ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

「クラウド化する世界」ニコラス・G・カー

Web2.0の次はクラウドかよ」と懐疑的な人も「クラウド化する世界 -ビジネスモデル構築の大転換」を読んでおいたほうがいいでしょう。
クラウド化する世界
著者は「ITにお金を使うのは、もうおやめなさい」で知られるビジネスライターのニコラス・G・カー。
本はIT業界から嫌われているカーが、あるIT企業から誘われたランチミーティングの際に「未来」を見たというエピソードから始まり、電力会社の発展をメタファーに「商品を物理的な形態やコストから解き放った、インターネットと情報産業がもたらす新しい経済」を俯瞰的に述べていきます。
書評や感想に、評価する声だけでなく、「悲観的」「疲れた」という言葉があるのも、楽観的な未来を語るだけでなく課題も押さえているからでしょう。副題にあるビジネスの話だけでなく、社会全体の問題として読むことができます。
YouTubeを例に説明されるこの新しい経済を

生産手段は大衆の手に渡しておきながら、その共同作業の産物に対する所有権を大衆に与えないことで、ワールドワイドコンピュータは多くの人々の労働の経済的な価値を獲得して、それを少数の人々の手に集約するためのきわめて効率的なメカニズムを提供しているのである

と明確すぎる言葉で表わし『ユーチューブ経済では、誰もがタダで遊べるが、利益を得るのはごく少数だけなのだ』と書いています。
明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法 (アスキー新書 045)
これは、先日このブログで「明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法」の書評「明日の広告」に書いていないことに書いた『クリエイター、表現者にとって楽しい明日は、マスメディアにとって楽しいとは限らないのです…』と同じことです(「クラウド化する世界」には、新しい生産と消費の経済が引き起こした緊張は顕著かつ不安定に現れたメディアとして新聞業界が触れられています)。

もし、カーのレポートが的を得たものなら、企業はどこで競争するか・収益を上げるのか考えなければいけないでしょう。巨大な発電所から電気を供給する電力会社、つまりクラウドを供給する側として勝負をするのか、供給されるコンピュータを利用するのかです。ただ、「プラットフォーム戦争に参加できない日本のWeb2.0」で書いたように、すでに日本のWeb企業の多くはクラウド供給側への挑戦権を失っていますが…