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2011 Fall 京都レポート 羽生善治「経営者のための決断力と大局観」(前半

Infinity Ventures Summit 2011 Fall Kyoto」2日目。この記事では、棋士羽生善治さんの「経営者のための決断力と大局観」を紹介します。モデレーターはインフィニティ・ベンチャーズの小林雅さんです。
1時間止めどなく、しっかり詰まった話でした、できる限り集中しましたが、その場でパソコンに入力していますので不完全なところがありますのでご了承ください。IVSに関するこれまでの記事は

何手ぐらい先を読むのか

この場所(ウェスティン都ホテル京都)は対局できます。対局では黙って考えているんですが、みなさんの前で話をするので、せっかくなので頑張ります。

よく取材で聞かれるのですが、何手ぐらい先を読んでいるんですが。木村義雄14世という先生は「一睨み2000手と言った」。ちょっと誇張かもしれないですが…
100手や1000手は時間をかければ読もうとおもえば読めるが、時間が膨大になる。未来を予想する。仮に3つの手があると、10先だと3の10乗で6万手になるので大変。最初はおおざっぱに、2つか3を選択する。カメラでピントを合わせる作業と非常に似ている。ここが中心ではないか、急所ではないか、というようなことをおおまかに、見つけていくという作業が直感。
3番目に大局観。大局観は耳慣れないかもしれません。気を見て森を見ず、という言葉がありますが、視野が狭い状態のことを言う、その逆が大局観。大局観は具体的なことを考えるのではなく、いままでの流れ、方向性や戦略を捉える。

大局観はショートカットできる

大局観を使うとショートカットできる。無駄な考えるを削れる。攻めたほうがいいとすれば、具体的な読みに入るときに、攻めの選択ができる。
この読み、直感、大局観の3つは、世代によって変わってくる。若い時は読み。経験を積むと、直感や大局観の比重があがってくる。
直感とひらめきは違うそうです。ひらめきと同義語と思っていましたが、ちょっと違う。どう違うか、たとえ短い時間であっても、きちんと理論、体系立てて説明できるのは直感、なんだかよく分からない、説明がつかない、第六感はひらめき。ひらめきは虫の知らせ、第六感はひらめき。直感というのは例え、一秒にみたない選択であっても、これまで学んできたことの集大成として現れているということではないか。

将棋の対局は長いんです。朝の9時から遅いと夜の12時や1時までかかる。一つの場面でも3時間ぐらいかかることがある。では、長く考えたら、正しい決断ができるのか。間違いがない決断ができるのか、というとそうではなさそうだ。
情報に攻守なしという言葉がある。最終的にAとBを選ぶのか、というところで迷ってしまう。それは、あるところまでは考えているが、迷っているということが非常に多い。それは、調子をはかるバロメーター。たくさん記憶できるとよりも、見切って、決断できるかのほうが、非常にわかりやすいバロメーター。

見切りをつけ踏み込めるのは調子がいい

答えが出ない、結論がだすことができない、わからないんだが、今日はこの作戦で行ってみようという踏ん切り、見切りをつけて、踏み込めるのは調子がいい。
調子の話が出ましたので、運やツキについても話したい。
運やツキ、不運など様々な表現がある。科学的なものでもないので、信じないという人もいるが、結果がはっきりする世界に長く生きてきて、あるんじゃないかと。いいとき悪い時はあるような気がしています。あんまりそれにはこだわらないようにしたい。つきはものすごく人を魅了するから。一番大切なことは、どんな環境でもベストをつくすこと。
そうはいっても、全く気にならないかというと、自然な気持ちとして気になることもある。
どうしているとうまくいってないとき、結果が出てないときにどうするか、不調と実力を見極める。不調も3年続いたら実力。ただし、今日やったことが明日成果になってあらわれることは絶対にない。通常は時差がある。1カ月の場合もあるし、長いものは3年や5年で花を咲かせて、実を結ぶというのもある。やってることは間違ってないが、表には出ていない。
不調のときにやっていることを変えると元の木阿弥。モチベーションが下がるので、何か日常の生活に変化をつけるようにしている。どんなことでもいい。趣味をはじめる。早起き、髪型を変える。生活の中にメリハリをつけることで、不調を乗り越えていく。

緊張はブレイクスルーの予兆

モチベーションの話が出たので、それについて話したい。
アスリートの人のインタビューを着ていると、楽しんでやりたい、という人が増えている気がする。彼ら、彼女らが、トレーニングを受けているのか、経験からか、本当にその通りだな、と思う。
どういう状態で一番いいパフォーマンスがいいか。リラックスしていて、楽しんでいるとき。二番目が緊張して、プレッシャーがかかっているとき。三番目はヤル気がない。ヤル気がないのはいかんともしがたい。
いつも、いつも、リラックスしていて楽しめればいいが、現実問題難しい。緊張しているときどうしたらいいか。
緊張は最悪の状態ではない。プレッシャーがあるのは、もう少しで出来るということでもあります。
例えば高飛び選手。1メートル50センチは飛べる。1メートルは大丈夫、2メートルは飛べるわけがないので緊張しない。1メートル60センチ。もしかしたら飛べるというときに、プレッシャーはかかる。
もう少しでブレイクスルーできる、というところでプレッシャーがかかる。山登りなら8合目、最後のところが苦しい。胸突き八丁、最後の詰め、終わりが大変。大部分のところ、いいところまではきているときにプレッシャはかかる。
プレッシャーはかかるという状態は能力やセンスが引き出されるということもあります。作家の方は、締め切りという逃れることが出来ないデッドラインによって、プレッシャーで深く集中する。そして才能が開花されるということもある。

進歩するというのは集中する時間を伸ばすこと

日常の練習や研究から一生懸命やってればいいわけですが、そうもいかない。いつどんなときに深く集中して考えているか。それは真剣勝負で考えている時です。そのとき一番たくさん考えることができる。

集中力の話が出たので、集中力のもしてみたいと思うんですが、子供の時は遊んでいるときは集中している。けれど根気がない。短い時間で途切れる。進歩するというのは集中する時間を少しずつ伸ばしていくことじゃないかと思っています。
子供の時には5分しか集中できなかったが、30分集中して、3時間集中していく。どこまでも長くできるかというと、そういうことはなくて、どこかで限界がある、時間を長く伸ばすと、密度を薄めた集中になる。助走する時間があって、深い集中にいく。

物差しがあることで不安に耐えられる

何かに集中して取り組んでいくということは、物差しを持つようなものだと思っています。小さい頃から色々なことをやって、できるようになっていくというのは、一人がいろんな種類の物差しをつくっていくことです。
竹馬が乗れるようになる。料理でチンジャオロースが作れる。簡単なものから難しいものまであって、たくさんの物差しがあることで、不安な時間に耐えられる。
目標、やらなければいけないことに対して、これぐらいの時間、労力、努力が必要というのが理解できる。これくらいまで出来るという基準があり、推し量ることができたら、プロセスに迷うことがない、ためらうことがない。短いものさしでも、たくさんあれば不安な時間を切り抜けていくことができます。
後半に続きます

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