ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

ソーシャルメディアでは「ストーリー」はユーザーが創る

エデルマン主催のスティーブ・ルーベル(Steve Rubel)氏のブロガーラウンドテーブル「新たな時代のデジタルトレンドとマーケティング戦略」に参加してきました。アメリカと日本で多少の状況は違いますが、これまで自分が考えていた方向性とずれていないことが確認できたのが収穫でした。キーノートとAMNの徳力さんを交えてのトークセッションと質疑も刺激的で、貴重な体験となりました。関係者の皆さんにお礼申し上げます。なお、議論はツイッター(#edelman315)で追うことが出来ます。

ルーベル氏は、最初に3つのトレンドとして、Stream(ストリーム)、Visibility(可視化)、Data(データの活用)があると提示。「技術に注目しがちだが、トレンドにフォーカスすべき」「コンテンツはマイクロ化しスナックのようになっている」「たくさんの情報があるがコンテンツをすべて把握することは難しく、人は選択をしている。それは、意識的なもの、無意識なものもある」それに対応するために、ネット上のDigital Embassy(大使館)で、情報や関心を共有し、存在感を高めようと話していました。
その際に重要なことはストーリーを複数用意すること。スターバックスのツイッター活用事例では、サービス内容や仕事募集と内容が異なる場合には、アカウントも別になっていることを紹介。メディアごと(ブログやツイッター、Youtubeなど)にも変えていく。
ブログやツイッターで複数アカウントを持って情報発信した人は分かるかもしれませんが、ひとつでバラバラのテーマを発信するより、ある特定分野の軸があればそれぞれにブログを立てて発信したほうが興味を持つ人に伝わります。
面白かったのはルーベル氏の名刺の話で、以前は会社のウェブアドレスを掲載していたが、今はツイッターやFacebookを強調しているそう。人が多いところに拠点を持ち、情報の出し方を変えていくことで存在感を高めていく。コンテンツのマイクロ化は避けられないので、ある種の軸を持ちながら、ユーザーが選択してストーリーを構築できる余地を残しておくというのは、企業ブランドや商品・サービスだけでなく人も同じ。
このような議論を聞いていると、ソーシャルメディアを活用しながら、ストーリーを発信者側がひとつに誘導するのではなく、ストーリーもユーザーが創ることが出来るように助けることが重要なのだと改めて気付きます。ユーザーは、ストーリーに参加することで欠けたピースを埋めたり、別々のストーリーつなぎ合わせたりします。
一方、マスメディアやマスマーケティングは、コンテンツが大きすぎて平板で、ストーリーもコントロールしたがります(どこの誰かわからないユーザーに新しく付け加えてほしくない、とすら思っている)。ルーベル氏からは「デジタル化が進んでおり、世界的に新聞の購読者は少なくなっていく」という話はありましたが、ストーリーの話を重ね合わせて考えてみると、紙からソーシャルメディアに単に移るだけではなく、機能として「参加型」を備えているだけでなく、コンテンツのあり方から変わらなければソーシャルメディアへの対応は難しいと、改めて考えが整理されました。
質疑では、どこが予算と権限を持つのか、組織はどうなのか、大企業がソーシャルメディアの一歩を踏み出すためにはどうしたらいいか、など実践的なものが多くありました。また、徳力さんが、アメリカではソーシャルメディアを使って市場の「声」を聴いて対応していくものが多い(カスタマーサポートなど)が、日本ではユーザーのコメント投稿で話題を盛り上げるなど企業側のプッシュ(情報を伝達する)が多いのでは、と話していたのですが、まだマス的なマインドから抜け切れていない部分があるのかもしれません。

ちなみに、ルーベル氏は、ジャーナリストからPR業界に入ったそうで、2004年に織田浩一さんが日経BPnetに連載していた「Webマーケティングの近未来」にインタビューが掲載されています(前編後編)。前編では「社員の情熱を伝えるメディア」「人間化した企業の時代(Era of Humanized Business)」といった言葉を使ってPRが変化していること、後半では、プロとアマチュアのジャーナリスト双方にアプローチを考える戦略がこれから確立していくのではと予言しています。さすがに古くなっているところもありますが、本質的なところは色あせていないので参考になります。