ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

「ジャーナリズムフェスタ2010」で話して来ました

2010年11月24-25日のツイートを再編集、参考に執筆しています。
ジャーナリズムフェスタ2010 デジタルメディアでジャーナリズムは進化するか?」というイベントに参加してきました。

ジャーナリズムをテーマにしたイベントは、デジタルやソーシャルメディアというタイトルがついていても中高年や新聞OBが多いのですが、ジャナフェスは運営の中心であるアジアプレスの石丸次郎さんが「ジャーナリズム志望の若い人が減った」という危機感から始めたことから、大学もたくさん来てくれていました。
ゲストの皆さんも悲観論やネット批判に終わらず、可能性や逞しく活動されている独立系ジャーナリストのお話があり私自身も参考になりましたし、ジャーナリスト志望の若い方にメッセージを伝えることが出来て嬉しかったです。参加者の皆さん、Ustの生中継やツイッターを見て頂いた皆さん、そして何よりも長丁場のイベントを運営したスタッフの皆さんお疲れ様でした。
参加したのは、第1部「ジャーナリズムはどこにいるのか」です。ゲストは、花田達朗さん(早稲田大学教授/ジャーナリズム研究)、奥村倫弘さん(ヤフー株式会社メディア編集部)石丸さん、私です。壇上で発言をピックアップしてツイートしたものを、下記に再編集して掲載します。敬称略です。ツイートはの原文は、@toshiroさんがTogetterに『@fujisiroによる「ジャーナリズムフェスタ2010」@大阪・第一部』でまとめてくれています。

  • 自己紹介、メディアやジャーナリズムの現状認識について

「マスメディアとジャーナリズムを区別する。マスコミという言葉は英語で通じない。日本だけで通じているマスコミという言葉はマスメディアとジャーナリズムが会社というものをベースに癒着したもの。それが今日解体しつつある、させなければいけない」(花田)
「読売新聞からヤフーに96年に転職。ニュース系サイトは日本最大級だろう。月間43億PVある。ヤフーニュースは取材していない。記事の配信を受けている。トピックス編集部は25人、ほとんどがマスコミの関係者。30代中心。新聞のスクープは読まれず、ほとんど芸能やスポーツが読まれる。ビジネスの側面があり、どうしてもPVに引っ張られるので、ジャーナリズムの大事な部分を守るためにも記者が必要」(奥村)
徳島新聞で記者をやっていた。転機は若者向け紙面の担当になったこと。新聞社では文化部は都落ちとされているから悔しい思いもあった、もうひとつは新聞はこの先どうなっていくのかという不安があったので、チャレンジしてみようという意欲もあった。どうして新聞社が若者向けに対策をするのか、新聞は習慣性がある商品なので、若いうちから読んでもらわないといけない。徳島新聞は日本で最も高い世帯普及率を持つが、それでも読まれてないという危機感は販売店を中心にあった。新聞の危機は今に始まったものではない。若者に新聞を読んでいるか聞いたら、読んでいると答えるが、突っ込むと実は記事を読んでいない。社会面トップと喜んでいても、それを読んでいるのはおまわりさんだけ。配られているのと、読まれているというのは違うということ。花田さんがおっしゃられた、マスメディアとジャーナリズムが会社というので結びついているというのは同意する。ジャーナリズムの話を新聞社ですると、すぐに給料の話をする人がいたりして、それはジャーナリズムと違うのではと思ってしまう」(藤代)

  • ジャーナリストアンケート紹介

「デジタルメディアの拡大には賛成だが、出所の知られない情報が出回ったりする恐れもある」(放送局20代)「尖閣ビデオがYouTubeに投稿されたこと。テレビ局に持ち込まれなかったことの意味を感がなければいけない」(放送局30代)「重要な過渡期にあると認識しているが、どう対応していいか分からない」(新聞記者50代)←「これは正直な本音じゃないかと思います」(事務局)

  • 新聞やテレビはどこに行くのか

「いままでにある古い構造的な問題があって、新しい構造が覆いかぶさってきている」。この二つを切り離して、考えていくという視点も必要。では、古くからある構造的な問題は何か。日本の中だけで通用するマスコミ、会社ジャーナリズム。フリーランスのあり方が組み込まれず、排除される仕組みだった。世界的にみれば異常な状況。戦後のマスコミレジームは会社ジャーナリズムはフリーや個人のジャーナリズムを最初から計算に入れていない。端的に現れているのがメディアの経済構造。フリーへの支払いなど」(花田)
「福井時代に事件をやっていた時に福井新聞にどんどん抜かれる。地方紙は地方でしか情報を発信できなかった。福井新聞のスクープを見て、再取材すると全国に届いてしまうということがあった。ネットの時代になると沖縄の記事も北海道の人が読めるようになった。一部にしか伝えることが出来なかったメディアが日本中、世界中に情報発信できるようになったのが画期的というのは押さえておいてもいいのでは。ヤフーでは、全国紙から、みんなの経済新聞ネットワークまで配信してもらっている。全国に発信できる。新聞だけでなく、個人のブログもヤフーで扱うようになっている。会社の規模はさほど問題ではなく、情報発信の範囲の垣根もなくなり、それぞれの報道機関がフラットな位置に立って、持てる力をどう発揮するか」(奥村)
「ずっと前から言ってるが、マスメディアは死なない。多くの人に伝える仕組み、構造は必要とされている。人は24時間しかない。ただ、それを担うのが既存メディアであるかは別。新聞やテレビの会社ではつぶれるところも出るだろう」
「新聞を辞める事が出来たのは、個人で自由に発信できるブログがあったから。読者もいたし、反応もあったし心強かった。新聞と違って反応もあったので。書きたくて、伝えたくて記者になったのだから、書けるところがあればいいじゃないか。デジタルが実現したのは、会社に縛られない個人として自由に発信できるマイメディアを持てるようになったこと。検閲もされない、書きたいときに、書きたいことを書ける。ジャーナリストにとって望むべきことではないか?」
「辞めるもうひとつのきっかけは、懸命に作った別刷りが読まなかったこと。記事やレイアウトも相当工夫したが、現場に見に行ってみたら開封もされてない。ゴミ箱に積まれている。ショックだった。取材し、伝え、編集は大事だが、パッケージを見直さねばと思った。記者の皆さんは、自分の記事がどう読まれているか見に行ったことありますか?」(藤代)
「テレビ局は、制作費は減らしているが、自分の給料は減らさない。会社ジャーナリズムをいかに続けていくかにしがみついているようにしか見えない」「あと、ジャーナリズムにはかっこいいことも大事」(石丸)
「新聞社の研修などに呼ばれたときに、既存マスメディアが生き残るのは2つしかないと言う。1はブロガーに負けないように質の高い記事を出していく、2給料を下げる。というと下を向いてしまう人がいる。2は個人の事情もあるが、1で下を向くとはどうか」
「マスメディアはソ連の百貨店みたいなものだ。隣に出来たフリーマーケットで売っている商品を低い、正当性がない、という話をしてもしかたない。おいしいもの、良い商品を提供するために質を上げていくという話をしなければ。ネットは既存マスメディアのコピーや盗作ばかり、という人はネットでの情報の流れをよく見たほうがいい。ネット系の小さいメディアが報じていることもある。でも、既存マスメディアは引用を書かないから、新聞を見ているとネットはマスコミのコピーだと思ってしまう。ネットも記者のひとつの情報源になっている。しかし、それを認めずに、独自ダネにしようとするから(また、新聞社幹部がネットを知らないことを利用している記者もいたり)恥ずかしいことになる。そもそも、取材して掘り起こしている独自ダネなんていくらあるんだ、という視点も忘れてはいけない」(藤代)
「ヤフーの記事選択基準。裏を取っているか。記事を読んで判断、中には裏をとってないようなものもある。テレビで放送しているとか、それは大きな新聞社でもあること。なので一概に言えない。藤代さんの言ってたブロガーに負ける記事やめろという話。通信社の記事は現地の新聞の翻訳で、書いた記者は別の国にいる。そんなことをするために特派員を配置しているのか?おもしろニュースは集めるならブロガーもいる。グローバルになってきている。韓国の砲撃などは、韓国の新聞からの配信が詳しい。日本の特派員は日本のメディアと競い合っていいのか」(奥村)
「話を聞くと奥村さんは問題意識を持っているようだ。ヤフーニュースは記事の品質の評価期間になりえるのか?仮にそうなるとヤフーはジャーナリズムがこういうものだという基準を持っていないといけないが…」(花田)
「日本の記事は朝鮮日報が報じたと書いているが、朝鮮日報はもっと深く書いている。そうなるとどちらを選ぶかは明らか。色々な角度から書かれているというのが分かるというのが大事で、それを並べて提示したいと思っている」(奥村)
「権力は影響力があるメディアを取り込もうとしている。新聞は鍛えられもし、取り込まれてもいるが、それなりにやってきた。新しいデジタルメディアをどうするか。ヤフーにも基準は必要なのでは?」(石丸)
「論説もないし、社説もない。影響力を持とうと思ってはじめたわけでもないが、大きくなってきているのは事実。いまどういうことが議論されているか、というのを伝える場所。A社とB社の判断を両方提示するのが役割。読まれないニュースに対する扱い。世に問いたい記事について、それぞれの媒体社がどういう訴えをしたいのかを汲み取っていきたい。何がいいか、悪いかではなく、声を拾い上げること。権力のメディアへの取り込みは今のところない」(奥村)

  • 学生アンケート紹介。大阪と東京の大学生、専門学校、高校360人対象

「関心のあるジャンルは音楽。ファッション、スポーツ。社会や経済はその後。生活圏内の中でカルチャーがある、最後に政治経済、社会がある。学生と遠い。新聞が扱っていた内容に学生には興味がない。パッケージが大事にもなっているし、見た目は遠いように見えているというのも事実。読めよ、努力しろという話かもしれませんが、ほしい情報を得られるようになっている中では難しい。発信している側からも高みからでなく、フラットにだしていくほうがいいのでは」
「学生アンケート情報を得るのは、ウェブとテレビがダントツ。その次がSNS。だが、一番信頼しているメディアは、新聞、テレビの順。この数字をどう見るのか、具体的によく利用する人は?と聞くと朝日新聞、ヤフー、NHK、日経、ミクシィとなる。ざっくり言うと新聞を読んでない、信頼できるところに新聞が出てくる。情報に対して信頼できるか、できないか、というのが若者の世代にあるのかと聞かれると難しい。信頼できるのかどうかで見てない。興味があるか、どうかが判断」
「メディア接触時間。信頼できるとあげられてるが3分の1はまったく読んでない。携帯とウェブ、SNSで一日の時間消費の大半を占めているのではないか。お風呂でジップロックに入れて、携帯をいじるのが普通らしい。インターネットの情報発信は?ミクシィ184、ツイッター114、ブログ108。ミクシィは人気。その他にフェイスブックも出てきている。信頼できる情報源に@コスメがある」(学生運営)

  • 第1部まとめコメントをそれぞれから

「ジャーナリストは同時代の出来事をクリティカルに批評する。私はその活動をウォッチしている。若い人にジャーナリズムのismの担い手。同時代観察という表現活動。事実に接近し、リポートしていくというのはいくら時代が変わろうが、社会に必要不可欠。ジャーナリズムは単にビジネスのために行われているものではない。担い手が少なくなっているのは、公共、パブリックが危なくなる。厳しい状況だが、この中からジャーナリズム活動を担う人が出て行ってほしい」(花田)
「学生さんにジャーナリストに真剣に取り組む人もいる。新聞への辛らつな意見も多かったが、新聞にしか出来ないことがある。なんで新聞社の記者を志したのか、初心を忘れないでほしい。世の中を良くしていきたいか、いきたくないか、それが大事。職業的なジャーナリストだけでなく、ブログとかツイッターで、興味のある記事を紹介していることもある。なぜ自分がその記事を紹介するかという思いを大事にしてほしい」(奥村)
「これからのメディア社会を作っていくのは皆さん。マスメディアが悪いとシニカルに批判しても何も変わらない。一人ひとりが担うとしたら、誰かのせいじゃなく、自分たちが担う。どんな仕事でも、色々なかかわりが出来るようになっている。マスメディアへの就職は厳しいし、入っても現場は疲弊している。一般企業に入りジャーナリズム活動をする人もいる。そんなときに頼りになるのが仲間、ここに来ている縁を生かして、支えあって高みを目指してほしい」(藤代)

次の予定があったので第2部の途中会場まで見学したのですが、雑誌で黒字を出している玉置泰紀(関西ウォーカー編集長、@tamatama2)さんが、部数は10年前に比べて10分の1なのに黒字なのは、給料を減らして、技術革新に対応してソフトウェアはインデザインを使い、ソーシャルメディアをタイミングよく活用していると話していたのが印象に残りました。
デジタルを以前から活用しているフォトジャーナリストの宇田有三さんが、小学生が大きくなったらどんなメディア環境になるかを考えながら、ホームページやブログ、ツイッター、さらにクライアントの立場を考えて写真のデータベースを3種類の言語で構築していることには驚きました。宇田さんは「マニュアル本を買ってきて作る簡単なことです」とおっしゃっていたのですが、多くの人や企業がその簡単なことが出来ないわけで… 他にも海外取材でのネット利用の注意点などもとても参考になりました。