ガ島通信

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「風の人を取材して」『地域ではたらく「風の人」という新しい選択』地方出版文化功労賞のゼミ生挨拶

地方出版物を応援する第29回地方出版文化功労賞と第2回島根本大賞のW受賞に輝いた『地域ではたらく『風の人』という新しい選択』(田中輝美、法政大社会学部メディア社会学科藤代裕之研究室)。2016年10月22日に鳥取県米子市立図書館で行われた授賞式でのゼミ生の挨拶です。「とても良かった」と会場でも多くの方から声をかけて頂きました。

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タイトル:風の人を取材して

こんにちは。 藤代ゼミ二期生の坂井友紀と申します。今年の3月に法政大学を卒業し、今は社会人一年目として、営業の仕事をしております。 今回は、執筆直後とこの賞の受賞をきっかけに読みなおしたときの本の印象が全然違うことに衝撃を受けたので、そのことについてお話したいと思います。

まず、今回受賞させていただいた、『地域で働く「風の人」という新しい選択』の内容は、島根県で活躍している8人に私たち藤代ゼミ生と田中輝美さんが取材をし、その人の生い立ちや現在の風の人としての活動について、を綴った本です。 私は、劇団ハタチ族の「西藤将人」さんを取材させてもらいました。

取材の際、西藤さんは手をポケットに入れて歩いちゃうような、偉そうな雰囲気の方でしたが、私の稚拙な質問に対して真剣に考え、自分の当時の想いや考えを一生懸命思い出しながら、真摯に、言葉を紡ぎだしてくれました。

演劇から離れたり復帰したり、フランス料理人になろうとしてやめたり、何度もフェードアウトしても、何度も自分と向き合い、今は、「雲南を演劇テーマパークにしたい」という明確な夢を持って実際に行動に移している西藤さんを私はうらやましく思いました。

そんな西藤さんを含む、8名をゼミ生が取材し、完成したこの本ですが、当時読んだ私は、お疲れ様!という感想で、正直読者としては読めていませんでした。 本の内容よりも、きちんと本が完成したことに対する「良かった」の気持ちの方が大きかったです。実際、この本を作るのはとても大変で、ゼミ生はとてもすり減っていましたし、力を使い果たしてしまった人も多かったです。

私も急遽「風の人」の本の取材、執筆に関わることとなり、急遽というのは、私が当時大学4年生だった時、この風の人の本の作成を進めていたのは3年生だったのですが、西藤さんの記事をかける人がいなくなってしまい、私が応援として関わらせていただくこととなった、という経緯からです。 そんな切羽詰まった環境の前で本を文章を読んでも自分の中に染みてきませんでした。

読者として読めなかった理由としてもう一つあると思っておりまして、私自身、北海道で生まれたものの、本当に生まれただけで、幼稚園時代は宮城県、小学生から今に至るまでは東京で過ごしており、15年以上は東京で育ったためか、地域ということを意識したことがほとんどなく、興味もなかったのです。

地方と東京の違いを初めて感じたのは、大学生になってからで、地方出身の人の方言を聞いたり、環境の違いを聞いたり、「茨城でも、グルメ番組は表参道のパンケーキとか紹介してるんだよ」と言われて驚いたり。ちょっと頑張れば行けるところを紹介しているのがグルメ番組なのだとばっかり思っていたので、驚いたり。地方を意識したことがなかったために、知らないことばかりでした。

じゃあ藤代ゼミに入ったのは地域に興味があったからなのかというと、そういうわけでもなく「大学で充実した生活が送りたい。そのためにきちんとした先生のところで学びたい」という想いからでした。この二つの理由、本の作成に切羽詰まっていたこと、私がほとんど東京育ちであることから、「本が完成してよかった、お疲れ様。」という感想になったのだろうと思います。

ですが、今回受賞にあたり、改めて社会人になって、完全に読者として読むと、通勤中、涙がにじむほど、感動しました。 まだ数か月しか働いてはいませんが、「実際に東京で働いてみて、どうだ。働く場所は東京だけじゃないぞ」 と選択肢を与えられ、 「このままでいいのか?」 と問い直され、飛び出そうか、ともじもじする心を後押しされたような気持ちになりました。

だからと言って、まだ社会人1年目でひょっこりやめるのも癪なのでまだ会社は辞めません。自分の仕事と向き合って、自分自身とも向き合って、チャンスがきたら逃さないために、少しずつ行動力を養っていこうと思います。でも、チャンスは逃しちゃいけない、逃さないための準備を着々としなければいけない、やりたいことはいろんな場所でできるんだと思わされました。

この風の人から「後押し」をされる気持ちは風の人全員に共通する「行動力」から生まれたものだと私は思います。 一歩踏み出し、行動する。風の人たちの生きざまが「背中を押してくれる感覚」をきっと作っています。 私が西藤さんに抱いていたうらやましい、という気持ちも西藤さんが持つ行動力に対してだったんだ、と今なら思います。

この本を読んだ人はきっと、「風の人なんて特別だ」という気持ちではなく、自分も風の人になりたい、なれる、とそう思えるはずです。地域に興味がなくても少し地域に興味がわいてくる、何か漠然とやりたいと思っている人の一歩を後押ししてくれる、まさにのちの自分、今の私、がターゲットとなるような本に関われたことをとてもうれしく思います。

代ゼミ生、藤代先生、田中輝美さん、ありがとうございました。

地域ではたらく「風の人」という新しい選択

地域ではたらく「風の人」という新しい選択