ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

2021年度ローカルジャーナリズム論の報告冊子「足元からすくう」が完成しました

新型コロナウイルスの影響でオンラインとなった2020年度の法政大学社会学部寄付講座・集中講義「ローカルジャーナリズム論」の報告冊子「足元からすくう」が完成しました。

「ローカルジャーナリズム論」は、法政大学の地方出身学生は3割と少なく、ローカルメディアへの関心が乏しい状況を受けて2019年度にスタートしました。普段接している既存メディアは、東京のキー局や全国紙という東京の学生たちに、ローカルの面白さをどう伝えるか、ゼミ生が編集方針やレイアウトを議論し、関心をもってもらえるように工夫しています。

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テーマは「交わることで生まれる価値」で、巻頭の特集として、ローカルおじさんこと博報堂ケトルのプロデューサー日野さんと、沖縄タイムスの記者である與那覇さんを取り上げています。東京の学生が自分ごと感じられるように、受講者がワークショップで出したアイデアや提出した課題を収録しています。読み進めていくと、東京と地方という対立軸ではなく、東京もローカルなのだ気づいてもらいたい、というゼミ生の編集意図が込められています。目次と冊子の趣旨説明は以下のようになっています。 

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2020年度の「ローカルジャーナリズム論」は、沖縄タイムス西日本新聞中国新聞東海テレビ博報堂ケトル (順不同) 5社の寄付により開講しました。改めてありがとうございます。2021年度も9月に実施予定です。

gatonews.hatenablog.com

 

2011年3月11日「伝えたい」想いが連鎖してテレビとネットが融合した

Ustreamユーストリーム)って何ですか?」。東日本大震災から10年ということで、ソーシャルメディアと災害に関する複数の取材がありました。ユーストリームは動画共有サービスで(現在は「IBM Cloud Video」)、ソフトバンク孫正義氏が決算説明会を配信するなど注目を集めていました。このユーストリームが、震災当日の情報共有に大いに役立ったという話が、災害を取材する記者に共有されていないことに衝撃を受けました。そこで、少し振り返っておこうと考えました。

広島の中学生が、NHKを勝手に配信

 10年前の3月11日、広島の中学生が災害の様子を伝えるNHKを、ユーストリームを使い許諾なく勝手配信していました。それが、正式なテレビ放送のインターネット再配信につながっていくという会社や業界を超えた動きを作り出したのです。経緯はUstream Asiaに在籍していた加藤さんがnoteにまとめてくれています。

note.com

テレビがない場所にいる人たちの助けに

私もこのユーストリームの勝手配信に助けられたひとりです。

あの日、立命館大学(現在は武蔵大学)にいた奥村信幸さんのゼミ発表を見学するため京都に向かっていました。飛行機で伊丹空港に降り、高速バスで京都に、大学に向かうタクシーに乗った時に「お客さん東京から?大きな地震があったみたいだよ」と言われて、初めて大きな災害が起きていることを知りました。すぐにガラケーTwitterを開きましたが、情報が錯綜していて状況はよくわかりませんでした。

会社の同僚にメールしたら返信があったと記憶しています。なので「大丈夫なのだろうな」と判断し、ご家族を心配する奥村さんに「新幹線も動いてないようなので、ひとまずゼミ発表をやりましょう」と声をかけました。Twitterを見ていると、この中学生による勝手配信が話題になっていることに気づきました。そこで、教室のディスプレイにユーストリームを写すと、津波が街を飲み込む映像が流れたのです。「大変なことになった」と思いながら、どこか別世界の出来事のようにも感じたことを覚えています。

大学のディスプレイは、テレビ放送が映らない設定でした。企業もそうで、特に都市部ではテレビがあるオフィスは少ない。しかし、パソコンはインターネットにはつながっており、外出している人も携帯電話からアクセスできるため、多くの人がこのユーストリームにより状況を把握できたのです。

関係者の「伝えたい」想いが連鎖した

NHKの勝手配信はユーストリームにより削除されず維持され、NHKと交渉に入ります。その間に、TBSによる正式な再配信が開始、テレビ神奈川、フジテレビ、そしてNHKが正式にユーストリームで流れ、その後は被災地のラジオ局などの配信にもつながっていきます。ユーストリームからNHKが流れているのを見て、ニコニコ動画を運営しているドワンゴも動き、ニコニコ動画でもテレビやラジオを視聴可能になったのです。

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「大規模災害時における的確な情報流通を可能とするマスメディア・ソーシャルメディア連携の可能性と課題」p220.222を参考に作成

この連携は、災害情報だけでなく、メディア業界にとって大きな転換点でした。

ソーシャルメディアがどう人々の役に立つのかを考えてきた自分にとっても、メディアの連携により情報を伝えることは重要だと考え、関係者へのインタビューも行い東海大学の河井孝仁先生と一緒に「大規模災害時における的確な情報流通を可能とするマスメディア・ソーシャルメディア連携の可能性と課題」にまとめました。

インタビューに答えてくれたテレビや新聞、ネットの関係者は「自分たちの取り組みは、本当に役立っているのか」「多くの人に伝えるためには、自社だけでは限界がある」と危機感を持ち、それぞれ動き出していました。中学生の勝手配信が呼び水となり、関係者の「伝えたい」が連鎖し、メディアの連携が実現したのです。

この話は、中学3年生の国語の教科書(光村図書)に『「想いのリレー」に加わろう』というタイトルで掲載されています。メディア連携、災害時の情報だけでなく、メディア・リテラシーの視点からも学べるように工夫して書いています。来年度からは新しい教科書になるとのことですが、いま高校生・大学生の皆さんには少しは知ってもらえたかなと思っています。

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 進まぬメディア連携、情報の空白を埋める取り組みを

今でこそ、大規模災害や大きなニュースがあればNHKのアプリなどでテレビと同じ内容を視聴できますし、AbemaTV(2016年開設)のようなサービスもありますが、当時のテレビとインターネットの関係は微妙でした。その背景には、2005年にライブドアによるフジサンケイグループの中核会社であったニッポン放送株買収、楽天によるTBS株買収が立て続けに起き、テレビ業界のネット企業への警戒感がありました。

一方、スマートフォンに切り替える人が少しずつ増え、ニコニコ動画はユーザーを伸ばし、Facebookが注目され始めていました。そのため、少しずつメディア連携の取り組みが始まっていました。3月10日にはNHKクローズアップ現代ニコニコ動画と連動した番組を放送したところでした。東日本大震災は、ソーシャルメディアの影響力が急拡大していた時期と重なっていたのです。

あれから10年。ソーシャルメディアの影響力は拡大し、既存メディアの影響力は低下していますが、連携は十分ではありません。奥村さんも先日以下のように書いていました。

災害の規模はさらに大きなものを想定した備えが必要になる一方、単体のメディアの実力に限界が見えるのであれば、メディアが相互協力して、情報の空白を埋めていく必要があるのは当然の帰結だと思われますが、意識改革には程遠いという印象です。

東日本大震災から10年:報道各社のインタビューを見直し、考えた(奥村信幸)

2010年にNHKがフジテレビと制作した「死者ゼロを目指せ・災害時のメディア連携」でも議論したのですが(参考:災害の死者ゼロに向け、テレビは「メディアの王様」を捨てられるか(藤代裕之) )、発災時からの時間経過に合わせて、NHKの全国・キー局、ローカル局コミュニティFMやケーブルテレビとカバーする地域の広さが異なるメディアと、検索や地図に強いインターネットで役割を分担して、必要な情報を提供していくなどが考えられます。

災害時の情報空白をどうなくすのか。メディア連携を具体的に進めるためにも、あの日の取り組みが役に立つはずです。

■参考書籍・記事 

 河井先生との研究「大規模災害時における的確な情報流通を可能とするマスメディア・ソーシャルメディア連携の可能性と課題」は以下の『大震災・原発とメディアの役割―報道・論調の検証と展望 公募委託調査研究報告書〈2011年度〉』に収録されています。

京都から実家のある徳島に帰り、ボランティア情報を集めるボランティアを立ち上げ、活動していました。ITmediaの藤村厚夫さん(スマートニュース)に誘われて活動しながら書いた記録記事が、いまでもアーカイブされていることに感謝します。

www.itmedia.co.jp

シンポジウム「アフターコロナの移動空間とメディア環境」を開催します

法政大学イノベーション・マネジメント研究センター シンポジウム 「アフターコロナの移動空間とメディア環境」を2021年3月10日(水曜日)に開催します。「メディア環境設計研究所」が共催です。

2019年に設立した「メディア環境設計研究所」では、2020年に『アフターソーシャルメディア 多すぎる情報といかに付き合うか』を出版し、ソーシャルメディアの登場による情報過多のなかで人々がどのように情報接触しているのか、を明らかにしました。

今回のシンポジウムでは、新型コロナウイルスの拡大でもたらされた、移動の抑制と情報爆発(インフォデミック)という状況を踏まえ、メディア環境と移動空間の未来について考えます。

基調講演には国内に「ダークツーリズム(災害や戦争の跡をめぐる旅)」を広めた気鋭の観光学者である井出明(金沢大学准教授)さんにお願いしました。タイトルは「COVID−19以降のモビリティ --ポストモダンのさらにその先--」です。

移動に関わる異なる分野の企業事例の紹介もあります。

「スマートモビリティとメディア環境」松田達樹(NTTコミュニケーションズ)さん、「MaaSで支える高齢化社会と、その鍵となるタクシーのDXとは」近藤洋祐(電脳交通)さん、「アフターコロナの公共交通における移動体験の変化」平林宏介(川崎重工業)さん、3人によるプレゼンの後、課題や移動の未来、について議論したいと思います。

「メディア環境設計研究所」は、メディア社会学科の設計コースとリンクしながら研究を進めています。シンポジウムには3人の設計コース教員が、司会やモデレーターを担います。

参加は無料ですが、申込みが必要です。申し込みは同研究センターのホームページからお願いします。

https://riim.ws.hosei.ac.jp/news/202102173977.html

 

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東京こそ「情報過疎」ではないか

フリーペーパー『鶴と亀』、トランスローカルマガジン『MOMENT』など、ローカルを扱う新たなメディアの登場をほとんどの受講生が知らず、反応も鈍いー。法政大学社会学部の寄付講座・集中講義「ローカルジャーナリズム論(2020)」*1初日の講師による振り返りでこの事象を踏まえて、東京こそ「情報過疎」ではないかという議論が起きました。

ソーシャルメディアが登場し、東京を通さずに地域と地域がダイレクトにつながるようになり、面白い場所に、面白い人が集まり、メディアを作るという動きが各地に広がっています。自身が地方紙出身ということもあり、積極的に地域と関わりを持ってきました。

ゼミの夏合宿は、福島県白河市や長野県の白馬村などの地域に出かけています。2015年にはローカルジャーナリストの田中輝美さんとゼミ生で島根の『地域ではたらく「風の人」という新しい選択』という本をまとめ、2016年にはB&B城崎温泉の「本と温泉」理事長と『風の人』の編集者を交えたイベントを行いました。授業では佐賀県小城市で「おかもちカブ」でコーヒーを振る舞うコミュニティ活動をしている小石克さんをゲストに迎える、といった様々な情報提供を学生に向けて行ってきました。 

そのような活動を通し、首都圏出身者が多くなり(地方出身は3割)ローカルメディアへの関心以前に、存在を知らないという問題意識をもったことが「ローカルジャーナリズム論」開設の背景なので、受講生の反応は予想通りではありましたが、地方紙・地方局に勤める講師には驚きがあったようです。

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宮崎県新富町の地域商社「こゆ財団」=2017年撮影

沖縄のメディアは楽園のイメージ 

例えば、 記憶の解凍プロジェクトや「沖縄戦デジタルアーカイブ」に取り組んでいる沖縄タイムスの與那覇里子さんの授業では、沖縄のメディアへのイメージを受講生に聞きましたが、観光と災害(台風でよく出てくる)といったものが大半で、ソーシャルメディアで言及される「マスゴミ」「プロパガンダ」など批判的なコメントは数件でした。

「観光地としてのイメージアップに取り組んでいると考えていた」「楽園のイメージ」「バラエティ番組に出演する芸能人を見てエンタメ色が強いため、地方紙もエンタメかと思っていた」「沖縄のメディアとフェイクニュースにつながりがあるとは思わなかった」「イメージがなかった」などの回答が並びました。

「さよならテレビ」や「ヤクザと憲法」といったドキュメンタリーの映画化で注目を集める東海テレビの授業では、ローカルテレビ局発の映画を見たことがあるかも聞いてみましたが、8割の受講生が「ない」と回答しました(メディア社会学科の学生も多いのに…)。

講師からは「本当に知らないんですね…」という言葉が漏れるほど、授業を通して、改めて受講生がローカルメディアを知らないことが浮き彫りとなりました。このような受講生も3日間の授業を受けると、面白さに触発されて考えが変化していくので、決して関心がないわけではないのです。

ニュースのローカル化が分断を生む

知らないことが構造的なものではないかという指摘がありました。

東海テレビの伏原健之さんから、いまテレビの世界では地域ニュースが注目され、東京のキー局から配信されるのニュースの視聴率が下がっているとの説明があったのです。確かに言われてみると全国ニュースと言いながら、コロナ感染について「東京では◯人」や台風などで「新宿駅前から中継」などが扱われています。

地域の人が地域のニュースに関心を持つことは興味深い動きですが、東京にいると普段見ているマスメディアが伝えるニュースが、全国の人も知っている、興味を持っているものだと思い込んでしまうことはありそうです。東京は人口の割にマスメディアの数が少ないため東京ローカルの情報は乏しく、関心を持ちにくい状況です(県紙なら掲載されている市や区政レベルの話題、自治体や議会情報とかも非常に少ない)。

インターネットでもYahoo!ニュースのトップに「東海道線が事故」といった首都圏の事故が掲載されており、地域に関連することによほど興味がなければ、ソーシャルメディアでもつながることはなく、ローカルで起きている面白い事象へのアンテナを失わせ「情報過疎」が生じていしまうメディア環境がありそうです。そうであるなら、多くが首都圏出身者の大学で「ローカルジャーナリズム論」に取り組む役割は大きいと感じました。 

「交わること」が生む価値を考える

 「ローカルジャーナリズム論」は終わりましたが、ゼミ生による制作物を報告書として寄付企業などにお送りすることになっています。2019年度は講義録的にまとめ「面白い大人の伝え方」という冊子を制作しましたが、2020年度は事前に仮コンセプトを「交わる」と決めていました。コロナ渦でオンラインになり、多摩キャンパスでリアルに集まり、ワイワイガヤガヤと合宿のような講義は消えましたが、沖縄や福岡から中継することで新たに知ることもありました。様々な変化が起きている時代において、大学生が地方と交わることが生む価値とは何かを問うコンテンツにしようと考えています。

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昨年度の「ローカルジャーナリズム論」の報告冊子の制作風景

9月28日に情報過多と情報過疎を考えます

ソーシャルメディアで大量の情報があふれる「情報過多」なのにローカル情報が「情報過疎」になっていることについて、「ローカルジャーナリズム論」の講師でもある博報堂ケトルの日野昌暢さんとB&Bトークイベントをやります。よろしければご参加ください!

bookandbeer.com

 ローカルジャーナリズム論の授業の工夫については以下の記事をご覧ください。

gatonews.hatenablog.com

*1:2020年度の寄付メディアは、沖縄タイムス西日本新聞中国新聞東海テレビ博報堂ケトル (順不同)です。ありがとうございます。

「密度が濃い」「面白くて疲れた」熱い反応続々のオンライン集中講義で工夫したこと

「すごく密度が濃い3日間でした」「講義が面白くて、集中して疲れました」「本当に楽しい時間でした」 「自身の中で新しい発想が生まれました」「私が求めていた大学の授業は、こういう授業だと思い出しました」 ー オンラインで実施した法政大学社会学部の寄付講座・集中講義「ローカルジャーナリズム論」は、多くの受講生から予想以上に「熱い」反応が続々と届きました。

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オンライン化に当たり工夫したこと

 各地の大学で秋学期がスタートし、オンラインか対面かといった議論がメディアを賑わしていますが、オンラインの集中講義でも満足度を高め、充実した授業ができるという手応えを得ました。今回は、オンライン化にあたり工夫したことを紹介します。

自分の大学時代を振り返ると、集中講義は「数日で単位が取れる(ラッキー)」さと朝から夕方まで学べる「合宿感」があり、このどちらも重要なポイントとして設計しており、多摩キャンパスで行った昨年度はそれが実現できました。しかしながら、2020年度はコロナウイルス感染症の拡大により、オンラインで実施することになりました。オンラインで一日PC画面を見続けるのも辛く、一人では「合宿感」も乏しくなるだろうと予想し、授業の進め方を見直すことにしました。主に取り組んだのは以下の3点です。

  • 100分の授業を講義・質問記入・回答に3分割する
  • グループでのワークショップや振り返りを設定する
  • 事前・事後課題を設定し、学修時間を確保する

100分の授業を3分割する

授業はzoomを活用し、リアルタイムで実施しました。教室での授業ではゲストの話を聞き、受講生にはリアクションペーパーを書いてもらっていました。しかし、オンライン講義は単調になりがちで、リアルタイムで60分を超えての講義、それが何コマも続くと集中力が持たないだろうと判断しました。

そこで、講義は40分程度にまとめてもらい、その後に15分間、質問と感想を書く時間を確保しました。受講生には、GoogleフォームのURLを共有し書き込んでもらい、講師側にはその書き込みをリアルタイムに見てもらいながら、回答候補を検討してもらうようにしました。リアルだと、ついゲスト講師と教員が話をしたりしてしまいますが、誰も話さない時間をしっかり確保しました。受講生には確実にフィードバックが行なえます。

講師側からは、教室では表情や雰囲気から学生の反応を感じられるが、オンライン講義では反応が分かりにくいので心配する声がありましたが、質問と感想を見ながら反応を確認し、回答で補足できるのが良かったとの意見がありました。なお、クラウドを使い慣れてない講師には事前テストをお願いしました。

ワークショップや振り返りを設定

講義だけでなく、ワークショップや振り返り、質問コーナーを設けて、授業のスタイルに変化を作りました。ワークショップでは、シティプロモーションの提唱者である杉山幹夫さんにLocalWikiの取り組みと書き込み方を、NHK#あちこちのすずさんチームに、ローカルメディアと連携した企画の作り方をレクチャーしてもらった上で、zoomのブレイクアウトルームを使い、グループワークをしてもらいました。
講師と受講生の双方向性だけでなく、受講生同士もアイデアを出し合うことで、オンラインではありますが、同じ授業を受けていることを少しでも感じてもらえるようにしました。

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振り返りには、その日の登壇者に集まってもらい、(登壇者には自分以外の講義やワークショップをできる限り見てもらうことをお願いした)お互いの取り組みを議論したり、浮かび上がってきたテーマを深堀りしたり、しました。

受講生からは「振り返り議論があることで、他の講師の方々の視点でもう一度考えることができ、とっても楽しいです」や「振り返り議論後半にはついて行けなくなってしまったので、まだまだ自分の勉強が足りないことを痛感しました」という感想もあり、刺激となったようです。

事前・事後課題の設定

コロナ渦において文部科学省からも弾力的な授業運営が示されてるところですが、学修時間を確保することは重要です。そこで、NHKの#あちこちのすずさんの視聴やローカルメディアについて調査してくるという事前課題を、3日間の集中講義を終えてローカルメディア・ジャーナリズムを考えてもらうなどのレポートを事後課題として用意しました。

記事で提示しているスケジュールは、12コマとなっていますが、ワークショップで学んだことを実際に取り組むなどの自宅学習の課題を出して14コマ分を確保、さらに日ごとの振り返りも行ってもらったので、受講生にとっては相当ハードなものとなったことは間違いありません。

社内中継などちょっとした工夫

また、各地の新聞・テレビなどのローカルメディアの寄付により成立しているという特徴を生かし、スマートフォンで社内を中継してもらうといったお願いもしてみました。「社内を中継したり、日本各地からの中継といったオンラインならではの講義手法も随所にあり、面白かったです」と学生からの反応も上々でした。

首都圏出身者中心となっている学生にローカルメディアを知ってもらうという集中講義の目的からしても、このような取り組みは価値があると感じました。来年度以降に授業がリアルになっても、中継は取り入れてみたいと思います。

リアルにも役立つオンライン化の知見

オンライン化に当たり、100分の授業時間をどう使うかを明確に提示したことでリズムが生まれ、受講生側にも何をやるのか明確になったこと。質疑と回答、さらに振り返りを行うことで立体的に学びが理解できること、という点はリアル授業においても重要なポイントです。シラバス執筆時に、授業の目標やそれぞれの時間の位置づけは検討していましたが、学生の反応を見ながら展開するための幅を残そうとして、曖昧な部分が生まれていたとの反省があります。

zoomなどのウェブ会議システムやGoogleフォーム・スプレッドシートなどツールを使えるようになることはもちろんですが、学びを構造化し、設計することが不可欠であり、この構造化と設計こそオンライン化において勝負を分けると言えるでしょう。

講師の皆さんにも熱心に講義やワークショップを実施して頂いたことに加え、同僚の先生方のサポートや学生アシスタントの活躍も充実した集中講義には不可欠で、相応のコストは当然ながら必要になります。その費用の一部は、沖縄タイムス西日本新聞中国新聞東海テレビ博報堂ケトル (順不同) 5社寄付により支えられています。ありがとうございます。 

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2020年度の「ローカルジャーナリズム論」はオンラインで実施します

魅力的なローカルメディアのあり方やジャーナリズムの可能性を議論する法政大学社会学部の集中講義「ローカルジャーナリズム論」を9月15日~17日に開催します。

本講座は、法政大学に在籍する地方出身学生の減少により、ローカルメディアの存在を知らない学生に、社会課題の解決に向けて魅力的な活動を行っているローカルメディアのことを知ってもらおうと企業の協力を得た寄付講座として2019年度からスタートしました。 2020年度の寄付企業は、沖縄タイムス西日本新聞中国新聞東海テレビ博報堂ケトル (順不同) 5社の皆様です。ありがとうございます。

下記のように*1、多彩なゲストとテーマで展開しています。

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沖縄タイムスフェイクニュースと若者の関係について、西日本新聞アフガニスタンで活動するペシャワール会の故中村医師の報道について、中国新聞はポニョの舞台として景観保護運動が起きた鞆の浦や原爆報道、東海テレビはドキュメンタリーの映画化、博報堂ケトルは九州で立ち上げたローカルメディアQualities(クオリティーズ)などについて、講義が行われます。

ゲストには、関係人口の第一人者である田中輝美さん、シティプロモーションの提唱者である杉山幹夫さん、ウェブメディアの編集者・メディアプロデューサーの亀松太郎さん、地方紙と連携した取り組みを進めているNHKの #あちこちのすずさんのチームが参加し、登壇者同士の議論も行います。

昨年度は多摩キャンパスで実施し、寄付企業・ゲスト・学生が一緒に学び、宿泊施設で語り明かすなど合宿のような楽しさがありましたが、コロナの影響でオンライン講義となり、沖縄や福岡など各地と学生を結んで行うことになりました。日本各地のローカルメディアと東京の大学に在籍する学生を結ぶことで、新たな価値が生まれるように準備を進めています。取材希望の場合は、大学などに連絡をお願いします。

www.nishinippon.co.jp

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*1:授業時間を確保するため事前課題・事後課題などが設定されています

オンライン(ゼミ)面接に向けた事前準備とやってみて分かったこと

コロナウイルスの影響でキャンパスの利用制限が行われているため、オンラインでゼミ面接を実施しました。事前準備とやってみて分かったことをまとめました。

前提:春休み中からzoomゼミをやっていた

法政大学では入学式が中止となり、授業開始は4月21日まで延期となりました。そん中、2年生からのゼミ募集は実施することになりました。条件は非対面で行うことで、書類選考も可でしたが、1)ミスマッチを防ぐために不十分でもオンライン面接があったほうがいい、2)せっかくの機会だからやってみよう、ということで実施しました。何でもやってみよう!

面接では教員だけでなく、ゼミ生から応募者への質疑も行います。そのためゼミ生のオンラインツールの習熟が問題になるのですが、春休み中もゆるやかにゼミを行っており、コロナウイルスの影響が指摘された2月ごろからはリアルからzoomに切り替えて試行錯誤していたので、実施へのハードルは低かったと思います。どんなツールであれ、少しでも取り組んでいることが大事です。

事前準備は主に以下の3点です。

1.面接用にパソコン環境を整える

面接は、ゼミや打ち合わせのようなオンラインミーティングとは異なるため、ホスト役はPC1台では厳しいです。面接に参考にする資料やゼミ生との情報共有が、応募者に見えてしまうとマズイことになります。そのため、間違って資料を共有しないようにデスクトップを整理したzoom専用のPCを用意しました(iMac)。

安定した運用をするためLANに接続しています。事前にネットの速度を確認したところ非常に遅く、プロパイダへの問い合わせなどでひと手間かかったので、改めて下記のサイトなどで速度をチェックしておくと良いです。

https://fast.com/ja/

ラップトップ(MacBook Air)はチャットなどのコミュニケーション用です。

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2.連絡用のメッセグループをつくる(通知音はオフ)

zoomは面接に利用するのでチャット機能を使うとトラブルのもとです。そこで、連絡用にFacebookのチャットでメッセンジャーグループをつくりました。ゼミではFacebookを使っているためで、LINEでも良いでしょう。このメッセグループで、zoomが途切れた、音が聞こえないなどのトラブルを連絡してもらいます。

素早く打ち込みたいのでPC2台を使っていますが、PCとスマホがあれば、スマホにzoomを割り振って対応するのも手です。PC1台の場合は、チャットの通知音をオフにしておきます。オンのままだと、話しているときにメッセージが来ると「ピコーン、ピコーン」と耳障りな音が鳴ってしまいます。

3.感想共有用のグーグルスプレッドシートを用意する

面接している全員が別の場所にいると最も難しいのが感想の共有です。これはグーグルのスプレッドシートを利用しています。

下記のようなフォームをつくり、ゼミ生にログインしてもらいます。面接にあたり、いくつかの質問を予め決めているのですが(半構造化インタビューのようなイメージ)、その質問に対するQ(質問)とA(回答)は上段に、記録担当のゼミ生が書き込みます。

下段ではそれぞれのゼミ生が(番号は実際にはゼミ生の名前)メモとして思ったことなどを書いていきます。ここに書かれたことを見ながら追加の質問をすることもあります。

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このグーグルスプレッドシートを利用した感想の共有は、リアルの面接でもやっていたのですが、リアルでは応募者と話をしているのにPCに向かって打ち込んでいると、ちょっと嫌な感じがするのですが、ウェブ面接では気になりませんし、とても有効な手法だと思います。

次にやってみて分かったことを簡単にまとめておきます。

質問はひとつ、手短に

質問はひとつ、できるだけ手短にしないと応募者が困ります。長い質問は、オンラインなので応募者が趣旨を把握するのが難しくなるのと、接続状況が悪く途切れたときによく分からなくなる恐れがあります。一つ聞いて、答えてもらい、「では、もうひとつ伺いますが」とやり取りしたほうが、スムーズに進みます。

「◯◯のような社会状況がありますが、どう思いますか」といった、応募者にこちらの前提を伝えて考えを聞くような質問は、伝わりにくいので避けたほうが良さそうです。このタイプの質問をしたいなら、予めテーマなどを応募者に伝えておくといいでしょう。

司会に求められる話題を引き出すスキル

司会はゼミ生に交代で担当してもらいましたが、リアルよりもさらにファシリテーション的なスキルが重要になると感じました。意見が出なかったらゼミ生にふったり、話題を引き出すような質問をしたり、応募者が黙ってしまったら「ゆっくり考えていいですよ」とか一声かけて緊張を和ませたり、ということがとても大切です。オンラインでの沈黙は、リアルと別の意味で緊張が高まります。司会は、向き不向きがすごくありそう…

オンラインを前提に考え、準備する

オンライン面接は、リアルより応募者の情報量が少なくなりますが、準備をしておけばそれなりにやれそうという手応えはありました。コロナウイルスの影響は長引きそうで「リアルじゃなきゃ無理だろー」と言っていたものがオンライン化する可能性が高い。大学の授業だけでなく、就職活動でもオンライン面接が増え、仕事も在宅ワークが進む状況を考えれば、大学生でもパソコンやネット接続の環境をしっかり整える、そこにお金をかけていくというのは大事になるでしょう。だからこそ格差問題をカバーする対策も重要になります。