ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

「模擬」紙面審査で新聞を楽しく読み、メディアリテラシーを学ぶ

20日は「文章講座」のワークショップと定例ミーティングがありました。定例ミーティングは、今年からスタートしたもので、ジャーナリストが切磋琢磨できる「場」として、マスメディアなどで活躍するデスクと学生運営スタッフが立場を越えて学び合っています。今回は、デスク2人が講師となって、新聞社や通信社の紙面や記事審査の仕組みを説明、新聞を使った模擬紙面審査を行いました。

講師役の美浦さんがさっそくブログに記事(ジャーナリズムは読み手に鍛えられる〜スイッチオンPJで模擬紙面審査)をアップしてくれていますが、社内にある審査部門が記事内容やニュース性の判断(扱いの大きさ)を編集幹部や記者にフィードバックしている他、識者やフリージャーナリストが参加した第三者委員会(朝日新聞「報道と人権委員会」、毎日新聞「開かれた新聞委員会」、共同通信社「報道と読者委員会」)が設置されていることや各部門の関わり方、プロセスについても説明がありました。
面白かったのは、新聞社は「読者」を考えるのに対し、通信社は「配信を受けているメディア(新聞やテレビなど)」の意見も重視されるとのこと。メディア関係者以外には分かりにくい通信社の特徴も伝わったのではないでしょうか。
ワークショップは、上智大学で以前行った講義(参考:もしあなたが新聞記者なら医療事件をどう報道するか、上智大学の講義から)を応用したもの。
まず、配布された朝刊を読み込み、一人ずつ気になった記事とその理由を発表。意外にも同じ記事はひとつしか挙がらず理由も様々。自分の興味・関心だけでなく、ニュースの扱いや記事内容に注目した人、以前にジャーナリズムを熱く語っているインタビューに登場していた人物が逮捕されていた、というのもありました。
続いて、グループで記事をひとつ取り上げ、他の全国紙と比較も行いながら「どこを直したら記事は良くなるか」をディスカッションして発表しました。警察幹部を紹介したひとコーナー、話題となっていたクロマグロの禁輸案否、デジタルコーナーにあったエバーノート日本語版登場、偽募金が詐欺に問われるのかが争われた最高裁の決定が取り上げられ、「本当に必要な記事なのか」「別の切り口でもっと読者の関心を高めることができるのでは」などアイデアも出て、楽しみながら面白い議論ができました。
クロマグロの記事では、ある新聞は大使館に各国を招待して多数派工作を行った様子を詳しく紹介、別の新聞は中国の影響と書いているもののそれが採決にどのように反映されたのか分からない、署名がヨーロッパか会議が開かれていたドバイかで内容に違いがあること、結果的に大差でEU案が否決されたにもかかわらず会議前に危機を煽ったのは取材先(農水省やEU)の情報を鵜呑みにし、マスメディアが情報戦に負けているのではという意見もあり、単に紙面の違いを比較するだけでなく、一歩踏み込んだメディアリテラシーを学ぶ機会にもなりました。デスクからは、NIE(教育に新聞を、Newspaper in Education)にも応できるという話も出ていました。
単純に「新聞を読み込め」と言うだけでは一つ一つの記事を丁重に見ないので、発表とディスカッションを組み合わせることで読まざるを得ない状況を作り、参加者が気になった記事を一言話すことで「そんなところにも興味があるんだ」と自分は読み飛ばしていた記事も読み込むことが出来るように工夫しています。
素朴な疑問から出発して「なぜ」を深めていくことも不可欠で、「新聞ではこうなっている」という読み方指南では、多様な視点は生まれず、自分で考え、読み解く力もつきません。経験豊富なデスクと別の視点を提供する研究者、素朴な疑問や新鮮な切り口を提供する学生が、ジャーナリスト仲間として互いの意見を尊重しあいながら、ニュースはどこにあるのか、記者は何を誰に伝えたいと思っていて、それは読者に伝わっているのか、真剣かつフラットに議論しするスイッチオンならではのワークショップだったと思います。
なお、スイッチオンプロジェクトでは、5月4、5日に合宿を行う予定です。新聞やテレビ、雑誌といったマスメディアの記者やインターネットサイトやフリーのライター、エディター、企業広報、PR担当者、研究者などが対象です。プログラムが決まればブログなどで紹介していきますので、関心のある方はスケジュール調整をお願いします。