ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

新聞は、侍の刀かコミュニティの必要経費、それともマイナスイオンか

「イノベーションの能力とは、一見関係のないものを一つの全体として見る能力である。」(ピーター・ドラッカー)。

東京大学のi.school人間中心イノベーション・ワークショップ「新聞の未来をつくる」は、シンセシス(統合)でした。
東大式 世界を変えるイノベーションのつくりかた」によると、『対義語であるアナリシス(分析)と比べるとなじみのない言葉かもしれない』『シンセサイザーは、複数の音の波長を合成してさまざまな音とリズムを生み出す事が出来る。シンセシスで行うのもそれと同様の操作と言っていい』と書かれています。
先日紹介したダウンロードで共有したフィールドワークの情報を再整理して、共通項や矛盾を見つけて、問題を把握して行く作業です。一言で説明するなら、冒頭のドラッカーの言葉になるのかもしれません。
田村さんからは、「対象者の発言や行為の共通性・矛盾の裏側にある文脈を批評的に(常識を疑いながら)検討する」「複眼的視点を持って。あの対象者だったら、どう感じるんだろう。どう行為するんだろうということを常に内在化させてみよう。共感性が大切」とアドバイスがありました。
シンセシスでは、フレームワークを構築して「機会領域」を探して行くことになりますが、この日はディスカッションを深めることに重点が置かれました。
何度も紹介しますが、このワークショップで考えるのは

生活者から見る新聞を出発点とし、読み手にとっての新聞の意味、価値をエスノグラフィックに探り出します。新聞をめぐるさまざまな生活者の現実を知り、一見共通点のない彼ら彼女らの背後を貫く視点を導くことで、これまでとひと味違った新聞の未来像を見出すことを目指します。

です。各チームは行きつ戻りつ、新聞の意味を探る議論を続けていました。
あるチームは「新聞はマイナスイオン、ビタミン剤、プロテインのような存在」との共通項を見いだしていました。
何に効くか分からないけれど、持つ事で、ある種の安心感や信頼性がある。メディア調査で「信頼性が高い」という結果が出ている事。フィールドワークで話を聞いた、夏期講習の受講者を増やすために新聞を利用するという塾講師の話から「新聞という第三者的な意見を引用することによって、保護者は、講師+新聞で二人以上に説得されている気がするのではないか」「その時には、皆、なんとなく、というのが必要。空気を提供している」「プロテインなら筋肉を増強するときに使う人がいるが、新聞は何を強化するのか」などの意見が出ていました。

「新聞は、コミュニティの必要経費や会費」というチームも。
スポーツ大会に参加するためだけに新聞を購入し、まったく読まないというサークル代表。ブログでも紹介した5紙の新聞から仕入れた話題を就職活動のコミュニティで話す女子大生。高校生はテストに出るから。切り抜きで授業をする先生、そして新聞記者。これらは、所属しているコミュニティで必要になるために新聞を取っている。
「もし、イベントをやめてしまって情報を提供するだけに特化したら価値が下がるのでは」「教員のコミュニティでは取っている新聞で右とか左とか決められるらしい。レッテルというか、思想や信条をその人の変わりに表現するアイコン的な存在でもあるのでは」、「実は理系の研究室でもそうだ。日経新聞を取っていると研究者にならないのかと言われ、少し馬鹿にされたムードになる」。
このような新聞に記号的な意味を見いだす意見は別のチームでも出ていました。「新聞は儀式、ドレスコード」ではないかと仮説から、新聞=侍の刀、との話に。
「現代の侍は、新聞を脇に抱えている」理由は、就職活動などで直接聞かれる事は少ないが、意見を求められるなどいざというときのために普段から読み、いつでも出せる情報の武器だから。また、ドレスコードなので帰属意識も示している。「刀=武士と同じで、電車で日経を読んでいる人はビジネスパーソンです、と主張しているのでは」「レストランだとコード、そのレストランに行くということがステータス。日経を読んでいるということがブランド」という話は、日経新聞=日本サラリーマン会員権という話にもつながります。
そこから「最近は、ファストニュースも出てきているのではないか。H&M、ユニクロ=ネットニュースと考えることもできる。そうなると、あえて高いレストランに行かなくてもという人も出る」。阪神ファンでデイリースポーツが好きだけれど年に数回しか新聞を買わないという学生の調査から、「これは晴れの日に新聞買っているのではないか。岡田監督、金本欠場が引退というニュースはネットでバックナンバーを取り寄せているが、普段は買っていない。結婚式の引き出物を百貨店で買うイメージに重なる。親には買ってもらうが、自分では買わない。いまや、電車で読んでいる人も減ってきているし、そのうち、まだ刀を差しているの、となるのでは」などの意見もありました。
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