ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

日経電子版は成功するのか? ネットでも活発な論議


朝日新聞社ジャーナリスト学校が発行しているJournalism(ジャーナリズム)2010年4月号に『日経電子版は成功するのか? ネットでも活発な論議』を寄稿しました。
3月23日に創刊した電子版(Web刊)についてのネットでの反応をまとめたもので、「TechWave」編集長の湯川さんの記事やライブドア「BLOGOS」の特集、ツイッターでの意見などを紹介、私もパネリストとして参加した「ネット時代のメディアとジャーナリズム」と題するフォーラムの様子も取り上げました。
日経のサイトによると、4月14日には無料・有料読者を合わせて30万人を突破、17日には有料登録会員が6万人を超え、順調な滑り出しのようです。有料会員の内訳は「40歳代以下が半数を超え、3割強が20-30歳代」(65%が40代以上とも言えるが)。さすがに日経と思うのは、部長以上の経営幹部が約4割を占めているというところです。新聞と同じように読める紙面ビュアーが好評のようで、ネットではニュースをあまり見ていなかった中高年を取り込んでいるのかもしれません。コンテンツの無料期間が終わる5月以降にどうなるのか興味深いです。
紙面ビュアーは、見出し読みが出来るインターフェイスの便利さを再認識させられましたし(見出しは字の大きさ、面積などでニュースバリューを判断できる。逆にネットニュースのUIは改善の余地がある)、iPadとの相性も良さそうです。ただ、大きさが固定で見開き読みが出来ないとか、せっかくウェブなのにリンクがないなど、改良の余地があると思います。寄稿文には書いたのですが、ユーザーの声にどれくらい向き合い、サービスを改善していくことができるか、これからの取り組みになるでしょう。
フォーラムの様子は日経メディア社会ネットワークのサイトにも紹介されていますが、分かる範囲で自分の発言をメモしておきます。

  • みんながオープン・無料というと天の邪鬼なので疑う。日経の記事はネットに出てないから紙を買うという学生は結構いる。就職活動で必要になりネットに出ていないから買うというシンプルな回答。例えば、ツイッターでオープンにしろという人がどれくらいいるのか、考える必要がある。
  • 「日経ぐらい読んでおけよ」と言う面接官のおじさんは、実際読んでるか分からない。読んだかを確認したいだけ。確認したいだけのメディアにいかに持っていくかが大事。パッケージ、プラットフォームどちらかではなく両方大事。徳島新聞時代に若者向け紙面を変えた際に、新聞を見て高校生でコミュニケーションが起きるというのを経験した。ツイッターやUSTを見ているのも話題を共有したいから(徳力さんが、日経新聞はビジネスマンクラブ、ビジネスマンの税金)。
  • マーケティングやパッケージという言葉は飛び交っているが、どんな人に読んでもらいたいのか。どういう人に利用してほしいのか、新聞社側が考えているのか。出し手と受け手のマッチングを常に考えながらビジネスをやっていくというマインドがない。ただ、それは日経読者が考えていることで、それを日経の社員がやればいい。何でそんなに恐れるのか分からない。
  • 日経は朝日、毎日、読売のような一般紙と違う。さまざまな業界に記者を貼付けているのは強みだが、もっと絞ってもいいのでは。日本の新聞記者はデスク、局長になると書かない人がいる。ジャーナリストであれば、ずっと書くという仕事もあっていい。管理職ではなく現場の職人として尊敬されるプロフェッショナルジャーナリストにもチャレンジしてほしい(津田さんから、日経の全記者はツイッターで競争。フォロワー数の数で、特集や行数を増やすという提案、高広さんからも自分の名前で食っていく体制をつくるため署名記事を増やすように)

ちなみに、Journalism(ジャーナリズム)2010年4月号の特集は、地方報道の可能性。元朝日新聞専務で信濃毎日新聞の中馬清福主筆の「地方報道はどうあるべきか狩猟型と農耕型取材を考える」、元共同通信記者・元上智大教授の藤田博司さんが、毎日新聞の河野俊史東京本社編集局長にインタビューした「共同通信再加盟で毎日新聞の報道は変わるか」、元朝日新聞編集員で紀伊民放(和歌山県の田辺市)の石井晃編集局長の「部数3万8千、記者24人 夕刊紙紀伊民放の生命線」(なんだか戦争ものっぽいタイトルの記事だなあ)、上智大学の音好宏教授の「地域密着の番組作りで独走する中海テレビ放送の挑戦」など興味深いラインナップでした。
スイッチオンプロジェクト仲間でローカルメディアに関わる人の必読書とも言える『シビック・ジャーナリズムの挑戦―コミュニティとつながる米国の地方紙』の著者でもある河北新報の寺島英弥編集委員ももちろん寄稿。タイトルは「地域の当事者の発言を助ける つながるジャーナリズム」です。

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