ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

入れ替え戦でジャーナリズムの質を高める、「ネット社会の情報と言論〜新聞ジャーナリズムの将来」(下)

新聞を取り巻く状況とネット文化とは、「ネット社会の情報と言論〜新聞ジャーナリズムの将来」(上)からの続きです。

橋場、インターネットは新聞にどんな影響を与えているのか。欧米ではどんなことが議論されているのですか。

、9月にイギリスの新聞労働組合、ドイツのジャーナリスト同盟の調査に行ってきた。誰でも情報提供者になれる時代において、プロとしてジャーナリストとして働くと言うことはどういうことなのか。フリーランス、新聞社や放送局のジャーナリストもいる。ブロガーもいる。
ジャーナリストというのは誰が決めるのか。新聞社やテレビ局は自分たちが決めたいと思っている。どこの誰か分からない人がジャーナリストというのは問題、公共的な職能としてのジャーナリズムの意識がある。とは言いながらメディア企業は別の顔があり、ジャーナリズムを追求するのが難しくなっている。
イギリスもドイツも苦しんでいる。イギリスは労働組合やジャーナリズムの発祥の地で、新聞も強い。にもかかわらず、労働組合の中でプレスという言葉があいまいになっている。フリーランスが広がっている。好きでフリーをやっている人もいるが、解雇されてフリーとしてしか活動できない人もいる。誰を職能団体に入れればいのか。
組織に属している人たち、フリー、市民ジャーナリズムが三つどもえになってきている。

橋場、ネット社会になって、誰でもジャーナリストになれる。もしくはなれる可能性があるということですね。プロとアマとどう違うのか。どこかで見ましたが、世界には6500万人のブロガーがいて、職業として食べられる人は100人だそうです。

藤代入れ替え戦をやったらいいんじゃないでしょうか。誰もが発信できるようになったが、質の高いコンテンツを作っても、ジャーナリストの才能がある人がいても、マスメディアに入れない。大学を卒業して既存の新聞社やテレビ局といった組織に入ったはずっと「ジャーナリスト」で、入れなかった人は「ジャーナリスト」ではないというのはおかしい。Jリーグのように入れ替え戦をやったらいいのではないか。Jリーグはプロになって活性化して強くなっている。競争が無ければジャーナリズムの質も上がらない。

佐々木、それいいね。Jはジャーナリズムリーグ。
実際のところ夢物語ではない。就職したらずっと新聞記者というのではなく、入れ替え可能な仕組みをつくる。普通の会社員だったのが25歳でブログに目覚めて、そのうち優秀な記者として仕事をするような人も出るかもしれない。
シリコンバレーなどでは、フリーのデザイナー、プログラマー、プロジェクトマネジャーがいて、プロジェクトごとにチームを組んで仕事をして、分配して、解散するということもある。しかしながら、調査報道は組織ジャーナリズムでないとできない。フリーのジャーナリストが5、6人集まってもお金どうするのか。

、流動化することはいいこと。入社試験に失敗した人、優秀だけれど組織に入っていない人にチャンスが生まれる。
ドイツでは、地方支局を廃止して地域で活躍しているブロガーに任せてしまうというようなことが起きている。新聞の紙面に載るのがうれしい人がいるのでお金もかからない。新聞社側からするとアウトソーシング。廉価な原稿料で紙面をつくる。そうすると紙面の質が低下してしまわないか。
うまくいけばいいが、コストカットに使われて、企業が一人勝ちするかもしれない。

橋場、ヨーロッパの新聞経営者3000人を対象にしたアンケートがあって、3年後にどうなるかという予測があるんですが、新聞記事の4割がユーザー作成コンテンツ(CGM)になるだろうと。

佐々木、調査報道や権力監視はどうするのか。権力監視は可能なのか。

橋場、これまでは新聞に印刷するまでは、ウェブには流さないという考え方が主流だったが、ウェブファーストといって特ダネをネットに載せるという流れもあります。速報競争がますます進むのか。速報が早いテレビが登場したときに新聞社が何を考えたか。速報はテレビに譲って、深い記事や解説に重点を置くべきだと検討し始めたときにネットが出てきた。これからの新聞社のあり方は。

藤代、先日、民主党の小沢代表が突然辞任会見をしましたが、各社ともにウェブに会見の全文を掲載していました。これまでになかった動き。実は、自民党は総裁選の会見をホームページにアップしていました、もちろん発信者側に都合よく切り取られている可能性はありますが、取材する対象が会見の全文掲載をやってしまったら横並びになる。本当にウェブ速報をやるべきか。
マーケティングの世界ではコモディティ化しているという言うそうですが。競争がおき始めると、あっという間に真似されてしまって売価が安くなってしまう。ネットによるマスメディアの変化は流通革命に似ているという人もいます。昔は物が買うところが近くの八百屋さんとか雑貨屋さんとかしかなかったのでそこで買っていたけれど、デパートやスーパー、コンビニもできて、どこでも物が買えるようになったら、競争が厳しくなりますね。新聞やテレビといった既存のマスメディア意外に情報を得るメディアが出てきたら、主導権がユーザーに移ります。
例えば、ユニクロは服を中国で安く作っていますが、これはさっき橋場先生がおっしゃられた紙面のアウトソーシングでしょう。服は溢れていますが、女性ならフランスやイタリアの製品を買ったりしますね、男性なら車を買われるかもしれない。車や服というのは安くて機能を果たしているものもありますが、あえて高額なベンツやBMWを買う人もいるんですね。
メディアがコモディティ化しているので、良いコンテンツを高く売りたければ、工夫して各社頑張ってやっていくしかないでしょう。

橋場、コンテンツとそれを送り出すビジネスが問題ということですね。

勝負の分かれ目〈上〉 (角川文庫)
佐々木、ロイター通信と時事通信日経新聞の争いを取り上げた、下山進の「勝負の分かれ目」という本がある(この本は読む価値ありです)。現場の人たちを描いたドラマチックなもの。
ロイターでは経済部門はジャーナリズムじゃないと言われていた。海外の特派員、戦場で報道しているのが本流。けれど、金融市場向けに経済部門の収益が高まってくると、王道の保守本流のジャーナリズムは飯が食えなくなった。メインは金融でおこぼれでジャーナリズムは飯を食っていくしかない。社会部や政治部の記者は愕然とした。
日本の新聞社はメディアグループ化して飯を食っていくしかない。テレビ局の収益をバックに、新聞を売っていく。ブランディングとして新聞を売っていく。新聞はブランディングの材料。新聞は公共事業化する。

、そうなるとこれまでプロと言われてきたジャーナリストがどういう活動をしていけばいいのか。
私たちはサラダはたくさん食べられない。サラダにはメインディッシュが必要だ。プロのジャーナリストが追求していくべきなのは、刹那的なニュースではない。また、社会を運営していくときにはいろんな考えがある、暫定的でも合意形成をしていく必要がある。もちろん、ブロガーは日本で非常に活躍しているが、私にとってはプロのジャーナリストは、情報の目利きをして、議論の場を提供していくもので、そういう機能がまだまだ必要。それは、新聞記者とかテレビにまかせるというのではなく、広い意味でプロフェッショナルなジャーナリズム。

藤代プロ野球楽天の参入や日ハムの北海度移転で盛り返しています。適切な競争が行われて、活性化していないとお客さんも面白くないので、収入が減ってしまう。けれど、プロ野球がおもしろくないからといって、プロ野球が無くてもいいという話にはならない。新聞などのマスメディアも同じです。新聞も「場」として必要。
場を活性化するためには入れ替え戦をするとして、ジャーナリズムの質を上げるためにどうすればいいか。野球はキャッチボールから始まります。プロ野球Jリーグが何をやっているかというと、野球教室やサッカー教室をやって裾野を広げている。そうすると三角形の頂点も高くなる。イチローや松坂のようにメジャーリーグで戦える選手が出てくる。ジャーナリズムも同じ。ブログで裾野は広がったので質を上げるための「教育」も必要かもしれない。これからそういった取り組みに関われればいいと思っている。
この会場にいらっしゃる皆さんも、家にパソコンをお持ちなら簡単にブログを持てます。みんな情報発信を始めてほしい。ジャーナリズムの世界に参加してほしい。