ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

救命センターでの行き過ぎ取材はあったのか 新聞社と病院に取材を行いました

公立豊岡病院但馬救命救急センターがブログでマスメディアの取材手法を厳しく批判し(「マスコミの人間に心はあるのか」)ネットで話題となった後、J-CASTニュースがブログで名指しされた読売、毎日、朝日の各新聞社に取材し、新聞社側がブログは事実誤認であると指摘していることを明らかにしました(亀岡事故、行き過ぎた取材だったのか 病院「心が腐っている」vs新聞社「事実誤認、訂正を」)。
センターのブログが話題となっている最中に

というブログ記事を書き、現場での無理な取材が批判を浴びながら、なぜ繰り返されるのかという構造的な問題に目を向けて考えてみましたが、J-CASTニュースの取材によって状況が変化し、事実関係が曖昧となったために、各新聞社と病院に取材を行いました。いずれもお忙しいなか、丁重に対応頂きました。
新聞社はいずれもファクスで質問項目を送付し、ファクスで回答がありました。病院は電話で対応してもらいました。新聞社への質問項目は「ブログの指摘は事実か」「記者の取材状況」「ブログの指摘をどのように知ったか」「病院側への対応」「現場の取材ガイドラインの有無」です。ここでは各社、病院からの返答をそのまま掲載します。
<読売新聞>(大阪本社広報宣伝部)

  • 本紙記者は病院の許可の範囲内で取材しており、ブログに書かれていた内容は事実ではありません。ブログのことは読者からの指摘で知りました。ブログにつきましては、現在なお訂正を求めています。事故や災害の取材にあたっては人権に十分配慮するよう指導しています。

<毎日新聞>(社長室広報担当)

  • 事実ではありません
  • 弊社の記者は4月23日午後、終始、病院側責任者の立会いの下、あるいは指示に従って取材していました。記者が待機したり取材した場所は病院建物内ではなく、霊安室から外部に出る救急出入り口から約20メートル離れた病院駐車場(病院側が指示した場所)でした。また、撮影したのも病院外に出て行く車だけでした
  • 4月24日朝からブログを見たとみられる人から大阪本社に電話、メールで問い合わせが入ったことにより知りました
  • 現地の記者が病院関係者に対し、弊社に関する記述は誤解であることを確認いたしました。その後、ブログが更新されていることが分かりましたので、それ以上の対応はしませんでした
  • ございません。社員研修などにおいて日本新聞協会が2001年にまとめた『メディアスクラムに関する見解』を念頭に置いた指導は行っています

<朝日新聞>(広報部・大阪)

  • 23日のブログ記述は事実に基づいておりません。朝日新聞の記者は、霊安室の前にカメラを構えた事実も、お帰りになるご両親を撮影した事実もありません。弊社の記者はドクターヘリで被害者の女児が但馬救命救急センターに運ばれたことを知り、事実確認のため、センターへ向かいました。到着したとき、すでに救命救急処置中でした。記者は病院内で静かに待機しており、女児のご両親が来られたときも、直接声をかけてはいません。それでもセンター側から建物外への退去を求められたため、それに応じ、建物内から静かに立ち退きました。それ以降は主に駐車場などで待機していました。女児が亡くなったことがわかり、ご両親にお話が聞けるかどうか、センターを通じて確認してもらいましたが、ご両親が応じたくないとおっしゃっておられるとのことでしたので、記者はそのまま帰りました。弊社の記者は、ご遺体とご両親がセンターからお帰りになる2時間半前に、センターを引き揚げていました。ブログに書かれているような、敷地外からも退去するようにとか、再三にわたって注意された、などという事実もありません。J-CASTの記述通り、「ブログには事実誤認があり、霊安室前の現場には記者がいなかった」とセンターに指摘しています。
  • 24日朝、23日のブログを見た読者の方から、弊社読者応答部門に「新聞で謝罪しろ」などといった批判が多数届いたため、このブログのことを知りました。
  • 24日に豊岡病院とセンターの双方へ訂正を要求しました。しかし、24日夜のブログには「表現の仕方で朝日、読売、毎日新聞が撮影していたという誤解を招いたことは改めて訂正をします」とあるだけで、「霊安室の前に朝日新聞の記者がいなかった」ことが伝わる記載になっていませんでした。このため、25日以降も「24日の訂正は不十分」との見解を伝え、病院側に誠意ある訂正を求めています。
  • 多数のメディアが、事件・事故の当事者やその関係者のもとに殺到し、私生活の支障となる、いわゆる集団的加熱取材については、朝日新聞社が公表している「記者行動基準」の指針に沿って、その防止に努めています。

<豊岡病院>(管理部)

  • 確認を行なって来たが、3社については事実はありません。ただ、(ブログが指摘する)事実は一部マスコミによってありました。救命外来の玄関にいた記者には、病院側からは良識ある配慮を求めたが、すべての記者がどこにいたかは分かりません。記者が救命センターの待合室にいたため、センター長からは立ち退きの依頼があり、退去してもらったが、10から15分後に再び待合室にいた記者がいたということです。救命センターがあるので、患者プライバシーと医療行為の障害となるようなことはお断りしたいが、公共施設でもあり建物内は出来ても、敷地から立ち退くことまでは難しいし、写真の撮影禁止も言ってない。今のところマスコミ取材の苦情は患者からはない。ご両親への取材依頼があったので、確認をしてお断りした。ブログはセンター長個人が運営している。PRになるので病院の名前を使うのを容認していた。内容について事前のチェックは行なっていない。

取材からは、センターのブログが指摘した、読売、毎日、朝日については事実はないこと、行き過ぎた取材は一部マスメディアによってあったと病院が指摘していること、行き過ぎの程度の状況につては病院とセンターにもズレがある(敷地内か建物か)ということが明らかになりました。取材を踏まえた記事は、日本経済新聞電子版のコラムなどに掲載する予定です。また、この問題について動きがあればフォローしていきます。
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