ガ島通信

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サボテンが真田丸とつながる?法政メ社「観客参加型ドラマ」設計ワークショップ

法政大学社会学部メディア社会学科(メ社)の 「設計」コースでは、2年生を対象にした1日ワークショップ「観客参加型ドラマの設計」を行いました。

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ソーシャル時代に求められるメディア「設計」

メ社では、2018年度から新カリキュラムに移行し、「表現」「分析」「設計」の3つのコース制となり、2年次から各コースに別れて学びます。表現や分析は分かりやすいのですが、「設計」というのは何だか説明してもよく分からない。では、体験してもらおうということで、4人の教員*1が協力してワークショップを行うことになりました。

マスメディア時代は、テレビ局や新聞社が伝えるコンテンツは完パケ(完全パッケージ)で、視聴者や読者はそれを楽しむだけでした。情報過多な現状は「良いコンテンツを作れば見てくれる」ほど甘い状況ではありません。

  • 多様な媒体や空間、イベントといった多様なメディアを利用し、伝わるように工夫する必要があります。
  • ソーシャルメディア時代となり、誰もが発信者となったことで、人々に参加を促す仕掛けづくりが求められるようになっています。

これらを踏まえてメディア「設計」を考えるのが「設計」コースです。

ゲストは「新選組」「真田丸」などの演出やプロデュースを手がけたNHK放送文化研究所吉川邦夫さん。ソーシャルメディアで話題となり、多くのファンをつくった「真田丸」のチーフプロデューサー吉川さん以上の適任者はいるでしょうか。

ワークショップの目的を、観客参加型のドラマの設計作業を通して、表現の面白さ、奥深さを知る。到達目標を、コースに参加したばかりの2年生が、自身で表現したいテーマを発見する、と設定しました。

無茶ぶり!地元と真田丸の「交点」をつくる

ワークショップの下敷きになったのは、NHK宇都宮局開局75周年記念で制作された朗読劇「コミチャン!」。小山市にあるケーブルテレビ局にアナウンサー志望の新人(小栗さくらさん)が入ってくることで、ベテランプロデューサー(栗原英雄さん=)とディレクター(村上新悟さん)の心が動かされ、地元とローカルメディアの役割に向き合うというストーリー*2

学生には、地域を選び、その地域に関わる何かを取り上げ、ストーリーにするという大枠を提示。その上で、1.上演場所、2.キャスト(真田丸から3名を選ぶ)、3.真田丸と「地域」の交点、4.観客が参加する仕掛け、の4つを「設計」し、表現を広く(誰がみても面白い)、深い(ファンがみるとより面白い)、表現を目指してほしいと伝えます。

ガイダンスでは、演出依頼を受けた吉川さんが、千人入る市民ホールから小山駅前のアートスクール内の300人のホールに変更した、などの事実を説明しますが、「設計」の意図は説明しません。学生は、事前視聴が予習となっていた「真田丸」、「コミチャン!」のウェブサイトなどを頼りに、進めるしかありません。どうみても無茶ぶり…

3人1組となった学生は、自己紹介をしてそれぞれの出身地や住んでいる地域について調べていきます。5つのグループが選んだ地元は「札幌」「福岡」「蒲田」「品川」「春日井市」。「春日井市?」「クレヨンしんちゃん?」「それは春日部です」といったやり取りが行われるほど、知られてない場所を選んだチームを心配する教員たち。

各チームお昼を食べながら議論を続け、いよいよ企画発表です(ナレ進)。

企画発表では、チームの考えを軸に学生、吉川さん、教員が、アドバイスやより面白く設計するためのアイデア出しを行います。

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サボテンと真田丸でラブコメ

春日井市チームが選んだのは市の名物サボテン。実は同市のサボテンは国内シェア8割を占める名物なのです。台風で打撃を受けてサボテン栽培を始めた果樹園農家の父に草刈正雄さん、サボテン園を託されて市の職員を辞めて跡継ぎになる堺雅人さん、その幼馴染に長澤まさみさん*3

サボテンという意外性、市民参加イベントも考えられており、反応は上々。「たんに長澤さんを起用したいだけでは?」という指摘にも、台湾のサボテンかき氷が食べたいと長澤さんがコメントしているニュース記事を提示して、何とかつながりを説明します。

春日井市では、小学校の給食にサボテン料理が出たり、イベントで展示があったり、するものの自宅で食べることは少なく、まずは地元から広げたいというチームの意見に、「サボテンを食べるのをタピオカの次のブームにできる」と盛り上がるものの、普通の地域振興物語になって内輪化し、多くの人に興味を持ってもらえないのではという疑問が…

重苦しい雰囲気になりかけた時、「コミチャン!」を企画した担当者から「恋愛物語はどうか」との一言が飛び出して、アイデア出しが加速。「自宅に来た堺さんが、実はサボテンが大嫌いで、気持ち悪いと思わず言ってしまい、お父さんに怒られるとかどうか」「食べてもらうために長澤さんが、サボテンかき氷を開発する」など、生き生きとしたストーリー像が見え始めます。

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交通の要所品川駅を沼田城と見立てる

品川チームのストーリーは、23区が駅や観光スポットを取り合う状況となり、品川区は港区に取られた品川駅を取り戻そうとし、目黒区は目黒駅を取り戻そうと抗争を繰り広げるが、連合して都庁を擁する新宿区を倒そうとなる、というもの。配役を、品川区に堺さん、港区に高嶋政伸さん、目黒区に内野聖陽さん*4で、交通の要所である品川駅を沼田城と見立て、沼田裁定をモチーフにしたもの。上映は品川区内を走るタクシーの液晶画面。

さっそく学生から「擬人化なのか、区長なのかどちらか」という質問が飛びます。吉川さんが「最初は擬人化なのかなと思ったら、東京再編時にどの区が天下を取れるかのリーダー話という作り方もあるのでは」とアドバイス。「ボードゲームのイメージ。モノポリのようなゲームをやりながら、船の博物館はそちらに、いやいや、我々は駅を頂きたい」と映像シーンにまで話が膨らんでいきます。

「雇われ区長が必死になって交渉したら、クーデターが起こってしまうとか」「多摩地区も参戦だ!」「駅に人格があって、品川駅を港区が誘ったというのはどうか」。弱かった、4.観客が参加する仕掛けについても、「Ingressのようなゲームと連動し、毎週勢力図が変化するというのはどうか。視聴者が参加しないと自分の区が負ける」というアイデアが出て大盛り上がり。

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実は品川チームは、品川宿や鉄道の話を調べるもののストーリー化に苦戦していたのですが、「品川駅や高層ビルは実は港区だが、品川区と勘違いしてもらっていてよい」という話から、街を示す言葉と実際のエリアのズレに着目し、戦国時代の領土拡大につなげたことが良かったのでしょう。

真田丸から考えるのではなく、地域の魅力こそ重要

一方で、真田丸ありきで地域の何かを結びつけようと苦戦したチームもあり、吉川さんからは「この時点ではうまくいかなくても、もっと調べたり、考えたり、すれば何か引っかかる。諦めずに取り組んでほしい」とフォローがありました。ドラマやアニメなどのコンテンツによる、地域への集客効果は一過性に終わりがちです。武者行列などが行われる上田真田まつりは、真田丸の放送後も10万人以上の来場者が続き、「真田丸のファンが上田の良さに気づいてリピートする。上田の皆さんの努力のたまもの」と吉川さんは言います。

目標である、表現を広く(誰がみても面白い)、深い(ファンがみるとより面白い)は、真田丸や俳優のファンが真田丸ネタを目当てに地域にやってきて、普遍的な魅力に触れてその地域のファンになってもらうことを設計することでもあり、地域の内輪受けにとどまらず、地域の人たちが真田丸ファンになることを設計することでもあります。自分が面白いと思っているものを、多くの人にも面白いと思ってもらうことが「交点」の設計と言えるでしょう。

そして、観客の参加は、地域の人々の何気ない疑問や日常と思っていたものの意外性から生まれてくるもので、メディアやアプリはツールであり、メディア設計の本質ではありません。

午前中に始まったワークショップは時間を超えて、白熱した議論が繰り広げられ、終わる頃にはすっかり日が暮れていました。刺激を受けた何人かの学生は、残って吉川さんと立ち話していました。充実したような、悔しそうな、表情が入り混じった学生たちは「とても頭を使って疲れました」と笑顔で帰宅していきました。手伝ってくれたゼミ生たちと夕食を食べながら振り返りをして、さらに盛り上がったのでした。

この記事でメ社「設計」コースが目指す方向性を知って頂けるとありがたいですし、Google News Labの講座、設計ワークショップに引き続き、ワクワクする面白い取り組みを仕掛けていきますので、楽しみにしておいてください。吉川さんありがとうございました。教員、ゼミ生もお疲れ様でした。

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*1:ネットワークと組織の宇野斉さん、デジタル情報環境の土橋臣吾さん、今年度から加わったヒューマンインターフェース・インタラクションの橋爪絢子さん、ソーシャルメディア論の藤代

*2:栗原さんは真田信尹役、村上さんは直江兼続役。ナゾの重要キャラクターとして小山田茂誠役を演じた高木渉さんも出演。脚本は河原綱家役の大野泰広さん

*3:草刈さんは真田昌幸役、堺さんは真田信繁役、長澤さんは信繁の幼馴染きり役

*4:高嶋さんは北条氏政役、内野さんは徳川家康