった。見出しの使用差し止め請求も退けた。
 ただ、「ニュースの見出しは創作性を発揮する余地は少ないが、表現次第では創作性を認める余地がある」とも指摘した。
 塚原裁判長は「ネット上の記事の見出しは報道機関が多大な労力と費用をかけた活動が結実したもので、法的保護の対象になり得る」との初判断を示し、一定の条件のもとでは無断コピーが不法行為となると述べた。
 問題となったのは、デ社が自社サイトで電光掲示板のように流している見出し。ヤフーのサイトに読売側が提供している記事の見出しをデ社が許可なく使ったため、読売側が提訴した。
 塚原裁判長は「デ社はニュースの鮮度が高い時期に特段の労力もなく無断で複製し、反復継続して使い、読売の業務とも競合している」として不法行為の成立を認めた。