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ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

自由のためのルールづくり「ネイティブ広告ハンドブック」の意味

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日本インタラクティブ広告協会(JIAA)が公開した「ネイティブ広告ハンドブック2017」に関して、私のツイートが騒動になるきっかけを作ってしまったことをお詫びします。既に、境治さんや、ふじいりょうさんが、ハンドブックの位置付けや課題について記事を公開していますが、私なりにハンドブックとガイドラインの意味を説明しておきたいと思います。

問題を起こし続けているネット企業

前掲した2人も書いているように、JIAAがガイドラインやハンドブックづくりを熱心に行っているのは、消費者庁との関係性が大きく存在しています。その先には消費者の姿があります。

ネットはスマートフォンの普及などにより、幅広い年齢、地域、にも利用されるようになり、消費者に大きな影響を与えるようなってきています。「ウソをウソと見抜けぬ人でないと掲示板を使うのは難しい」と言われたように、ネットの情報は玉石混交でリテラシーが求められるとされてきましたが、利用者が増えると、当然ながら多様なリテラシーの人たちである、青少年や高齢者、障害者など、誰もが安心して利用できる環境づくりが求められるようになってきます。

しかしながら、ネット企業・業界は十分に対応しているとは言えません。そこで消費者の保護に取り組む消費者庁が動き出したのです。消費者庁がネットの情報を問題視したものに「ステルスマーケティング(略称ステマ)」があります。

2012年に起きた食べログステマ問題は、口コミであるレビューをお金で買っており消費者からの信頼が揺らぎました。さらに、詐欺事件に発展した芸能人ブログステマペニーオークションソーシャルゲームにおけるコンプガチャ問題もありました。

マスメディアの場合もトラブルが無いわけではありませんが、各種団体でのルールづくりや媒体内での広告審査の蓄積などがあり、課題があれば対応が可能です。一方、ネット・ネットメディア業界は、従来のメディアではない人たちが参入し、ビジネスに関わることで、これまで積み上げてきた消費者保護のルールや蓄積は通じず、消費者が混乱する要因となっているのです。

健全化に努めるJIAAの危機感

この状況を改善するため、JIAAは会員社を拡大してくとともに、新たなステマの温床と指摘され始めたネイティブ広告の問題に取り組みます。2015年3月に「ネイティブ広告に関する推奨規程」というガイドラインを発表し、ネイティブ広告への広告表記、広告主体者の明示を定めます。定義や守るべき規程を定めて、混乱を収束させてビジネスのルールを作ってく動きです。

そこで起きたのが、CINRA.NETによる「ネイティブアドよ死語になれ」騒動です。

この騒動は、社長がJIAAの役員でもあるヤフーが、ステマ記事を排除する方針を明確にし、さらに社内調査も行うという徹底した方針を示したことで流れがつくられていきます。その結果、CINRA.NETはガイドラインに沿って媒体運営をすると方針を転換したのです。

規制が入れば、当然ビジネスの自由度は下がります。その危機感は、ハンドブックの48ページにも記されています。

このネイティブ広告市場を長期に渡って生きながらえさせるものにするのか、それとも短期的なブームにしてしまうのか、それも業界関係者がこの市場をどのように扱うかによって決まってしまうのだということも理解しておきたい。

そして、自主規制の意義についても39ページから41ページにかけて書かれています。 

2. 業界の自主的な規制の意義

法令のような強制力や罰則はないが、ビジネスを取り巻く環境の変化に応じて柔軟かつ機動的に対応できるメリットがある。何よりも、業界の自主的な取り組みにより一定の規律を課すことが、メディアや広告の自由度と信頼性を確保し、価値を高めることにもなることを強調しておきたい。

 

ガイドラインは「事後」では機能しない

食べログステマ問題の際、私はアジャイルメディア・ネットワークの徳力基彦さんやビルコムの太田滋さんらと立ち上げたWOMマーケティング協議会(WOMJ)のガイドライン委員長として、ガイドラインをまとめた立場でした。

業界団体として消費者庁総務省との情報交換を行いましたが、WOMJは口コミのガイドラインを2010年に発表していたことで、規制の強化を逃れることが出来ました。事前に自主的な取り組みを行っていたことで、前向きに話し合いが出来ました。

逆に問題が起きた「事後」にガイドラインを作るなどの対応を行ったことで、大幅にビジネス活動の自由度が下がったのがコンプガチャ問題です。コンプガチャでは、ソシャゲ業界の対応が後回しになり、企業の足並みも揃わないなど業界内でのゴタゴタがあった結果、消費者庁景品表示法に抵触することを明言、急速にビジネスがシュリンクしました。

業界の自主規制は法律ではありません。だからこそ、業界が率先して課題解決に向けて動き出していると、監督官庁だけでなく、消費者から見える・理解できることが重要になるのです。

JIAAによる熱心な取り組みにも関わらず、ガイドライン制定後も会員社による問題は起き続けています。食べログは検索結果に広告と表示せず問題になり、サイバーエージェントも広告表記を行っていませんでした。

自主規制というのは、業界に自浄作用があることが前提であり、JIAAがガイドラインを浸透させることができるか、疑われかねません。

弁護士の板倉陽一郎さんは「消費者法ニュース」に「ステルスマーケティングの法的問題」を執筆しており、ステマをめぐる問題、自主規制の動きが整理されています。そして自主規制が効かない場合は規制が必要になる可能性があると指摘しています。

4立法上の課題

ステルスマーケティングについて、自主規制が奏功しない場合には、立法による規制が必要となることも考えられる。

消費者から見ればライターも「業界」のプレイヤー

では、ライターとガイドラインやハンドブックにどのような関係があるのでしょうか。

ライターは記事を書くだけでなく、最近では記事スタイルの広告も書く場合もあるでしょう。JIAA会員社のパブリッシャーや代理店との依頼などにより、広告制作の仕事をする以上は、当然ながらガイドラインやハンドブックを理解し、尊守しながら広告を制作してく必要があります。分かりにくいと言っている場合ではありません。

ライターは広告業界に所属していないかもしれませんが、仕事をしている以上は、消費者から見れば「業界内」のプレイヤーであり、直接触れる情報を作り出している人たちです。そのような立場でありながら「我々は広告業界ではない」というのは通用しないでしょう(もちろん広告に関わらず、記事だけ書いているライターはこの限りではありません)。  

さらに、広告制作の現場から、業界が定めたハンドブックを揶揄するような意見が出たり、そのような意見を持つかのように見られるライターに広告制作を発注している状況では、JIAAが自主規制を有効であると消費者や消費者庁に証明することは出来ないでしょう。

自分自身が書き手でありながら、WOMJを立ち上げたり、JIAAの活動に関心を持っているのは、良いコンテンツを作るためには収入を確保できる適切なビジネスモデルが立ち上がる必要があるからであり、規制の「防波堤」となり、表現や言論の自由といったものを守ってくれる存在でもあるからです。

ルールをつくり自由になる

状況が改善されなければ、規制が強化されたり、ガイドラインなどを尊守しているメディアと、そうでないメディア、尊守しているライターとそうでないライター、が消費者から明確に分かるような仕組みを導入しなければならなくなるかもしれません。

分断は望みませんが、 ネット業界のお行儀の悪さは、すでに「何度目」かのものであり、今回が初めてではありません。最近ではキュレーションサイトの問題も指摘されています

困難な中で新たなルール作りに取り組んでいるJIAAの関係者の皆様に敬意を表するとともに、ネットを誰もが安心して利用できる環境になるように、私自身も何らかの形で力を尽くしていきたいと思います。