ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

KAN-FULL BLOG スタート時の広報戦略は明らかに失敗

2010年11月16-17日のツイートを再編集、参考に執筆しています

政府インターネットテレビ内の動画コーナー「KAN-FULL TV」とブログ「KAN-FULL BLOG」が開設されました。
説明によると『日本の元気を回復する「カンフル剤」となる菅内閣の政策を、みなさんにわかりやすくおとどけしたい、全力でみなさんにお伝えしたい、との菅総理の思いを込めて…』ということだそうです。
カンフルブログですが、17日にマスメディアが「開設すると発表した」と報じ、実際に見る事が出来るようになったのが18日の夕方。
朝は写真のようにIDとパスワードでの認証を求められ、見る事が出来ませんでした。「朝になったら改善されるかと思ったけど変わらず。情報管理徹底してるわ」「ファンクラブ会員でないと見られない?」「PWは38か?」などツイッターで茶化されていましが、広報戦略に明らかな失敗がありました。
まず、17日の各紙のネット版の見出しを見てみます。

  • 首相官邸がブログ開設へ 菅首相、動画で政策解説も(日経新聞
  • 菅首相:ブログを開設 動画やスタッフのコラムも掲載(毎日新聞)
  • 苦境の首相、ここにきてネット発信強化 ブログや動画(朝日新聞)

記事を読めば、動画はインターネットテレビ内、ブログは新しく開設なのですが、各紙の見出しを見た読者が「ブログが開設されるんだな。そのコンテンツに動画があるんだな」と思っても不思議ではありません。
TVとBLOGは内閣審議官となった下村健一さん(市民メディアアドバイザーなどを務めている)が担ったようですが、ツイッター(@ken1shimomura)に18日未明に

やっと始められた〜、総理の動画配信。今日のところは「政府インターネットテレビ」の3chにアップ。明日からは、菅ブログも開設し、そっちにも動画パートを確保。前にツイートした通り、「3週もかかって、これだけかよ」という内容だけど、まだ初回だからね。じわじわ下村カラー出すぜ!

とツイートしていますが、これはブログを見ようとアクセスしている人にはズレた発言と映ったでしょう。ツイッターで発信するだけでなく、情報を収集していれば、ブログ公開を急ぐ必要があることが分かったでしょうし、「お昼にはオープンです」などとメッセージを出す事でフォローも出来たはずですが、そんな様子もありませんでした。
報じる側にいるとつい忘れがちですが、そもそも報じてほしいことをマスメディアが報じてくれるとは限りませんし、読者が受け取ってくれるとも限りません。情報の伝達は「紙」だけでなく、ネットで知ればユーザーはブログを探しに行くし、テレビで報じてもモバイルで検索する人がいます。情報を知ったユーザーがどう動くのかも企業の広報担当者なら知恵を絞って考えているはずです。
グランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略 (Harvard Business School Press)
また、報道も含めてスタート時は注目度が高く、生かさない手はありません。開設予定を発表するのではなく、開設を発表したり(もしくはプレスリリースの数時間後に開設)、ロシアのメドベージェフ大統領のようにいきなりツイッターで情報発信してしまったり、という手もあったはずです。18日朝のメールマガジンで「ブログ開設しました」と告知して、ブログにアクセスを誘導するチャンスがあったのですが生かせませんでした。
どうも民主党になって政権全体が素人っぽくて心配しているのですが、このような広報では素人と言われても仕方がありません。
多くの人に情報を発信することは以前はマスメディアにしかできませんでしたが、ソーシャルメディアの登場によって状況が変わりました。にもかかわらず、マスメディア内には依然として発信こそが自分たちの特徴と考えている人がいます。今回の失敗も情報を集める、聞くことが出来ていません。マーケティングやプロモーションの世界では、話題になっている本「グランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略」では聞く事(傾聴)の大切さが説かれています。ジャーナリストやマスメディアの記者こそ、この本でソーシャルメディアによって起きた変化と、コミュニケーションについて、知っておいたほうが良いように思います。