ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

プロ野球スト突入

ついにプロ野球がストに突入しました。前回に続いて既存メディアの対応と問題点を書いてみたいと思います。


やはり、まずチェックすべきは読売新聞でしょう。1面に運動部長(今の球団代表の後任者)の「夢を売るはずが…」との見出しがついた何がいいたいのかわからないムニャムニャした内容の署名原稿と「選手会がファンの声に耳をふさいだ」との編集手帳。3面でも「選手 強硬姿勢」と畳み掛け、反選手会色を鮮明に打ち出しています。社会面でも日本で一番早くスト実施を伝えたヤフーBBスタジアムでの様子を「スタンドがどよめいた」とだけ紹介。同じスタジアムでの出来事を毎日新聞は「拍手と歓声」とスト支持の横断幕を持ったブルーウエーブファンの写真を使って伝えています。朝日新聞は社説で「経営側は歩み寄れ」と読売と真っ向から対立する論調。産経新聞は「選手会長古田の2000本安打が実現できないかもしれない」「損害賠償どうなる?」と少し視点が違っていて面白いと思いました。


同じ新聞産業に身をおくものとしてやはり読売の記事の扱いには疑問がありますし、これでジャーナリズムを名乗っているのであれば(機関紙や社報だと開き直られると困るのですが…)恥ずかしい。運動部長は「プロ野球選手は夢を売る労働者のだから普通の労働者とは違う」と書いていますが、そもそも労働者に普通と普通じゃない区別があるのでしょうか? 仮にあるとして(私はないと思いますが)普通の労働者は夢を売っていないのでしょうか? 私は乗り物が大好きで将来の夢は電車の運転手かパイロットでした(頭が悪かったので無理でした…)。車掌さんに声をかけてもらったときはうれしかった。これは、野球少年がプロ野球選手に声をかけてもらって喜んでいるのとどこが違うのでしょう。世の中にあるいろいろな職業が多くの人に夢を与えていると思います。労働者を普通と普通でないに分けてしまう発想の裏には、実は記者自身が「私たちも普通と違うのだ」との思い上がった気持ちがあるのではないでしょうか?


 昨晩のフジテレビ系「すぽると」はスト支持の決起集会の様相を呈していました。テレゴングのスト圧倒的支持にファンのファクスでの激励。あのライブ感は絶対新聞では表現できません。週末でじっくりと新聞を読んでくれる人が多いにもかかわらず、今日の各紙は詳細な分析や問題点の掘り起こしにはほど遠い内容でした。合併→1or2リーグ制度→新規参入と変化してきた論点を再度確認したり、プロ野球の問題点をJリーグや海外のプロリーグと比較して検証したり、プロ野球球団の経営内容を分析したり、またプロ野球の人材供給源でもある社会人野球の現状をルポしたりと書くべき内容はたくさんあるはずです。深みのある報道ができず、「負け」が明らかな速報と上っ面をなでるだけの解説、それに啓蒙主義(選民意識)丸出しのコラムや署名原稿。新聞こそ、読者無視で世の中の流れから取り残されているのです。私の声は名もなき声ですが、少しずつでも、新聞や既存メディアを変えていくために内部で努力したいと思います。

20日追記
読売新聞の論調がさまざまなブログで盛り上がっています。(あざらしサラダさんの「♪本当にプロが書いた社説なの?」や大西宏のマーケティングエッセンスの「誰がプロ野球の危機を作ったのか」などに多くのトラックバックがあるので、興味のある人はチェックしてください)。
それにしてもこの週末の新聞各紙はろくな展開がありませんでした。17日の団体交渉の内幕を追った(暴露?)記事ばかりで、なぜ選手会がここまでこだわってストをするのか、パリーグの経営危機、プロ野球のかかえる問題は何なのか、正面から取り組んだ社はなかったように思います。

21日追記
さらに、木村剛さんのブログでも『読売新聞はさすがに社説の使い方がウマイ!:「ナベツネ新聞」と改称か?』読売問題が取り上げられています。