ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

なぜ口コミは大切なのか。食べログ問題をきっかけに考える

食べログを舞台にした不正について日本経済新聞電子版の連載「ソーシャルメディアの歩き方」に「食べログ」だけではない ネットでやらせがはびこる理由という記事を書きました。

Web刊のトップとして取り上げて頂き、7日のアクセスランキング総合2位とたくさんの方に読んで頂きました。ありがとうございます。

ネットで色々な反応がありました。改めてブログでも、なぜ口コミが大切なのか、そしてジャーナリストなのに口コミマーケティングに関わっているのか書いておきたいと思います。

  • 口コミなんて自分に関係ない?

何気ないツイートやブログ記事へのソーシャルブックマークのコメント、コミュニティへの書き込み、そしてリアルな会話も口コミです。

  • みんな口コミを参考にしている(はず)

「今日の飲み会の店は食べログで評価高いとこ選んだよ」「アマゾンですごく話題の本なんだ」という会話だったり、評価が低いから買うのをやめる、宿泊を別のところにする。といったような行動だったり。「あの人どんな人」という質問だったり。

  • 口コミは便利!

つまり口コミは行動の参考です。たくさんのお店や商品、サービスがあって、迷ったとき、知らない地域に行って何かを食べたるとき、情報があると便利です。行動の結果、口に合わなかったり、面白くない本だったり、といった最終的な評価はそれぞれの判断です。

  • なんで口コミが参考になるのか

実際に利用した人の生の声という前提だから。広告だったらいい事しか書いてなくて当たり前。正直な感想があるから、自分が利用したり、購入したり、するときの参考になるのです。

  • ネットの情報は疑うのが前提?

ネット以外のメディアも100%信用するというのは問題ですが、ウソ前提になると、あらゆる情報を確認する必要があります。それは時間も手間もかかり、ツールとしての便利さが失われてしまいます(ネットの情報は疑うのが前提という発言をしている人は、あらゆる情報を確認しているんですよね…)。それに、ネットの口コミが信用できないということは、自分が何かネットで発言していることも信用されない、やらせかもしれないと思われるということでもあります。そんなコミュニケーションは悲しい。

  • いい情報をシェアしていこう!

私たちがいいと思った情報をシェアする。これはとても大事なことです。でも、その情報は他の人が見たときに嘘なのか本当なのか分からないのです。もし「ネットの情報は疑うのが前提」だとすれば、いくら本心からシェアしても疑われます。「このおいしさを友達に知らせたい」と思った書き込みが、ステルスマーケティングと疑われたら… 逆に友達の言うことなら100%信用してしまう、というならそれも問題です。

  • テレビの「やらせ」はどうなる

テレビはテレビ局のメディアなので、やらせや偏った報道を繰り返していると信頼を失い、ビジネスが成り立たなくなります。メディアやジャーナリズムの観点からは問題がありますが、視聴者からすれば信用できないなら見なくてもいいという選択肢があります。マスメディアのやらせが批判されるのは、実は「だいたいは間違っていない」という行動の参考になる情報減として期待しているからではないでしょうか。マスメディアも口コミも、大事な事はだいたい信用できる(何度もいいますが絶対信用できるというのではありません)という状態は便利です。

  • お金を払ったら広告と表記すればいい

その通りです。ただ、つい先日アメリカで起きたGoogleの騒動を見ると、そう簡単ではありません(参考:Chromeのキャンペーン中にGoogle自身が有料リンクの禁止に違反した疑惑を巡る教訓TechCrunch)。記事を読むとGoogleは広告を買ったが、ブロガーが有料記事と書かなかったようです。いくら広告主や口コミ事業者が誠実に取り組んでも、発信者が守らなければ崩れてしまうということです。

  • ウソを書き込めば自分もウソを読まされる

ブログイベントやアフィリエイトプログラムに参加した場合。もしくは口コミを期待されて何らかのサービスを受けた場合(例えば、フェイスブックに書いてくれるならデザートサービスとか、ポイントキャンペーンとか)、そいて会社の業務で取り組んでいるのに、それを表明せずに新サービスやキャンペーンを紹介した場合。読者が見て分かるように明確に、一般的な記事と、お金や物、サービスを受けた場合を分けているでしょうか。さらには、不正書き込みのアルバイトをしているという学生もいました。ネットに嘘を書き込むということは、巡り巡って自分も嘘を読まされるということになります。

  • 大事なのは関係性が分かる事

WOMJのマーケティングガイドラインは、「原則として金銭、物品、サービスの提供とする」としています。そもそも、物品やサービスと引き換えに情報発信を強制したものは口コミではありませんが、いくら自由に書くという任意性が確保されているとしても過度な物品やサービスの提供が行われた場合は「情報発信せざるを得ない」ということもあり自発性が疑われかません。そこで、依頼者と被依頼者の関係を示すことで、消費者が判断できるようにしています。

  • 法律で規制すればいいのか

悪質な不正には業務妨害や名誉毀損といった法律で対応し、刑事事件にすることも可能です。景品表示法薬事法といった関連法令もあり、現状の法律で対応可能です。必要以上に行政に期待するというのは、自由を自ら狭めてしまうことにつながります。行政に頼る前に、まずは自分たちが取り組むべきです。

  • ジャーナリズムと何の関係があるのか?

ジャーナリズムにおいても信頼というのは大きな前提です。よくあるマスメディア批判に、記者クラブがあります。政治や官僚、大企業との癒着(ネットの場合は特定の国とかもある)もあります。これも関係性の問題です。権力と非常に近い関係にあるのに、客観報道や市民の立場を強調することが信頼を失うことになるのです。広告と記事の分離(編集権の独立)も信頼に重要な役割を果たしています。実は口コミの信頼も同じ構造があると考えています。

  • 情報発信する人々もジャーナリスト

ブログが広がった時期から、人々の情報発信こそがジャーナリズムの基本(日々の記録としてのジャーナリズム)があると個人的に考えています。情報発信する人々もジャーナリストである、という考えには議論も異論もあるでしょう。ですが、多くの人々に情報発信できる存在が既存マスメディアに限られていた時代と違い、いまはソーシャルメディアがあります。情報発信の責任を既存マスメディアだけに押し付けるのではなく、自分たちも担っていくことで、社会の問題や課題を解決が進むはずです。

  • 最後に

記事にも書きましたが、ソーシャルメディアの時代、発信者は受信者となり、受信者は発信者となります。便利さを享受し、自らが参考にしている情報を、自らの手で参考にならないものに「汚して」しまうと困るのは自分たちです。事業者の取り組みや倫理、システム、行政や制度、それぞれのリテラシーなど、様々な面から取り組みを進める必要があります。自由で便利なネット空間になるような取り組みを今後も続けていきたいと思います。

  • お知らせ

WOMJでは16日に会員向けにマーケティングガイドラインと消費者庁の担当者を招いた説明会を行います。また口コミに関連するシンポジウムも行おうと話し合いを進めています。
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