読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

「ソーシャルシフト」これからの日本企業にとって一番大切なことはHERO社員を活かすこと

ループス・コミュニケーションズの斉藤徹さんが書いた「ソーシャルシフト―これからの企業にとって一番大切なこと」
ソーシャルシフト―これからの企業にとって一番大切なこと
350ページを超える分厚さ。図表とケースが豊富に紹介されており、いまソーシャルメディアによって企業に何が起きているかを明らかにしています。ややまとまりに欠くところはありますが、動きが伝わる内容です。
斉藤さんは以前からブログや著書を読んでいて知っていたのですが、さとなおさんが取り組んでいる東日本大震災の復興を支援する「助けあいジャパン」の活動で実際にお会いました。本を読みながら節電で暗い部屋、切迫した空気の中で、議論したことを思い出しました。338ページには名前も掲載してもらいました。
震災の支援活動をしながら、そして仕事や日々のコラムを書きながら、この分厚い本ををまとめたことに驚きましたが、むしろあの活動があったからこその「ソーシャルシフト」かもしれないとも感じました。
本の内容は、大きく3部の構成に分かれています。

  • 第1部 世界の人々がつながり、企業の常識は180度変わる
    • ボンド・オブ・トラスト―信頼の絆が加速する共感の時代
    • シェア・ムーブメント―世界に浸透しはじめたシェア文化
  • 第2部 企業と生活者、新しいコミュニケーションのカタチ
    • エイジ・オブ・トランスペアレンシー―人の口に戸はたてられぬ
    • ロング・エンゲージメント―「伝える」から「関係を構築する」時代へ
    • コラボレイティブ・バリューチェーン―41の事例が実証する生活者参加型の価値創造
    • ヒーロー・ダイナミクス―日本でもソーシャルメディアが会社を変革しはじめた)
  • 第3部 ビジネスに、ソーシャルシフトの風を
    • ドゥ・ザ・ライト・シング―すべての顧客接点で、正しいことができる組織へ
    • ソーシャルシフト―企業をソーシャルシフトする6つのステップ
    • ビヨンド・ザ・ボーダー―企業の境界を超えて

個人的に注目したのは第2部のヒーロー・ダイナミクス。
東急ハンズソフトバンクモバイル、OKWave、ライブドア日本航空、ローソン、NHK、良品計画などの事例が紹介されています。
HEROとはHighly Empowered and Resourceful Operatives「大きな力を与えられ、臨機応変に行動できる社員」のこと。
このHEROは、ソーシャルメディアを理解する上での必読書ともいえる「グランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略」の続編「エンパワード ソーシャルメディアを最大活用する組織体制」で紹介された概念です。
「ソーシャルシフト」では、NHKのツイッターアカウント@NHK_PRの震災当日の活動が紹介されています。
中学生によるスマートフォンUstreamへの「無断配信」があった際にツイッターでどうするか問われた@NHK_PRは

停電のため、テレビがご覧になれない地域があります。人命にかかわることですから、少しでも情報が届く手段があるのでしたら、活用して頂きたく存じます(ただ、これは私の独断ですので、あとで責任は取るつもりです)。

とツイートし、大きな支持を得て、まさにHEROになりました。
担当者はインタビューで「Ustreamへのアップを知った後、2〜3分ほどためらいました。これを流したら問題になると思ったからです。保身を考えました。しかし、公共放送の指名は必要な時に必要な人に情報を届ける事だと思ったからです」と答えています。同時にNHKでは別ルートでUstreamニコニコ動画から放送利用の要請が行われており、結果的に公式にOKになりますが、場合によっては大きな問題になったでしょう。
ソーシャルメディアで大切な事のひとつに「傾聴」(グランズウェルでも強調されている)があります。ソーシャル化した人が生活者の会話の中に身を置けば、@NHK_PRのように人々の声が集まることになります。それは必ずしも会社が望むものではない可能性もあります。
エンパワード ソーシャルメディアを最大活用する組織体制 (Harvard Business School Press)
生活者が会社に期待する声と会社が考えることにギャップがある場合、「こんなことをやってほしい」という声に対して、部門の壁やマネジメントの問題、つまり内側の論理で実現できない場合、HEROは苦しい立場に追い込まれるかもしれません。HEROは生活者との接点ですが、会社にとっては「境界」でもあり、都合が悪い存在にもなり得るのです。
そこで「エンパワード」では、イノベーションを優先させるために、マネジメント部門は、HEROを助け、IT部門と協力してリスクを管理していくことが重要とされています。それが実現する組織体制が作れているでしょうか。企業はHEROを探し、役割を任せていくことが、求められるのです。
「ソーシャルシフト」は図やフレームワークが豊富だけに、マーケティングの新しい潮流として大企業の管理職や経営部門といった人たちにも読まれるでしょう。トップが「ソーシャルシフトしよう」という掛け声をかけるかもしれません。しかし、これからの企業にとって一番大切なことは、企業としてHEROをサポートしているかどうかではないでしょうか。
この本に興味と持った方は、ぜひ「エンパワード ソーシャルメディアを最大活用する組織体制」も手にとっていただければ。