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ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

「未来をつくる図書館-ニューヨークからの報告-」菅谷明子

未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告― (岩波新書)
アメリカンドリーム。そんな言葉がリアリティを持って感じられた図書館について書かれた本、と書くと何のことだろうと思われるかもしれません。菅谷明子さんの「未来をつくる図書館ーニューヨークからの報告ー」。タイトルを見て子供図書館のことでも書いているのだろうかと思って手にとってみたのですが、序章の「図書館で夢をかなえた人々」でいきなり裏切られました。
ゼロックスのコピー機、ポラロイドカメラフェミニズム運動のバイブル「新しい女性の創造」は図書館から生まれ、名もない市民が夢を実現するための「孵化器」の役割を果たしていると紹介されるとどうでしょうか。
この本では、ニューヨークの公共図書館は、ビジネスパーソン、芸術家、ジャーナリストといった様々な職業、女性や移民といった人々を支え、世に送り出すための社会的なインフラになっていることが、ルポによって明らかにされていきます。無名の利用者がスターになっていく、それを誇りにする図書館のスタッフ。活動のサポートのためにビジネス司書による「投資セミナ」から、読み聞かせ、料理教室まで。911の後には市民が使える地域情報をウェブサイトで提供までする。
図書館は市から土地や運営費も出ていますが、成功者や市民の寄付で施設の更新や、新たな活動が行われます。分館の半数近くは貧しい時代に図書館を使っていた鉄鋼王のカーネギーの支援によるものだそう。資金集めのため、マーケティングやブランド・メディア戦略も行い、企業や個人向けのプログラムでは寄付金額に応じて特別なイベントに参加できます。
お役所(お上)でなく、市民、個人の力によって図書館が運営され、そこで育った人が成功したら寄付やボランティアで恩返しをして、次にチャレンジする人々のインフラを整えるという、正のスパイラルが働いているのが分かります。IT業界ではシリコンバレーのVC、カフェ、人のネットワークが取り上げられることが多いですが、それが図書館でも行われているということにアメリカの底力なのでしょう。

この本に書かれているのは図書館という特定の施設ではなく、個人を生かすための知や社会のインフラであると考えると、公共施設、大学、商店街や企業にも関わってくる問題ですが、ほとんど日本には反映されていないように思います。出版されたのが2003年、8刷も出ているのに… 
何でもアメリカがいいとは言いませんが、知や社会のインフラが人々をエンパワーメントするというのは、企業や地域といった組織やコミュニティが不安定さを増している日本でも求められていることではないでしょうか。ニューヨークの図書館のような「場」が日本にない、と嘆くのではなく、どうすれば実現できるのか、もっと取り組めないか(OBIIやスイッチオンPJも取り組んでいますが、まだまだ足りません)、そんな思いを強くしました。地域の活性化やコミュニティ活動を行っている人にも読んで頂きたい本です。

とても心に残る言葉が多いのですが、参考のために序章からピックアップしておきます(序章だけでもすごくたくさんありますね)。

  • 組織から離れて活動する人々こそ社会を変えようという意識も人一倍強く、新しいアイデアで社会を活性化させる格好な人材であると感じた。こうした人たちに情報へのアクセスを保証し、「オープン・スペース」を提供する図書館は、実は非常に重要なインフラかもしれないと考えるようになった。
  • 市民ひとりひとりが持つ潜在能力を引き出し、社会を活性化させるきわめて重要な装置であることを改めて考えさせられた。「図書館がなければ、今の自分はなかった」。実感を込めてこう語る人たちに、調査中に何人出会っただろうか。
  • 個人が力をつけることが、やがては社会全体を潤すことにつながると、明確に意識されているのだ。無名の市民の潜在能力に賭け、それに対して惜しみない援助を与える前向きな姿勢と懐の深さは、アメリカの繁栄を支える大きな柱である
  • 日本でも世の中を変えようという意志を持ち、アイデア溢れる人材は決して少なくない。しかし、組織に属さず資本もない未知の才能を芽吹かせるためのシステムがまだまだ足りないのではなだろうか。