ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

ジャーナリズムの自殺、民主党の「公約」破り・記者クラブ開放問題を書かない既存メディア

インターネットでは話題ですが、新聞やテレビ(CSは別)を見ているだけの人は、ほとんど知ることがないだろう、むしろ誤解されて理解されるだろうと思われるのが、政権発足でいきなりの「公約」破りとなった記者クラブ開放問題です。民主党鳩山由紀夫代表が、以前の記者会見で「私が政権を取って官邸に入った場合、上杉さんにもオープンでございますので、どうぞお入りいただきたい」などと話していたにも関わらず、一部雑誌記者を除き、結局フリージャーナリストやネットメディアには開放されませんでした。

しかし、既存メディアの手にかかると「雑誌記者ら初めて参加 民主が首相会見オープン化」(共同通信)となってしまいます…

鳩山由紀夫首相が16日に官邸で行った就任記者会見に、初めて雑誌記者らが参加した。民主党側が「よりオープンな会見を行いたい」と申し入れ、内閣記者会も受け入れた。

一方、ネットでは、「新聞が書かない民主党の「公約破り」」(週刊朝日山口一臣編集長のブログ)となります。

歴代民主党代表が約束してきた「政府会見を記者クラブ以外のメディアにも開放する」という方針が一部メディアの圧力と党内守旧派によって握りつぶされたという事実である。
既得権メディアの意を受けた党内抵抗勢力の中心が、藤井裕久@新財務相平野博文@新官房長官だった。とくに平野氏は官房長官として内閣記者会とのパイプ役となる立場だけに、取り巻きの記者に対して「『記者クラブ開放』は俺がツブす」と息巻いていたという。

記事は会見前(10時42分)にアップされたものですが、会見の生放送を行おうとしたTHEJOURNALによると開放は実現されず、「どうぞお入りいただきたい」と言われていた、フリージャーナリストの上杉隆氏、ビデオジャーナリストの神保哲生氏は会見に参加することが出来なかったとのこと。
経緯については、ジャーナリスト上杉隆氏のダイヤモンドオンラインでの記事「鳩山新政権は記者クラブ開放という歴史的な一歩を踏み出せるか」に書いてあります。
これらを見てから、共同の「オープン化」の記事を読むと、いかに白々しく、既存メディアに都合のいい「事実」を書いているかが明らかになります。問題を書かないというより、誤報といっても良いぐらいです。この記事を書いた記者は、恥ずかしいと思わないのでしょうか。

ただ、既存メディアが記者クラブ問題を書かなくても、ネットを見ていれば輪郭は見えてきます。PJニュース民主党に取材を行い「民主党が「記者クラブ問題」で取材拒否、記者クラブ解放はウソか」、J-CASTニュースは、「首相会見の出席枠拡大 民主党が記者クラブに申し入れ」で記者クラブに取材をしています。残念なことですが、もはやネットを見なければニュースを立体的に見ることは難しくなっています。
J-CASTニュース記事によると記者クラブの幹事社である共同通信社

民主党の方からはインターネットメディアに関する要望はありませんでした。首相会見に記者クラブ以外の媒体社が出席できるようにするには、規約を変えなくてはなりません。今回は特例としますが、引き続き協議を続けていく予定です。

と答えたとのことですが、今回の会見には雑誌記者が参加しているわけなので規約云々はおかしな話です。
日本新聞協会の「記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解」によると、市民からの情報発信に対しても、記者クラブは開かれていますとも書いている上で

記者クラブが主催して行うものの一つに、記者会見があります。公的機関が主催する会見を一律に否定するものではないが、運営などが公的機関の一方的判断によって左右されてしまう危険性をはらんでいます。その意味で、記者会見を記者クラブが主催するのは重要なことです。記者クラブは国民の知る権利に応えるために、記者会見を取材の場として積極的に活用すべきです。
記者会見参加者をクラブの構成員に一律に限定するのは適当ではありません。より開かれた会見を、それぞれの記者クラブの実情に合わせて追求していくべきです。公的機関が主催する会見は、当然のことながら、報道に携わる者すべてに開かれたものであるべきです。

とも書かれています。
見解には、記者クラブは国民の知る権利に答えるために、公的機関が主催するよりもクラブが主催したほうがいいと書かれていますが、実態は記者クラブが国民の知る権利の行使のネックになっているということです。政党から依頼がなければ開放を検討しないような体たらくぶりなら、公的機関がやるほうがマシなのではないかと思えてきます(これは危険な考えですが…)。

新閣僚の記者会見がNHKで生放送されていましたが、職員から何度も「恐れ入りますが、発言する際には会社名とお名前をお願いします」と言われているにもかかわらず、ほとんどの人が名乗っていませんでした。また、短い時間で聞くべきではない、どうでもいい質問も見受けられました。政治家や官僚だけでなく、質問しているメディアの人も国民に注視されてるのが分かっているのでしょうか。
最もつまらなかったのは、事務次官会見廃止に関係して、省庁への個別取材について取材規制や言論統制という言葉で閣僚に相次いで聞いたことです。そもそも省庁への取材は自由であり、政権が交代したからといって代わるものではないはずです。仮に政権与党から「取材はダメ」と言われたところで、独自に展開すればいいし、情報公開制度もあります。そのような指示を出した政府と闘えばいいのです。こういう質問をして安心しなければならないとは、普段どんな取材をやっているのだと疑いたくなります。
結局のところ情報はネットに「漏洩」しているのに、新聞やテレビで取り上げなければ読者の信頼を落とすだけです。既存メディアのジャーナリズムの自殺は結構ですが、それなら記者クラブを新たな担い手に「明け渡し(廃止するほうがいいと思いますが、政権交代にちなんで)」てからにしてほしいものです。
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