ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

プロ野球選手会ストライキについて

今回は、プロ野球選手会のストライキについてです。


個人的には、きゆら工房なにげコラムではっちゃんさんが書いていらっしゃるのと同じような気持ちです。付け加えるとすれば、経営者側は「近鉄球団は赤字で大変」とか「赤字の原因は高給取りの選手だ」などと主張しているけれども、「細かな経営状態はまったく説明していない」(選手会の松原事務局長がどこかで言ってた)ということ。確かに、ニュースを見ても赤字の理由が定かでないし、近鉄球団のホームページを見ても、財務状況などははまったく書かれていない(当たり前?)。にもかかわらず合併を推進し、選手会との交渉のテーブルにもつかず「選手風情」を門前払いにするのなら、ストもやむなしかなと思う。その上ストをすると決めると「損害賠償するぞ!」って脅しをかけるなんて…。


そこで新聞!(ようやく本題ですが)このスト問題を扱った7日の新聞各紙は結構論調が異なっていました。当事者である読売は「法的根拠見解に溝」と選手会が労組なのか個人事業主なのかを議論するという重箱の隅をつつくような内容。ストの根本原因から目をそらせている気が…。むろん、東京本社の運動部長だった人が巨人の球団代表になってるんだから球団寄りは仕方なしなのだろうけど。軸足を球団に置くとしても、もう少しうまく書けなかったのかと思ってしまいました(ホント余計なお世話)。朝日と毎日は日本マスコミの「客観報道」(この手の問題もいずれ書いていきたいと思っています)の王道。選手会に軸足を置きつつ、社会面のファンの声では「賛否両論」を紹介してバランスを取っています。ですが、見出しを見ると微妙なスタンスの違いが明らかに。朝日は時時刻刻で「温度差超え選手結束」ですが、毎日は社会面で「選手会にも温度差」。独自路線を展開する産経は「議論の末苦渋の決断」「ファンスト支持相次ぐ」と一歩踏み込んだ見出し。単純にはいえませんが、あえて単純な図式にするなら球団側が読売、中立でやや球団側が毎日、そして朝日、産経となるにつれ選手支持の色が濃くなっているようです。


それから、記者が署名で書く解説もおもしろかった。産経の佐藤記者は、巨人戦の視聴率がアテネの影響で悪かったことにも触れながら「ストはリスクが高い」「実際にストが行われた場合、ファンがどのような反応を示すか読みきれない」と現状を正直に書いているのに対し、毎日の冨重記者は、「本当に他に方法はなかったのか」「スト回避のための話し合いを」と書いた上に「近鉄の選手全員が年俸交渉で代理人を使い、コミッショナー調停に持ち込めばNPBはお手上げだ」とかなりピントのずれた指摘。選手の年俸交渉が行われるのはシーズン後、近鉄選手は球団の合併反対を主張しているのだから、そのころ合併の終わった新球団と闘争したところでタイミングずれてるし、無意味なのでは? そんな寒いアイデアを提示していながら「あらゆる方法を考え抜いた結果がストなのだろうか」なんて偉そうに言われてもね。経営者がテーブルにつかないから選手会も「苦渋の決断」をしなきゃならないのであって、ここで選手会を責めるのはお門違いな気がします。経営側と選手会双方を見下ろしつつ、何か言わなきゃ、提言をしなきゃというムードが文章から匂っています。この方も、知らず知らずのうちに共同ブログ問題で説明したような、啓蒙主義的な記者になってしまっているのでしょう。


このスト問題のそもそもの発端は近鉄とオリックスの合併だったはず。その根拠が「赤字で大変」だとすれば、新聞各社は「赤字の根拠を示せ」と書くべきだと思います。もしくは、近鉄球団の財務状況をすっぱ抜くとか。何に、いくら使っているかわからないのに、やれ合併だ、二リーグだって言ってても、赤字を生む構造が改革されない限り、同じ問題が繰り広げられるのではないでしょうか?