ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

福島県白河市で2018年のゼミ夏合宿を行いました

代ゼミの6回目の夏合宿を福島県白河市で行いました。JR白河駅近くの「コミュニティ・カフェ EMANON」を拠点に、地域の取材や高校生を交えたワークショップなどを行いました。

夏合宿のきっかけは、カフェを運営する一般社団法人「未来の準備室」の青砥和希理事長に、東京でばったり再開したこと。カフェは、高校生が放課後に、勉強したり、おしゃべりしたり、する「場」になっており、合宿で大学生と交流することで、高校生たちの刺激になるのでは、という話になりました。

四国・徳島の出身者として、東京の大学生に地方を見て、経験してもらうことに大きな意味があると考え、毎年ゼミの夏合宿は地方で実施しています(島根、足利などで実施)。青砥さんにお願いし、活動の一部を公益信託うつくしま基金による助成を受けることで、7泊8日という長い滞在が実現しました。

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初日はJR富岡駅に集合し、福島原発廃炉作業を見学しました。そこから白河に移動です。あって良かった青春18きっぷ

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 地方都市の活動に必要な自転車。今回の夏合宿のためにNPO法人「表郷ボランティアネットワーク」から自転車をお借りしました。しばらく使っていなかったという自転車を整備するゼミ生。おかげでスムーズな活動ができました。

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地域を取材する高校生グループ「裏庭編集部」の編集会議に参加して交流するゼミ生。

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カフェEMANONは高校生だけでなく、地域で活動する色々な人が訪れる「交差点」のようなところです。古殿町の地域おこし協力隊の方が、地域の野菜を持ってきてサンドイッチにして食べるイベントがありました。

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ゼミOGが遊びに来た夜はディスカッション。的確なコメントあり、笑いあり。というか概ね笑いだったような…

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合宿では、タイトルづくりを通して、伝えたいことを正確に伝えることの難しさや大切さを学ぶ「タイトルで伝える、白河のこと」というワークショップを地域の方向け、高校生向けに2回行いました。

白河市長の鈴木和夫さんとランチをする機会があったのですが、その際にもワークショップを少し体験して頂きました。「難しいなぁ」と悩みつつ真剣に取り組む市長さんと、職員さん。

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1週間にわたる滞在で、高校生だけでなく、NPO、行政、地域おこし協力隊、街の人々と多様な交流を行うことができました。ゼミでは引き続き白河を訪れ、高校生と一緒に白河を紹介する冊子を制作する予定です。

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立教大学経営学部「ウェルカムキャンプ」の見学に行ってきました(ただし1日目の午前中だけ…

ユニークな教育プログラムを行っていることで評価を高めている立教大学経営学部。以前から雑誌やネットの記事で注目してたのですが、東京大学から同学部に移られた中原淳さんのブログで新入生対象の合宿ウェルカムキャンプの見学を募集していることを知り、1日目の午前中だけですが、行ってまいりました。

diamond.jp

会場はお台場のビッグサイト。新入生、運営を支える学生スタッフ、教職員など、約400人で埋まる会議室は、賑やかな中にも少し緊張感がある雰囲気です。キャンプは2日間行われます。

見学者のアテンドは学生スタッフが担当、テキパキと今日のスケジュールや注意点を説明してくれます。

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学部長の挨拶に次いで中原さんから

「リーダーシップは個人の資質ではなく学べるもの。立教型リーダーシップは①皆で決めた共通の目標に向かって②よい影響力を与え合って向かう状態のこと。学ぶことは、自分を変えること。社会をよき方向に変えること。一歩前に踏み出す勇気を、私たちはサポートします」

との呼び掛けがありました。このキャンプは、同学部のBLP(ビジネスリーダーシッププログラム)の1年次のBL0のキックオフ的な位置づけ。BLPは1年次から3年次まで、プロジェクトとスキルを交互に学んでいきます(図は立教リーダーシップ通信第19号3Pから)。

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BL0は経営学部の必修、BL1は選択になりますが、9割が受講希望しているとのこと。

プログラムを担当している舘野泰一さんがスライドで

「一生懸命やれば必ず成長できる。本気で学ぶことがバカにされない。一緒に学ぶ良い仲間がいる」

と大切なことを話していました。こういうことを真っ直ぐ言うことを軽視しがちな教員もいますが、言わなければ伝わりません。

各教員と学生スタッフが紹介され、いよいよアイスブレイクです。

内容はあるものを盗んだシェアハウスの住人を探すというもの。ヒントをお互いに出し合いながら真相を探ります。見学者もグループを作って挑戦しましたが、なかなか難解で、思わず本気になってしまう大人げない大人たち…

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提携企業であるビームスの担当者からアパレル業界の動向や自社の取り組みの説明があり、課題の提示がありました。舘野さんから採点基準が示され、 いよいよ議論に入っていきます…ということろで午前の部の見学は終わりでした。

ビームスの担当者によると、若者の考えを知るため、リーダーシップを学ぶため、の2つの理由で参加しているとのこと。そのため多くのビームスの社員がキャンプにも参加し、春学期が終わったら舘野さんによる振り返り講義もあるそうです。「相互にとって良いプログラム」と高く評価していました。

BLPには学生も深く関わっています。各クラスにはSA(スチューデントアシスタント)が1人配置され教員とペアで授業を進めます。各クラスにはメンターも1名配置され、受講生をサポート。CA(コースアシスタント)は、2クラスに1名、SAを支援しています。授業後には学生スタッフと教員が話し合いの場を持ち、改善をしていくそうです。

たった半日ですがとても印象的だったのは学生スタッフの頑張りです。「学びの楽しさを伝えたい」「カッコいいから自分もやりたい」「悔しかったり、うまく行かなかったり、した経験を支えたい」と志望動機を語ってくれました。スタッフになるには試験があるそうで、倍率も高いとのこと。みんないいを顔してました。

これだけ手厚いプログラムは教職員の負担も相当のものでしょう。毎年このような素晴らしい場を作り上げている教職員、そして学生スタッフ、それを支える企業の皆さんに敬意を評します。そして見学の機会を頂きありがとうございました。来年度は1日参加するぞ!

自分が所属している法政大学社会学部は今年からカリキュラム変更を行いましたが、ここまではまだ出来てない。どこかに、うまく取り入れることは出来ないだろうかと思いながら、ビッグサイトを後にしました。

そして人生はつづく

伝える仕事の楽しさと難しさ、託された「想い」をどう表現するか

ゼミ主催で「“この人だから”できる メディアの仕事 やりたいことを貫く方法・アイデア」というイベントを行いました。いま注目されている石戸諭さん、神原一光さん、野上英文さん、 與那覇里子さんに、大学生が質問するという企画でした。

「メディア業界に進むにあたり身につけておいたほうがいい技術は?」や「大学院進学や転職に至った経緯は?」といった質問にそれぞれが答えていきます。「取材相手との関係の築き方」という質問がきっかけとなり、託された「想い」をどう表現するかという話になっていきました。

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なぜ託されたのかはわからない

イベント前日3月11日に公開された東日本大震災の記事は、事前に準備していたことが「奇跡」や「美談」になっていく保育所長さんの心の内を描いたもの。司会の私は執筆した石戸さんに「なぜ、このような話を託そうとしたのだろう」と問いかけました。石戸さんの答えは「わからない」でした。

www.buzzfeed.com

以前から交流はあり、取材に行きますねという話をしていた、といいいます。取材はお昼から夜まで続き、「いろんな話を聞いていた。あんまり聞くのは苦じゃないんですよ」。「まるごと書きたい」という石戸さんは、新聞やテレビでは字数や時間の関係でマスメディアは難しいけれど、ネットなら表現が可能だと説明しました。記事は1万字近くあります。

神原さんは、自身が制作したピアニストの辻井伸行さんのドキュメンタリーでの表現について教えてくれました。

「辻井さんは普段ものすごく弾くんですが、ある時、ポーン、ポーンという感じになった。すごく苦しい中で弾いたその音を番組の大事なシーンで流すことにした。番組を見た辻井さんが大切な音を使ってくれたと言ってくれたんです」

このドキュメンタリーは神原さんのはじめての本になりました。

辻井伸行 奇跡の音色 恩師との12年間 (文春文庫)

辻井伸行 奇跡の音色 恩師との12年間 (文春文庫)

 

出会いは偶然かもしれませんが、それを大切にするからこそ託されるのかもしれません。野上さんは「仕事はやってくるものだ」と表現していました。 

伝えることの難しさ

マスメディアで仕事をしていると、無理なことを取材相手にお願いして傷つけてしまったり、聞いた話がほんの少ししか紹介できなかったり、場合によってはねじ曲がってしまうこともあります。その時の対応は、「会いに行って正直に説明する。遠い人だと手紙を書く」と共通していました。取材は一瞬ではなく、また、どこかで、と言う気持ちが必要です。

「取材相手の関係性のときに、近づきすぎる問題も話しておくべきだったかな…」

イベントが終わった後の打ち上げで、與那覇さんが残念がっていました。いくら取材相手と心が通っていても、お金や物のやり取りなどは問題になることがあり、距離感は重要です。それを聞いた野上さんが「全部伝えるのは難しいじゃないですか。記事もあれ書いたら良かったなと、いつも反省ばかりですよ」とフォローしていました。

表現は簡単ではないし、苦しいし、いつも反省ばかりだけれど、「伝わった」という瞬間のために、自分も関わっているのだなと改めて感じました。

イベント運営はゼミ生の一人がプロジェクトリーダーになって進めて来ました。朝日新聞社ジャーナリスト学校が発行する月刊誌「Journalism(ジャーナリズム)」2018年2月号」の座談会を読んで、質問を考えて申し込んでもらう条件にしていたのですが、Amazonの品切れ状態が長く続きスムーズな動線になっていませんでした。

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ゼミ生は、店頭に置いてくれている数少ない大学生協をジャーナリスト学校の方と一緒にまわったり、キャリアセンターにチラシを置いてもらうお願いをしたり、とイベントを知ってもらうために奔走しました。

自分と相手の想いが混じり合う

「イベントは表現の総合格闘技」とゼミ生には伝えました。当日の運営だけでなく、企画立案から広報、関係者との調整など、やるべきことは多岐にわたります。当然一人では難しい。自分の足で動いたら、人の輪が広がっていきます。

登壇者や参加者にとって良い場所をつくるためには、実は「こだわり」が必要です。相手の話ばかり聞いていると蛇行してしまい迷惑がかかります(なんだか話を聞くわりに何がしたいのか良くわからないイベントってありますよね)。表現は自分と相手の想いが混じり合って、いいものになっていきます。

まもなく新年度のゼミ募集が始まります。伝える仕事を目指している学生を待っています。

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メディアの仕事は面白い!大学生に読んでもらいたい月刊「Journalism」就職特集号

朝日新聞社ジャーナリスト学校が発行している月刊誌「Journalism(ジャーナリズム)」2018年2月号」は、恒例のメディア・ジャーナリスト向けの就職特集。座談会「メディアを目指す若者のための座談会」の司会を担当しました。

Journalism(ジャーナリズム)2018年 2月号

  昨年は、上智大学の水島宏明さんが各社にメディアの新たな取り組みや採用方針を聞くという内容でしたが、採用パンフレットのような会社説明的になり、司会も四苦八苦という感じでした。そこで、今年はガラッと方針を変えたいと相談を受け(「Journalism」誌はアドバイザーを務めています)、1980年代生まれの勢いがある皆さんに個人として発言してもらい、メディアって面白いぞ!というメッセージを伝える企画を岡田力編集長にお願いして作って頂きました。

座談会の出席者は、元毎日新聞でBuzzFeedJapanの記者で著書『リスクと生きる、死者と生きる』(いい本です!)が高く評価されている石戸諭さん、NHKスペシャル「AIに聞いてみた」などを手がける神原一光さん、大阪地検特捜部の証拠改ざん事件で新聞協会賞を受賞している朝日新聞記者の野上英文さん、沖縄タイムス記者で「沖縄戦デジタルアーカイブ」などを手がけて首都大学東京の大学院で学ぶ與那覇里子さん、の4人。

マスメディアは、斜陽産業であることが明確になり、メディアに面白い人が来なくなったと人事の方から聞くことも多くなりました。

2015年にこんな記事を書いたことがあるのですが、依然として学生にとってのメディアのイメージは「バラエティや女子アナといった華やかさ」にあります。そうではなく、社会の課題を捉え、世に問う仕事の面白さを伝えられないかというのが問題意識でした。

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座談会では、「マスゴミ」と揶揄されることもあるなかで、なぜ楽しそうに仕事ができるのか、仕事の意義について、率直に話し合ってもらいました。石戸さんの仕事は「ソロとパーティ」という発言から、メンターの見つけ方に広がり、上司と転職、ネットとマスメディアどっちに就職したほうがいい?、など、働くことと組織との関係についても多くの行数が割かれています。

この他にも、フォトジャーナリストの安田菜津紀さんによる「写真は直接命を救えない、でも伝えられる」、産経新聞からニコニコ動画などを経て、弁護士ドットコムニュース記者の猪谷千香さんの「女子の壁を突き破ろうといつの間にやらネットの記者へ」、朝日新聞ニューヨーク支局員の金成隆一さんによる「記者17年目のルポ・トランプ王国」、ヤフーのエンジニアから石巻日日新聞の記者と石森洋史さんによる「ヤフーの技術者から地域誌記者へ」などの寄稿も大充実で、改めてメディアの仕事は面白いな!と思える特集号になっています。

マスメディアに単に憧れている人も、マスメディアにこれまで興味がなかった人にも、ぜひ読んでもらいたい特集号はAmazonで購入できます!(9日発売、予約受け付け中)→「Journalism(ジャーナリズム)」2018年2月号 

なお座談会当日、與那覇さんが1時間以上の遅刻という大物っぷりを発揮し、冒頭から疲れムードが漂ったものの、個性豊かなメンバーのぶつかり合いで、疲れを見せる編集部の皆さんを横目に2時間以上の盛り上がりとなり、「イベントをやろう」ということになり、3月12日(月曜)に座談会出席者によるイベントが行われます。

Journalism(ジャーナリズム)2018年 2月号

Journalism(ジャーナリズム)2018年 2月号

 

「Computation+Journalism 2017」でゼミ生がポスター発表を行いました

ノースウェスタン大学で開催された「Computation+Journalism Symposium 2017」でゼミ生がポスター発表を行いました。タイトルは「Cleansing, Organizing & Training: Two Guidelines for Generating Attractive News Headlines for Social Media」、NTTコミュニケーション科学基礎研究所(CS研)と行っている共同研究の成果です。

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「Computation+Journalism」は昨年に続いての参加です。この会議は、データジャーナリズム人工知能による記事生成といった、テクノロジーとジャーナリズムが融合した分野の研究成果や実践が発表されます。ジャーナリズムスクールの「Medill」に加え、工学系の「McCormick」の先生からもウェルカムスピーチがありました。

今年は「フェイクニュース」がテーマということもあり、ファクトチェック関連のパネルが2本設定されていました。

1日目のキーノートは、ワシントン・ポストのchief product and technology officerによる「Journalism and technology: Big data, personalization and automation」。一つ一つの取り組みに目新しさはないものの、サイトの構築、広告の最適化など、やるべきことを徹底していることが分かるプレゼンテーションでした。

縦軸がExcellence in Journalism、横軸がExcellence in Engineering、ワシントン・ポストはどちらもHIを目指すという図が提示されていたのも印象的でした。ポインターのサイトに記事が掲載されていたのでご紹介しておきます。

www.poynter.org

2日目のキーノートは「The spread of misinformation in social media」。ソーシャルメディアの拡散のモデル、botの検出などについて網羅的に説明があり、我々の研究関心に近いこともあって大変参考になりました。誤情報の追跡を視覚化することが出来るHoaxy(参考、Hoaxy: A Platform for Tracking Online Misinformation)が公開されていますが、日本語は未対応のようです。

ちなみに会場は「Medill」ではなくMBAのトップ校「Kellogg」のエリア。コーヒーもランチのお皿もケロッグロゴ入り。ポスター&デモセッションの会場は3月に出来たばかりの新校舎「Kellogg Global Hub」でした。建物すごかった…

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昨年の「Computation+Journalism 2016」の様子はこちらから。

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足利市で2017年のゼミ夏合宿を行いました

代ゼミの5回目の夏合宿を栃木県足利市で行いました。 足利で夏合宿を行うのは2回目。NPOコムラボの皆さんとワークショップを行い、足利を紹介する冊子「足利のたからさがし」を作りました。今回も、コムラボの皆さんにお世話になり、地域の取材や高校生を交えたワークショップなどを行いました。

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合宿は3泊4日。テーマは「足利らしさ」です。コムラボが運営するJR足利駅前のコワーキングスペース「SPOT3」が活動拠点です。

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1日目は、文献や市のデータ、ソーシャルメディア情報を分析して、検討した「足利らしさ」の仮説を検証するために、街を歩いてインタビューしていきました。

街の人からよく出たキーワードは「歴史のある街」。日本で一番古い学校である足利学校や日本百名城のひとつでもある鑁阿寺を挙げる人が多くいました、その一方で、以前は繊維業が栄えていたけれど今は…という意見も。話題になっている刀剣乱舞を挙げる人もいました。 

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魅力的な路地を覗いたり。

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足利を見渡す山に登ったり。

f:id:gatonews:20170811124401j:plainコムラボと合同で開催したワークショップでは、高校生も参加して、足利の皆さんと一緒に「らしさ」を考えました。

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街の人とゆっくり話すと、歴史に裏打ちされたゆとりやおおらかさ、といった「らしさ」が次第に浮き上がって来ました。ゼミで引き続き、足利の魅力を伝えるコンテンツを制作していく予定です。

 

藤代ゼミ課題図書「メディアの今を理解するための7冊」2017版

代ゼミでは、春学期・秋学期のスタート時に、7-8冊の指定図書をゼミ生全員で読む「読書祭り」というイベントを行っています。春学期のテーマは「メディア」、秋学期は「ジャーナリズム」です。2013年に一度指定図書を紹介したのですが、少しずつ書籍を入れ替えているので、改めて2017年版を紹介します。

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さとなおの愛称で知られるコミュニケーション・ディレクター佐藤さんの著書。早くからウェブサイトを開設し、電通在籍時代はその名を冠した「サトナオ・オープン・ラボ」が開設された第一人者。冒頭のラブレターの話から、分かりやすくインターネットの登場によって変化するメディアと人々との関係を描く。スラムダンクの事例など、広告、メディアへの愛あふれる本。まずは、この本からスタートです。

人工知能(AI)による記事作成、名場面の自動編集、広告配信など、メディアに関係するAIのニュースもたくさん報じられるようになりました。分かるような、分からないような…言葉だけが先行しているようにも見えるAIについて整理されている分かりやすい入門書。ゼミでは、機械学習を用いたニュース研究もやっているので、他のチームでもこの本の内容ぐらいは分かっておいてもらわないと、という感じです。かなり分厚いですが『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』をじっくり読むのもいいでしょう。

社会学者北田さんの著作、2002年に出版、2011年に増補版が出ています。パルコに代表される80年代的な広告に触れながら、巨大なメディア空間である都市の変化を追っています。広告論としても読めますが、都市論としても面白く読めます。2020年の東京オリンピックに向けて大きく変化する渋谷、そして東京を見ながら、この本で80-90年代を振り返るというのはとても意味があると思い、今年からラインナップに加えました。『都市のドラマトゥルギー』の併読をオススメ。

活動家であるパリサーは、グーグルの検索結果が閲覧履歴によってひとりひとり異なり、他の人が見ている情報ではない自分の好きな情報に囲まれるフィルターバブルが起きていると警告しています。2011年に出版、邦訳は2012年と、フェイクニュースやネットによる社会の分断が話題になる前に書かれているので、やや細かいところが気になる方もいるかもしれませんが、見通しが興味深いです。

「予言の書」と言われるこの本は、「ほぼ日刊イトイ新聞(ほぼ日)」を始めたばかりの糸井さんが、ネットでつながるという価値や社会の変化について2001年に「やさしく」書いたものです。読んだ時に「なんだ、当たり前のことを書いている」と思い、発行年を見て驚いたのを思い出します。「おいしい生活」という西武百貨店のコピーを生み出し、消費文化の担い手となった糸井さんの経歴を踏まえ、インターネット的を読んでから『広告都市東京』を読み直すと新たな気付きがあるでしょう。

ソーシャルメディアスマートフォンが登場した社会を俯瞰的に捉える本として鈴木さんの「ウェブ社会のゆくえ」を選びました。鈴木さんは、現実空間の中にウェブが入り込むことで、公私の境界があいまいとなり、目の前にいる人ではない人と携帯でつながるような「多孔化」を生んでいると指摘しています。社会学、メディア論として学ぶところが多くあります「多孔化」した社会をどう生きるのか、自分の「リアル」に引きつけて読んでもらいたい一冊です。

例年、最後に読んでもらう不動のトリ本がこちら。著名な文化人類学者で、国立民族学博物館の初代館長、「情報産業」という言葉の名付け親の梅棹さんの短編をまとめたものです。7冊の中で最も古いのですが、いまだに色褪せない情報に関する深く、鋭い洞察が並び、読みなおすたびに新しい発見があるまさに名著です。多くのゼミ生が苦戦するのですが、何度も読み返すうちに理解が進みます。簡単に読める本なんてつまらない、歯ごたえがあるから面白い。文体や事例が古いのに「今」なんて分からないではなく、共通項を見出して欲しい一冊です。

 

書籍の選択理由は、読みやすくインターネットやソーシャルメディアの登場によるメディアの変化や構造が理解できる、社会とメディアとの関係や課題が書かれている、実践にあたり参考になる、Amazonの中古で安価に売られている、です。 例えば、キャス・サンスティーンの『インターネットは民主主義の敵か』も良いのですがAmazonで見ると高騰しているので手が出ません…なお、『明日の広告』、『ウェブ社会のゆくえ』、『情報の文明学』の三冊は読書祭りスタート時から変わらずに残っています。

  

秋学期の「ジャーナリズム」課題図書は以下の記事を参考にしてください。今年はジャーナリズム関連の良い書籍が多く出版されているので入れ替わる可能性が高そうです。

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