ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

記者体験プログラム2010『インタビューでノートが取れない』

坪田さんの模擬インタビュー(参考:インタビューには頭を5分割して挑むこと)の後は、参加者が3人1組のグループとなり、事前課題を素材にして相互インタビューを行いました。

事前課題は「最近の自分に関するニュース」を説明する写真を1枚撮影して、タイトルと説明を添付のフォーマットに書き込んで印刷してくるというもの。
課題を素材に、取材相手を浮かび上がらせる記事構成案を作るのですが、相手に質問を投げかける前に、課題を見て「どうしてその写真を選んだのか」仮説を立て、質問案を作成します。
インタビューで良いコメントを引き出すためには、良い質問を投げかける必要があります。はい、や、いいえ、だけが返ってくるようでは会話が続かず終わってしまいます。いかに相手の話を聞く姿勢を見せ、話題を膨らませられる質問を投げかけることが出来るかが重要になります。
インタビュアーと受け手、観察者の3人1組でインタビューをスタート。観察者は、インタビューのよかったところ、悪かったところをフィードバックします。一通り終わるとノートに取ったメモからファクトを抜き出し、ポストイットに書き出します。それを、グループ化してタイトルをつけていきます。
この後、グループにタイトルをつけ、ストーリーにするというプログラムを予定していましたが、ファクトを書き出すのに苦戦する学生が続出。ファクトと解釈の区分けで悩んでいるのかと手元を見ると、ノートを取っている量が圧倒に少ないことに気づきました。
15分のインタビューで1ページ。2ページ以上が数人でした。書き込まれているのも、相手の印象や感想といった断片的なもの。インタビューは同時に複数のタスクをこなさなければならず、会話のテンポやスムーズなやり取りに気を取られるあまりに手元が動いていなかったのです。このまま進めても翌日の模擬取材でノートが取れないと判断し、川上さんのプログラムをストップ、観察者がノートを取る事に集中して、3人で1組の記事構成案を作ることに方針転換しました。

もちろん、ベテランになるとメモ数行でも書くことが出来るという人がいると思いますが、私は出来る限りノートを取るタイプです。これは人により違いがあると思います。なるべくその人の言葉を大事にするためと、メモ数行では自分の解釈やフレームで思い込みで書いてしまう可能性があるからです。インタビュアーが聞きたいこと、言わせたいことが聞ければ終わり、ではありません。相互作用のなかで生き物のように変化していくのがインタビューの面白さであり、難しさです(逆に言うと決め付けのインタビューは簡単)。
スイッチオンでは書くプロセスを分解して、スキルを学んでもらう取り組みを行っています。ノートをしっかり取り、そこからファクトを書き出すことで、聞けていないこと、突込みが甘いところが浮かび上がります。
事前指導で川上さんから『人が理解されたいのは「事実」ではなくて「気持ち」であること。しかし気持ちだけでは記事は書けないので、気持ちを汲みながら事実を確認して欲しい」』とのアドバイスがありましたが、ノートからファクトに一度整理することによって、気持ち(相手側の解釈と言えるでしょう)とファクトの区分もできます。
例えばある班では、インタビュイーが社会起業について「多くの企業が関心を持っている」と話したことが、議論になっていました。これでは記事に書くには不確かすぎますが、相手が言ったというのはファクトです。それは相手の社会起業への気持ちを表しているとも言えるでしょう。この場合、「どこかに調査などはありますか」「例えばどんな企業ですか」と突っ込んだり、「多くの企業が関心を持ってほしいと思っていらっしゃるというお考えですか」などと聞き直します。
発言のすべてを取る必要はありませんが、名前や所属大学といった基礎的なこと、インタビュー相手の言葉で心に響くものは、押さえておくことで記事の中身がゆたかになります。

夜になり、学生には一枚の記事が配られました。全国紙である毎読新聞代々木県版で、見出しは「落ち武者伝説で町おこし -折船村青年部が創作舞踊披露へ-」。
青年部が、村の伝説を町おこしにつなげようと取り組んでいるという内容で、村観光の現状や過去だけでなく、人口や中学校が廃校になったこと、復活したダム計画があることなどが書き込まれているものです。この記事を見ながらどのような取材を行うのか仮説を立ててもらいました。
夜8時、全国から指導者役となる記者らが到着。新聞社や通信社だけでなく、出版社、広報関係者など、業界を越えて、20代から60代まで幅広い年齢の指導者が22人が、学生と顔合わせを行いました。それぞれが一言抱負をコメントして、班に合流。記事を見ながら引き続き作戦会議です。早めに就寝するチーム、遅くまで記事から取材のきっかけを見つけようとするチーム、取材メモの取り方を再練習するチームなど、それぞれに工夫して翌日の模擬取材に備えました。
【関連エントリー】