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ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

ソーシャルメディアを活用して取材相手の情報を集める

早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコースの「ニューズルームJ」。今年度は4人の学生と一緒にソーシャルメディアを活用した取材について学んでいます。

「ニューズルームJ」の合言葉のひとつは引きこもりです。
ジャーナリズムスクールに限らず、新聞社のOJTでも、手始めにインタビューや現場取材を行うことがあります。「現場百回」という言葉もある通り、実践は重要で、得ることも多いのですが、「やった感」が生まれてしまうという弊害もあります。
「勉強不足」「思い込みで取材しているのでは」「事前に少しは調べてからインタビューに来たらどうか」ーこのような読者や取材先からの指摘は取材相手やその周辺情報の調査不足に起因しています。
そこで、現場に出る前に、インターネットやソーシャルメディアを駆使して情報を入手し、分析することを求めています。今回は、ソーシャルメディアを活用して取材相手を調査して、仮説を立て、実際にインタビューするという取り組みを行いました。
日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が協力したAthlete Society(アスリートソサエティ)の「第7回ATHLETE DAY」で出会った、神事真規子さんにお願いして、学生達のトレーニングに協力してもらいました。

これまでの授業で取り上げた、ネットニュースの特徴、ソーシャルメディアの登場によって起きた変化、検索エンジンの使い方と仕組みを踏まえ、ソーシャルメディアや既存マスメディアの情報など、インターネットでアクセスできる情報を組み合わせて神事さんを分析します。
学生達は、検索エンジン、マスメディアの記事データベース、ツイッター(@makikojinji)、ブログ(栄養士*じんじまきこのスポ食♪)、バスケットボール女子日本リーグ機構WJBL)のサイトなどを確認、さらにツイートやブログの書き込みをツールで解析したり、選手時代の成績などから「こんな記事がつくれるのではないか」という仮説を立てます。

<仮説を立てよう>

  • 「26歳で引退!元プロバスケ選手に見る『セカンドライフ』の描き方」
    • 11歳から26歳までバスケ一筋だった神事さんにとって、26歳での引退は65歳で引退する人たちに比べても断然年齢的にも若く、現役時代も濃密だったであろうから、「次に何をしたら良いだろう」という疑問が強かったに違いない。事実、引退後、結婚し、旦那さんの知人の栄養学の先生と出会ってから、現在の栄養士という生き方を発見した。引退から栄養士という目標設定までの期間にされたであろう葛藤について、お話を聞きたい。
  • 「栄養士の挑戦〜野村イズムに学ぶ〜」
    • ツイッターに野村監督の言葉を引用していることに注目。マネジメントの本として多くの読者から読まれた野村監督の『野村ノート』。栄養士を目指す元女子プロバスケットボール選手・神事さんはこの本からなにを感じ、学んで今後の人生にどう生かすのか。彼女のセカンドライフを考えることで、マネジメントに興味がある方、栄養士で独立しようと考えている読者に興味がある記事が書けるのでは。

といった感じです。ここで大切な事は、柔軟に仮説を構築することです。

<実際に確認する>
授業に神事さんがいらっしゃって、どうなったか。学生と神事さんとのやり取りを少し紹介すると…

Q、(学生)引退について教えてください
A、(神事さん)普通の女の子に戻りたかった。バスケットに戻りたいと思わなかった。ボールも握らなかった。
Q、なぜ、ボールを握らないとまで
A、単純にもういやだった。バスケットの山本真規子は卒業したかった。名門高校出身、WJBL選手、と言われるけれど「あなた私のことしらないでしょ?」と。
Q、普通の女の子とは
A、バスケットをやっている間はずっと寮生活だった。門限は11時で拘束されている。越境で入った高校は学校の敷地に体育館があって、その横に寮があって、近くのファミマに行くぐらい。
Q、失礼かもしれませんが選手としてそれほどすごい成績を収めているという訳ではないと思いますが
A、指摘の通り成績を収めているわけでない、いいプレイヤーじゃないのにという気持ちはあったと思います。新しい道に進む気力がなくてOLを5年間してました。
Q、野村さんの格言について
A、大好きではないけど好きぐらいかな…
Q、マネジメント生かすとかは
A、ただ好きなだけで…
Q、…

引退というのはスポーツ選手に限らず大きな出来事なので、何らかのエピソードがあります。神事さんからは、名門高校出身やWJBLの選手といった世間の評価と自分のズレによる葛藤を聞くことができました。特に、WJBLのサイトで選手時代の成績を確認して考えた質問は、引退と密接に関係していました。一方で野村監督の格言については、特に意識的なものでなかったということも分かりました。この質問を考えた学生は頭が真っ白になって次の質問が続けられないようでしたが…
ここで大切なことは仮説というのは間違えることもあるし、とらわれてしまってはいけないということなのです。仮説が当たりすぎている時は要注意ということもあります。
取材相手は緊張して、本心では違うと思っていても、記者の質問にうなづいてしまったり、言葉が出ずに流してしまったり、ということもあるからです。仮説が当たったと喜ぶのではなく、相手の微妙な表情や言葉をよく聞いておくのが重要です。仮説をそのまま当てはめた取材は強引で、取材相手からの不信感にも繋がります。仮説を柔軟に変化させつつ、ニュースのある記事を書いて行くスキルが求められます。
神事さんからは、バスケットのこと、人生の転機である引退、いま取り組んでいる栄養士のことなど、色々なエピソードが聞けました。学生は800字の原稿にまとめますので、出来上がったらブログで紹介します。
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