エンジニアは自己満足開発から脱却せよ「WebDB Forum 2011」での話
11月4日に「第4回Webとデータベースに関するフォーラム WebDB Forum 2011」の特別セッション2:Imagine: 日本を元気にするWeb+DBで、「ボランティア情報データベースによる被災地支援−Wiki編集からAPIによるデータ配信まで」という話をしてきました。ブログのタイトルは、このセッションで伝えたかったことです。
「オブジェクトの典型度分析とその検索への応用」「名言のための多次元感情ベクトルの生成」といった発表タイトルが並ぶところで、コードが一行も書けないド文系が何を話すのかというアウェー感が満載でした…セッションは、九州工業大学の井上さんによる司会で、Sinsai.info三浦さんも登壇。2人がそれぞれ25分プレゼンして、まとめて質疑に答えました。
時間が短いので、なぜ被災地支援に取り組んだのか、その支援とデータベースがどう関係しているのか、に絞って話をしました。以下に内容をまとめてみます。
3月15日にWikiをつかってボランティア情報を集めていましたが、被災地に渦巻くITやネットに対する不信・批判が聞こえてきます。「ソーシャルメディア?何それ」「iPadは鍋敷きだ」それはウェブの世界にいる人間にとって悔しかったことが根底にありました。
Wikiはすぐに1日1万PVを超え、アクセスは伸びていました。多くの人が被災地に対して何かをしたいという気持ちになっていたこと、有力なボランティア情報まとめサイトがなかったことから、ニコニコ動画がバナーを貼って誘導してくれたり、学生ボランティがチラシを配布しようともしました。しかし、Wikiは見に来てもらわなければなりません。さらに多くの人に使ってもらうために、データベース化してAPIで配信することを考えます。方針を決め、開発の方向を打ち合わせ、5つの記入項目しかないデータベースを一晩で開発。「面」を作ってくれる人たちを待ち続けました。
「面」をなくしたことでアクセス数の増減をエンジニアが監視する必要がなくなり、サーバー負荷も減ります(最近は簡単に負荷対策は出来ますが、お金が必要になります。ボランティアなのでお金をなるべく使いたくなかった)。また、「面」を作ってしまえばコラボレーションしづらくなると考えていました。最初に手を差し伸べてくれたのがYahoo!で、次にniftyがやってきました。
何かのキャンペーンでもユーザーに触れる部分を考えてから作ると思いますが、ボランティア情報を集めたデータベースしか持っておらず、ユーザーに触れる部分はYahoo!などのポータルサイトやアプリが担っています。なので、被災地では「Yahoo!を見てボランティアに来ました」という反応になります。メディアを作らずに、作ってもらう。この逆転の発送は広告祭「Spikes Asia 2011」のメディア部門でブロンズを受賞した理由でもあり、評価をしてもらえてありがたかったです。
開発にあたり重視したことは2つ。
まずスピード。一刻も早く被災地にボランティアを送るためです。データベースを作るというと、仕様策定に時間がかかりますが、そんなのは待っていられません。
そしてシンプル。被災地の現場では複雑なものは使わないため機能を出来る限り削り、誰もが使える簡単なものにしなければいけません。色々考えていると、つい「この機能」「あの仕組み」と膨らんで行ってしまいます。なので、データベースには技術的な難しさや新規性はほとんどありません。heroku上に組まれていることぐらいでしょうか。
司会の井上さんも「このデータベースはここにいる人の多くが作れると思いますが…」とコメントしていました。実は「そんな簡単なことはやりたくない」一緒にやっているエンジニアから言われるかと内心ヒヤヒヤしていました。
震災時には、一部のベンダーやエンジニアはウェブを使ったサービス開発がたくさん行われましたが、被災地で役に立たないサービスも多く、不信や批判は今でもあります。使えないサービスは「これを使えばいいですよ」「これを使ったらもっと便利になります」という決まり文句とともに紹介されます。もちろん知らないから使わないということもあるでしょうが、紹介してもほとんど使われないまま。その時エンジニアは「技術の便利さが理解できないリテラシーの低い人」と批判することすらあります。そこには、なぜ使わないのか、というユーザーや利用環境を見る視点が欠けています。
「WebDB Forum 2011」にはエンジニアや研究者も多く参加していたので、その批判は伝えておきたかったし、難しい技術を使ったり、単に開発しただけのサービスは自己満足であると話しました。うまく行かないのは、エンジニアだけでやろうとするからという面もあるでしょう。これは研究も同じです。
ソーシャルメディア系のサービスは、クラウドなどの環境、サービス開発の状況や、エンジニアがすべて出来てしまう時代なので、ついエンジニアだけで作ってしまいがちです。プロデューサーは面倒だし、技術に理解がなければコミュニケーションロスも大きい。研究者にも「世の中の役に立つ研究を」といったプレッシャーが高まっており、実用化へのアイデアが求められるようになっています。もちろんエンジニアも研究者もユーザーや市場をしっかり見える人もいますが、それはスーパーな人です。
ボランティア情報のプロジェクトには、ネット企業、広告代理店、PR会社、NPO関係者、学生などが参加し、ひとつの目標にむかって一つのチームとなりました。専門的な知識や人脈を生かし活動を広げ、森ビルなど企業もサポートしてくれました。「ボランティア情報で被災地を支援したい」という気持ちはあっても、自分一人ではコードも書けない。コラボレーションするためには自分の得意なところと足りないところを自覚して、足りない部分を補えるチームを作るほうが、実現に近づきます。
コラボレーションのために必要なことのひとつが信じ、託すことです。例えば「面」の話にしても、誰かが必ずデータを使ってくれる、ユーザーのインターフェイス部分は開発してくれると信じて、待つこと。とても不安ですが、信じて、任せるから人は動くと思います。
もうひとつがリスペクトで、活動のなかで、素晴らしい人たちにたくさんで会えました。やっぱり、エンジニアは凄い!と感じる瞬間に何度会ったことか。その一方で、仙台で根を張って被災地をまわっているメンバー、献身的にデータを入力する学生もとても素晴らしかった。
エンジニアや研究者はタレント(才能)なので、才能を伸ばすことが重要で、プロデューサーなどとコラボレーションすることでもっと生きるはずです。
もっと言葉は厳しかったかもしれませんがこんな話をしました。
会場からはあまり質疑もなく冷たい空気も流れていました。セッションが終わった後に先生からは「本質的な議論が出来た」と声をかけてもらいました。「エンジニアも意識を高めてデザインする側にまわらねば」「ジャーナリストも技術への理解は大切」といった話も出来ました。三浦さんとも事前打ち合わせから大いに盛り上がり、コラボレーションする仕組みやオープンソースのプロジェクトについて貴重な話が聞けたのですが、この話はまた別の機会に。
会場には若い人も多く見えたので、一人でも「何くそ、やってやる」と思ってくれたら話した意味があります。確かにプロデューサーや企画側にも技術への理解、エンジニアを下請け的に扱う人もいます。それは大いに反省しなければなりません。ただ、エンジニアの技術力や研究レベルは高い、それが使われないのが残念だし、悔しいというのは、被災地支援に取り組んだ気持ちと変わらない部分です。「もっと多くの人に使われるために」「日本から世界を目指すために」コラボレーションしていきましょう。
最後にこのセッションを実現してくれた関係者の皆さん、司会の井上さん、そして貴重な時間を割いて見に来て頂いた皆さんありがとうございました。
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