ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

法政大学に「メディア環境設計研究所」を設立し、第一回の研究会を行いました

人が暮らしやすく、社会的につながることができるメディア環境を設計することを目的として、特定課題研究所「メディア環境設計研究所」を設立し、7月20日に第一回研究会を行いました。

 研究所の構想は3年以上前からあり、準備会合を重ねてきましたが、ようやく方向性が決まったのが春、学内の手続きが終わったのが5月でした。

設立の問題意識は、スマートフォンソーシャルメディアの普及により、フィルターバブルやエコーチェンバーといった問題が指摘されるようになり、「つながる」メディアのはずが、人々が「分断」されていく状況をどのように捉え、社会的に解決するかです。解決のアプローチとして、コンテンツの質向上や取材力の強化(ファクトチェックなど)も考えられますが、それだけにとどまらず、メディア環境全体を再設計していく必要があると考え、「メディア環境設計研究所」と名付けました。

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人を中心に未来のメディアをデザインする 特定課題研究所「メディア環境設計研究所」設立-「第一回研究会」7月20日(土)実施-|法政大学

 AI(Artificial Intelligence)社会やIoT(Internet of Things)社会の到来が間近に迫り、家電や車などにより生活に関わるあらゆるモノがメディア化することが予想されています。いつでも、どこでも、インターネットにつながることで、人々の暮らしは便利になる一方で、フェイクニュースの拡散、プライバシーの侵害、社会の分断などの課題が浮き彫りとなり、民主主義社会が揺らいでいます。本研究所は、このような課題に対し、人間中心のアプローチによる解決を目指します。

 ソーシャルメディアに囲まれた環境の特徴

第一回研究会では、いずれも研究所の特任研究員に就任頂く予定の、softdevice inc.の野々山正章さんと、博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所の吉川昌孝さんからプレゼンがあり、参加者との議論が行われました。

野々山さんからは「ミドルメディアのプロトタイピングから見える大学生のニュース意識」というタイトルで、非常勤講師を務める京都造形大学で行った授業を元に、大学生が考えた新たなニュースサービスから、ニュースへの意識を紐解いていくというもの。大学生の提案は、主に「共有型」「リズム型」「偶然型」の3タイプあり、これが従来のマスメディアの共有や時間軸によるリズムとどう違うのか議論になりました。

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吉川さんからは、メディア環境研究所が実施している「メディア定点調査2019」(PDF)から、スマホとテレビの増加によりメディア総接触時間が初めて400分台に突入したとの紹介がありました。さらに、ユーザーの1日の追跡するエスノグラフィー調査から、大量の情報を浴びるように摂取する状況はマズイと思いながらもやめるつもりはなく、その状況を前提に、自ら媒体を選び、良い時間を作ろうとする姿を「新しいメディア満足の作り方」とのタイトルでプレゼンがありました。

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また、藤代ゼミ生による「大学生のニュースに対する態度-沖縄のフェイクニュース調査から-」の簡単な発表もありました。

ハズレを引きたくない、メディアへの適度な距離感

共通するのは、玉石混交の情報が多いことは前提、移動中でも調理中でも、いつでもどこでも見ることができる「オンデマンド」な状況になり、ハズレを引きたくない、多様なコンテンツへの接触が前提ゆえにコミュニケーションに悩み、ずっと接しているにもかかわらず、メディアには適度な距離感を持つなど、一見矛盾するようにみえる意識や行動が見られました。

そして近代とマスメディアが作り出してきた時間概念があいまいになり、感情や身体性と情報・ニュース接触との関係性が従来と異なっているのではないか、という議論に進んで行きました。

マスメディアの参加者からは、良いコンテンツ、良いタイミング(時間)で提供すれば「メディア満足」が作れるのではないか、という話が出ました。朝刊や夕刊、月9などマスメディアが作り出すリズムですが、そうではなく、個人が自分の行為をきっかけにしてコンテンツを選ぶ時代だという話が大学生から出て、感覚のズレが顕になりました。

ソーシャルメディア環境に囲まれた人たちは、マスメディア環境を前提とした人たちとは「何かが違う」ことはぼんやりと見えてきましたが、十分に説明したり、言葉にしたり、することはできませんでした。引き続き研究して行きたいと思います。

 議論の視点や論点をグラレコで

softdevice inc.の久保田麻美(くぼみ)さんに、グラフィックレコーディングを担当して頂きました。上の2枚の図も久保田さんによるものです。

発表40分+ディスカッション50分を2セットという、発表よりもディスカッションに比重を置いたタイムスケジュール。色々なイベントに行きましたが、正直なところ、これほど面白い議論を見たのは初めてです。

このような研究会でのグラレコの意義についても考えました。この日の議論をもとに研究をまとめていく狙いがあると聞いていたので、グラレコがこれからの研究の議論に役立てるよう、ディスカッションで生まれた視点や論点をしっかりつかまえることをミッションとし、挑みました。

下記noteへのリンクから久保田さんによる研究会のグラレコをご覧いただけます。

note.mu