ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

オンライン(ゼミ)面接に向けた事前準備とやってみて分かったこと

コロナウイルスの影響でキャンパスの利用制限が行われているため、オンラインでゼミ面接を実施しました。事前準備とやってみて分かったことをまとめました。

前提:春休み中からzoomゼミをやっていた

法政大学では入学式が中止となり、授業開始は4月21日まで延期となりました。そん中、2年生からのゼミ募集は実施することになりました。条件は非対面で行うことで、書類選考も可でしたが、1)ミスマッチを防ぐために不十分でもオンライン面接があったほうがいい、2)せっかくの機会だからやってみよう、ということで実施しました。何でもやってみよう!

面接では教員だけでなく、ゼミ生から応募者への質疑も行います。そのためゼミ生のオンラインツールの習熟が問題になるのですが、春休み中もゆるやかにゼミを行っており、コロナウイルスの影響が指摘された2月ごろからはリアルからzoomに切り替えて試行錯誤していたので、実施へのハードルは低かったと思います。どんなツールであれ、少しでも取り組んでいることが大事です。

事前準備は主に以下の3点です。

1.面接用にパソコン環境を整える

面接は、ゼミや打ち合わせのようなオンラインミーティングとは異なるため、ホスト役はPC1台では厳しいです。面接に参考にする資料やゼミ生との情報共有が、応募者に見えてしまうとマズイことになります。そのため、間違って資料を共有しないようにデスクトップを整理したzoom専用のPCを用意しました(iMac)。

安定した運用をするためLANに接続しています。事前にネットの速度を確認したところ非常に遅く、プロパイダへの問い合わせなどでひと手間かかったので、改めて下記のサイトなどで速度をチェックしておくと良いです。

https://fast.com/ja/

ラップトップ(MacBook Air)はチャットなどのコミュニケーション用です。

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2.連絡用のメッセグループをつくる(通知音はオフ)

zoomは面接に利用するのでチャット機能を使うとトラブルのもとです。そこで、連絡用にFacebookのチャットでメッセンジャーグループをつくりました。ゼミではFacebookを使っているためで、LINEでも良いでしょう。このメッセグループで、zoomが途切れた、音が聞こえないなどのトラブルを連絡してもらいます。

素早く打ち込みたいのでPC2台を使っていますが、PCとスマホがあれば、スマホにzoomを割り振って対応するのも手です。PC1台の場合は、チャットの通知音をオフにしておきます。オンのままだと、話しているときにメッセージが来ると「ピコーン、ピコーン」と耳障りな音が鳴ってしまいます。

3.感想共有用のグーグルスプレッドシートを用意する

面接している全員が別の場所にいると最も難しいのが感想の共有です。これはグーグルのスプレッドシートを利用しています。

下記のようなフォームをつくり、ゼミ生にログインしてもらいます。面接にあたり、いくつかの質問を予め決めているのですが(半構造化インタビューのようなイメージ)、その質問に対するQ(質問)とA(回答)は上段に、記録担当のゼミ生が書き込みます。

下段ではそれぞれのゼミ生が(番号は実際にはゼミ生の名前)メモとして思ったことなどを書いていきます。ここに書かれたことを見ながら追加の質問をすることもあります。

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このグーグルスプレッドシートを利用した感想の共有は、リアルの面接でもやっていたのですが、リアルでは応募者と話をしているのにPCに向かって打ち込んでいると、ちょっと嫌な感じがするのですが、ウェブ面接では気になりませんし、とても有効な手法だと思います。

次にやってみて分かったことを簡単にまとめておきます。

質問はひとつ、手短に

質問はひとつ、できるだけ手短にしないと応募者が困ります。長い質問は、オンラインなので応募者が趣旨を把握するのが難しくなるのと、接続状況が悪く途切れたときによく分からなくなる恐れがあります。一つ聞いて、答えてもらい、「では、もうひとつ伺いますが」とやり取りしたほうが、スムーズに進みます。

「◯◯のような社会状況がありますが、どう思いますか」といった、応募者にこちらの前提を伝えて考えを聞くような質問は、伝わりにくいので避けたほうが良さそうです。このタイプの質問をしたいなら、予めテーマなどを応募者に伝えておくといいでしょう。

司会に求められる話題を引き出すスキル

司会はゼミ生に交代で担当してもらいましたが、リアルよりもさらにファシリテーション的なスキルが重要になると感じました。意見が出なかったらゼミ生にふったり、話題を引き出すような質問をしたり、応募者が黙ってしまったら「ゆっくり考えていいですよ」とか一声かけて緊張を和ませたり、ということがとても大切です。オンラインでの沈黙は、リアルと別の意味で緊張が高まります。司会は、向き不向きがすごくありそう…

オンラインを前提に考え、準備する

オンライン面接は、リアルより応募者の情報量が少なくなりますが、準備をしておけばそれなりにやれそうという手応えはありました。コロナウイルスの影響は長引きそうで「リアルじゃなきゃ無理だろー」と言っていたものがオンライン化する可能性が高い。大学の授業だけでなく、就職活動でもオンライン面接が増え、仕事も在宅ワークが進む状況を考えれば、大学生でもパソコンやネット接続の環境をしっかり整える、そこにお金をかけていくというのは大事になるでしょう。だからこそ格差問題をカバーする対策も重要になります。

当事者が発信できる時代、ジャーナリストの役割は「共に言葉を探す」こと(ローカルジャーナリズム論 2019)

2019年度の法政大学社会学部の集中・寄付講義「ローカルジャーナリズム論」が無事に終了しました。地域に向き合い伝えることに取り組む人たちが織り成す濃密な3日間で、企画・担当教員としてヘトヘトになりながらも大きな手応えを感じました。講師の皆さんが何を語ったのかは、西日本新聞の下記記事が伝えてくれていますので、ここでは後半大きな議論となった、 地域発信の当事者とは誰か、ジャーナリストの役割とは何か、について記録をしておきたいと思います。

www.nishinippon.co.jp

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地域の発信、東京の学生に関係あるの?

講義のスタートは、ローカルジャーナリストとして活躍する田中輝美さんから。次に沖縄タイムスの與那覇里子さん、高知新聞の川戸未知さんと続きます。いずれも、地域に密着した取り組みで、特に川戸さんの南海トラフ地震に向けた防災プロジェクト「いのぐ」は、記者だけでなく事業・企画の担当も伝えることに関われる新聞の仕事を学生に紹介できたことは大きな収穫でした。

ただ、1日目を終えて「東京の学生に関係あるの?」という微妙な空気もありました。この講義を作った最大の理由は、法政大学の地方出身学生が3割しかいないことです。いくら面白い事例でも、島根、沖縄、高知と続くとさすがに学生に縁遠く感じたのでしょう。夜に講師で相談し、2日目に博報堂ケトルの日野昌暢さんが、東京からも福岡、高崎での発信に関われるという事例を紹介してくれました。

どんなに迫っても当事者にはなれない

ソーシャルメディアの普及により、当事者自身が発信できるようになりました。東京からは地域発信の当事者になれないのではないか。このような当事者問題は、地域に限らず、災害の被災者や事件の被害者にも当てはまる、ソーシャルメディア時代の大きなテーマです。なぜ、第三者であるジャーナリストが必要なのか?

この問題を正面から問うたのがノンフィクションライターの石戸諭さんでした。例えば、広島の原爆被害を書くとして、最大の当事者は被爆して亡くなっている。次は生き延びた人の手記がある。どんなに迫っても当事者にはなれない。東日本大震災津波被害も同じような構造を持つ、にもかかわらず、これまでジャーナリズムは、当事者に近づこうとしていなかったかと疑問を呈します。

「ジャーナリズムは反権力である」といった社会的役割の原則論ではなく、現場のジャーナリストが直面する結論がない問題をどう考えていくのか、学生の顔にも困惑の表情が浮かびます。石戸さんは、ニュージャーナリズムの手法などを紹介しながら、出来事に直面した人の気持ち、想いを大切にし、「代弁者でも、寄りそうでもなく、共に言葉を探す作業なのではないか」と投げかけました。

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取材先から思いを託され、言葉にする

この石戸さんの投げかけを引き取ったのが、中国新聞で原爆・平和報道を担当する明知隼二さんでした。3日目の講義で「自分の違和感をもう一度考えて整理してみた」と切り出した明知さん。

被爆者であることは家族や恋人にすら知られたくないというセンシティブな状況がある中で、これまで誰にも明かしたことがない話を託されて記事を書いたという具体的なエピソードから、「取材は、他人の人生に手を突っ込む行為でもある。それに悩みながらも記事にすることは、石戸さんが言う、代弁者でも寄りそうでもなく、共に言葉を探す作業なのではないか」と語りました。

ひとりの被爆者が抱えていた話を社会とつなぐことで、少しばかりその人の心の荷が下り、生きる意味を問い直すことが出来る。その際に、原爆・平和取材の積み重なりで生まれた表象が時に課題となる。表象と結びついた紋切り型の表現は分かりやすいが、共に言葉を探すとすれば、そこから逃れることも大事ではないか。

教室の空気がぐーっと深まり、学生の顔が引き締まっていきます。表現の恐ろしさ、もどかしさに悩みながら、それでもジャーナリストを続けるのは、取材相手から思いを託され、言葉にして、社会に残す役割がある。そんなジャーナリストたちが刺激し合い、学生に語る言葉が紡ぎ出される音楽のセッションのような瞬間に立ち会えて幸せでした。

講師のほうが朝から晩まで議論漬け

「ローカルジャーナリズム論」には、北海道から沖縄まで、ローカルジャーナリズムに関わる講師が集まったので、夜は多摩キャンパスにある大学の宿泊施設で交流を行いました。集中講義が終わり、そこから夜遅くまで、取材手法の話や記事の書き方、ローカルメディアの課題まで、幅広い議論が行われる「研修」となっていました。新たなプロジェクトのアイデアも出ていました。むしろ講師のほうが、朝から晩まで議論漬けだったかもしれません。

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初めての取り組みにもかかわらず、快く寄付を頂いた企業の皆さま、いろいろとサポート頂いた大学の事務課・執行部の皆さまなど、多くの関係者の力を借りて「ローカルジャーナリズム論」を実現することが出来ました。改めてお礼を申し上げます。

gatonews.hatenablog.com

地域の社会課題をメディアから考える集中講義「ローカルジャーナリズム論」を開催します

法政大学社会学部で9月17日~19日の3日間、集中講義「ローカルジャーナリズム論」を開講します。ローカルジャーナリストの田中輝美さん、ノンフィクションライターの石戸諭さん、シティプロモーションの提唱者である杉山幹夫さんという著名なゲスト講師と、ローカルメディアである沖縄タイムス社、西日本新聞社中国新聞社、高知新聞社博報堂ケトル、北海道テレビ放送HTB)の担当者と共に、メディアによる地域課題解決の可能性について学びます。

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集中講義の開催のきっかけは、あるローカルメディア担当者の「良い人材が集まらない」という悩みでした。人気職業と言われたメディア業界ですが、時代状況や働き方改革の遅れもあり、メディア社会学科の学生でも避ける傾向があります。テレビ局もローカルは人が集まらず採用のCMをやるほどです。もちろん、働き方は変えてもらわないといけないのですが(それは大前提)、ローカルメディアの魅力を学生が知らないという側面もあります。

その最大の要因が東京の私立大学が「首都圏の地元大学化」していることです。法政大学の地方出身学生は3割しかいません。魅力的なローカルメディアがあっても、取り組みに触れることが難しい状況にあります。就活のプラットフォームであるリクナビマイナビでは、たくさんの企業の中に埋もれています。「まず学生に知ってもらう必要がある」という地域の企業が直面する現実は、メディア企業も同様です(が、その現実を認めたくない人たちもいて困るのですが…)。

そこで、状況を的確に把握し、問題意識を持ち、さらに面白く、魅力的な取り組みをしているローカルメディアの皆さんに協力を頂き、各社がお金を出して運営する寄付講座として実施することになりました。はじめての試みだったのですが、初年度から枠いっぱいの6社に協力頂き、本当にありがとうございます。3日間のテーマは以下の通りで、 講義とワークショップを組み合わせています。

【1日目】9月17日(火)第1回~第5回 課題と向き合う
ガイダンス/ローカルメディアの課題と可能性/少子・高齢化と向き合う/フェイクニュースと向き合う/災害と向き合う/ワークショップ

【2日目】9月18日(水)第6回~第9回 地域とつながる
SNSでつながる/まちづくりでつながる/知識でつながる/ワークショップ 
【3日目】9月19日(木)第10回~第14回 地域を伝える
ローカルジャーナリズムの新たなデザイン/ローカルジャーナリズムの課題/ ローカルジャーナリズムの可能性/ローカルジャーナリズムの未来について考える/まとめ

3人の著名なゲストに加え、以下のような地域への課題意識と愛が溢れるローカルメディアの取り組みを講義します。

この集中講義を聞いた学生が、一人でも多くローカルメディアに興味を持ってくれることを願っています!

ゼミ合宿2019、地元の高校生・大学生と「白馬と小谷の魅力」を発見する

ゼミの夏合宿最後は、地元の白馬高校などに通う高校生と、信州大・長野県立大・法政大がチームを組んで「白馬と小谷の魅力」を発見するPBL合宿が2日間行われました。

企画と運営は、信州大のローカルイノベーター養成コースの学生が進め、ゼミ生はグループワークとコンテンツ化のサポートを行いました。

PBL合宿は、発信講座、写真講座、トマソン理論の街歩きなど、インプットが盛りだくさん。信州大の勝亦達夫先生による「行ったことないマップ作り」では、行ったことある場所、行ってみたい場所に、しるしを付けて情報を共有し、高校生たちは各地に出発していきました。

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白馬村内で取材を進めるチーム。ゼミ生には高校生の考えを引き出すのが役割だと伝えて送り出したので、困惑したゼミ生もいたようで、しろうま學舎を拠点にしている先輩ゼミ生による情報共有チームも、相談にのったり、指示したりと、大忙しです。

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2日目の最後は発表会。高校生が前に立ち、3枚の写真で魅力をプレゼンしました。アルプスの雄大な景色や地域の歴史などを説明し、質疑やコメントが飛び交います。ゼミ生のサポートもあり、高校生が自分の言葉でプレゼンしていたのが印象的で、ワクワクがしっかり伝わってきました。 

高校生の取材と発表は、ゼミ生が冊子に取りまとめて、白馬高校などにお送りする予定です。

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白馬高校やしろうま學舎のみなさんと話をすることで、長野県の高校や大学の状況を共有できたことも大きな収穫でした。都市と地方をかき混ぜていくためにも、高校生だけでなく、信州大・県立大の大学生とも過ごした時間が、ゼミ生にとって大きな意味を持つでしょう。

メディア社会学科への進学を希望する高校生がいたことも嬉しいことでした。より多くの高校生に目指してもらえるよう、引き続き発信や交流を進めていきたいと思います。

2019年のゼミ合宿はなかなか場所が決まらず困っていたところ、NTTレゾナント時代の知人のおかげで信州大とつなげて頂き、白馬村のサポートも得ることができました。関係者の皆様に感謝を申し上げます。

ゼミ合宿2019「しろうま學舎」のお手伝いと研究

ゼミの夏合宿拠点は、白馬高校の敷地内にある公営塾「しろうま學舎」の会議室です。アルプスが窓からきれいに見えます。

學舎を利用するのは白馬高校生。生徒数が減少して分校化の危機になり、地元が存続するために全国から学生を集めています。村内に塾がなかったことから、白馬村と小谷村が協力して立ち上げ、運営しているのです。

3年生から院生は學舎のお手伝いをしながら、研究を進めています。2年生は「白馬の魅力」を探るために街にフィールドワークに出ています。

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ゼミ生が担当しているフェイクニュースや災害情報、ニュース接触などについて、普段はできなかった細かいデータの確認や深い議論をする「研究合宿」化しています。連続かつ集中してできるので、これはこれでいい。  

ちょっと研究の議論に疲れたら、白馬駅近くに路面店を出しているノースフェイスとパタゴニアを見学。どちらもおしゃれなお店ですが、置いてある冊子やカタログなどについて議論が白熱するところはうちのゼミだなと思います。

夜は、ヤフーの拠点だった白馬ノルウェービレッジで信州大学中央大学とカレーパーティー

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ざっときた夕立が上がりいい感じの風が吹く中、お米、野菜、ルーまで地元産にこだわったカレーを美味しく頂きました。これまでで一番世の中のイメージする「ゼミ合宿」に近いかもしれません…

2019年のゼミ夏合宿は長野県白馬村。信州大学のイベントに加わり高校生と交流します

代ゼミの7回目の夏合宿は長野県白馬村で実施します。信州大学の取り組みに加わり、白馬高校生や地元の方との交流を実施します。

法政大学の学生の多くは首都圏とその周辺から通学しており、地方出身者は3割となっています。四国・徳島出身で地方を見て、経験してもらうことに意味があると考え、毎年ゼミの夏合宿は地方で行ってきました。これまで、沖縄県島根県、栃木県足利などで実施してきました。昨年は福島県白河市で高校生と交流しました。

gatonews.hatenablog.com

2019年度は白馬で高校生の学習支援やキャリサポートを行う予定です。基本的に信州大学白馬村と実施している枠組みに参加する形になります。決まっているのは、8月7日夜の「じもとーく白馬」(2日は参加しません。信州大学生が実施します)と 8月8・9日の「白馬・小谷の魅力」発見です。

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「白馬・小谷の魅力」発見は、信州大学、法政大学、長野県立大学と白馬高校生が一緒に地域の魅力を探すワークショップです。多彩なインプットやワークショップが用意されており楽しみです。

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法政大学に「メディア環境設計研究所」を設立し、第一回の研究会を行いました

人が暮らしやすく、社会的につながることができるメディア環境を設計することを目的として、特定課題研究所「メディア環境設計研究所」を設立し、7月20日に第一回研究会を行いました。

 研究所の構想は3年以上前からあり、準備会合を重ねてきましたが、ようやく方向性が決まったのが春、学内の手続きが終わったのが5月でした。

設立の問題意識は、スマートフォンソーシャルメディアの普及により、フィルターバブルやエコーチェンバーといった問題が指摘されるようになり、「つながる」メディアのはずが、人々が「分断」されていく状況をどのように捉え、社会的に解決するかです。解決のアプローチとして、コンテンツの質向上や取材力の強化(ファクトチェックなど)も考えられますが、それだけにとどまらず、メディア環境全体を再設計していく必要があると考え、「メディア環境設計研究所」と名付けました。

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人を中心に未来のメディアをデザインする 特定課題研究所「メディア環境設計研究所」設立-「第一回研究会」7月20日(土)実施-|法政大学

 AI(Artificial Intelligence)社会やIoT(Internet of Things)社会の到来が間近に迫り、家電や車などにより生活に関わるあらゆるモノがメディア化することが予想されています。いつでも、どこでも、インターネットにつながることで、人々の暮らしは便利になる一方で、フェイクニュースの拡散、プライバシーの侵害、社会の分断などの課題が浮き彫りとなり、民主主義社会が揺らいでいます。本研究所は、このような課題に対し、人間中心のアプローチによる解決を目指します。

 ソーシャルメディアに囲まれた環境の特徴

第一回研究会では、いずれも研究所の特任研究員に就任頂く予定の、softdevice inc.の野々山正章さんと、博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所の吉川昌孝さんからプレゼンがあり、参加者との議論が行われました。

野々山さんからは「ミドルメディアのプロトタイピングから見える大学生のニュース意識」というタイトルで、非常勤講師を務める京都造形大学で行った授業を元に、大学生が考えた新たなニュースサービスから、ニュースへの意識を紐解いていくというもの。大学生の提案は、主に「共有型」「リズム型」「偶然型」の3タイプあり、これが従来のマスメディアの共有や時間軸によるリズムとどう違うのか議論になりました。

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吉川さんからは、メディア環境研究所が実施している「メディア定点調査2019」(PDF)から、スマホとテレビの増加によりメディア総接触時間が初めて400分台に突入したとの紹介がありました。さらに、ユーザーの1日の追跡するエスノグラフィー調査から、大量の情報を浴びるように摂取する状況はマズイと思いながらもやめるつもりはなく、その状況を前提に、自ら媒体を選び、良い時間を作ろうとする姿を「新しいメディア満足の作り方」とのタイトルでプレゼンがありました。

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また、藤代ゼミ生による「大学生のニュースに対する態度-沖縄のフェイクニュース調査から-」の簡単な発表もありました。

ハズレを引きたくない、メディアへの適度な距離感

共通するのは、玉石混交の情報が多いことは前提、移動中でも調理中でも、いつでもどこでも見ることができる「オンデマンド」な状況になり、ハズレを引きたくない、多様なコンテンツへの接触が前提ゆえにコミュニケーションに悩み、ずっと接しているにもかかわらず、メディアには適度な距離感を持つなど、一見矛盾するようにみえる意識や行動が見られました。

そして近代とマスメディアが作り出してきた時間概念があいまいになり、感情や身体性と情報・ニュース接触との関係性が従来と異なっているのではないか、という議論に進んで行きました。

マスメディアの参加者からは、良いコンテンツ、良いタイミング(時間)で提供すれば「メディア満足」が作れるのではないか、という話が出ました。朝刊や夕刊、月9などマスメディアが作り出すリズムですが、そうではなく、個人が自分の行為をきっかけにしてコンテンツを選ぶ時代だという話が大学生から出て、感覚のズレが顕になりました。

ソーシャルメディア環境に囲まれた人たちは、マスメディア環境を前提とした人たちとは「何かが違う」ことはぼんやりと見えてきましたが、十分に説明したり、言葉にしたり、することはできませんでした。引き続き研究して行きたいと思います。

 議論の視点や論点をグラレコで

softdevice inc.の久保田麻美(くぼみ)さんに、グラフィックレコーディングを担当して頂きました。上の2枚の図も久保田さんによるものです。

発表40分+ディスカッション50分を2セットという、発表よりもディスカッションに比重を置いたタイムスケジュール。色々なイベントに行きましたが、正直なところ、これほど面白い議論を見たのは初めてです。

このような研究会でのグラレコの意義についても考えました。この日の議論をもとに研究をまとめていく狙いがあると聞いていたので、グラレコがこれからの研究の議論に役立てるよう、ディスカッションで生まれた視点や論点をしっかりつかまえることをミッションとし、挑みました。

下記noteへのリンクから久保田さんによる研究会のグラレコをご覧いただけます。

note.mu