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ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

メディアは魔法の杖ではない、地域メディア実践者の「もやもや」した議論から見えてくるもの

東海大学で開かれたシンポジウム「メディアは地域を変えられるのか」のパネルディスカッション「魔法の杖はない −地域メディアが地域を活性化できるのか」で、コーディネーターを務めてきました。
90分の時間がありましたが、誰もが分かる成功事例や明確な方程式が示されず、「もやもやしている」という印象をもたれた方も多かったかもしれません。ある意味でそれは狙い通り(つまり、タイトル通り)の展開でした(進行が不十分で意図が伝わりにくかったことは大いに反省点ではありますが…)。シンポに参加できなかった方も含め、地域メディアをめぐる議論の参考になればと思い、ブログで振り返ることにします。


パネリストは、寺島英弥さん(河北新報生活文化部長)、原田博子さん(はままつ子育て情報ぴっぴ理事長)、前川道博さん(長野大学企業情報学部企業情報学科准教授)、加藤久登さん(愛知県東郷町企画情報課情報推進係係長)。それぞれが地域の中で活動し、模索している実践者です。司会をしながらのログなので不十分な点があることを了承ください。

加藤さん:ITがあれば世の中何でも出来ると思っていた。東郷町の隠れた情報をネットを使って紹介することで、地域の活性化につながると考えていた。成果としては地域でも評判を得て、利用者が増えた。これまで出会わなかった人が出会えた、知り得なかった情報が知りえた、掲示板に議員が参加して施策につながった。が、今となっては成果は言いにくい。仲間も減っていった。

原田さん:大阪から大分に、そして浜松に引っ越してきた。子育て中の親にとっては、情報を取得するためにいろんな場所を回るのが大変。だったら一箇所にあれば便利ではないかと思い、ホームページを作った。当初は親に対して情報提供できれば言いと思っていたが、やっているうちに待機児童の問題や虐待などさまざまな問題に広がってきた。サイトだけでは情報を届けることが出来ないので行政と一緒になり冊子も作った。

加藤さん:ITを使って情報発信はもっと成果が出ると思っていたが、いうほどじゃなかった。何が足りないのか、人材なのか、仕組みなのか。どうやって人と人とのつながりをリアルな場面で作れるか考えている。リアルとネットをつなげるのが難しい。例えばネットに書いている人と、イベントに来ている人が必ずしも一致しない。

原田さん:一生懸命発信はしているが、子育てに関わる人は見ているが、そうじゃない人は見てくれない。実際に解決しようとするためには、いろんな人が見てくれないと解決しない。企業や行政。コミュニケーションの分断が出来ている。つないでいくのが課題。

寺島さん:ALSの患者さんの事例を紹介したい。河北新報に、患者さんから自立して生きたいという投稿が送られてきた。取材に行き社会面で書いたら、それがウェブサイトに出て、ヤフーニュースで紹介されて全国ニュースになった。障害者関連のネットに転載され、たくさんの反響がきた。それで支援が進み24時間家族以外の介護を実現出来た。ミドルメディア、つなぐメディアが必要。

会場からの質問・ネットに参加する人数が増えるなど環境の変化と、それにどういう風に期待するのか?
前川さん:メディアは進化している。14年前と違って道具は易しくなった。ブログなども登場したが、どうもメディアというものが遠くなっているのではないか。手元にある身近なものになっていない。身体感覚が、だんだん希薄になっている。みんなでやっているという一体感が失われている。

原田さん:進化についていけない。母親のほとんどは携帯で、忙しくてPCを見る時間もない。浜松市ではPCを6割しか使っていない。4割は情報難民で、どうするか。地域に引きこもったお母さんを、情報を持っている引っ張り出したことがあったが、驚いたのはいまの母親は赤ちゃんの抱き方を知らない人もいる。地域で人が孤立している。

加藤さん:道具が増えて、多種多様に情報が出回っている。人間は適応能力が高く、使える人が、それぞれのメディアを使っている。IT化は引き続き進めるが、紙などさまざまな手段を使って情報を出していないといけないと思っている。

ざっと発言を書いてきましたがこれを読むと、パネリストがネット、紙、リアルのイベントなどいろいろなメディアを使った情報発信にトライしているのが分かると思います。例えば、地方紙の寺島さんは紙からネットへ、原田さんと加藤さんはネットから紙やリアルにといった具合に、基盤にしていたメディアだけでは限界を感じ、複数のメディアを活用しています。また、成果についても、行政と冊子を出したり、掲示板から施策につながったりしています。Twiiterを使って議員が意見交換することが注目されていますが、それと同じようなことが東郷町ではずいぶん前に掲示板で起きているわけです。
ただ、会場の質問やパネルが終わってからの意見は「ネットの話が中心すぎるのでは」「成功事例をもっと聞きたかった」と言うものでした。実際は、ネット以外、成功事例も話しているにもかかわらずです。
これにはいくつかの原因があると思いますが、ひとつは聴衆が今の時代地域メディアの話をするのだから、ネットやソーシャルメディアの話にだろうと思い込んでいるため、リアルの事例を聞き流してしまっていることがあるでしょう。また、成功事例については、研究者の事例発表や新聞記事として紹介される分かりやすい事例は、地域社会にとって「非日常」や「事件」であることが多く、日常の中で情報発信していくことの難しさ、大変さとは別の話であり、地域の課題解決を目的としている実践者にとっては「成功事例」と胸を張っていえるものではなく強調されなかった、ということもあるでしょう。司会の私がもっと強調していれば、また違ったとは思いますが…

共通項もあります。それは分断や孤立を認識し、危機感を持っていることと、そしてつながりや一体感を求めようとしていることです。
行政や市民団体だけでなく、普通の人々がそれぞれ情報を発信する時代、複雑で多様化するメディア環境の中で、つながりをつくり出すことに限界を感じているということが、今地域メディアの実践者にとって課題になりつつあるのです。ただ、このような分断が十分に理解されているかというと怪しいところはあります。
広告が効かない、マスメディアの影響力が低下しているといった議論も同じことが原因なので、メディアを使って何らかのコミュニケーションを行っている人なら気付いているはずですが、どうも感覚を共有できないのは、単に情報を発信しているだけで、それが必要な人に届いているのか、解決に役立っているのか確認していないからです。
地域メディアを運営するのが目的の人と、パネリストのように子育てや町の情報発信という目的がありメディアを使っている人とは、立場が違っています。パネルを聞きながら、「もやもや」を共有できない人がいたなら、メディアだけを見ている可能性があります。
地域の人々がメディアを使って情報発信するだけで評価される時代は終わり、目的のためにどんなメディアを設計するのか、人々がつながるためには具体的に何が必要となるのかが問われることになるでしょう(つながらなくてもいいという議論もあるかもしれないが…)。
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【参考】
地域メディアが地域を変える」にはALSの事例やミドルメディアの役割などが紹介されていますのでよろしければご覧ください。
地域メディアが地域を変える