ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

「FREE フリー 無料からお金を生み出す新戦略」クリス・アンダーソン

ロングテール 「売れない商品」を宝の山に変える新戦略」の著者で「ワイアード」誌の編集長、クリス・アンダーソンが書いた話題の本、「フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略」を読みました。アマゾンで売り上げ1位、手にした本は既に3刷目だったので、かなりの注目度のようです。
フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略
プロローグには「新しいフリーを理解するものが、今日の市場を粉砕し、明日の市場を支配する」、第1章には「20世紀にフリーは強力なマーケティング手法になったが、21世紀にはフリーがまったく新しい経済モデルになるのだ」と書かれています。そして、フリー化した業界、対抗策、協力や活用した事例を紹介しています。
フリー化の波に襲われているメディアについても、アンダーソン自身がメディアの編集長だけあって、第9章:新しいメディアのビジネスモデル、と章立てされているだけでなく、あらゆるところで触れられているので、刺激的でした。
いろいろな事例やモデルが紹介されているのですが、最もアンダーソンの考えを表しているように思う巻末付録の「無料のルール」という思考の10原則を示しておきます。

無料のルール

  1. デジタルのものは、遅かれ早かれ無料になる
  2. アトムも無料になりたがるが、力強い足取りではない
  3. フリーは止まらない
  4. フリーからもお金儲けはできる
  5. 市場を再評価する
  6. ゼロにする
  7. 遅かれ早かれフリーと競いあうことになる
  8. ムダを受け入れよう
  9. フリーは別のものの価値を高める
  10. 稀少なものではなく、潤沢なものを管理しよう

この本については、アンダーソン自身も認めているように議論が分かれるところでしょう。「タダで提供したのに、あまり儲からなかった!」「フリーはまやかした」「フリーはクオリティを犠牲にして、アマチュアの肩を持ち、プロを排除する」といった反論へのコメントも収められています。巻末の日本語版解説でコバヘンさんが、まず反論したのがアンダーソンと同じメディア人であったこと、フリーを使いこなせという主張にもかかわらずアンダーソン自身をフリー主義者とみなした批判が見られる、と書いているのですが、それはこの本がビジネスモデルの話にとどまらず、思想的な文脈が含まれているからかもしれません。
フリー主義者的な部分には違和感もありましたが、メディア業界は、ビジネスモデルを変えて、どうやって収益を上げていくかを考えなければならないでしょう。「フリーは無価値」(ブログやYouTubeの投稿動画は無価値)と言ったところで、それに価値を認めて時間を割くユーザーがある以上、何らかの対応は迫られます。そしてジャーナリストも。「フリーはクオリティを犠牲にして、アマチュアの肩を持ち、プロを排除する」のコメントには、「血の粛清のあとにプロのジャーナリストに新しい役割が待っているはずだ」「報酬はかなり減るので、専業ではなくなるかもしれない。職業としてのジャーナリズムが、副業としてのジャーナリズムと共存するようになる(自分自身が現状そうだが)」ともあります。
「フリー」を読んで自分自身の中で明確になったのは、ビジネスやサービスの設計と時間と希少性の関係です。ブログもタダですが(もちろんアフィリエイト検索連動型広告もあるけれど)、書くのも読むのもユーザーの時間を「消費」しているわけですから…そして、ジャーナリズムやジャーナリストの新しい役割を見つけ出していきたいとも改めて思いました。
個人的には、やや熱に浮かされた感じもある「フリー」よりも、もう少し冷静な視点(というより皮肉と言うべきか)があるニコラス・G・カーの「クラウド化する世界 -ビジネスモデル構築の大転換」のほうが好みではありました。
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