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ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

インターネット時代のジャーナリスト教育の課題と可能性

関西大学で行われた、日本マス・コミュニケーション学会の2010年度春季研究発表会で、スイッチオンプロジェクトの取り組みについて発表してきました。タイトルは「インターネット時代のジャーナリスト教育の課題と可能性」。問題提起者が私、司会は上智大学の橋場義之教授です。
昨年度の取り組みの趣旨、開催内容などについては、朝日ジャーナリスト学校発行の「Journalism 11月号」に寄稿した「ジャーナリスト教育の新たな試み 記者と学生の127日間 スイッチオンプロジェクトの実験」にまとめてありますので、今回はインターネットでの反応の特徴、指導者と学生それぞれのアンケート結果を提示しました。早稲田、龍谷などの大学・大学院でジャーナリスト教育に取り組まれている先生方ら約30人参加があり、意見や感想を頂きました。ありがとうございました。発表内容を箇条書きで報告します。

  • 指導者のネット経験は15人中、ブログとSNS双方が6人、ブログだけが2人と過半数を超えていたが、参加学生のネット経験は28人中ブログとSNSが6人、SNSだけが5人と意外に少なかった。学生全体の傾向なのか、ジャーナリストに感心がある学生がネットリテラシーが低いのかも…
  • 学生が書いた記事について
  • 指導者アンケート
    • 「プログラムで、スキルがついたと思うか」 ついた7、人による5、思わない1、分からない1、未記入1。
    • 「モジュールライティングは書く効果があったか」 あった8、なかった1、わからない2、未記入4。
    • 媒体別(例えば新聞と雑誌など)に指導者を組み合わせたことについて 意味がある11、あまり意味がない3、意味がない0、その他・未記入1。<理由>同じ業界の思考・指導パターンにはまらず刺激があった、常識やニュースの価値が違うことが興味深い。
    • 「紙とネットの媒体の違いはあったか」 あった7、なかった5、未記入3。あったという人は、文字、写真に制限が少ない、見出しのつけ方文章展開も違う、gooと新聞社のサイトで違う、ニュース価値によって原稿スタイルが変わる、新聞は「はめこむ」がネットは読者をどう引き付けるか。
    • ジャーナリスト教育を受けたことがあるか ある8(OJT、上司)、ない7。
    • 新聞社や雑誌社などマスメディアでもジャーナリスト教育プログラムは必要か 必要10、必要ない0、分からない・その他5(必要だとしても強制すべきではない)。<何が必要か>情報リテラシー、新しい文章表現、ハウツー、プロのマインド
  • 参加学生アンケート
    • 「スキルがついたと思うか」 ついた16、分からない9
    • 「モジュールライティングは書く効果があったか」 あった16、なかった3、わからない6
    • 難しかったこと(複数可) 読者視点の意識12、ストーリー(構成)12、タイトル8、目的の設定7
    • 「文章を書く際に目的を意識しているか」 以前から出来ている7、プログラムで出来るようになった16、分からない2
    • 「文章を書く際に読者を意識しているか」 以前から出来ている5、プログラムで出来るようになった18、分からない2
    • 「文章を書く際に構造を意識しているか」 以前から出来ている4、プログラムで出来るようになった18、分からない3
    • プロジェクトで得たもの あきらめないこと、多様な人々との出会い、自分に向き合う姿勢、考え抜く態度、文章の難しさ

指導者、参加学生から一定の評価があったモジュールライティングについては、「モジュールライティング」の開発と文章教育における実践事例という報告を、CoSTEPのジャーナル「科学技術コミュニケーション第6号」に執筆しています。リンク先からPDFでダウンロードできますので、関心があればごらんください。

会場からは、「インタビュー相手(鈴木さん、鈴木明子さん、森山開次さんら。村上春樹さんにチャレンジした学生もいた)がハードルが高いのではないか」「指導者はどこまで手伝う、インタビューには同席するのか」といったプログラムの内容に関する質問や「インターネット時代と名前が付いているが、実態はレガシージャーナリスト教育の報告ではないか」と厳しい意見もありました。
指導者について言えば、取材相手とのコンタクトは学生が出来る限り行い、やるだけやったと判断したら少しサポート。トラブルが起きた際のフォローも重要。インタビューには同席せず、学生をペアにして助け合いながら取材や記事を書くことにしていました。また、ほとんどの方が趣旨を理解し、快く取材を受けてくれました。
ネット時代と言いながら手法が古いという部分は、プログラム担当者のジレンマとしてもあるところです。なるべく体系的なプログラムを目指し、これからも挑戦していきます。

私の発表に続いて行われた、法政大学の藤田真文教授、日本新聞協会の林恭一さんによる「激変する米メディア界とジャーナリズム・スクール」も参考になったので、少し紹介しておきます。
例えば、三大ネットワークのひとつABCに応募するなら、大学でニュース制作、映像制作に参加しているかが重視される。ABCは、コロンビア大学のジャーナリズムスクールと提携して、調査報道ユニットと大学院生が組んで調査報道番組を放送。オハイオ大のオンラインジャーナリズムコースは「ブロガーを育てる」。メディア業界の将来を悲観するだけでなく、起業を促す科目を設置。状況を先取りして大学の独自性を保持している、などです。
日本の大学は職業教育に抵抗がある上、アメリカの大学=教養、大学院=即戦力ではなく、大学=即戦力、大学院=研究というねじれもある。メディアリテラシーを持っている市民を育てるという意見もあるが、市民を育てるために学費を払うのか、職業教育をするのには手間がかかる、それをやらないことの言い訳になっているのではないか、といった問題提起もありました。
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