ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

なぜ女子大生は新聞を5つも購読しているのか

東京大学のi.school人間中心イノベーション・ワークショップ「新聞の未来をつくる」の第4回目は、「ダウンロード」と呼ばれるフィールドワークの経験共有でした。
二つのチームのダウンロードに加わりました。一例目は、朝日、朝日小学生新聞、読売、日経、静岡の5紙を購読している女子大生。インタビューした人の役割は、大型のダンボールにポストイットを貼り付けながら、自分が得た情報・体験を他のメンバーにストーリーとして伝えていきます。
ダウンロードされた女子大生の情報をかいつまんで紹介すると…

新聞との馴れ初めは小学生のときに朝日小学生新聞、スクラップブックもつけていた。中学時代にイラク戦争が起きて興味を持ち、本格的に読み始めた。中学生のころは国際面を中心に読んだ。
1日1時間新聞を読む。多くが帰宅後だが、時々持っていく。30分が朝日で見出し、社説とルポが重要、読売は一面と社説のみ、日経は就職活動の時は全部読んでいた。小学生新聞は妹が読み、祖母が読売、家族とはたまにニュースの話をする。お父さんはテレビをまったく見ない。
新聞はテレビと比べると意見が書いてある。新聞にとって大事なのは「過去を振り返ること」。新聞は一日単位でまとまってニュースが出てくる。

といった感じです(実際は家族構成や日常生活なども共有しています)。

これだけでは、なぜ女子大生(の家族)は新聞を5つも購読しているのか、分かりません。共有を受けながらチームのメンバーは「どうして静岡新聞を読んでいるの?静岡に何か関係が」「お父さんは新聞好きなの」「ニュースは何のために知るの」「他の人は新聞読んでほしいと思ってる」などの質問や意見を出していきます。
インタビュアーが「新聞を読まない人をどうやって説得するのか?」と聞いたところ、「毎日一面にどんなニュースが乗るのか考えると楽しいよ」と答えたという話には、「そんなに新聞が好きなのか」「高度な読み方だなあ」と感想も出ます。ダウンロードで目指すのは、彼女にとっての新聞の価値や意味を探っていきながら、自分たちが気付かなかった新聞の価値や意味を発見することです。
ディスカッションの末にこのチームがたどり着いたのは、「あるコミュニティでのオピニオンリーダーとしてふるまうための新聞を読んでいる」ということでした。彼女や彼女の家族が本当にその理由で読んでいるか、正確さや正解を求めることは重要ではありません。本人が無意識に行動していることもあるし、インタビューに素直に回答していない可能性もあるからです。
エクストリームユーザーにインタビューする理由は、前回ファシリテーター田村さんが言った「自分が知らない新聞や意味を聞くために行く。自分のイメージを壊してもらいにいく」ということです。私たちは新聞というと、ニュースを知る、ビジネスで役に立つ、社会人として読んでおくべきメディアなどと一般的なことを考えてしまいがちですが、彼女のような目的で新聞を使っている人も実際にいそうです、でもなかなか出てこない考えです。ダウンロードを通じて、改めて自分たちに発見があったとすれば、エクストリームユーザーに話を聞いた意味があるというになります。
何度も書いていますが、ダウンロードは、テーマに対する素朴な疑問や新たな発見を共有することが大切なので、観察するエクストリームユーザーが「なぜそのような考えを持つのか」「どうしてそういう行動をしているのか」をさまざまな角度から掘り起こし、考えていく必要があります。これは相当難しく、別の角度からの意見を出すと批判されていると感じて険悪なムードになったり、正解を求めるタイプがいると「これ以上考えても意味あるの」と議論を打ち切ろうとしたり、してしまいます。この次に入ったチームも、ある罠にはまっていました… 何が起きていたのかは次のエントリー「インタビューにおける「事実」と「解釈」を分ける難しさ」で。
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