ガ島通信

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「超地域密着マーケティングのススメ」平岡智秀

超地域密着マーケティングのススメ (アスカビジネス)
「素晴らしい一冊」というR30さんの書評を読んで購入した「超地域密着マーケティングのススメ―小さな会社は当然。大きな会社もおさえておきたい、エリアNo.1に向けた戦略と戦術」は、心に響く本でした。

著者は、和歌山の人口1万人足らずの小さな町にある、職人3人、事務員2人の小さな会社の経営者。営業は自分ひとり。いまどきホームページもなし。そんな会社を若くして継いだ3代目が、失敗しながら、温かい地域の人々に支えられ、「関西一水洗便所を売った男」と呼ばれるようになった道程が描かれる、著者の成長物語です。

単なるビジネス、マーケティング本などではなく、商売人のあり方、良い社会人のあり方とは何か、そして当たり前のことをやりきる難しさを改めて気付かされてくれます。
「本当に古臭いものばかり」という地域密着マーケティングがどのようなものなのか、詳しくは本を読んでいただくとして、エッセンスをキーワードで紹介したいと思います(本当に良いキーワードにあふれた本です)

  • 自分から好きになって、初めて相手が好きになってくれる
  • お客様の「人生の登場人物」になる
  • 検索して調べる人は増えているが、いまだに調べられない人もいる(あなたの住んでいるところは六本木ヒルズではない)
  • 皆がみな新しいものにすばやく対応できるわけではない
  • 最強の戦術は「正直さ」(ネットにおいても正直さが大切なことは「口コミ2.0 -正直マーケティングのすすめ -」で書きましたが、この本ほど真正面からは書くことは出来なかったと反省しています。もっと精進していつか心を揺さぶるような本を書いてみたいものです)
  • 自分がネガティブに思い込んだら絶対にその商品は売れない
  • 「良い商品だから売れると思うこと」と「売りたいから良い商品だと思い込もうとする」のは違う
  • 1位を取って、1位を捨てる
  • お客様に還元するお金をケチるな
  • 人付き合いは「引っ張り上げあう関係」
  • 役に立つか立たないかで人を見ない、情報を求める人にできるだけ協力する
  • (インターネットのおかげで)人の成長速度が最近急激に速くなっている
  • 「作る人」であることが大切

ゴールデンウィークの休みに羽田から徳島に向かう飛行機の中で読んだのですが、元来田舎モノであり、数年前まで地方紙の一員として、地域の「責任」から逃げられない立場で仕事をしていた私としては、地域で生きることのすばらしさ、元気を与えてくれるこの本を地方の人にこそ読んでほしいと思いました(もちろん、都会にいると忘れがちになる、泥臭さやインターネットの向こう側にいる人の顔とつながりの大切さも再認識させてくれます)。

地方紙の現場からは「epic2015の前に新聞はもう終わる」(踊る新聞屋)という、悲観的な意見が多く出るようになりました。新しいビジネスを求めてネットに進出する会社も多く出始めました。地方紙の方と意見交換するときもあるのですが、そのときは「紙でもっと出来ると思いますよ」「インターネット、ブロードバンドの普及率はどれくらいですか」と尋ねることにしています。変化のときほど原点を忘れがちです。

確かに、どうにも変わらない既存の仕組みをネットに光を見出したい気持ちは分かります。しかし、なぜ読者はそんな「もうダメ」な新聞を毎日買ってくれるのでしょうか。ネットだブログだSNSだと騒ぐ前に、見つめるべきことがあるはずです。その人たちのことを忘れたときが本当の「終わり」なのです。